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都市とITとが出合うところ 第96回 AI作画からはじめる建築デザイン

台湾からのお誘い

夏が終わろうとする頃、台湾・国立陽明交通大学(NYCU)建築研究所から連絡が入った。NYCUでは、新学期のウォーミングアップと協同作業を経験してもらうため、大学院の新入生と在校生が参加するデザインコンペを毎年9月に企画している。その企画と審査を協力してほしいとのことであった。

コンペのテーマは、柔軟に考えることができた。建築や都市のデザイン、プランニングとデザイン、デザイン・リサーチ、そして、デザインしたものを実際に造るデザイン・ビルドなどが扱う範囲であるが、前衛的なものを期待されていた。

AI作画から始める建築デザイン

そこで、前号で紹介した「AIによる作画」をコンペ要項に盛り込み、実施した。

【タイトル】

Architectural Design Starting with AI Drawings

【要旨】

建築デザインのプロセスでは、建築家自身による建築イメージの想起、デザインチーム内のコミュニケーション、ステークホルダーへのエンゲージメントと意思決定、広報などのために、画像は数多く使用される。

画像を対象としたAIは、物体検出やセグメンテーションのように画像の中に何が含まれているのかを識別する技術、敵対的生成ネットワークやdiffusion modelのように存在しない画像を自動的に生成する技術において、成長が著しい。

後者について、ユーザが、テキストの説明文(プロンプト、呪文)を入力すると、画像を自動的に作成してくれる、AI画像生成技術が比較的簡単な操作で素晴らしい結果を出力できるようになってきた。いわば、イマジネーションを画像化してくれる装置である。

これまで、建築家は手書きでスケッチしたり、過去の経験に基づいて類似の資料を漁ったり、画像データベースに蓄積された大量の画像からインターネットを通じて検索して選ぶことによって、新しい建築デザインを発想したり、アイデアを他者に伝えてきた。

AI画像生成技術は、これらの伝統的なデザインの発想法を変えるかもしれない。

そこで、今回のデザインコンペでは、以下の要件で建築・都市設計を進めてほしい。

Step 1. AI画像生成技術を用いて建築・都市プログラムの定義とデザインコンセプトを創ること(外観・内装)。

  • Midjournay及び/またはStable diffusionなどを使用して

Step 2. ユニークな建築・都市デザインのプレゼンテーションのために、Step 1でのアイデアをもとに建築・都市デザインを具体化すること。

  • 3DCAD/CGソフトウェア、BIMソフト、プログラミングソフト、XRソフトウェア などを使用して

【タイムライン UTC+8

  • オープニング 2022年9月12日 13:30-15:00
  • 作品提出〆 2022年9月22日 9:00
  • 最終審査会 2022年9月22日 12:00-14:30
  • 審査員講評・表彰 2022年9月22日 14:30-16:00

【提出物】

  • プロジェクトを紹介する1分30秒の動画
  • コンセプトボードA1サイズ2枚(他の媒体に差し替え可)
  • 模型(AR/VRで代用可)
  • AI画像生成に使用したプロンプト

結果

チームのメンバー構成は、ランダムに決定しており、各チームは、チームメイキングしながらデザイン作業を10日間で進める必要があった。また、ほとんど誰もAI画像生成技術を使ったことはなかった。

コンペ期間中、教員とTAは、デザインチームの指導やサポートはしていない。また、中間チェックもしていない。すなわち、デザインチームは10日間、独自に進めたと言ってよい。ドロップしたチームは存在しなかった。

提出された作品を眺めると、いずれも質が高いものであった。デザイン対象の切り口は様々であり、建築スケールと都市スケール、現実的な作品と抽象的な作品、新築もあればリノベーションもある。AI画像生成技術のために使用したテキストは、自分たちで考案したもの、SNSハッシュタグ、小説の文章など多彩であった。審査会が盛り上がったのは、言うまでもない。

AIのお陰で、「見たこともない」何かが生まれたか、もしくは、近い将来に生まれそうか。デザインプロセスのどのあたりで使えそうなのか。皆で追求していく必要がある。

デザインコンペ公式サイトへのQRコード(10チームの作品がご覧いただけます)

GIA Design Competition 2022

国立陽明交通大学 建築研究所 コンペポスター(メイン画像:AI画像生成技術で作成)

審査員講評会の様子(筆者はZoomで参加)