2022年もどうぞよろしくお願いします。
大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」第88回は、「eCAADe2022とCAADRIA2022年次大会の趣旨について」ご紹介します。
eCAADe 2022: Co-creating the Future: Inclusion in and through Design
2022年9月に開催されるeCAADe 2022(欧州におけるコンピューテーショナル建築設計の教育と研究に関する学会)の論文募集が始まっている。300ワード+参考文献の提出は1月15日〆。テーマと趣旨を和訳すると以下となる。
“未来を共創する:デザインにおける、デザインを通じたインクルージョン”
“空間デザインは、ますます社会的、参加的、包括的な実践となりつつある。この10年で、世界中の一般の人々が、都市化のプロセスや、都市を作り変えていく方法に対して、形成力を主張し始めている(Harvey, 2013)。デザイナーではない市民、活動家、アーティスト、デザイナーが始めたDIY協同組合の数が復活してきたのだ。
こうした動きと並行して、建築デザイン、都市デザイン、計画、意思決定のプロセスにさまざまな利害関係者を参加させるために、数多くのソーシャルテクノロジー、ツール、プラットフォームが開発されてきた。クラウドソーシングやクラウドファンディングのアプリケーションは、群衆の知恵を活用するために広く利用されるようになった。パラメトリックデザインとデジタルファブリケーションの新たな発展は、カスタマイズされた高度に多様化した製品の製造にユーザが参加する可能性を生み出した。人工知能とモノのインターネットの組み合わせにより、スマートビルディング、自律型デバイス、ロボット、ソフトウェアがエージェントやアクティブな参加者へと変わり始めた。人間と人工知能の集合体を利用する試みは、実践、研究、教育を組み合わせるための新たな道を開いた。
その一方で、建物や都市、公共、私的、集合的な空間を作る際に組み込まれたデジタルデバイス、ツール、プラットフォーム、エージェントがもたらす悪影響への懸念が高まっている。例えば、弱者や不利な立場にある市民の潜在的な排除、市民の力の企業への移転、個人の生活やデータの私有化、さらには技術的な制御や監視の強化による空間的な排除などが挙げられる。
このような状況の中、会議では以下のような問題が取り上げられる。
- 空間デザイン製品の共創において、出現するデバイス、プラットフォーム、エージェント、デザイナーはどのような役割を果たすことができるのか?
- どのようにすれば、包括的かつ倫理的な方法で、人間や人工知能の集合体を空間デザインに活用できるのか?
- これらの実践の課題と、それに対処するための将来の方向性は何か?”
CAADRIA 2022: “POST CARBON”
CAADRIA 2022(eCAADeのアジア・オセアニア版)では以下のテーマが出されている。国連のSDGs(持続可能な開発目標)17の目標との関連性を考慮して論文を投稿するように求めたのは初めてである。
“ポストカーボン”
“2050年までに世界の人口が100億人まで増加し、現在の継続的な経済成長、デジタル化、多くの国でのインフラ拡張と相まって、私たちは地球規模でのカーボンインパクトを再考する必要がある。
第4次産業革命とそれに伴う気候変動の影響は、海岸や河川の洪水、サイクロン、山火事、大気汚染、資源の減少、自然生息地の減少など、世界中の現象として私たちの多くが直接、体感することができる。
建築物は、建設中、ライフサイクル中、そして解体後に大量の炭素を生成・消費するため、炭素の方程式において、建築、都市設計、エンジニアリング、建設が重要な役割を果たしている。
このような状況において、計算機による設計、シミュレーション、分析、製作、管理は、複数の分野にまたがる影響の傾向と結果を評価、理解、予測することを可能にする。ポストカーボンの枠組みでは、建築物、インフラ、公共資源などの建築環境の質、持続可能性、回復力を向上させるために計算機を活用することができる。
したがって、会議のテーマである「ポストカーボン」は、気候変動が現実となった世界に対処するための、より緊密な対話、より良い協力関係、エージェントの増加、効果的な方法を特定するための、深遠な異なるアプローチを求めている。特に、極端な気候との共存、限られた資源との共存、生物多様性の減少を余儀なくされている中で、国連の持続可能な開発目標を取り上げた論文を募集する。
2022年に開催されるCAADRIAでは、建築、エンジニアリング、都市デザイン分野におけるポストカーボンの未来の実現に向けて、計算機を用いたデザイン手法、ツール、プロセスの適用に貢献している学者、研究者、実務者が一堂に会す。”
おわりに
上述したように、学会では、その会議で議論したいテーマと趣旨が示されて論文が募集されることが多い。テーマと趣旨は、当分野の課題が包括的にまとめられていることが多く、当分野の動向やキーワードを知るために役立つ。CADやBIMと聞くとソフトウェアの使い方のような範囲でついつい捉えてしまうが、狭くなった視野を大きく拡げるきっかけにもなる。