丹後国分寺跡
丹後郷土資料館(京都府宮津市字国分小字天王山611-1)の目の前に広がる丹後国分寺跡では、横一文字の天橋立を一望できる。天橋立を眺めるビュースポットとして「天平観」と呼ばれている。
遺跡には礎石が残されている。雪舟「天橋立図」には五重塔と金堂が描かれており、この礎石たちが建物をどのように支えていたのか、見上げた大空のどの辺りに相輪がそびえていたのか、と想像は膨らむ。国分寺がその地域で一番いい場所に建てられたという話は納得できる。
丹後国分寺五重塔をAR(拡張現実)で蘇らそうというプロジェクトが始まっている。
まずARとは、現実世界と仮想世界(デジタル情報)を重ね合わせて表示する技術であり、新たな価値創造や業務効率化に向けて、建設前の景観検討、建設現場の配筋検査、建物維持管理などへの実用化が進められている。今年の流行語大賞にノミネートされたメタバースや、デジタルツインとも親和性が高い。
丹後国分寺五重塔ARの第1弾は、2020年に取り組んだ。夜間イベントのひとつとして、現地の礎石上に五重塔の3Dモデルを実物大スケールで表示するものである。3Dモデルを礎石の上に表示するだけでは少々味気ないから、演出性を高めたコンテンツとしている。また、ARを体験する端末は、主催者が用意するのではなく、現地を訪問した一般の参加者自らのスマホを使ってもらう。さらに、専用のアプリをダウンロードすることなく、Webブラウザ上で体験してもらう。
丹後国分寺五重塔AR 2020は、新型コロナウィルスの感染状況を日々意識しながら開催せざるを得ないイベントであったが、大勢の方に体験・評価して頂けた。
この成果は、シドニーで開催された国際会議CAADRIA 2022での論文発表、拙書「都市と建築のブログ 総覧」でも紹介している。
AR五重塔 2022
第2弾となった2022年は、前回の課題を解決すべく、新たなAR「丹後国分寺五重塔AR 2022」を学生たちと開発し、2022年10月22日~11月7日に運用した(図1)。その後、東京・品川で開催された「第16回 FORUM8デザインフェスティバル 3Days+Eve」にも出展した。
AR体験会は、「天橋立 光のアトリエ 2022」という夜間イベントのひとつとして実施された。そのため、夜間17時以降は、五重塔をライトアップするなど、演出性を高めている。さらに、AR体験中にインタラクティブモードを加えて、ユーザがスマホを動かすと、五重塔のライトアップが変化するようにした。一方、日中は、五重塔の昼間の姿を体験できるようにした(図2)。
AR技術面について。ARを体験するユーザのスマホの仕様は、正直、バラバラである。五重塔は3Dモデルであり、スマホによっては、3Dレンダリング計算の高速処理が厳しい。そこで、高性能なPCで構成したサーバ側で3Dモデルをレンダリングし、そのレンダリング結果を、動画として、ユーザのスマホに送信する方式とした。ユーザは、スマホのスペックを意識することなく、簡単な操作でARを体験できる。当然、ARはリアルタイムな処理が求められ、スマホを傾けたり移動すれば、その正しい位置・向きの3Dモデルをすぐに描き直す必要がある。そのため、ユーザ端末とサーバの間はデータを常に高速にやり取りしている。
この方式は、ARストリーミング、もしくは、サーバーサイドレンダリング方式と呼ばれる。筆者らは、7月に国際会議ANNSIM 2022で論文発表した内容をAR五重塔用に再実装した。
おわりに
「都市とITとが出合うところ」は今月でおしまいです。約9年間もの長きにわたって、お付き合いくださり、本当にありがとうございました。
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