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都市とITとが出合うところ 第86回 eCAADe 2021での発表 その1

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図1 中林瑞生ほか:インスタンスセグメンテーションを用いた動的オクルージョンのための自動判別プロセスを備えたMR景観可視化法

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図2 菊池直樹ほか:現実世界と仮想世界をつなぐオクルージョン対応のARとドローンの統合による景観可視化 ― 都市のデジタルツイン実現に向けて

eCAADe 2021:発表概要

先月号に引き続き、建築・都市とコンピュータに関する欧州学会・eCAADe 2021について。今回は研究室の発表概要として前半3編をご紹介したい。いずれも環境設計を可視化するためのAR/MR(拡張現実/複合現実)に関する研究である。以下に共通用語を整理する。

MR:100%バーチャル(VR)と100%現実の両端を結んだ数直線上で、両端点を除いてバーチャルと現実が何らかの割合で混合させる技術。

AR:バーチャルが現実よりも少ない割合で混合させる技術。MRはARを含んでいる。

オクルージョン処理:現実空間と3次元モデルの前後関係を正しい順番で表示させること。

セマンティックセグメンテーション:画像に写っている物体を、ラベルやカテゴリに基づきピクセル単位で分類する技術。ラベルやカテゴリとは、ビル、空、樹木、車道、車線、歩道、フェンス、人、自動車などの種類。インスタンスセグメンテーションはさらに、各ラベルのインスタンス(各物体)で分類する。

 

インスタンスセグメンテーションを用いた動的オクルージョンのための自動判別プロセスを備えたMR景観可視化法

MRは、景観設計における可視化手法として注目される。MRを用いた景観可視化は、実際のプロジェクトの現場で、利害関係者がリアルタイムに景観変化を実物大で検討できるが、オクルージョンが課題である。既往研究では、深層学習のセマンティックセグメンテーションを用いて、動的なオクルージョンを伴うMR景観可視化手法が提案された。しかし、この手法は2つの課題がある。第1に、同種類のオブジェクトが同じオブジェクトとして分類されてしまうこと。第2に、前処理で前景オブジェクトを定義する必要があること。

本研究は、インスタンスセグメンテーションにより各々の実物体を個別に認識できる大規模MR景観可視化システムを開発し、3次元仮想モデルと全ての実物体の座標情報を比較することで、位置関係を正確に表現することを可能とした(図1)。(筆頭著者:中林瑞生)

 

現実世界と仮想世界をつなぎARとドローンを統合しオクルージョンに対応した景観可視化 ―都市のデジタルツイン実現に向けて

都市・建築の計画設計では、ARによる将来景観の可視化は、設計段階での利害関係者間の合意形成に有効である。ARとドローンを統合した手法は、未来や過去の景観を上空から可視化できるが、オクルージョン問題に対処する必要がある。

本研究は、現実世界のドローンの位置情報と仮想世界のカメラの位置情報を連動させることで、ARとドローンを統合しオクルージョンに対応した景観の可視化法を提案する。この方法では、既存建造物群の3Dモデルを活用して、3D設計モデルが、現実世界(ライブ映像)の既存建造物群の背後にあるかのように表現する。ユーザは、設定されたルートに沿って飛行するドローンを利用して、オクルージョン処理を施したARで将来景観を検討することができる(図2)。(筆頭著者:菊池直樹)

 

景観設計可視化のための平面反射機能を伴うARシステム

ARは、景観設計の検討シナリオにおいて設計者が設計を表現するのを支援し、利害関係者が実際の現場で設計内容がどのように見えるかをより直感的に理解するための重要なツールである。

本研究では、既存のARシステムに3D仮想設計モデルの水面への映り込みを追加することで、水辺の景観設計をより高質に表現することを目的とした。まず、スマートフォンを用いたARシステムを構築した。次に、実際の水面領域に対して、3D水面モデルを事前に定義した。平面反射法を導入し、正確な反射効果をリアルタイムに生成した。さらに、水面に合わせて反射モデルが波打つ様子をレンダリングし、視覚的にリアルな表現を実現した。

(筆頭著者:陳豪)

 

  • Nakabayashi, M., Fukuda, T., Yabuki, N.: 2021, Mixed reality landscape visualization method with automatic discrimination process for dynamic occlusion handling using instance segmentation, Proceedings of the 39th eCAADe Conference, Volume 2, 539-546, 

    http://papers.cumincad.org/cgi-bin/works/paper/ecaade2021_038

  • Kikuchi, N., Fukuda, T., Yabuki, N.: 2021, Landscape visualization by integrating augmented reality and drones with occlusion handling to link real and virtual worlds: Towards city digital twin realization, Proceedings of the 39th eCAADe Conference, Volume 2, 521-528, 

    http://papers.cumincad.org/cgi-bin/works/paper/ecaade2021_036

  • Chen, H., Fukuda, T., Yabuki, N.: 2021, Development of an augmented reality system with reflection implementation for landscape design visualization using a planar reflection method in real-time rendering, Proceedings of the 39th eCAADe Conference, Volume 2, 547-554, 

    http://papers.cumincad.org/cgi-bin/works/paper/ecaade2021_080

 

(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2021年11月号)