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都市とITとが出合うところ 第15回 茨木×ARで環境モニタリング

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」。第15回となる旅は茨木。ITはARで室内環境を直感的にモニタリングするシステムをご紹介します。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1506machinami_FukudaFinal.pdf

茨木へ
 阪大吹田キャンパスは大阪大学の本部、人間科学部、医学部、歯学部、薬学部、工学部、研究センター群からなる。面積は100haあり、「甲子園球場26個分」とたとえられるが正直ピンとこない。そもそも吹田キャンパスがデカすぎるからなのかもしれないが、それよりも「甲子園球場1個」の大きさにピンときていないような気がする。

 吹田キャンパスを地図で見るとキャンパス内に境界線がある。「吹田キャンパス」という名の通り、大部分は吹田市にあるのだが、一部は茨木市である。今回はこの、「吹田キャンパスがある都市・茨木」を、大阪モノレール阪大病院前駅からポタリングしてみよう。

宇野辺
 南春日丘の閑静な住宅地を抜けると茨木春日丘教会(光の教会)だ。礼拝堂、ホール、牧師館は全て、安藤忠雄の設計による。吹田キャンパスから歩いて20分ほどのロケーションにANDO建築があるということで、筆者の担当講義「環境デザイン学」の現地見学会でお世話になってきた。すぐ近くの松沢池は大阪府下でかなり大きなため池。下穂積の古い町並みを抜けると、大阪モノレール宇野辺駅に辿り着く。

 大阪モノレールは1990年に千里中央南茨木間で開業した。その後、大阪空港〜門真市駅まで延伸され、彩都へも延びた。大阪空港、阪急宝塚線北大阪急行御堂筋線)、阪急千里線、阪急京都線、地下鉄谷町線京阪本線と乗り換え可能であり、とても便利である。宇野辺駅は当初、茨木駅という名前であった。同じ駅名の先輩・JR茨木駅とは直線距離で1kmもあり駅から互いに見えないのだが、同じ名前であるがために、スムーズに乗り換えできると勘違いしてしまう乗客が多く出てしまった(筆者も被害者の一人)。モノレールを下りると商店街がある訳でなく、東西に中央環状線、南北に産業道路があり、トラックやマイカーがビュンビュン走る。土地勘のない乗客たちは、JR茨木駅まで苦労していたように思う。産業道路沿いには、今はイオン茨木ショッピングセンターがあるのだが、当時は日本専売公社の広大な工場跡地だった。茨木には他にも大きな工場があるのだが、いくつかは閉鎖され、その跡地を大学(後述)、新駅、住宅地などに再開発する動きが見られる。

元茨木川緑地
 宇野辺駅からさらに南下して亀岡街道に入ると宇野辺の古い町並み。そして、JR線の高架を抜けて東へ。大正川沿いの緑道に入ると桜のトンネルがいきなり出迎えてくれた。誰もおらず、ちょっと得した気分。

 茨木川はかつて茨木中心部を流れていたが、川幅が狭い天井川であり、氾濫をたびたび起こしていた。そのため茨木川は安威川との合流付近から郊外へ付け替えられ、付け替え地点から下流は廃川となった(図1)。この全長5kmの旧河道に道路と公園が作られて元茨木川緑地となった。40種類、7万本の樹木が植えられたグリーンベルトは、正に茨木のシンボル。


図1 安威川茨木川合流の碑

 サッポロビール大阪工場跡地に完成した、立命館大学 茨木キャンパス。新築の匂い。キャンパスと隣接して市が整備した防災公園と一体化(図2)。図書館や食堂といった大学施設は市民に開放される。立命館大学の開学に併せて、JR茨木駅東口も整備された。


図2 立命館大学

 茨木神社の近く、茨木小学校の辺りには茨木城の本丸があり、中川清秀片桐且元らが城主を務めた。今は小学校に櫓門が原寸大で復元されている(図3)。この、旧城下町や隣の商店街は中々いい感じで、路地を北上していくとレンガ造りのトンネルに出合う。これは「田中のまるまた」と呼ばれ、明治時代に東海道本線開通のために作られてから、ずっと現役である。土台には明治元年に取り壊された高槻城の石垣が使われている(図4)。


図3 茨木小学校櫓門


図4 田中のまるまた

ザビエルと地酒
 安威川沿いを北上して阿武山へ。標高281m、麓からの比高で220mほどであるが、安威川からせりあがっておりなかなか急である。赤い鳥居をくぐり、さらに登っていくと、藤原(中臣)鎌足が埋葬されているといわれる阿武山古墳、そして、京大阿武山観測所に着く。観測所は、1930年に設立。斜面地を考慮した建物は、注目すべき近代化遺産として取り上げられている(図5)。


図5 京都大学阿武山観測所

 阿武山を下り、風情のある蔵が残る安威地区を通リ抜けて(図6)、北摂山地のキワを西へ走る。古墳、神社、大学・高校が多く見られる地区。将軍塚古墳には、藤原鎌足の古廟がある。茨木は歴史資料が豊富であり、中でも、教科書に必ず出てくるフランシスコ・ザビエルの肖像画が茨木で発見されたことが個人的にはナンバーワンである。


図6 安威地区

 茨木は昔から酒米の産地として名を馳せた地域でもあり、江戸時代には摂津郷として酒づくりが盛んに行われた。近年になって、市内に古くからある酒蔵「中尾酒造」が、茨木市見山地区で作った酒米「三島雄町(山田錦の親)」を使って、地酒「見山」を醸造している。軽快で香りも良く飲みやすい。正に、メイド・イン・茨木。


図7 茨木の地酒「見山」

ARで環境モニタリング
 エアコンによる空調は、室内に温度ムラを生じ、部屋の各位置での寒暖の差が問題となる。対策を講ずるためには、まず、部屋全体の温熱環境を把握する必要があり、その方法としてモニタリングがある。
 近年、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術の発達によりセンサの小型化・高精度化・低価格化が進み、温度・湿度・照度などの環境センサを空間に設置して、リアルタイムデータを取得することが容易になってきた。将来的は今よりもっと、ありとあらゆる空間にセンサが設置されるであろう。モニタリング結果はグラフで表すことが一般的だが、センサの数が増えるとセンサの位置とモニタリング結果を結び付けて理解することが煩雑になり、部屋の温熱環境を直感的に把握することが難しくなる。一方、AR(Augmented Reality: 拡張現実)は、人間が知覚する現実世界をコンピュータで拡張する技術である。現状では、現実世界をビデオカメラでキャプチャした実写映像と、コンピュータで作った3次元CGモデルを重ね合わせて表示する方法が一般的である。デスクトップPC、ノートPC、タブレットスマホなどでARを眺める。
 筆者らは、WSN(Wireless Sensor Network: 無線センサネットワーク)によって室内温熱環境をモニタリングし、取得したデータをARによってリアルタイムに可視化するシステムを開発した(図8・9)。



図8・9 環境モニタリングAR:システム構成(上)と表示(下)

 WSNは、NEOMOTE(住友精密工業㈱)を用いた。センサノード、基地局ノード、サーバPCで構成され、センサノードは1分ごとに計測を行う。計測データはサーバPCに逐次蓄えられる。ARシステムが動くクライアントPCでは、サーバPCより送信されたデータからセンサ名、ノードID、計測値のデータを取り出す。また、センサの位置データをあらかじめ設定して、人工マーカを用いて実写映像と3DCGモデルの位置合わせを正確に行う。これによって、実写映像と重ね合わせながら、計測した温度・湿度データの3DCGモデルをセンサの位置にAR表示させること、すなわち、温熱環境を可視化させることが可能となる。3DCGモデルは温度・湿度データの値に応じて、高温は赤色、低温は青色のように変化させた。初期状態では、各3DCGモデルの色がバラバラで部屋の温度ムラが大きいことがわかった。そこで、エアコンの風向きを変えると、3DCGモデルの色が変化し、ムラが小さくなったことが確認できた。
 開発したシステムを使えば、ユーザは現在の温度や湿度の分布状況を直感的に把握することができ、その上で、温度ムラの対策を講ずることが可能となるであろう。

ルートと参考文献
阪大病院前駅@@<レンタサイクル>@@【光の教会】@@【下穂積の町並み】@@【宇野辺の町並み】@@【大正川】@@【元茨木川緑地】@@【立命館大学いばらきキャンパス】@@【茨木神社】@@【茨木小学校】@@【田中のまるまた】@@【阿武山】@@【安威の町並み】@@【将軍塚古墳】@@【春日神社】@@【中尾酒造】@@阪大病院前駅(33km)

[1] 細川雅弘, 矢吹信喜, 福田知弘: ARを用いた室内気温等状況の可視化による環境改善手法に関する研究, 平成26年度土木学会関西支部年次学術講演会論文集,VII- 26, 2014-6.

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」2015年6月号)

キーワード:まちなみ,茨木,元茨木川緑地,立命館大学,茨木神社,阿武山,AR,センシング,環境モニタリング

都市とITとが出合うところ NAVERまとめ

都市とITとが出合うところ(1〜14回)