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都市とITとが出合うところ 第19回 ギリシャ×VRサマーワークショップ(2)

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」。第19回は前回に引き続き、ギリシャポルトカラスへ(テッサロニキから移動)。ITはそこで開催されたサマーワークショップの様子をご紹介します。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1510machinami_FukudaFinal.pdf

ポルトカラスへ
 前稿に引き続き、ギリシャで行われたVRサマーワークショップの様子を取り上げたい。本稿は、サマーワークショップの後半戦として、World16+αのメンバーがみんなで現地の3Dモデルを作り上げた、プロジェクトセッションの様子について、会場となったポルトカラスと共にご紹介しよう。

 テッサロニキで3日間過ごした後、サマーワークショップの一行は、ポルトカラス(Porto Carras)へ向かった。ポルトカラスは、テッサロキから南東へ約120km。エーゲ海に3本の指を突き出したような恰好をしているハルキディキ半島の真ん中の指、シソニア半島にある。当初は、世界的な高級ワインメーカー「ポルトカラス社」のブドウ園とワイナリーが作られたが、その後、ホテル、ゴルフ場、テニスコート、ビーチなどがある大型リゾートとなった(図1)。


図1 ポルトカラス

 テッサロニキからポルトカラスへの移動手段として、多くのメンバーは貸切りバスで移動したのだが、筆者ら数名はレンタカーで向かった。道中、プロジェクトセッションのネタ探しやデータ収集をするためである。ただ、いざレンタカーに乗ってみると米国と日本からのメンバーだけであり不案内な土地である。レンタカー屋のスタッフにカーナビは付いてないかと尋ねたものの、「そんなものナイネ〜」と笑われた。WiFiも入ったり入らなかったりなので、大雑把な地図を頼りにオリーブ畑が広がる道路を走って現地へ向かう。

 1時間半のドライブの末、現地に辿り着くと、貸切りバス一行は、ポルトカラス近くのネオスマルマラスという漁村の「Ta Kymata」というレストランで昼食中。ここでは、新鮮な魚を料理してくれ、お店の前のビーチ席で食することができる。ビーチ席の目と鼻の先は汀であり、魚が泳いでいる(図2)。店のオーナーに、どんな魚があるか見せてほしいとお願いしたら、夫婦お揃いで自慢の魚を披露してくれた(図3, 4)。


図2 ネオスマルマラス


図3 魚を紹介してくるTa Kymataオーナー


図4 Ta Kymataオーナーと

プロジェクトセッション DAY1
 ワークショップのテーマは「Data JAM 24hr」。会場となったポルトカラスには、山や海や緑などの自然物、ホテルやプールやパラソルなどの人工物が沢山つまっている。それらを対象として、1日半という限られた時間で、様々なデジタル技術を駆使しながら、実際の3Dモデルを作成してみようというもの。

 今回、目玉となるアプローチは、ドローンで現地を空中から撮影して、写真測量技術により、撮影した写真からポルトカラスの3Dモデルを作成しようというもの(Structure from Motion)。そのため、米国の研究者2人が現地までドローンを連れてきた。アトランタからやってきたドローンは地図情報を使って自動的に一定の経路を飛行させて、空中写真を取得できるもの。米国では自動飛行を成功させてきたが、ギリシャでは初の試み(図5)。セットアップが終わり、無事に離陸したかと思われたが、1分も経たないうちに大樹の陰に隠れてしまい、見失ってしまった。その場にいたメンバーで捜索隊を結成し、約3時間探し続けたが、結局見つからず。このようにドローンを見失ってしまった場合、ドローン本体の側からユーザに通信して、居場所を確認することができるのだが、残念ながらギリシャでは通信ができない状況であった。


図5 ドローンセットアップ

 アリゾナからやってきた、もう一機のドローンは、自動運転ではなく、ラジコンのコントローラを使って、マニュアルでドローンを操作するもの。ワークショップの成果発表期限まで、時間は無くなっていく。そのため、アトランタのドローンは諦めて、アリゾナのドローンを使って、ホテル周辺の動画撮影を実施することになった。

 アトランタのドローンは未還のまま、DAY1の夕日はエーゲ海に沈んでいった(図6)。


図6 夕日

プロジェクトセッション DAY2
 夜7時の成果発表会に向けて、メンバーは朝から作業に取り組んでいく(図7)。ワークショップ会場となったホテルの会議室を出ると、青い空、青い海、人々の歓声と、いくつもの誘惑が手を広げてお待ちかね(図8, 9, 10)。仕事をするには最高の環境である(笑)。では、成果発表会の内容を紹介しよう。


図7 プロジェクトセッション


図8 ランチ


図9 誘惑


図10 誘惑

 フォーラムエイト精鋭チームは、VRソフト UC-win/Roadでポルトカラスの3Dモデルを作成。画面を2分割して、ひとつの画面にはポルトカラスの地図を表示させて、もうひとつの画面にはドライバーの視点(一人称視点)からのVR画面を表示させた。地図の映像は、テーブルに置かれたポルトカラスの紙の模型にピッタリとマッチするように、プロジェクターで投影して、プロジェクションマッピングした。プレゼンのシナリオとして、ギリシャは経済危機ということもあり、ATMでお金を引き出そうと車で向かっているが、通常の道路を通っていくと時間がかかってしまいATMが閉まってしまう。そこで、新たな道路と橋梁をVRで作って、最短ルートでATMに向かおうというもの。ユーザが、VR画面で車を運転していると、地図上には車の現在位置がリアルタイムに表示されるというカーナビ機能も実装していた(図11)。


図11 成果発表会

  • 最先端表現技術利用推進協会(表技協。町田聡氏、アリゾナ州立大学 小林佳弘氏)のメンバーは、ドローンで道路空間の実写映像を撮影する試み。当初のアイデアでは、ドローンを道路線形に沿って自動走行させて撮影する予定であったが、現状のドローンはそこまで正確に飛行できない。よって、今回は表技協のメンバーがドローンを手に持って車に乗り、撮影してみた。ドローンのカメラには、スタビライザーが付いているため、車が走行中に振動しても安定して撮影できた。今後の見通しとして、今回撮影した映像を背景映像とした上で、車自体に投影する映像をCGで作成して車にプロジェクションマッピングすれば、より臨場感の高い映像が作成できるということである。
  • バージニア工科大学 ドン・ソーチョイ氏は、ホテルとその周辺の3次元モデルを作成するために、複数の地点でレーザー測量を実施した。得られた点群データはソフトで合成し、その点群データを、UC-win/RoadでVR表示させた。そして、先に述べた、ポルトカラスの模型にあるホテルの建築模型にもプロジェクションマッピングした。生成した点群データは800万点にも及ぶ。
  • 筆者は、ビデオシースルー型ARシステムを用いて、プロジェクションマッピングされたホテルの敷地(実写映像)に、恐竜の3Dモデル(仮想映像)を表示させた。HMDを被るとポルトカラスの海に恐竜が現れるのである。実写映像と仮想映像の位置合わせ手法はビジョンベースとしたが、伝統的な幾何模様のマーカを用いるのではなく、いわゆるマーカーレスの方法で実現した。任意の画像や風景をマーカとして位置合わせすることができる。今回は、フォーラムエイト社のロゴを使用した。Oculus Rift DK2に、Ovrvision 1を装着したARシステムは広視野角の表示を実現しており、体験者に好評であった。
  • ドローンチーム(ジョージア工科大学 マシュー・スワ−ツ氏、アリゾナ州立大学 小林佳弘氏、ニュージャージー工科大学 楢原太郎氏)は、上述したように、アリゾナのドローンをマニュアル操作して、ホテル周辺を動画撮影した。前日に昼食をとった、ネオスマルマラスの辺りまで、すなわち2kmほど離れた地点までドローンは飛んでいき、動画撮影していた。4K動画はさすがに綺麗。その後、写真測量技術により、撮影した写真からホテル周辺の3次元モデルの作成に成功した(図12)。


図12 写真からの3Dモデル化(SfM)


図13 テッサロニキ空港近くのレストランで

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」2015年10月号)

キーワード:まちなみ,ギリシャポルトカラス,ワークショップ,プロジェクト,VR, 3Dモデル, SfM (Structure from Motion)

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都市とITとが出合うところ(1〜18回)