回廊のある家プロジェクト
BIMモデルと環境シミュレーション・VR(人工現実)・MR(複合現実)との融合を試みたプロジェクトを紹介しよう。
建築家・atelier DoNらと取り組んだ「INP(回廊のある家)プロジェクト(2014-2015)」は、間取りの中心にリビングを配置し、その周りに回廊を設け、さらにその外側に各個室や水回り、テラスなどを配置する3重の入れ子状とした計画である。リビングは吹抜空間であり、1階・2階の回廊や各室とつながっており、一体的な空間となっている。設計を進める中で、いくつかの課題が明らかになった。
設計上の課題1
一つ目の課題は、吹抜けがあり、他の居室や階段とつながるリビングの温熱環境を検証すること。1階回廊(天井)、キッチン、2階子供部屋(2台)と回廊にエアコンを設置した場合に、空調がどの程度可能か、温度・風量分布はどのようになるのかを検証する必要があった。
BIMモデルをCFD(計算流体力学)ソフトに取り込んで室内温熱環境シミュレーションを行った結果、暖房時に暖気が吹抜を上昇し、階段を通じて下降気流が発生することがわかった。そこで1階の階段と回廊の間にドアを設けて再びCFD解析したところ、下降気流が抑制され、リビングの温熱環境の改善が確認できた。
設計上の課題2
二つ目の課題は、浴室とつながる屋外テラスが設計してあり、屋外テラスにいる住人が周辺から視認できないことを検証すること。このために、設計対象の住宅に加えて、設計対象を取り巻く周辺建物や道路をVR化して、隣家の窓から屋外テラスが見えないことを確認した。
可視・不可視の問題は二次元の断面図を描くことで確認できなくはない。しかしながら、繊細なプライバシーの課題であり、VRによる可視化は施主にとって安心感を与えることにつながったようである。
設計上の課題3
三つ目の課題は、狭い前面道路を考慮した駐車スペースのあり方を検証すること。このために、ARを用いて、現実空間と設計対象の三次元モデルを1:1スケールで重ね合わせて、建設予定地の前面道路上で施主と設計者が確認作業を実施した。駐車場の配置プランは、3案用意して、プランを適宜切り替えて確認できるようにした。
CFD結果とVRの統合
建物はCFDソフト上でワイヤーフレーム表示されており、建築空間と温熱環境の関係が施主にわかりづらく、CFD解析結果をVRで表示しようと試みた。しかし、使用した市販のCFDソフトでは解析結果(風の向きや強さ、温度分布など)を出力することができなかった。そこで、CFD解析画面をスクリーンショットにより画像化して、その画像をVR上にテクスチャマッピングとした。最終的に設計内容の理解が施主より得られ、住宅は完成した(図1)。
CFDとVRの統合:新たなシステムの開発
INPプロジェクトの後、CFD解析結果をVR空間内へより柔軟に取り込めるように、CFDソフトを市販のものから、OpenFOAMに切り換えた。そして、BIMモデルから幾何形状のメッシュ化とシミュレーションに必要な属性情報の抽出、CFD解析、VR上でCFD結果を表示するパイプラインを構築している(図2)。
さらに現在では、このパイプラインを発展させ、VRだけでなく、MRでも出力可能としている。VRの場合には、全て三次元モデルで構成されるため新築での検討ツールとして使えるであろう。一方で、MRは現実世界に三次元モデルを重ね合わせるため、リノベーションでの検討ツールとして使えるであろう。
PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1911machinami_FukudaFinal.pdf
(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2019年11月号)
発表論文:
- Fukuda, T., Mori, K. and Imaizumi, J.(2015) Integration of CFD, VR, AR and BIM for Design Feedback in a Design Process - An Experimental Study, Proceedings of the 33rd eCAADe Conference - Volume 1, 665-672, http://papers.cumincad.org/data/works/att/ecaade2015_83.content.pdf
- Hosokawa, M., Fukuda, T., Yabuki, N., Michikawa, T. and Motamedi, A.(2016) Integrating CFD and VR for Indoor Thermal Environment Design Feedback, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), 663-672, http://papers.cumincad.org/data/works/att/caadria2016_663.pdf
- Zhu, Y., Fukuda, T. and Yabuki, N. (2018) SLAM-Based MR with Animated CFD for Building Design Simulation, Proceedings of the 23rd International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2018), 391-400, http://papers.cumincad.org/data/works/att/caadria2018_107.pdf
- Zhu, Y., Fukuda, T. and Yabuki, N. (2019) Synthesizing 360-Degree Live Streaming for an Erased Background to Study Renovation Using Mixed Reality, Proceedings of the 24th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2019), Volume 2, 71-80, http://papers.cumincad.org/data/works/att/caadria2019_132.pdf
- Fukuda, T., Yokoi, K., Yabuki,N. and Motamedi, A. (2019) An Indoor Thermal Environment Design System for Renovation Using Augmented Reality, Journal of Computational Design and Engineering 6 (2) 179-188, https://doi.org/10.1016/j.jcde.2018.05.007