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都市とITとが出合うところ 第25回 建築・都市×マッチングビジネス

「都市とITとが出合うところ」第25回。今月は、建築・都市に関するマッチングビジネスについてご紹介します。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1604machinami_FukudaFinal.pdf

 

電子商取引(EC)の発展と拡大

商取引はいうまでもなく、モノやサービスの売買行為を指すが、インターネットを中心とするコンピュータネットワークを使った電子商取引(EC)市場が、益々発展・拡大している。平成26年の日本国内のBtoC-EC(企業対消費者間電子商取引)市場規模は12.8兆円(前年比14.6%増)、BtoB-EC(企業間電子商取引)市場規模は280兆円(広義の値。VAN・専用回線、TCP/IP プロトコルを利用していない従来型の電子データ交換が含まれる。前年比4.0%増)に拡大している [1]

ECのメリットは、買い手側から見ると、自宅や就業場所に居ながら、インターネットを利用して、いつでも買い物ができるという手軽さである。物理的に店舗を何軒も歩き回るのではなく、クリックするだけで目当てのモノが見つけやすい。また、同じ商品の価格を複数の店舗で比較したり、国内だけでなく海外から少ない手間で取り寄せたり、過去に購入した経験者の話を聞くこともできる。一方、売り手側から見たメリットとして、伝統的な商取引よりも少ない人件費、運営経費、広告費で賄うことができる。また、データが電子化されるため、経理も省力化できる。さらに、ECという仕組みがあってこそ成立するビジネスも生まれてきた。

さらに、スマートフォンの普及が追い風となり、CtoC-EC(消費者間電子商取引)の拡大が見られる。当初は、ネットオークションが主流であったが、フリーマーケットEC、ハンドメイドEC(手作り・クラフト品の通販)、習い事マッチングサイト(資格、音楽、英会話、スポーツなどのプライベートレッスン)、シェアサービス(人、モノ、スペースなどの貸し借り)など、多様化が進む。一般的なビジネスモデルは、個人間で取引するためのプラットフォームを運営者が用意して、何らかの取引が成立した時に一定の手数料を徴収する仕組みである。利用者はクレジットカードやビットコインで決済する。

CtoCの運営では、売り手側の品質確保や買い手側とのトラブル対応が課題となるが、商取引成立後に売り手・買い手が相互評価をしたり、売り手が研修会・交流会に参加するプラットフォームもある。CtoCから始まったビジネスが、BtoC、BtoB、BtoG(企業対行政間電子商取引)に発展することもある。

本稿では、都市・建築分野に関係する最近のマッチング・ビジネスを紹介したい。

 

建築設計コンペ:アークバザール

アークバザール(Arcbazar)は、建築の市場という意味で、インターネットを通じて、施主が世界中を対象に建築設計コンペを開催できるビジネスサイトである。マサチューセッツ工科大学(MIT)発のベンチャー企業「Arcbazar社」が開発した。本年3月1日、Arcbazar社と業務提携契約を締結した㈱フォーラムエイトにより、日本語サイトが開設された。これにより、言語(英語)の壁を取り払い、住宅の新築やリフォーム、公共施設、インテリア、ランドスケープなどの設計コンペを、世界中の建築設計者を対象に、誰でも開催できるようになった。提案したデザインが入賞した設計者は、報酬額が得られる。既に、世界中で行われてきたArcbazarコンペは5000を数える。

例えば、あなた(施主)が自宅を建てる時に、普通ならば、近くの建築家やハウスメーカー工務店に依頼して作ってもらうわけだが、このArcbazarに依頼すると、世界中から登録されている15,000人以上の建築家・デザイナー相手にコンペを開催して、デザインを募集してくれる。Arcbazarを通じて、施主は新たなデザイン、アイデア、コストダウンを得ることができるかもしれないし、デザイナーは新たな活躍の場を見出すことができるかもしれない。施主がデザインを審査することに自信がなければ友人や専門家を審査員として招くこともできる。すなわち、Arcbazarは施主と設計者とがコンペを通じて出会えるマッチング・サービスであり、閉鎖的で透明性がないと批判されがちな設計コンペの民主化を目指しているといえよう。

日本版Arcbazarはこれまでのデザインコンペ機能に加えて、自主簡易アセスメントなどの新たなメニューを加え、2次元の図面やパースだけでなく3次元のVR(Virtual Reality: 人工現実感)も扱えるように準備中である [2]。早速、いくつかの国内コンペが世界を相手に始められており、世界中のデザイナーが集まっているようだ。

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図1 日本版Arcbazar

 

ライドシェア:ウーバー

ウーバー(Uber)は、インターネットを通じて、一般的なタクシーの配車、そして、一般ドライバーが自分の自家用車を使って他人を運ぶライドシェア(車の相乗り)を提供するビジネスサイトである。Uberのプラットフォームは、米国から始まり、創業わずか5年で世界70か国375都市に広がり、都市交通のあり方を変えようとしている。

ライドシェアサービスは日本では白タク扱いとなり一般的に認められていないものの、2015年10月20日、安倍首相は国家戦略特区諮問会議で「過疎地などで観光客の交通手段として活用を拡大する」との方針を表明した。

この流れを受けて、富山県南砺市は、新たな地域公共交通推進を目的として、本年2月26日、Uber Japan㈱と協定を結んだ [3]南砺市は高齢化や過疎化が進んでおり、市営バスでの対応を試みているものの、公共交通空白地帯の発生や、利便性・採算性の課題を抱えている。その解決に向けて、公共交通機関に限らない住民の移動手段を確保するため、市民ドライバーの自家用車を利用した無償シェアリング交通、Uber Japan社が提供するドライバーと利用者をマッチングするタクシー配車などの実証実験に向けた取り組みを始めるようである。

 

駐車場シェア:オーガニック・パーキング

Uberが車をシェアするサービスである一方で、オーガニック・パーキング(Organic Parking)は、駐車場をシェアするビジネスサービスである [4]

Organic Parkingは、ドライバーが都市の駐車スペースを探す時間を減らすことで、交通混雑や渋滞、そしてドライバー自身のストレスを緩和することを目指して、スマホを用いて個人間で駐車スペースの利用時間取引が可能なサイトである。駐車時間が短縮できれば、エネルギー節約やCO2削減のような環境負荷低減にも貢献できる。

BtoBへの展開として、トラックやバスの輸送最適化を目指して、運行途上の休憩所や大型駐車場に関する情報提供、予約サービスなどへ展開していくそうだ。

 

スペースシェア:エアビアンドビー

エアビアンドビー(Airbnb)は、宿泊施設や自宅の貸し出し(民泊)を行うビジネスサイトである。スペースを借りたいゲストと、借りたい物件を持つホストをつなぐ。

宿泊料を受けて人を宿泊させる営業を行う場合、旅館業法の適用を受ける。この法律で営業可能な種別は、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業、下宿営業であり、営業種別ごとに許可を受けるための要件が課される。一方、民泊の性格、および対象となる個人住宅の広さや間取りは、いずれの営業許可も得られないケースが多い。

近年ではインバウンド需要の増加などで国内の宿泊施設は予約がとりにくい状況である。そこで、東京都大田区では2016年1月末より民泊条例を施行し、国家戦略特区を使った全国初の事業として、部屋の提供を希望する事業者の受付を始めた

大阪府下の市町村でも本年4月より民泊条例の施行が始まる予定である。一定の要件を満たせば、旅館業法の適用は除外される。

実は私自身はAirbnbをまだ使ったことがないのだが、国内外の友人に尋ねてみると、結構、使っているようだ。事実、昨夏にサンパウロを訪問した際、建築家・オスカー・ニーマイヤーが設計したコパンビルの一室がビジネスホテル並みの値段で借りられることを知り、羨ましく思った次第である。

 

おわりに

この手のマッチング・サービスは実際に使ってみないと、どんな仕組みなのか、良さは何なのか、何に気を付けるべきか、中々わからない。少しずつでも試して頂き、体感して頂ければ幸いである。

 

[1] 経済産業省:平成 26 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書,http://www.meti.go.jp/policy/it_ policy/statistics/outlook/h26report.pdf,2015年5月

[2] Arcbazar: http://jp.arcbazar.com/(参照 2016年3月3日)

[3] 南砺市Uber Japan株式会社と新たな地域公共交通推進を目的に協定を締結,http://www.city.nanto. toyama.jp/cms-ypher/www/info/detail.jsp?id=15824,2016年2月27日

[4] Organic Parking: https://www.organicparking.com/(参照 2016年3月3日)

[5] 大田区: 大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区民泊),http://www.city.ota.tokyo. jp/kuseijoho/kokkasenryakutokku/ota_tokkuminpaku.html,2016年2月26日

 大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年4月号)