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都市とITとが出合うところ 第93回 廃プラスチックをロボットで3Dプリンティングした空調システム

写真1 廃プラスチックをロボットで3Dプリンティングした設備ダクト(SR2)のプレゼンテーション

写真2 BVN Studio。天井を見上げるとSR2が実装されている。

タウンホールにある建築設計事務所

CAADRIA 2022 シドニーでは、ランチタイムに、有志が参加できるテクニカルツアーを企画してくれた。訪問先は、建築設計事務所BVNのStudio。CAADRIA2022学会場・パワーハウスミュージアムから歩いてチャイナタウン停留所に行き、そこからタウンホール停留所までトラムに乗る。トラムを下車してから少し歩いて、ヒルトンホテルが入る高層ビルへ。20分ほどの行程、都心はやはり便利である。

オフィスに入ると、仕切りのない大部屋が広がり、ミーティングテーブルには昼食が並んでいる。参加者は思い思いに腰かけて昼食をいただく。間もなく、事務所スタッフによるプレゼンテーションが始まった(写真1)。

廃プラスチックを3Dプリントした空調システム

プレゼンテーションは、BVN の取組みと、BVN Studioの設計について。すなわち、筆者らが訪問している現実世界BVN Studioの設計内容がスクリーンに映し出され、ムービーやスライドで解説が加わる。

特筆すべき設計内容は、BVNがシドニー工科大学と開発したSR2(Systems Reef 2)と呼ばれる空調システム。廃プラスチックを3Dプリンティングした設備ダクトや接続部品で構成されている。3Dプリントする素材は、廃棄物から再生された軽量なPET-Gプラスチックであり、ロボットが3Dプリンティングした半透明のダクトと接続部や固定部である(写真2)。

この空調システムは、既存、および、新規のHVACシステム(暖房、換気、および空調)に、簡単に接続することができる。また、従来の(というか、世の中に普及している)金属製ダクトはコスト超重視で設計されているが、CFD(計算流体力学)による空気のシミュレーションによりダクトおよび全体システムが設計されている。従来の十分に検討されていないダクトは、必要以上の大きさで設計されていたり、冗長であることの可能性も指摘していた。

素材について

PET-Gプラスチックは、循環型素材であるため、分解、粉砕、再圧縮が簡単に可能で、材料のサプライチェーンに戻して新しい製品を作ることもできる。

これらの先進性と廃プラスチックの利用により、従来のスチール製ダクトと比較して、システムのエンボディドカーボン(原材料の調達・製造・建築・解体などの過程で排出されるCO2)を90%削減することができた。

おわりに

設計・製作された空調システムが実装された実空間を眺めながら、その設計者に解説してもらうという又とない機会となった。廃プラスチックをロボットで3Dプリンティングした設備ダクトを実装した例は珍しいのではないだろうか。

他に驚いたことは、建築設計事務所フリーアドレス化とペーパーレス化が進んでおり、事務所自体がスッキリとしていたことである。一方で、全てがデジタルに置き換わってしまったのかというとそうではなく、例えば、手作りの模型と3Dプリンティングは、ニーズに応じて使い分けられている。

リアルとバーチャル、フィジカルとデジタル。その片方あるいは両方を必要に応じて活用できるスキルと選択の判断力は、今後ますます求められてくるのだろう。