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都市とITとが出合うところ 第87回 eCAADe 2021での発表 その2

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図1 福田知弘ほか:VR画面上での動きベクトル可視化法 - 建築仮想空間におけるVR酔い防止のために

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図2 eCAADe 2021 国別論文数(塗りつぶし:アブストラクト,ハッチング:出版数)

eCAADe 2021:研究室の発表概要

建築・都市とコンピュータに関する欧州国際学会・eCAADe 2021で研究室メンバーが発表した概要をご紹介したい。今回は後半2編について。以下に用語を整理する。

DR隠消現実。現実世界に存在する物体を仮想的に隠蔽・除去する技術。

GAN敵対的生成ネットワーク。人工知能アルゴリズムの一種であり、生成モデルの一種である。データから特徴を学習することで、実在しないデータを生成することや、存在するデータを特徴に沿って変換したデータを生成することができる技術。

 

景観評価のためのセマンティックセグメンテーションとGANを用いた隠消現実における自動仮想除去法

成熟都市では再開発プロジェクトが行われ、利害関係者との合意形成コストを下げるために将来景観を可視化することが重要である。既設の建造物を解体撤去した後の将来景観を可視化するために、DRに基づく方法が提案されてきたが、2つの課題が残されていた。(1)DRの前処理として、撤去する建造物と仮想撤去後にレンダリングすべき背景オブジェクトの3Dモデルを準備する必要があること、(2)撤去する建造物を事前に指定する必要があることである。

本研究は、セマンティックセグメンテーションを用いて撤去する建造物(除去対象)を自動検出した上で、GANを用いて除去領域を補完するDR法を提案する。この方法により、背景オブジェクトの3Dモデルを事前に用意する必要がなく、さらに除去対象を事前に指定する必要がなく、既設の建造物を仮想的に除去することができる。

提案方法を検証するためにプロトタイプシステムを開発し、この方法が解体撤去後の未来の風景を表現できること、平均約8.75 fpsの描画速度で動作することを確認した。(筆頭著者:菊池拓哉)

 

VR画面上での動きベクトル可視化法 - 建築仮想空間におけるVR酔い防止のために

マスカスタマイゼーションの時代において、ユーザはVRを使えば建築を仮想的に視覚化し、検討したい視点から設計を検討することができる。VR酔いの防止とVRコンテンツの品質を維持するために、VR仮想カメラの動きを評価することは重要である。そこでVRカメラの速度を可視化するレンダリング法の開発が始まっている。しかし、仮想カメラに近い物体の移動量は大きく、遠い物体の移動量は小さいため、カメラの絶対速度の可視化だけでは不十分である。

本研究は、動きベクトルと呼ばれるVRカメラからの相対速度をVR画面上で可視化する方法を開発することを目的とする(図1)。提案するレンダリング法のプロトタイプを実装し、境港市民交流センターの設計レビューのためのVRアプリケーションに適用することに成功した。動きベクトルのレンダリングは、RGBカラーでグラデーション表示する方法と、モーションブラー効果で表現する方法がある。この機能により、VR制作者は仮想世界のどこでVR酔いが発生しそうかを把握することができる。(筆頭著者:筆者)

 

国別の論文発表数

eCAADe 2021で出版された117編の論文を国別に数えてみた(図2)。塗りつぶし(原図:緑)がアブストラクト(梗概)投稿数(N=334)、ハッチング(同:赤)が査読を経た出版論文数である。梗概数は主催者発表であるが、出版数は筆頭著者の大学・企業の国で独自分類した(不明1~2編)。

近年、論文出版数は、米国と中国が競っている。eCAADe2021では、中国12編、米国10編であった。我が国は6編であった。

eCAADe2022は、ベルギーで開催される( https://kuleuven.ecaade2022.be/ )。年明けには、アブストラクト投稿〆切である。COVID-19の影響でまだ落ち着かないが、現地での発表を目指したい。

(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2021年12月号)