「都市とITとが出合うところ」第28回。前回より3回に渡って、CAADRIA2016で発表した論文の内容をご紹介中です。
PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1607machinami_FukudaFinal.pdf
はじめに
オーストラリア・メルボルン大学(The University of Melbourne)で開催されたCAADRIA2016国際会議(The 21th International Conference on Computer Aided Architectural Design Research In Asia)で発表した論文の2報目。
今回は「Automatic Measurement System of Visible Greenery Ratio Using Augmented Reality;拡張現実感を用いた緑視率自動測定システム」について [1]。
背景と目的
都市ヒートアイランド緩和、都市景観の質向上に向けて緑化が推進されている。緑の定量化は、客観的評価のために重要であり、定量化指標の一つに緑視率がある。
緑視率は、視界の中に占める自然の緑の割合であり、平面的にとらえる「緑被率」に対して、空間的な実感に近い指標として考えられた概念である。近年では、屋上、壁面、駐車場等の新たなみどりの創出、市民が実感できるみどりづくり、市民・企業・NPOと行政との協働によるみどりの行動の推進などの必要性 [2] から、視界の中に占める緑の割合を扱う緑視率は直感的に理解しやすい指標として注目される。
緑視率の一般的な測定方法は、いくつかの視点における測定データで代表させることである。すなわち、代表的な視点で写真撮影した後、画像処理ソフト(例:Adobe Photoshop)を用いてマニュアル操作により測定対象となる自然の緑部分のマスキングを行い、抽出された領域の画素数を全体の画素数で除して、緑視率測定を行う(以下、マニュアル手法とする)。
このマニュアル手法の課題は、マスキング時間を要すること、人により作業内容や作業時間にバラつきが発生することである。また、マニュアル手法は処理に一定の時間を要するため静止視点での測定に限られる。そのため、歩行中の緑視率の変化を測定するといった動視点への展開も困難である。
このような背景から、著者らは画像処理技術を応用した緑視率自動測定システムを開発中である。既に、入力した画像からガウシアンぼかしによる平滑化処理を行ったのち、自然の緑の対象範囲となる、色相値 [40-180] による抽出、そして、彩度値 [0.2-1.0] による抽出により緑成分となる画素を抽出し、抽出された画素数を全体の画素数で除して、緑視率を計算するシステム(以下、既システムとする)を開発した [3]。
本研究では、既システムの課題であった、以下の2点の解決を目的とした。
- ガラス窓に映りこんだ緑など、緑視率計算対象外のオブジェクトが抽出されてしまうため正解率が低いことへの改善を図ること。
- 現状の緑視率のみ測定可能であるため、将来の緑視率シミュレーションに対応すること。
提案手法
本研究で提案する緑視率自動測定システムのフローを図1に示す。
- 項目1)を実現するため、既システムで開発したガウシアンぼかしによる平滑化処理の後、クラスタリング手法の一つであるMean shift法によるフィルタリング処理を追加した。その後、既システムと同様に、自然の緑の対象範囲となる、色相、そして、彩度の値を抽出した(以下、新システムとする)。
- 項目2)を実現するため、AR(Augmented Reality; 拡張現実感)機能を緑視率自動測定システムに追加した(以下、緑視率自動測定ARシステムとする)。
システムの実装には、画像処理用にOpenCV(ver.2.3)、AR開発環境はARToolKit(ver.2.72.1)を用いた。
図1 提案する緑視率自動測定システムの概要
検証1:新システムについて
項目1)を検証するため、新・緑視率自動測定システムの性能を評価した。具体的には、建物に映りこんだ緑を含む風景写真を複数用意して、既システムと新システム(以下、これら両者、またはいずれかを指す場合には、自動測定システムという)の両者において、正解率、不正解率の状況を調査した。
正解、不正解の判定は、マニュアル手法で作成した画像を正解画像として、正解画像で抽出された緑成分画素と、自動測定システムで抽出された緑成分とを比較した。正解画素は、マニュアル手法と自動測定システムのいずれも抽出された画素を指す。不正解画素は、未抽出画素と過抽出画素を含む。未抽出画素は、マニュアル手法で抽出された(すなわち、本当は緑成分である)が自動測定システムでは抽出されなかった画素を指す。過抽出画素は、マニュアル手法で抽出されていない(すなわち、本当は緑成分ではない)が自動測定システムでは抽出されてしまった画素を指す(図2)。
図2 正解画素、不正解画素の定義
実験の結果、2つの視点場において、既システム→新システムの順に、正解率(%)は85.4→93.3 (+7.9)、86.0→85.6% (-0.4)と一定の向上がみられた。また、不正解率(%)は、24.2→11.5 (-12.7)、32.1→21.4 (-10.7)と低下した(図3)。すなわち、Mean shift法によるフィルタリングにより正解率の向上と不正解率の低下を実現することができたといえる。
図3 正解率・不正解率の新旧システム比較
検証2:緑視率自動測定ARシステムについて
項目2)を検証するため、緑視率自動測定ARシステムの性能を評価した。前処理として、新たな景観を形成する樹木の3Dモデルを用意して、ARシステムに登録した。本処理では、大型マーカを、webカメラでキャプチャする実写映像と3Dモデルの位置合わせとなる基準点に設置した [4]。そして、ARシステムを起動させて、樹木の3Dモデルを適切な位置に移動させて配置し、緑視率を測定した(図4)。
図4 緑視率自動測定ARシステム:実験風景とAR例
結果、2つの視点場において、緑視率は、現状→将来の順に、15.1→25.4% (+10.3)、9.9→35.8 (+25.9)と向上する様子を確認することができた(図5)。
図5 緑視率の現状・将来比較
おわりに
本研究は拡張現実感を用いた緑視率自動測定システムを開発した。成果を以下に示す。
- ガラス窓に映りこんだ緑など、緑視率計算対象外のオブジェクトが抽出されてしまうことを回避するために、既システムに、Mean shift法によるフィルタリングを挿入するアルゴリズムを開発した。結果、正解率の向上と不正解率の低下を確認することができ、緑視率の精度向上を実現できた。
- 現状の緑視率の測定だけでなく、将来の緑視率シミュレーションに対応するために、新システムにAR機能を加えた緑視率自動測定ARシステムを開発した。結果、実写映像中に樹木の3Dモデルを新たに加えて、将来の景観と緑視率の変化を確認することができた。
今後は、より多くのケーススタディを経て、正解率のさらなる向上、不正解率のさらなる低下を目指す必要がある。
参考文献
[2] 大阪府: みどりの大阪推進計画(2011.12.12更新), http://www.pref.osaka.lg.jp/midori/midori/keikaku.html (2016.5.13参照)