ふくだぶろーぐ

福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第30回 香港中文大学 国際研修プログラム(1)

香港ISP

International Study Programmes(ISP: 国際研修プログラム)は、香港中文大学 中國城市住宅研究中心(Center of Housing Innovations, The Chinese University of Hong Kong)が毎年実施している教育プログラムである。学生の多次元思考やチーム・スピリットを開発するために、持続可能な都市開発をテーマとして、国際的、学際的、そして多文化のコラボレーション環境下で、都市計画・設計の実践、そして、学生の実践経験の蓄積を進めている。香港中文大学 建築学部 鄒經宇教授(Prof. TSOU, Jin Yeu)が中國城市住宅研究中心 主任を務める。

今年度のISP企画は、各国の研究者・実務者が香港中文大学に集まって学生の計画・設計作業を助言するIPS@香港の実施(4月)、そして、香港の教員・学生たちが各国の大学などを訪問して受け入れ側の大学が企画する研修プログラムに参加すること(5月以降)であった。筆者の関わりは、4月に香港に赴き、2題のプレゼンとワークショップチュータを務めた。そして、5月には香港メンバーが大阪に来られることになり、研修プログラム「ISP@大阪」を企画した。

本稿では、4月に香港へ訪問したISP@香港の様子をご紹介したい(図1, 2)。

f:id:fukuda040416:20160413141128j:plain f:id:fukuda040416:20100410153548j:plain
図1 香港の高層アパートメント群

f:id:fukuda040416:20160416081408j:plain図2 香港島の高層ビル群とスターフェリー

 

香港ISP

香港ISPのテーマは、「Envision Age-Friendliness in Hyper-Dense Hong Kong(超濃密な香港で高齢者への優しさを描く)」。平たくいえば、元気な高齢社会とそのための都市のあり方に関するワークショップ。香港島のChai Wan(柴湾)地区を対象地として、4つのテーマで検討が進められた。

  • Aグループ: 建物密集環境での計画と設計
  • Bグループ: 都市生活と住宅供給の戦略
  • Cグループ: 社会および人間の文化の持続可能性
  • Dグループ: 物理的環境での生きがい

柴湾は香港島の東部に位置する。古くは漁村であったが、経済成長期に公営住宅が建設された。現在は居住者の高齢化が進む。

参加した学生は66名。各グループは2チームずつで構成されており、計8チームである。香港中文大学の学生だけでなく、オーストリア・グラーツ大学の学生も多数参加してワークショップに取り組んだ。学生たちに助言する研究者・実務者は、オーストリア、イギリス、シンガポール、台湾、香港、日本から参加した。

ISP@香港は、4月11日から18日までの8日間で開催された。まず、期間中、中間報告会が2度(4/13, 15)、そして、最終報告会(4/18)がマイルストーンとして用意された。最初の中間報告会では、各グループのテーマに即して、現地調査や居住者インタビューを通じて発見した課題について、8つのチームが順に報告した。2回目の中間報告会では、課題解決に向けた計画・設計のコンセプトについて。最終報告会は、文字通り最終案について。ISP@香港2日目の夜に開催された懇親会で学生同士が打ち解けあったこともあって、プラニング、そしてチーム・コミュニケーションの内容も日に日に加速していくことを傍で感じた次第である(図3)。

報告会の間には、現地調査、研究者・実務者のプレゼン、関連機関「Housing Society Elderly Resources Centre」への訪問、そして懇親会が組まれており、短期間で充実したワークショップとなるような工夫がなされたプログラムであった(図4 - 6)。

f:id:fukuda040416:20160414175248j:plain f:id:fukuda040416:20160415173151j:plain

図3 ISP@香港 チーム別ワークショップ|中間報告会

f:id:fukuda040416:20160414121101j:plain

図4 建築学部棟屋上での集合写真終了!

f:id:fukuda040416:20160414191047j:plain

図5 西貢海鮮

f:id:fukuda040416:20160413171302j:plain

図6 香港中文大学の学食

 

研究者・実務者のプレゼン

 参加した研究者・実務者が話題提供した内容を紹介しておこう。

  • LI Yen-Yi (Shu-Te University, Taiwan): “The Green Light City: Some Approaches Toward Sustainability” と題して、氏が台湾・高雄で実施しているエコシティとグリーン建築プロジェクトの紹介。
  • Martin Watson (Brock Carmichael Architects, UK): “A Brief History of the Prefabricated Home” では、プレファブ住宅の歴史、設計、施工を概説。また、“A UK Overview of Elderly Housing and Designing for Dementia” では、認知症のための高齢者住宅供給と設計、そして、アクティブ・エイジング(活力のある高齢化)について概説。60歳以上の人々が30%を超える国は日本が今は唯一だが、2050年には64ヶ国がそうなる。
  • YEO Su-Jan, on behalf of Prof. HENG Chye Kiang and Prof. FUNG John Chye (National University of Singapore): “Population Ageing and Urban Environment: A Singapore Perspective” と題して、シンガポール高齢化社会の現状と1980年代と90年代に建設された公営集合住宅の紹介。シンガポールでは定年が65歳から67歳に引き上げられた。女性も男性同様の働き方をしており、定年後のライフスタイルの在り方が大切だと。
  • Wolfgang DOKONAL (Graz University of Technology, Austria): “Contemporary Urban Processes - Aging in the City” と題して、世界における人口、環境、経済、エネルギーの状況、欧州における高齢社会の現状、そして、オーストリアの介護付き集合住宅の紹介。オーストリアは収入の50%を納税するそう。
  • 筆者: “Challenges for Livable Physical Environemt and Virtual/Augmented Reality as 3D Communication Tool” と題して、我が国における環境設計や参加型デザイン、神戸市や箕面市での景観づくり、茨木市での緑の基本計画、神戸市での夜間景観づくり、グリーン建築の取り組み、そして、最近の3次元コミュニケーション・ツールとしての研究成果であるVR/ARについて。また、“Livable Community in Elderly Society Japan” では、日本の人口や高齢化の現状、元気なコミュニティ活動が見られる、近江八幡や大阪の取り組みについて。

プレゼン後、香港中文大学のコーヒーショップで談笑。プレゼンでは、近江八幡市で定年前に開催される料理教室、そして料理教室卒業後におやじ連が形成されている話題を紹介させて頂いたのだが、このことに関連して、我々よりも上の世代 (75歳-)の男性が料理を余りしないのはオーストリア、イギリスも同じだ、シニアになって料理を学び始めるのはかえってストレスかもよ(笑)、と盛り上がった。

また、日本では昔は(今でもそのような地域があるように思うが)自宅に鍵をかけなかった話をすると、イギリスでも昔は同じだったが、最近は素性がわからない者が増えたり、凶悪な者がいるかもしれないという不安から鍵をかけるようになったそうである。そもそも、イギリスでも鍵をかけない時代があったことには驚いた。

 

おわりに

我が国の高齢化率の高さは世界的に有名である。また、高齢者の絶対数も多く、研究者のプレゼンや学生との会話でも、日本に関する資料や質問が多く見られた。一方、2015年、平均寿命の男女世界1位は香港である。香港女性の平均寿命は87.32歳(日本人女性は87.05歳で2位)、香港男性は81.24歳(日本人男性は80.79歳で4位)である。

高齢社会の流れは世界共通であり、如何に健康に元気に暮らしていくか、考えていく必要がある。

 

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1609machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年9月号