↑VR安土城(モバイル版)社会実験風景(2012年10月30日)。
10月30日に実施した、VR安土城(モバイル版)社会実験。この時参加者に体験して頂いた、当時の安土城の風景が描かれたCGをiPadを使って現地で眺めるという行為は、これまでできそうでできなかった何かが実現できたように感じました。それは、
「現地で、過去や将来の風景を重ね合わせて眺める。それも、身近で手軽なモバイル端末で。」
ということかもしれません。
Before:
デザインを行う際には、発注者からのニーズの聞き取りに加えて、現地調査(フィールド・サーベイ、まち歩き)を行いますが、現地調査では、写真やビデオを撮影して、スケッチして、新たな発見や思いつくアイデアを手帳や地図にメモして情報をできるだけ収集します。
調査終了後、事務所に戻ってから、その内容を忘れないうちに、事務所のPCで整理をします(デジタル化も)。近年では、現地の会議室やカフェなどでノートPCを用いてある程度の作業が可能になりましたし、写真やビデオもデジタル化作業はかなり楽になりました。
現地の資料が咀嚼できると、デザインを考えプレゼンテーション資料を作成する際には事務所や会議室という人工環境で、設計内容をCADやCGで描いて、静止画・アニメーション・VRのような媒体を使って、皆で共有して検討して、フィードバック行為を繰り返していきます。そこには現地と事務所・会議室とのギャップが確かに存在しています。
建設段階に入ると、事務所・会議室と現地との行き来となります。建設現場の仮囲いには将来像のパースが貼られたりしますが、どこにどんな大きさで建つのか、付近を歩く人々が風景を重ね合わせて完成形を確認する迄には至っていません。
現地と事務所・会議室とのギャップを埋めようとする試みは、東京の都市開発プロジェクトを見学させて頂いた時に感じたことがあります。まず、事業者が会議室でパワーポイントやCGアニメーションでプレゼンテーション。ここまでは当たり前の行為なのですが、アニメーションが終わると、突然カーテンがオープンになり、窓の向こうには建設中の現地が現れるという演出。つい先ほど見たCGの残像が現地と重なりあい、どこに何が出来上がるのか具体的なイメージが掴めるように考えられています。
パノラマVRは、学生だった17年ほど前に、淡路島の魚彩館公園(現・海の展望広場)デザインプロジェクトで始めて作りました。この時、フルCGだけでなく、現状からの変化を確認するためフォトモンタージュによるパノラマVRを作成しています。パノラマVRはGoogle ストリートビューでも使用されているように、擬似3Dではありますが、簡単な操作で360°を眺めることのできるために空間把握が容易で、設計コミュニケーションツールとしての可能性を感じました。ただ、当時はそれを現地で確認しようとは思いつきませんでした。机の上に置いて使うデスクトップPCやラップトップPCだったことも一因かもしれませんね。今回は普段、メールやインターネットを見ている、一般的なモバイル端末で写真を「パチッ」と撮るように使うだけで、現存しない風景が浮かびあがるのです。
↑1995年当時の研究室風景(大阪大学笹田研究室)。Apple MacintoshやHP社やSGI社のワークステーションが並ぶ。筆者は一番奥の左側^^
↑フルCGで作成したパノラマVRカット(左, 1995年)と完成した海の展望広場(右)。
今回のVR安土城社会実験では、目の前の風景とiPad上のCGを比べながら、山の稜線など、現在と当時で変わらないものが一致した時には鳥肌がたちました。現地はやはりインスピレーションが湧いてきます。それもiPadのような一般の機材ですから、大多数の方が同時に体験することができます。
冒頭で「重ね合わせて眺める」と書きましたが、今回の実験では厳密には、画面上で重ね合わせているのではなく、iPadと現地の風景をずらしながら見比べていることになります。目の前の風景とCGとを「重ね合わせて眺める=重畳する」技術として、既にAR(拡張現実感)の試みが始まっており、筆者も研究テーマとしていますが、CGと実際の風景(ビデオ)との位置合わせ(幾何学的整合性)や色や陰影の一致(光学的整合性)が眺めを検討するためには実用上課題で、用途や対象が限定されているのが現状です。また、自分の身の回りの機器で手軽に体験するというところは、まだこれからの課題です。
最後に、
現地にいると様々な情報を五感で感じ取ることができます。地元の方や食にも出会うことができます。そしてやっぱり、屋外は気分爽快なんですよね!
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