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BIM(ビム)について:BIMの基本から最新動向まで

BIM研修会

2019年8月30日夜、大阪市内でBIM研修会「BIM(ビム)について~BIMの基本から最新動向まで~」が開催された(主催:大阪府建築士事務所協会)。本稿では、その研修内容を短く報告する。

BIMとは

BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)は、設計、生産、運用管理のプロセスである1)。コンピュータ上に作成した建物の三次元情報に、属性情報(仕上げ、コスト、管理情報など)を付加した建物のデータベース(ビルディングインフォメーションモデル)を基に、建築の設計、施工から施設管理まであらゆる工程で、図面化したり、パースを作成したり、仕上げ表を作成したり、解析やシミュレーションしたり、見積・積算したりと展開できる。

BIMは、上記に述べた設計、生産、運用管理のプロセス、すなわち活動を指す場合と、建物の属性情報付き三次元モデル、すなわちオブジェクトを指す場合があるが、本質的には前者・活動を指す。

利害関係者に伝えるためのツール

計画・設計段階では、将来完成予定の建築物や都市空間は存在していないため、施主と設計者、設計者とエンジニアや施工者、さらに施主は近隣住民や市民など関係者に対して、何らかの手段を用いて計画・設計内容を伝達して合意形成を図りながら進める必要がある(図1)。そのため、模型、図面、手書きパースが古くから使われ、近年ではCGパースやアニメーションなどコンピュータツールが実用化されてきた。さらにリアルタイム・レンダリング(描画)を有するVR(人工現実)やMR(複合現実)で、CGパースやアニメーションでは限られていた検討の自由度と試行錯誤のスピードを格段に向上させつつある。

BIMが存在していない頃は、CGやVRを作成するために2次元CADからCG・VR用の3次元モデルをわざわざ作成しており、非効率であった。一方、BIMの登場により、これらのメディアへ橋渡しすることが容易になり、BIMのさらなる開発と普及が待たれる。

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図1. 建設プロセスの利害関係者

CADBIMの違い

BIMは、現在広く使われているCADと似ているが、CADは壁などの建築要素を線で表現することが一般的であり、壁というひと纏まりのモデル(オブジェクト)としては定義されていない。また、壁や設備などの属性情報と図面とは連携されていない。一方、BIMは壁やドアなどをオブジェクトとして定義してあり、形状だけでなくその属性情報も含まれる。ある部屋とその部屋の中に含まれる建築要素との関係(トポロジ)も定義されている。

BIMのメリット

建築の設計は、意匠→構造→設備→生産の段階を順に進める、ウォーターフォールモデルと呼ばれるプロセスである。この方法では、上流段階で行われた設計上の課題を下流段階で発見したとしても、時間やコストの面で、やり直しができない場合が多い。一方、BIMを使えば、建物の構造や形状、仕様などの情報を初期段階から具体的に入力でき、できるだけ多くの項目を決めておくことで、作業量のピークを前倒しでき設計変更コストを抑えることが可能である(フロントローディング)。すなわち、施工や完成後をイメージしつつ、シミュレーション、解析、部材の干渉チェックなどを通じて、より多くのことを決めておくことができる。

計画・設計内容の可視化と合意形成

ここからは、研究室での取り組みをご紹介しよう。境港市役所・土木設計者・照明デザイナーらと取り組んだ「水木しげるロード・リニューアルプロジェクト(2016-2018)」で将来像を3次元化し、コミュニケーションツールとして使われたVRの強みを紹介したい。

水木しげるロード(総延長800m)は、JR境港駅前から水木しげる記念館に至るまでの区間であり、県道と市道で構成されている。設計段階である2016年9月に「怪フォーラム2016 in とっとり」が境港市で開催されることになり、事業関係者や市民の参加が多く見込まれることからリニューアルの全貌をVRで公表することになった。実はこの時点では、県道と市道のリニューアル内容は舗装が統一されていないなどの差があったが、発注者は別々でありそのまま進んでもおかしくない状況であった。怪フォーラムは、妖怪にまつわる三県(岩手・徳島・鳥取)の知事が出席するイベントであり、市長も出席する。県道と市道のトップが共に出席する貴重な機会となった。

日が暮れてから、リニューアル計画のVRを屋外スクリーンに映し出し、VRをライブで操作しながら、アナウンサーに計画内容を朗読してもらい、一反木綿に乗った鬼太郎がリニューアルされた水木しげるロードの将来像を空中や歩行者目線から案内した。

このVRを見て、県道と市道の設計内容の違いにトップが気づき、以降は県道と市道のデザイン統一を図りながら設計を進めることになった(図2)。

新たな水木しげるロードが竣工してしまうとやり直しは容易ではない。設計内容の全体像を関係者と共有し、どう合意形成を図るのか?VRを設計段階から使うことで問題を発見し、設計変更を繰り返すことにより、2018年夏、水木しげるロードは完成した。

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図2. 水木しげるロード・リニューアルプロジェクト(境港市

三次元景観シミュレーションとAIの融合

MRは、設計対象を含む将来景観を現場で事前シミュレーションするニーズに対応できる。いわば、リアルタイム・フォトモンである。一方、建築物や都市の三次元モデルを屋外、1/1スケールで常に正確に位置合わせできる景観シミュレーションシステムはまだ発展途上である。また、シミュレーションのためのコストはできるだけ少なくしたい。そのため研究室では、ゲームエンジン上に画像処理を統合したMRシステムを開発してきた。地上でタブレットHMDを用いたMRユーザ目線からの使い方のみならず、空中からドローンによる使い方も想定している。

さらにエビデンス・ベースド・デザインに対応するため、緑視率自動測定システムを開発、MRシステムに組み込み、計画前後の変化を見た目と数値情報(緑視率)により同時に把握できるMRとした。

MRで景観シミュレーションを行う際の課題として、オクルージョンがある。MRは通常、現実世界の映像を背景としてその上に位置合わせを行った三次元モデルを重ねて表示する。三次元モデルの手前に現実世界がある場合には不正確な表現となってしまう。これらの前後関係を正確に表現する手法がオクルージョンであり、筆者らは三次元モデルの手前に存在する実物体の三次元モデルをSfM技術(多視点で撮影した画像から三次元形状を復元する。フォトグラメトリとも)を用いて事前に作成し、MRカメラから眺めた時にその三次元モデルがある領域は実写映像をレンダリングすることでオクルージョンを実現した。

しかしこの方法では、使える対象に限界がある。例えば、MRシミュレーション時に事前準備した三次元モデルから変化してしまった実物体に対して(例えば、風で揺れる樹木、MR実行時に突然現れる人や車など)、オクルージョンは不正確になってしまう。そのため、MRシミュレーション中にオクルージョンを行う実物体をリアルタイムに抽出する動的オクルージョンシステムが必要となる。これを実現するため、深層学習によるセマンティック・セグメンテーション(画像の各ピクセルをカテゴリラベルに関連付けすること)技術をMRに統合したシステムを開発中である(図3)。このセマンティック・セグメンテーション技術は、上述した緑視率や天空率などの自動計算へも応用できる。

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図3. 動的オクル―ジョンを含む景観検討用MR

尚、屋外での正確な位置合わせ技術に関しては、SLAM(自己位置推定と環境地図作成を同時に行うこと)技術が急速に発展しており、位置合わせ問題はいずれ解決されていくものと期待している。さらに、SLAMとセグメンテーションのようなカテゴリ分類技術により、広大な現実空間のデジタル化が進められ、センシング技術、クラウド技術とも融合され、デジタルツイン化が進められるであろう。

おわりに

第4次産業革命の時代を迎え、BIMは建築分野のコア技術になるであろう。さらに、AI、IoT、ビッグデータVRなどデジタル技術の発展にも常に目を向けておく必要がある。例えば、ガードナー社が毎年発行している、新興技術のハイプサイクルは参考になる2)。また、コンピュータやソフトの使い方を覚えるだけでなく、情報やコンピュータグラフィックスの基礎理論を理解しておくことも肝要である。

尚、講演では「BIMと環境シミュレーション・VR・MRとの融合」についても触れた。この内容は、都市とITとが出合うところ 第66回に記載したので参照されたい。

参考文献

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/191101BIM研修会_190830.pdf
(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2019年11月号)