「都市とITとが出合うところ」第20回は5月に韓国・大邱で開催されたCAADRIA2015をご紹介します。
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CAADRIA
"Publish or Perish"(発表か、死か)というフレーズを出すまでもなく、研究者は成果を学術論文として発表し続ける宿命にある。論文を発表し研究者と議論する場の一つに、国際会議がある。大観光・大交流の時代といわれる現代、ビジネスイベントの観点からも、MICE(Meeting 会議・研修, Incentive 招待旅行, Conference 国際会議, Exhibition 展示会)という言葉が市民権を得てきた。
風薫る2015年5月、デジタル建築・都市設計技術に関する国際会議「CAADRIA2015(The 20th International Conference on Computer Aided Architectural Design Research In Asia)」が韓国・大邱にある慶北大学校(Kyungpook National University)で開催された(図1)。今回は学会の大まかな流れについてご紹介しよう。
図1 慶北大学校
CAADRIA(Computer Aided Architectural Design Research In Asia)は、デジタル時代の建築・都市や建築・都市設計に関する研究と応用に関する学会である。アジア各国の大学がホストとなり、世界中からの参加者を迎えて情報交換する場を作ろうと、大阪大学の笹田剛史先生、香港大学のThomas Kvan先生、シドニー大学のJohn Gero先生らが呼びかけて1996 年に誕生した。早いもので、今回は20回目の記念大会を迎えた。
過去20年間に主催したホスト大学を以下に示そう。実は、シンガポールを除いて、同じ大学では開催していない。これは、CAADRIAの輪をできるだけ拡げていこうとする当初からのコンセプトに依るものである。
- 1996年 香港大学・香港
- 1997年 國立交通大學・新竹(台湾)
- 1998年 大阪大学(日本)
- 1999年 同済大学・上海(中国)
- 2000年 国立シンガポール大学(シンガポール)
- 2001年 シドニー大学(オーストラリア)
- 2002年 マルチメディア大学・クアラルンプール(マレーシア)
- 2003年 ランシット大学・バンコク(タイ)
- 2004年 延世大学校・ソウル(韓国)
- 2005年 TVB School of Habitat Studies・ニューデリー(インド)
- 2006年 熊本大学(日本)
- 2007年 東南大学と南京大学・南京(中国)
- 2008年 チェンマイ大学(タイ)
- 2009年 國立雲林科技大學・雲林(台湾)
- 2010年 香港中文大学・香港
- 2011年 ニューカッスル大学(オーストラリア)
- 2012年 ヒンドゥスタン科学技術大学・チェンナイ(インド)
- 2013年 国立シンガポール大学(シンガポール)
- 2014年 京都工芸繊維大学(日本)
- 2015年 慶北大学校・大邱(韓国)
CAADRIA2015で募集された論文
CAADRIA2015のテーマは、「Emerging Experiences in the Past, Present and Future of Digital Architecture」であり、以下のサブテーマに関する論文が募集された。
- Collaborative and Collective Design(協調設計、共同設計)
- Human-Computer Interaction(人間とコンピュータの対話)
- Generative, Algorithmic and Evolutionary Design(生成的、アルゴリズム的、進化的設計)
- Virtual/Augmented Reality and Interactive Environments(人工現実感、拡張現実感、相互作用的環境)
- Simulation and Visualization(シミュレーションと可視化)
- Practice-Based and Interdisciplinary Computational Design Research(実務ベース、学際的なコンピュータ設計研究)
- Building Information Modeling(BIM)
- Computational Design Research and Education(コンピュータ設計研究と教育)
- Design Cognition(設計の認識)
- Computational Design Analysis(コンピュータ設計解析)
- Digital Fabrication and Construction(デジタル製作と建設)
- Architectural Materials and 3D Printing(建築材料と3Dプリンティング)
- Virtual Architecture and City Modeling(仮想建築と都市モデリング)
- Theory, Philosophy and Methodology of Computational Design Research(コンピュータ設計研究の理論、哲学、方法論)
CAADRIA2015の開催は2015年5月中旬であったが、その準備のため、前年7月頃より論文募集(Call for Papers)が始まり、論文著者は9月上旬までに梗概論文(Abstract)を投稿する(Abstract Submission)。そして、論文査読委員会(Paper Selection Committee)のメンバーが投稿されたAbstractを査読して、次の段階であるフルペーパー(Full Paper)の投稿に向けて、提出されたAbstractを受理する(Accept)か却下する(Reject)かを判定の上、著者に結果を通知する(Notification of Abstract Acceptance)。
次に、Abstractが受理された著者は、12月中旬までにFull Paperを投稿する(Full Paper Submission)。それを論文査読委員会が再び査読して、論文集掲載に向けて受理するか却下するかを判定の上、著者に結果を通知する(Notification of Full Paper Acceptance)。
論文が受理された著者は、査読結果を基に修正を施し、最終原稿(Camera-ready Copy)を送付する。このようなフローで受理された論文は論文集(Proceedings)に掲
載され、論文発表に至る。
CAADRIA2015での論文投稿・査読の各段階の数字は以下の通りである。最終的に計82編の論文発表があった。これにポスター発表25編が加わった。
- Abstract Submission: 246
- Abstract Acceptance: 185
- Full Paper Submission: 107
- Full Paper Acceptance: 92
- Publication: 82
論文は学会論文集(Proceedings)に掲載される他、Scopus、EI Compendex、CuminCADなどの学術論文データベースにIndexされる。近年ではGoogle Scholar、Research Gate、Academia.eduなどのサイトでも論文にアクセスできるようになってきた。
CAADRIA2015の行事
CAADRIA2015のメイン行事、カンファレンスは3日間行われ、研究発表の他、オープニングセレモニー(ホスト大学からの挨拶、参加者の紹介など)、3名の基調講演、集合写真撮影会(図2)、ランチ、コーヒーブレイク、レセプション(歓迎会)、カンファレンスディナー(図3)、クロージングセレモニー(年次総会と表彰式)などが行われる。
図2 CAADRIA2015集合写真
図3 カンファレンスディナー
カンファレンスディナーは、ホスト大学の腕の見せ所。そのため、ホストはCAADRIAに参加しなければ体験できないようなイベントを入念に準備する。今年は、大邱郷校(Daegu Hyanggyo)にて。昔の儒教の学校の庭、それも都会のオープンスペースで学会の交流会を行うとは!CAADRIAのカンファレンスディナーは伝統的にアットホームな雰囲気で、初めて参加したメンバーはカンファレンスディナーを通じて他の参加者と打ち解けていく。そして翌年も参加しようと思えてくれれば学会としては嬉しい限りである。
カンファレンスの前日は、ワークショップが開催され、CAD/BIM、VR/AR、プログラミング、電子工作、3Dプリンターなどのデジタル技術を駆使して建築や都市の作品を創りながら、それらの技術の習得に励んだ(図4)。
図4 ワークショップ
カンファレンスが終わると、ポストカンファレンスツアーとして、学会終了後開催地を巡るエクスカーションが用意されていることが多い。これは単なる物見遊山ではなく、建築・都市とICTを専門とするメンバー達がワクワクするような訪問先が企画されている。カンファレンス期間中は、皆発表の準備や学会の運営に忙しく、ゆっくりと話す機会が持てないものだが、このポストカンファレンスツアーに参加することで、より深く交流が行える。そこで友達になって、それぞれの国に帰ってからもメールやSNS(Social Networking Service)で写真やビデオを交換したりと交流は続く。
計82編の研究発表はテーマ毎のセッションに分かれて行われ、プレゼン後、発表内容に対するディスカッションが行われる(図5)。ディスカッションは日本国内で行われる会議よりもかなり活発で、セッションの間のみならず、セッション終了後のコーヒーブレイク、カンファレンスディナー、あるいはポストカンファレンスツアーの期間中にまで及ぶ。今回は小生のセッションの後で部屋に居残って30分以上も議論した。ホワイトボードまで使い、まるで放課後の補習のようであった(図6)。
図5 筆者の論文発表
図6 セッション終了後のディスカッション
参考文献
[1] CAADRIA:
CAADRIA, the Association for Computer-Aided Architectural Design Research in Asia
(参照2015年10月6日)
都市とITとが出合うところ(1-19回)
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