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福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第37回 水木しげるロード(2)

VR制作

リニューアル計画中の水木しげるロード。2016年度は、工事着工に向けて詳細設計を詰めていくと共に、水木しげるロードの将来像をより多くの人々に周知し、沿道地権者との合意形成を図る必要があった。そのため、水木しげるロードの完成イメージをVR(Virtual Reality: 人工現実)で制作することになった。

事業説明会で、説明を聞いた沿道住民(商店主)からよくある質問は「リニューアル事業によって、自分の家(店)の前はどう変わるのか?何か具合の悪い問題は発生しないのか?」ということである。設計している3次元の都市空間の状況を口頭で伝えるのは難しい。しかし、会議の場で、沿道住民からの要求に応えられないと、その場の雰囲気が悪くなってしまい、ひいては説明者(事業者)の信頼が損なわれかねない。また、全ての沿道の家や店からの完成イメージをパースで描くのは、枚数が大量となり、現実的ではないであろう。

これらの課題を解決するために、VR技術を活用した立体映像を用いれば、完成イメージをできるだけ具体的に提示し、あらゆる視点場からの完成イメージを即座に提示することができる。会議の席上で要求のあった家や店からの将来像を即座に描くことが可能であり、質問者の要求に応じることが可能である。よって、利害関係者の間に対話が生まれ、合意形成につながりやすい。水木しげるロード・リニューアルプロジェクトでは、道路の一方通行化案について沿道住民の合意を得ると共に、水木しげるロードの更なる発展に向けて考えるための土台を作る必要があった。そのため、筆者は、このVRを作る段階から、水木しげるロード・リニューアルプロジェクトに参加し、VR制作に係る統括、設計、また、コミュニケーションを円滑に図るための企画等を境港市との共同研究により推進した。

都市や建築の完成イメージをVR制作する業務は実用化が進んでおり、大学が参画する必要はないことも増えた。しかしながら、水木しげるロード・リニューアルプロジェクトをVR化するためには、課題を抱えていた。それは、水木しげるロードのシンボルである171体のブロンズ像(現存:153体、新規:18体)を如何に3次元モデル化するか、であった。通常は、CAD/BIM(Computer Aided Design/Building Information Modeling)やCG(Computer Graphics)のソフトウェアで3次元モデリングするが、ブロンズ像の図面は存在しないため、現状のブロンズ像を採寸し、その複雑な形状を入力する必要があった。この作業は、手慣れたVR制作者であっても多大な労力と手間を必要とし、コストも膨大となってしまう。そこで、複数枚の画像から3次元形状を復元するSfM(Structure from Motion)技術を応用して、それぞれの妖怪ブロンズ像をあらゆる角度から撮影した写真群から3次元モデルを自動的に作成する方法の可能性を探った。153体のブロンズ像の写真撮影は市役所職員にお願いすることで、作業のスピードアップを図った。

完成したVRは、実施設計内容を元にして以下の要素で構成され、昼景、夕景、夜景の表現が可能である(図1~8)。

  • 道路本体(路面、マーキングなど)
  • 道路植栽(並木、植栽枡など)
  • 道路付属物(信号機、ブロンズ像、照明柱など)
  • 道路占有物(電柱、アーケード、サインなど)
  • 沿道の建築物
  • 広告看板
  • 空地(公園など)
  • 遠景の自然要素(地形、海など)
  • 人工要素(周辺建築物など)
  • 人間活動(歩行者、自転車、自動車など)

これらを、VR開発ソフトUC-win/Road(Ver.11)上で構築した。交通流の表現は、2015年11月の社会実験で得られたデータを使用し、現実感を高めている。

VRで描かれた水木しげるロードの完成イメージは、2016年9月に開催された地域活性化イベント「怪フォーラム2016 in とっとり」で、首長を含む大勢の事業関係者、市民らに披露された。水木しげるロードの将来像を客観的に見せるだけでなく、一反木綿に乗った鬼太郎水木しげるロードを案内するシナリオとし、アナウンサーにナレーションをしてもらうことで臨場感を高めた。VRは、2016年秋には、地元説明会、地元小学校への出前授業等で頻繁に使われている。また、「第15回 3D・VRシミュレーションコンテスト オン・クラウド」に応募して、グランプリを受賞した。そして、2017年3月に開催された「水木しげる生誕祭」では、最新の実施設計内容にVRを更新すると共に、HMDOculus Rift)で体験するシステムへと発展させた。

水木しげるロードリニューアル工事は、2017年に着工し、2018年7月の完成を目標としている。工事期間中も水木しげるロードを楽しんでいただけるよう、工事区間以外のブロンズ像は通常通りとする他、JR境港駅前公園にて工事期間限定の特別展示を実施する予定である。

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図1 上空:境港市街と島根半島を俯瞰

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図2 JR境港駅前:水木しげる先生執筆中像

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図3 駅前広場:目玉おやじ街灯

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図4 ねずみ男

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図5 大正川交差点:鬼太郎

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図6 本町アーケード入り口

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図7 大正川交差点:夕景

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図8 影絵

©水木プロ

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1704machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年4月号