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都市とITとが出合うところ 第18回 ギリシャ×VRサマーワークショップ(1)

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」。第18回となる旅はギリシャテッサロニキへ。ITはそこで開催されたサマーワークショップの様子をご紹介します。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1509machinami_FukudaFinal.pdf

VRサマーワークショップ イン ギリシャ
 6月下旬から1週間、ギリシャを訪問した。偶然ながら、ギリシャ財政危機の真っ最中。街はニュースで報道されているほど慌ただしくなかったが、銀行ATMには長蛇の列ができ、お店では現金払いのみでカード支払いは受け付けてくれないなど、危機を間近に感じることもあった。

 VRサマーワークショップは、World16グループが中心になって定期的に開催している。World16は、建築・建設・都市設計系研究者から構成される3D・VR(3-Dimensional Virtual Reality: 3次元人工現実感)の国際学術グループである。2007年に、8名のメンバーが中心となって、World8を組織し、その後、メンバーを倍増させてWorld16となった。メンバーは世界中に散らばっており、所属する大学の国でいえば、米国、カナダ、イギリス、イタリア、イスラエルUAE、チリ、ニュージーランド、日本、となる。スポンサーは、(株)フォーラムエイト。毎年秋には、東京で、国際VRシンポジウムを開催して、日本の研究者、実務者、学生に報告している。

 サマーワークショップの開催地は、メンバーの大学であったり、故郷であったりする。これまで、米国・フェニックス(2008)、箱根(2009)、米国・サンタバーバラ(2010)、イタリア・ピサ(2011)、米国・ハワイ(2014)で実施してきた。ワークショップでは、まずWorld16研究者の近況報告が行われ、そして、研究者がみんなで協力しながら何かを作り上げて発表する。日頃は、それぞれの国や大学での生活で忙しいメンバーたち。ワークショップでは、フラットな立場で、研究・実務面において日頃やっていることや考えていることを情報交換するだけでなく、プライベートな話題も交換しており、学び、そしてリフレッシュの場として機能している。

 第6回目となる今回は、ギリシャ第2の都市、テッサロニキポルトカラスにて。サマーワークショップ全体の参加者は約30名、World16のメンバーは8名であった(図1)。このサマーワークショップの様子を本稿と次稿の2回に渡って紹介したい。本稿では、研究者の近況報告について、会場となったテッサロニキと共に取り上げる。

図1 サマーワークショップ集合写真

World16プレゼン
 まず、発足以来の代表である小林佳弘氏(アリゾナ州立大学 - 米国)により、World16のこれまでの活動実績、サマーワークショップの歴史について紹介があった。そして、研究発表が始まる。4時間ぶっ続けである(図2)。

図2 World16プレゼン

  • 楢原太郎氏(ニュージャージー工科大学 - 米国)は「インタラクションメディアと教育」と題して、ゲーム制作ソフトや物理エンジンを使用したシミュレーションの内容を、ユーザが実空間で力や動きなどを与えてシミュレーションを変化させるハプティクス技術との連携について発表した。
  • 筆者(大阪大学 - 日本)は「3次元VRモデルと連携した動く模型」と題して、3Dモデルで定義した都市ボリュームを現実世界で素早く作成するために、合計105本の細長いロッド群をステッピングモータで上下させて、都市模型を動的に表現するシステム開発について発表した。
  • コスタス・テルジディス氏(ORGANIC PARKING, INC. CEO - 米国)は「オーガニック・パーキング」と題して、コスタス氏が研究の末にビジネス化させた、駐車スペースを個人間で取引する、オーガニック・パーキングシステムの現状について発表した(1)
  • パオロ・フィアマ氏(ピサ大学 - イタリア)氏は「より良い生活質のために屋外ツーリズムを改善するためのCO2排出のモニタリング」と題して、イタリア・トスカーナ州の風光明媚な地をVRで作成する計画について発表した。
  • ドン・ソーチョイ氏(バージニア工科大学 - 米国)は写真測量技術から3Dモデルを作成する方法について。まず、ドローンで空中撮影した写真を合成して、その合成写真から都市の3Dモデルを作成する。そして、作成した3Dモデルから3Dプリンタで街並み模型を作成するという、一連のプロセスについて発表した。
  • ルース・ロン氏(シェンカル工科デザイン大学 - イスラエル)は音や熱といった、目に見えない物理的特徴を可視化する方法について。温度カメラを用いて、建物だけでなく都市全体を対象としてヒートアイランド現象を扱うシステムを発表した。可視化結果は、プロジェクションマッピングとして表現されている。
  • マシュー・スワ−ツ氏(ジョージア工科大学 - 米国)は「F8 Framer Plugin」と題して、通常は手間のかかる3Dモデルの作成方法について、簡単に、かつ、短時間で3Dモデルを生成する方法について発表していた。

テッサロニキのタベルナ
 ワークショップの会場となったテッサロニキへは、伊丹 -羽田 - パリ - アテネ - テッサロニキ、と乗り継いだ。丸一日かけてギリシャに着くとそこは数学の世界。ギリシャ文字 Αα、Ββ、Γγ、Δδ、Εε、Θθ、Φφ、Ωωなどが街なかに当たり前に溢れている。まず読めず、次いで読めても意味わからず、である。

 テッサロニキ空港から路線バスでホテルに向かう(図3)。タクシーを使えばホテルまで直行してくれるので何かと安心だが、路線バスは地元の雰囲気を味わえる。ただ、路線バスに乗ると、自分が降りたい駅で果たして降りることができるだろうか、不安になることが多い。国内ならまだしも、海外では尚更。電車とは違って乗降客がいない駅には停まらずにスルーされてしまうから、バスが停まった駅の数を数えながら路線図と見比べても意味がない。それぞれの駅にナンバリングしてくれるとわかりやすいのだが。で、空港でホテルまでの路線バスはどれかしら、と探していると、「お手伝いしましょうか?」と地元の方に運よく声をかけられ、ホテル近くまで一緒に連れていってもらうことになった。ギリシャの人々はおおらかで話好きで親切。30分ほどバスに揺られている内、「ギリシャは一週間もいれば好きな国になると思う」と乗客から口々にいわれたが、一週間後に離れる時には正にその通りの想いとなった。

図3 テッサロニキ空港から市内へ路線バスで

 夕食へ。中央市場の古びたアーケードの中に「Ταβεργα」を見つけた(図4)。これは「タベルナ」と読むが、意味は「レストラン」(笑)。大阪だと鶴橋商店街加古川だと寺家町商店街の路地にあるような昔ながらの食堂で、カラマリ、ザジキ、ギリシャサラダ、ギリシャビールを頂いた(図5)。こういうお店のおっちゃんがシブいのは万国共通か。

図4 中央市場のタベルナ

図5 ギリシャ料理

テッサロニキの町
 テッサロニキは、首都アテネに次ぐギリシャ第2の都市で人口は約80万人。紀元前315年頃に創建された古い都市であり、今も、ビザンティン時代の建物が残る。ビザンティン帝国時代には、コンスタンティノープルに次いで第2の都市であった。北部はマケドニアブルガリア、東部はトルコが近い。

 早朝まち歩き。まずは、坂の上に見えるビザンティンの城壁を目指そう。ホテルのあるアリストテレス広場から、ガレリウスの凱旋門(完成303年)、ロトンダ(306年)を眺めて道に出ると(図5)、城壁が少し残っているのを見つけた。ここから、城壁を脇に見ながら坂を上っていく。郊外に向かうにつれ坂の傾斜は厳しくなるが城壁の保存状態は段々とよくなっていく(図6)。上りつめた場所が、ピルゴス・トリゴニウといって、城壁が立ちはだかり、端っこに見張り塔が建っている(図7)。ここからは、テッサロニキの街全体、テルマイコス湾が一望できる。

図5 ガレリウスの凱旋門とロトンダ

図6 ビザンティンの城壁

図7 ピルゴス・トリゴニウ

 この城壁を等高線沿いに西へ歩いていく。この辺りは特に緑が豊かで本当に気持ちが良い。日本でもおなじみの、ブドウ、イチジクなどが家の軒先に実を付けている。高級住宅地と思われる地区の坂道を下っていきながら、アギオス・ディミトリオス教会に辿り着いた(図8)。この教会は、ギリシャ最大の教会であり、5世紀ごろに最初のものが建てられたそうである。中央市場では朝市が開かれていた(図9, 10)。

図8 アギオス・ディミトリオス教会

図9 中央市場にて

図10 中央市場にて

 翌日も早朝まち歩き。今度は海岸線沿いに歩いて、ホワイトタワーへ(図11)。現在のタワーは1537年に建てられた。日本では豊臣秀吉が生まれた頃か。
 港湾地域の方では、古い倉庫群をリノベーションして、カフェや映画館がオープンしていた(図12)。日が暮れて、カフェで談笑していると、北斗七星を久しぶりに見た。星座とギリシャ神話とのつながりも深い。

図11 ホワイトタワー

図12 古い倉庫群のリノベーション

ルートと参考文献
アリストテレス広場】++<徒歩>++【ガレリウスの凱旋門】++【ロトンダ】++【ピルゴス・トリゴニウ】++【ビザンティンの城壁】【アギオス・ディミトリオス教会】++【ローマ時代のアゴラ】++【中央市場】(6.6km)

[1] Organic Parking: https://www.organicparking.com/ (参照2015年7月20日)

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」2015年9月号)

キーワード:まちなみ,ギリシャテッサロニキ,ワークショップ,VR, 3Dモデル, ハプティクス

都市とITとが出合うところ NAVERまとめ

都市とITとが出合うところ(1〜17回)