World 16の所在地をVRで表現してみました。時差19時間、遠くに離れていても、チャレンジャぶるなメンバーが集まってVR開発できました
時差19時間
今年は数々のイベントが残念ながら中止になってしまい、季節の移り変わりを感じにくい。気づけば早くも師走、確かに寒くなってきた。
2008年から続いているVRサマーワークショップ。VRをはじめとする3次元デジタル技術を応用して建築・都市の可視化やシミュレーションを専門とする「World16」のメンバーが最先端のVR応用を中心に、研究・教育・文化・産業などの幅広いテーマを議論する研究会である。アリゾナ州立大学・小林佳弘先生が個性的なメンバーを立ち上げ段階から取りまとめている。例年通り、地球のどこかに集まるべく、今夏は台湾での開催を予定していた。が、新型コロナウィルス禍により、メンバーの移動は大きく制限されてしまい、7/7―10にオンラインでのバーチャル開催となった。
近年のVRサマーワークショプのミッションは、各World16メンバーが新たなVR応用を企画し、他のメンバーと議論した上で、自ら、もしくはフォーラムエイトのシステム開発者と組んで開発する。メンバーの所在はカリフォルニアからニュージーランドまで地球上に散らばっており、時差は最大で19時間(図1左)。
クリエイティブな活動、時差を考慮した活動をオンラインでどう実現するか?
クリエイティブな活動支援
まず、ワークショップ1か月前に、Zoomによるプレ会議を数人ごとに実施した。各メンバー同士がオンラインながら再会すると共に、今回検討しているプロジェクトや必要なツールを幹事側で事前に把握し、担当するシステム開発者を事前に選出することができた。
ワークショップ本番では、メンバーが一堂に集い、企画内容や最終成果をプレゼンする場として、Zoomを使用した。次に、メンバーが各自のプロジェクトを進める際には、データ共有やコミュニケーションツールとして、Slack(スラック)を使用した(図1右)。
Slackは、立ち上げたスレッド(ある特定の話題に関する投稿の集まり)ごとに、そのスレッドに参加するメンバー限定でコミュニケーションが可能である。今回の興味深い使い方として、あるスレッドに参加するメンバーは、そのプロジェクトのメンバーだけではなく、ワークショップメンバー全員であったこと。こうすることで、プロジェクトメンバー以外のメンバーが、他のプロジェクトの開発状況をチラ見したり、プロジェクトメンバーに岡目八目で情報提供やアドバイスしたりできる。
このような複数のプロジェクトが同時並行的に進むことは日常茶飯事であるが、メールでこのようなやり取りを行うと、メールボックスに沢山のスレッドが混ざりこんでしまい話の流れがつかみにくくなってしまうし、後でもう一度読みたいメールを探し出すことも苦労する。Slackは、ファイル共有なども行え、非常に効率的にコミュニケーションできた。尚、Slackと同様のツールとしてChatwork(チャットワーク)は国産であり、使いやすい。
その他、新興のVRコミュニケーションツールの体験会を兼ねた雑談タイム用に、バーチャルSNS cluster(クラスター)やSpatialChat(スペチャ)が用意された。
時差を考慮した活動支援
日本の時間帯を中心とした時差マップを作成して見える化を図ると共に、コアタイムとして、日本から東方面(ニュージーランドから米国まで)は日本時間の朝9時~12時、逆に、西方面(中国からイギリスまで)は日本時間の午後3時~6時とした。
コアタイム以外の時間帯は自由参加とした。結果、全員が一堂に集うことはほとんどできなかったが、Zoomでのプレゼンは録画されており、オンデマンドで各自の進捗を共有することは可能であった。
成果
初めてのオンラインワークショップであったが、例年以上に興味深いプロジェクトが数多く提案され、着実に開発が進められたように思う。11月中旬には、東京会場とオンラインのハイブリッド方式で、第13回 国際VRシンポジウムが開催された。各メンバーのテーマは、表1の通りである。VRを中心にBIM、AI、点群など様々なデジタル技術との連携が読み取れる。
表1 第13回 国際VRシンポジウムでの成果発表(2020年11月18日)
タイトル |
World16メンバー |
概要 |
Virtual & Interactive Museums Real Estates Collaborative Design |
Amar Bennadji(ロバートゴードン大学) |
covid-19影響によりコミュニケーション手段が大きく揺れた。今回は建築設計の教育の一環としてWeb上のバーチャルツアーの活用について。 |
Flexible Traffic Lights |
Kostas Terzidis(同済大学設計創意学院) |
AI技術を使った交通制御への挑戦。道路使用者から見た快適さを中心に考えた最適な交通制御とは?VR技術を使って検証! |
Visual Voxel Heatmap Generation |
Marc Aurel Schnabel(ヴィクトリア大学ウェリントン) |
最適な環境づくりのために人の行動を分析し理解する必要がある。視線計測装置を用いた多次元的に分析するシステムの開発と今後の発展について。 |
GANs and Latent Space |
Marcos Novak(カリフォルニア大学サンタバーバラ校) |
映像などの情報に含まれている根本的な要素がディープラーニングにより抽出され、潜在空間として生成される。元の現実と異なる角度で潜在空間を表現しなおすGANとVRとどのように組み合わせて活用できるか。 |
VR Immersive Experience Engaging Five Senses |
Thomas Tucker(バージニア工科大学) |
アートやエンタテインメントで体験者の感覚の刺激の与え方により印象が大きく変化する。高精度の3Dモデリングと模型をVR技術で融合させて得られた効果とは? |
The Colors of Point-Cloud |
Dongsoo Choi(バージニア工科大学) |
点群は3D形状を詳細に捉えるものでありながら立体感のある可視化には様々な工夫が必要。今回は色と輝度情報がない点群データから立体感のある表現技術と可視化のツールの開発について。 |
VRI for Architecture Modeling Design within Immersive Virtual Reality |
Sky Lo Tian Tian(ハルビン工業大学深圳校) |
没入感のあるARを考えると本格的なVRヘッドセットを想像する。今回は軽量で没入感を楽に与えるAR技術の研究開発について。 |
福田 知弘(大阪大学) |
VRコンテンツの作成が増えている。快適なVR体験のため、VR酔い対策などVRの活用と普及促進に向けた新たなVRコンテンツ評価技術の開発について紹介する。 |
|
Agent Based Modeling of Infection in the Built Environment |
Matthew Swarts(ジョージア工科大学) |
covid-19をはじめ感染リスクを制御しながら、長期的に継続可能な対策をシミュレーションで見極める!本プロジェクトはエージェントを用いた感染拡大と対策シミュレーションを行い、その結果をVRで表現。 |
Artistic Filters on Point Clouds in UC-win/Road |
Rebeka Vital(シェンカル工科デザイン大学) |
重要な遺産のデジタル保存に点群が良く使われる。点群を使って遺産をVRでどのように甦らせるか? |
Car accident Simulation & Visualization The advantage of VR and UC-win/Road |
Ruth Ron(マイアミ大学) |
衝突事故の原因調査に衝突の物理シミュレーションによる再現が使われているが、VRを用いた再現ができればどのような効果が? |
5D Development system UC-win/Road Sustainable Planning and Design |
Paolo Fiamma(ピサ大学) |
欧州でのBIM/CIMについての活用状況とUC-win/Roadに期待されるインパクトについて。 |
PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/2011machinami_FukudaFinal.pdf
(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2020年12月号)