ベルリン→オンライン開催へ
eCAADe(Education and research in Computer Aided Architectural Design in Europe)は、建築および関連する分野のコンピュータ応用に関する研究と教育、優れた実践と情報の共有を目的として、1983年に設立された学会である。ヨーロッパ圏の大学が順番にホストを務め、世界中からの参加者を迎えて、カンファレンスとワークショップを毎年開催している。以前ご紹介したCAARDIA学会とは姉妹学会であり、eCAADeの方がお姉さんである。
eCAADe 2020はベルリン工科大学で昨年9月に開催予定だったが、COVID-19のためオンライン開催となった。eCAADe 2020での特筆的な内容を中心に紹介しよう。
バーチャル開催への工夫
バーチャル(virtual)の意味は、「実際の事実としては存在しないが、本質的にあるいは実質的には存在するさま」である。eCAADe 2020では、現実にできるだけ近づけるべく、バーチャル・ベニュー(virtual venue)が公式ウェブページに用意された(図1左上)。ベルリン工科大学の360°パノラマ画像が、ゆっくりと回っている。さらには、画像中に、以下のリンクが用意されている。
プログラム:パノラマ画像内の建物壁にプログラムが示された画像が貼られている。このプログラム画像をクリックすると、詳細プログラムのサイトが表示される。
詳細プログラムでは、タイトル、著者(発表者)、論文、プレゼン概要、プレゼンビデオが論文ごとに整理されている。何より嬉しいのは、時差への配慮である。ドイツと日本はサマータイム期間で7時間の時差があり、日本の方が進んでいる。時差の計算は面倒であり、特に日付をまたぐ場合には気を遣う。eCAADe 2020では、日本(アジア)の発表者が日本時間の深夜に発表しないように配慮されたほか、詳細プログラムでは、参加者の所在地での時刻がデフォルト表示されるようになっており、大変便利であった。
ギャラリー:発表者は、論文内容の概要書(プレゼン概要)を画像1枚に作成して、開催前に提出した。パノラマ画像内のギャラリー画像をクリックすると、プレゼン概要がセッション毎に整理されたページが表示され、各セッションの発表内容が視覚的に把握しやすい。
プレゼンテーション:発表者は、口頭説明を含むプレゼンテーションをビデオファイルとして、開催前に提出した。ビデオファイル作成の手引きが詳細に示されている [1]。例えば、口頭発表は5~7分で作成すること、スライドは計10枚とすること。ビデオ録画の方法について、パワーポイントの「スライドショーの記録」機能を使う方法、Zoomでパワーポイントを画面共有して録画する方法、スクリーン録画のできるホスティングサービスを使用する方法(Apowersoft screen recorder など)、本当の会議室でプレゼンしている風景を録画する方法など。そして重要なことは、作成したプレゼンビデオを、Youtubeなどにアップロードして、そのURLをホストに連絡することである。
論文:eCAADe 2020の論文集のみならず、公開されている過去の論文集にアクセスできる。
eCAADe 2020本番
eCAADe 2020では、8名の基調講演が招待されていた。ベルリン工科大学に直接訪問できる講演者は、会場でプレゼンテーションしており、Webexを通じてオンライン配信された(図1右上)。ハイブリッド方式である。
研究発表が行われる各セッションは、フルオンラインで開催された。セッションに割り当てられた8名程度の発表者がパネリストとして参加した。発表者はまず、プレゼン概要を用いて各自2分で研究概要を順に説明した(図1 左下)。次に、2名の司会者の進行によりディスカッションが行われた(図1 右下)。
研究室からは4編発表した(表1)。国際学会の発表デビューを迎えた学生もいた。
話は少しそれるが、以前、金沢にある「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」を訪問した際、谷口吉郎著「雪あかり日記/せせらぎ日記」を購入した。建築家である谷口氏がベルリンに赴任した若き日の記録である。ベルリン当地でこの本を読むことを秘かに楽しみにしていたのだが、オンライン開催となり持ち越しとなった。
いつかまた、ベルリンを訪問したい。
表1 eCAADe 2020における大阪大学からの発表(和訳)
Session セッション |
Authors 著者 |
Title タイトル |
DIGITAL PERCEPTION OF SPACE – CYBER-PHYSICAL SYSTEMS (VR, AR) – DESIGN STRATEGIES 空間のデジタル知覚 - サイバー・フィジカル・システム(VR、AR) - デザイン戦略 |
Yuehan Zhu, Tomohiro Fukuda, Nobuyoshi Yabuki 朱閲晗、福田知弘、矢吹信喜 |
Integrated co-designing using building information modeling and mixed reality with erased backgrounds for stock renovation [PDF] ストックリノベーションのためのBIMと背景を仮想消去した複合現実を用いた統合的コ・デザイン |
Daichi Ishikawa, Tomohiro Fukuda, Nobuyoshi Yabuki 石川大地、福田知弘、矢吹信喜 |
A mixed reality coordinate system for multiple HMD users manipulating real-time point cloud objects: towards virtual and interactive 3D synchronous sharing of physical objects in teleconference during design study [PDF] 複数のHMDユーザがリアルタイム点群オブジェクトを操作するための複合現実座標系:設計検討時の遠隔会議における実物オブジェクトの仮想的・対話的な3D同期共有に向けて |
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THE COGNITIVE CITY (AI) 認識都市(AI) |
Kazunosuke Ikeno, Tomohiro Fukuda, Nobuyoshi Yabuki 池野和之介、福田知弘、矢吹信喜 |
Automatic generation of horizontal building mask images by using a 3D model with aerial photographs for deep learning [PDF] 深層学習のための航空写真を用いた3Dモデルによる水平方向の建物マスク画像の自動生成 |
Yunqin Li, Nobuyoshi Yabuki, Tomohiro Fukuda, Jiaxin Zhang 李韵琴、福田知弘、矢吹信喜、張嘉新 |
A big data evaluation of urban street walkability using deep learning and environmental sensors: A case study around Osaka University Suita campus [PDF] |
[1] https://www.ecaade2020.tu-berlin.de/presentation-kit/
PDF: https://y-f-lab.jp/fukudablog/files/2101machinami_FukudaFinal.pdf
(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2021年1-2月号)