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都市とITとが出合うところ 第14回 西宮×模型とVRの認識の違い

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」。第14回となる旅は西宮。ITは模型とVRの認識の違いをご紹介します。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1505machinami_FukudaFinal.pdf

西宮へ
 ひょんなことから、本井敏雄さん、渡邉利幸さんと西宮をポタリングすることになった。本井さんは、西宮で生まれ育った筋金入りの西宮人で元西宮市副市長。筆者の研究室で博士号を取られたいきさつがある。渡邉さんは、西宮ビーチリゾート「Pier34North」のオーナー。大阪・大正区で同じ名前のクルージングバーを経営されており、OSAKA旅めがね(1)で出会った。TV番組「ちちんぷいぷい」で未知やすえさんと松井愛さんを大正ツアーに案内したことがあるのだが、女子たちはオールドアメリカンな渡邉さんの建物を見るや「USJのアトラクション!」、バーに面した尻無川を「ミシシッピ川〜!」と呼んで楽しまれていた(笑)。渡邉さんはこんな雰囲気の2号店を今度は西宮マリンリゾートにオープンしたのだが、西宮をもっと知りたい。ならば、本井さんに案内してもらいましょう、ということで、二人に出会ってもらい、阪神西宮駅からポタリング・スタート。

マンボウトンネル
 えべっさん通りを北上し突き当りの脇を入ると平松町の「マンボウ」に出合う。これはJR神戸線の盛土に開かれた小さなトンネルである。元々は用水路として作られたが、周辺に田んぼがなくなり歩道に生まれ変わった。レンガ造りのアーチ。人ひとりがやっと通れるほどの低さと狭さ。人口48万人都市のど真ん中にこんな生活道路があるとは(図1)。


図1 マンボウトンネル

 マンボウトンネルを抜けて、夙川を北上しながら廣田神社をめざす。火垂るの墓の舞台ニテコ池を過ぎると結構な上り坂。坂を上りきってしばらく進むと今度はスキー中級者レベルの下り坂がお待ちかね。勇気を出して坂を下りきるとようやく廣田神社の参道へ。

廣田神社
 廣田神社は、兵庫県第一の古大社。日本書紀にも登場し、「西宮」の地名の由来でもある。阪神タイガースの選手はじめ、必勝祈願に訪れる人が多い。
 参拝を終えて境内をぶらぶらしていると、西宮の古地図を見つけた。本井さんの解説が始まる(図2)。古代の西宮の海岸線は今よりもかなり北側へ入り込んでいた。それも直線状ではなく、入江のようになっていた。西宮戎神社、廣田神社のすぐそばが海であった。川から流れ出る土砂で入江はしだいに陸地となっていった。江戸時代の西宮は、六甲山からの伏流水(宮水)を活かした酒造業のまちとして栄え、「播州米に宮水、丹波杜氏六甲颪、男酒の灘の生一本」とうたわれた。西宮の港は江戸へ向かう酒の積み出し港として大いに賑わった。なるほど。


図2 廣田神社境内

関西学院
 廣田神社からさらに北上。坂道をひたすら上り、関学へ。ヴォーリズが設計したシンボリックな時計台をバックに記念撮影(図3)。白い壁と赤い煉瓦屋根は背景の甲山の緑とよく似合う。それにしても、こんな素敵な撮影スポットがあるキャンパスがうらやましい。時計台の建物は、昨年2014年9月に大学博物館として生まれ変わっていた。関学のキャンパスは以前、今の神戸王子動物園の場所にあったことを博物館で知った。パンフレットには、かつての原田の森キャンパスと現在の王子動物園がセイムスケールで描かれており、わかりやすい。コアラが生息している辺りには、神学部があったようだ。


図3 関西学院大学

 関学のメインストリートと並行するくすのき通りは、住宅の緑と相まって豊かな緑量を生み出している(図4)。古いクスノキが道路の片方に寄せて植えられている区域なんぞ、公園と間違ってしまいそうである。門戸厄神に立ち寄り、西宮北口でコーヒーブレイクしてから、武庫川へ。河原に出ると空が広くて気持ちがいい。阪急神戸線武庫川橋梁は近年付け替えられ、上り線と下り線が別々の橋梁になった。橋と橋の間にはいつか何かができるのだろうか。


図4 くすのき通り

甲子園
 武庫川の土手を上がり、旧甲子園ホテル(現 武庫川女子大学甲子園会館)を過ぎて、甲子園筋に入る。この通りは昔、武庫川の支流の枝川が流れていたそうである。大正時代、暴れ川であった武庫川を改修して、枝川と支流の申川を廃川として土地改良を行い、枝川と申川の三角州に甲子園球場が建設された。タイガースは今年、球団創設から80周年、日本一から30周年、リーグ優勝から10周年を迎えた、節目の年。今年こそは!
 甲子園浜は自然が残る貴重な海浜だが、海面にコンクリートが不自然な格好で顔をのぞかせている。かつての浜甲子園阪神パークの跡なのだそうだ。阪神高速湾岸線の側道となる西宮港大橋を上りつめると、西宮市街が一望できた(図5)。西宮は、山、川、海、そして、まちの距離が互いに近くにあることを実感できる。ハネ橋を越えて、西宮ビーチリゾートでブレイク(図6)。


図5 西宮港大橋より


図6 西宮ビーチリゾート

模型とVRの認識の違い
 建築・都市の設計やプレゼンテーションでは、模型やVR(Virtual Reality)のような三次元視覚化メディアが使われる。世の中はデジタル化が進んでおり、伝統的な模型はVRのような仮想メディアにそのうち置き換わるのではないかと思われた時期もあった。が、3Dプリンターが市民権を得ようとしている昨今、現状は模型とVRが併用されている。ユーザが模型とVR を併用する理由は、作りやすさや使いやすさ、コストや手間がユーザにとって一長一短だからであろう。また、模型とVR をそれぞれ眺めた時に、人の認識に違いがあるのではないだろうか。ここでいう認識とは、表現された空間や物体の形、寸法、配置、質感等を把握することである。そこで筆者らは、寸法把握をテーマとして、人が模型とVRをそれぞれ眺めた時、模型とVR のどちらが正確、迅速に寸法把握できるのか明らかにするために、印象評価実験を行った(2)
 実験では、まず、地方都市の一区画(100m 四方)の3次元モデルを作成した。平らな地盤に30数棟の建物が建つ。建物階数や道路幅がヒントにならないように、建物は白色、地面は灰色の単色でテクスチャマッピングした。次に、この3次元モデルを3Dプリンター「ZPrinter650」で出力して500分の1スケールの模型を作成した。模型はターンテーブルに置いてあり、360°回転できる。また、鳥瞰しながら区画を一周するVRムービーを作成した。模型とVRの見えの大きさを限りなくそろえるため、眺める距離、眺める角度、ライティングを調整した(図7・8)。



図7・8 実験風景:模型(上)、VR(下)

 本稿では、建物の高さ比較の結果について紹介したい。実験では、模型上やVR画面上で、高さの異なる2棟の建物A、Bを指図して、どちらの建物が高いかを質問した。被験者は2棟のうち高い方をできるだけ早く答えた。質問する建物の組み合わせは、実スケールで建物高低差1.5m、5m、10m、20mの4種類とした。回答は5段階とし、「A が高い」を1、「どちらかといえばAが高い」を2、「同じ」を3、「どちらかといえばB が高い」を4、「B が高い」を5というように得点化した。正答は、建物高低差1.5m、5m、20mの場合はAの方が高いため1,10mの場合はBの方が高いため5となる。そして各質問での正答と回答の差を求めて平均と分散を算出した。回答時間は平均とした。
結果、人は模型のほうがVRよりも速く正確に寸法把握していることがわかった(表)。特に高低差が5m以下の場合(模型上では1cm以下の場合)、その差は顕著であり、模型とVRでは認識の違いがあるといえよう。


阪神西宮駅@@<レンタサイクル>@@【マンボウトンネル】@@【夙川】@@【ニテコ池】@@【廣田神社】@@【関西学院大学】@@【くすのき通り】@@【門戸厄神】@@【武庫川】@@【旧甲子園ホテル】@@【甲子園球場】@@【甲子園浜】@@【西宮港大橋】@@【西宮ビーチリゾート】@@阪神西宮駅(25.4km)

[1] OSAKA旅めがね http://tabimegane.com
[2] Sun, L., Fukuda, T., Tokuhara, T., Yabuki, N.: Differences in Spatial Understanding between Physical and Virtual Models, Frontiers of Architectural Research, (3)1, pp.28-35, Elsevier, 2014, http://dx.doi.org/10.1016/j.foar.2013.11.005

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」2015年5月号)

キーワード:まちなみ,西宮,ポタリングマンボウトンネル,神社,関西学院,甲子園,VR,模型,認識

都市とITとが出合うところ NAVERまとめ

都市とITとが出合うところ(1〜13回)