ふくだぶろーぐ

福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第63回 テレプレゼンス(1)

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テレプレゼンスシステムの構成

遠隔会議の課題とテレプレゼンス

人と人とのコミュニケーション(会議)の方法について考えてみよう。

近年では、電子メールなどにより異なる場所・異なる時間の状態で行うコミュニケーションに加えて、テレビ会議やチャットなどにより異なる場所・同じ時間の状態での遠隔会議が使われるようになった(電話会議の発展形)。

一方、会議の主なメンバーが離れた場所にいる場合、時間やコストをかけてでも、直接出会う会議は、実施されている。テレビ会議での遠隔会議は、現状では、画面を通して会議をしているという感覚が残り、システムに気をつかうことも多く、直接会う会議ほど自然な感じでメンバーと接していない。

この課題を解決できそうな概念・技術として、テレプレゼンスが挙げられる1)。これは、遠隔地のメンバーとその場で対面しているかのような臨場感を提供する。

建築・都市検討時のニーズ

建築や都市を遠隔会議で検討する場合、会議メンバーの姿や音声を共有するだけでなく、建築物や都市空間や家具といった検討対象の3次元デジタルモデルを共有する必要がある。そのために、3次元デジタルモデルをメンバー同士で共有できるシステムの開発と実証が進められてきた。既に、インターネットを通じて、3次元デジタルモデルをVR(人工現実)空間でリアルタイムに共有したり、そのVR空間にスケッチを描ける機能は実用化されている。

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3次元建築・都市モデルを共有しながらのVR遠隔会議

この方法によりメンバー同士で共有する3次元デジタルモデルは、3次元CADやBIMで作成されたものであるが、全ての3次元デジタルモデルをコンピュータ上に定義しているため、メンバーが活動している現実世界とは切り離された仮想世界で構成されている。つまり、テレプレゼンスのように現実世界と何らかのつながりを持ちたい場合にはこの方法は適していない。

MRとリアルタイム点群

MR(複合現実)は、現実世界に目に見えないデジタル情報を違和感なく重ね合わせるAR(拡張現実)と、デジタル世界の中に現実世界を取り込むことにより臨場感を高めるAV(拡張仮想)を合わせた概念であり、現実世界とのつながりを保持できる。

3次元デジタルモデルを作成する方法として、現実世界の空間や物体から作る点群を利用することを考える。点群は、数多くの点の集合であり、3次元座標と各座標のRGB値(光の三原色:赤・緑・青)などが定義されている。点群からの3次元デジタルモデルを用いて、現実世界にある空間や物体を精巧に保存したり、そのモデルを3次元CADやBIMに取り込んで新たなリノベーション設計に利用できる。しかし、点群を作る際に、レーザー測量や写真の撮影、及び、それら取得したデータから3次元点群を生成するための処理に一定の時間を要してしまう。

一方、RGBカメラとデプスセンサ(RGB-Dカメラ。デプスセンサは、センサ位置からの距離(3次元情報)を取得できる)を用いた手法は、現実世界にある空間や物体を取得できる範囲は限られるものの、3次元点群をリアルタイムに取り込むことができる(この方法で生成した点群を、リアルタイム点群と呼ぶ)。

開発したテレプレゼンスシステム

そこで、テレプレゼンスの実現にむけて、リアルタイム点群を表示するMRシステムを実装してみた2)。市販されているハードウェア・ソフトウェアによりリアルタイム点群を表示可能なMRシステムを目指した。

方針として、マイクロソフト社のKinect for Windows v2(Kinect)によりリアルタイム点群を取得し、光学シースルーによりMRを体験できるマイクロソフト社のHoloLensに転送する手法とした。

装置

システムを構成する装置は以下の通りである。

  • Kinect:内臓のRGB-Dカメラを用いてリアルタイム点群を生成する。
  • PC(Windows10):Kinectで生成されたリアルタイム点群を取得し、処理を加える。ゲームエンジン上でKinect for Windows SDK 2.0を使用して開発した。
  • ルータ:PCとHoloLensとのWiFi通信に必要。
  • HoloLens:離れたB地点にいるユーザが装着することで、テレプレゼンス映像を眺めることができる。 

処理の流れ

Kinectを用いて、現実世界の空間や物体をスキャニングし、リアルタイム点群を1秒間に30フレーム生成する。生成された点群は、接続されたPCに随時転送される。
転送されるリアルタイム点群には、不要な点群(ノイズ)が多く含まれている。そこで、不要なノイズを削除する処理を加えた。そのため、HoloLensでは、ノイズを減らして表示でき、よりスムーズにレンダリング(描画)することができる。PCに転送された点群は、WiFi経由でHoloLensに随時転送される。

 

参考文献

  1. Buxton, W.: Telepresence: integrating shared task and person spaces. Proceedings of Graphics Interface'92, 123-129, 1992.
  2. Fukuda, T., Zhu, Y., Yabuki, N.: Point Cloud Stream on Spatial Mixed Reality: Toward Telepresence in Architectural Field, Proceedings of the 36th eCAADe Conference, Vol.2, 737-744, 2018.

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1907machinami_FukudaFinal.pdf

(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2019年7月号)

ハルビン工業大学(深圳)と大阪大学との国際デザインワークショップ(6/24-7/3)

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ハルビン工業大学(深圳)(HITSZ: Harbin Institute of Technology, Shenzhen)と大阪大学(OU: Osaka University)とで、国際デザインワークショップを開催することになりました。

日時:6月24日~7月3日

会場:大阪大学 吹田キャンパス テクノアライアンス棟1階交流サロン

ウェブサイト:

hitsz-ou-workshop.jimdosite.com

 

HITSZからは17名、OUから13名、総勢30名が参加します。埼玉県熊谷市を対象地として、中国・日本の合同チームからなる5つの国際学生チームが、地方都市の再生について考えていきます。

関連するテクニカルツアーとして、6/28はサスティナブル建築「NEXT21」、VR企業「㈱フォーラムエイト」、まち医者「(有)ハートビートプラン」アーバンコンサルタントを訪問します。

参加される学生の皆さまにおかれましては、都市計画・建築・デザイン・BIM・VRに関するスキルの習得のみならず、英語でのコミュニケーションを通じて国際性の涵養につながれば幸いです。

都市とITとが出合うところ 第62回 メディアファサード

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メディアファサード(香港・環球貿易廣場)

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メディアファサード香港島

メディアファサード

デジタルサイネージに続いて、メディアファサードについて考えてみよう。メディアは情報を伝達する媒体を、ファサードは建築物の正面(立面)部分を、それぞれ意味する。すなわちメディアファサードは、建物の立面(壁やガラス)にLEDなどの光源を設置して、デジタル技術により映像を動的に表示する照明演出といえる。

ビル単体のメディアファサード

建物の照明演出は、直接投光照明方式(対象となるファサードの外側から投光。ライトアップなど)、自発光照明方式(建物自身に点状・線状の発光体を設置。イルミネーションなど)、透過光照明方式(屋内照明を外観上も美しく見せる)などの方式により取り組まれてきたが 1)、光源(照明器具)は長らく単色であり、さらに、光源同士がネットワーク化された事例は少なかった。

LEDはフルカラーの表示が可能であり、光の強さや色を変化させることで動きを表現することができる。各LED光源はネットワーク化もできる。4月に香港を訪問した時のこと、香港で最も高い環球貿易廣場(484m)はファサード全体を使って、デジタル時計、月の満ち欠け、鳥の飛ぶ様子、雲の動きを白色の落ち着いた色合いで大らかに表現されていた。夜7時を迎えると、アナログ時計やハートの表示となり、時報を意識させた。余談であるが、ビル足元の香港西九龍駅からは、北京までの直通列車が昨年開通、2000kmを9時間で結ぶ。

香港島のビクトリアハーバー側はもう少し派手な演出。中国銀行タワー(367m)は象徴的な三角形を構成する各辺が白色でテンポよく移動する。また、香港上海銀行・香港本店ビルはファサード中央部のまとまったエリアがデジタルサイネージなどで表示されていた。

都市スケールのメディアファサード

ビル単体だけでなく、都市スケールでのメディアファサードも出現している。筆者が最近驚いたのは、中国・深センの取り組みである。中心部に位置する公共施設地区広場とそれを囲むビル群が、一体的にメディアファサード化されている。規模を地図で測ってみると、およそ1km×2kmという巨大さ。季節ごとにコンテンツを変えながら、毎日実施されているそうである。是非、Youtubeで実写映像をご覧頂きたい(下)。これは、メディアアーキテクチャ学会(Media Architecture Institute)で活動する知人に教えていただいた。

www.youtube.com

メディアアーキテクチャ学会

メディアアーキテクチャ学会(Media Architecture Institute)は、メディアファサードを研究対象のひとつとしている。2009年にヨーロッパで設立され、全世界に広がっている。当学会ではメディアファサードの他、モバイルアプリ、ソーシャルメディア、位置情報サービス(Location based services)、都市のスクリーン(Urban Screens)、応答環境(Responsive Environments)など、建築・都市の空間や活動に関するデジタル技術を扱っており、研究発表会のみならず、ビエンナーレが2年に一度開催されている。また、メディアアーキテクチャビエンナーレの賞に応募された作品を集めた書籍も出版されている 3)

メディアファサードがまちなみの景観に与える影響は小さくない。広告物は情報伝達媒体のひとつであり、立面全体に広告物がLED表示されたものは、メディアファサードともデジタルサイネージともいえそうである。これらをどう考えていくのか、質の髙いメディアファサードを如何に作っていくか、隣接するメディアファサード同士は折り合えるのか、気になるところである。

参考文献

1) 景観材料推進協議会: 景観照明 ー景観に配慮した照明の使い方ー,1997.

2) Media Facade Limited: Shenzhen media facade project https://www.youtube.com/watch?v=b1n-aFwkGqc(2019年5月8日参照)

3) Luke Hespanhol et al., Media Architecture Compendium: Digital Placemaking, Av Edition Gmbh, 2017.

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1906machinami_FukudaFinal.pdf

(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2019年6月号)

「水木しげるロード」が照明学会「2019年 照明デザイン賞 最優秀賞」を受賞

水木しげるロード鳥取県境港市)」が、(一社)照明学会の2019年照明デザイン賞最優秀賞を受賞しました。

●受賞者
 長町 志穂(株式会社 LEM空間工房)
 熊取谷 悠里(株式会社 LEM空間工房)

●作品関係者
 事業主:中村 勝治(境港市長)
 灘 英樹(境港市 建設部 次長 兼 水木しげるロードリニューアル推進課 課長)

●設計関係者
 土木設計:栗原 裕(有限会社 ユー・プラネット)
 システム設計:伊藤 貴史(ウシオライティング 株式会社)
 VR監修:福田 知弘(大阪大学大学院工学研究科 准教授)

 水木しげるロードのリニューアルプロジェクトは、公共道路空間の新たな魅力化と昼夜にわたる集客を期待するまちづくりとして、歩道拡幅整備と照明デザイン等により2018年夏に完成したものです。道路環境の改善とともに「日没後まで居たくなるまち」をめざして、照明効果により「妖怪の気配を感じられる光のナイトミュージアム」としてリニューアルすることを照明デザインとして提案し実現しました。

 約800mの歩道は、177体のブロンズ彫刻が再配置され「妖怪影絵」「音と光の演出」をはじめとする、異なる照明手法と効果を公共照明としてとりいれた「光をめぐるまち」となっています。すべての照明は、全域でトータルに細かくプログラム制御し、水木しげるロードに相応しいエンターテイメント性と深夜の省エネルギー、安全安心を同時に実現しています。

 境港市大阪大学は、設計段階において、水木しげるロードの全体像の検討と合意形成に向けてVR(人工現実)技術を応用した共同研究を (有) ユー・プラネットや (株) LEM空間工房の設計関係者と連携しながら実施しました。

 審査講評では「通常このような計画は、短期イベントでも道路照明や景観照明の規制や基準、あるいは様々な意見に阻まれることが多い。しかし、これら多くの課題を照明デザイナーと熱意ある行政担当者や住民が一致協力して解決し、常設の施設として成立させた本件は、照明デザインの歴史に足跡を残す意義のあるプロジェクトといえるだろう。」と評価されています。

 実現に向けては様々な大きな壁を乗り越える必要がありましたが、チームが知恵と技術と汗を結集して壁をひとつひとつ乗り越えていきました。5月の10連休で、43.6万人が訪問したそうです。皆さまも是非、ご訪問ください。

 

www.ieij.or.jp

www.eng.osaka-u.ac.jp

www.see.eng.osaka-u.ac.jp

建築ジャーナル5月号特集「建築+情報技術=?」に都市景観CGと温熱環境MR(複合現実)が紹介されました

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建築ジャーナル5月号の特集「建築+情報技術=?」で、筑波大学 渡辺俊 教授がご寄稿された「建築情報学がなぜ必要なのか ―これまでとこれから」の中で、1980代に制作された大阪大学笹田研究室(現 環境設計情報学領域)の都市景観CGアニメーション、また、研究室で近年開発している温熱環境MR(複合現実)のスクリーンショットが「実用段階に入りつつあるVR/MR」の事例として掲載されています。

ご笑覧頂ければ幸いです。

www.kj-web.or.jp

www.see.eng.osaka-u.ac.jp

 

【募集案内 5/10〆】建築・都市分野のXRワークショップ

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Society 5.0(超スマート社会)の到来を背景として、XR(VR/AR/MR(人工/拡張/複合現実)の総称)が多方面で活用されています。XRは、直感的でわかりやすく、インタラクティブな操作が可能であり、環境・建築・都市・土木分野においてもコミュニケーション、遠隔操作、デザイン検討のツールとして期待されています。例えば、AR/MRを使えば、建設予定地で実物大での事前検討が可能となります(その内容を静止画/動画キャプチャして、フォトモンタージュ、動画作成するなどの再利用性も可能です)。当方の研究チームでは、建築都市分野のXR研究を続けておりますが、ここ最近、市販に流通しているソフトウェア(開発キット)を組み合わせて、VRだけでなくARでも手軽さ・低価格を含めて、実用化が可能になってきたと認識しています。

そこで、 ARシステム構築のためのワークショップを計画しました。ワークショップを行う背景として、インターネットには多くの情報があるものの、新たなシステム構築をやりだす「とっかかり」と、システム構築のための「環境構築(各ソフトのバージョンの相性やデータの受け渡しを含む)」で二の足を踏んでしまうことが多いようです。また、ビデオチュートリアルも出ていますが、インターネット上のチュートリアルでは得られない「顔の見える関係」がより重要になってきましたので、一堂に会するワークショップが必要ではないか、と考えた次第です。

VR/AR経験者ではないが前向きに参加してみたい」「Mac持参がベストと書かれているものの自前PCはWindowsしかない。が、是非参加してみたい」「ARよりも前にVRをやってみたい」方もOKです。基本的な考え方として、参加者ご自身のPCで日頃のニーズに合わせてXRを構築して頂き、その成果を参加者で共有しつつ、日常の職場でご活用いただきたいと考えています。

 

日時と会場(趣旨に基づき、全てご参加頂ける方を優先します)
日時:2019年5月18日(土)10:00-11:00 インストール作業(必要な方のみ)

      同      11:00-18:00 ワークショップ

      同      18:30-20:30 懇親会

会場大阪大学 吹田キャンパス内

参加者の準備物
※以下、事前にOSアップグレード、ソフトのインストールの上、ご持参ください。当日、10時から会場でもインストール作業できますが、UnityやXcodeのインストール、MacOSのアップグレードは時間を要するのでご注意ください。

ハード

  • Mac:開発用PCとして必須。OS: High Sierra バージョン10.13.6以降(10.14など)。※ WindowsでもOK。但し、ARKitでの開発はできません。
  • iPad / iPhone:AR体験用端末として必須。ARKit対応のもの(iOS12以降(動作確認: iOS 12.1.4))。
  • Mac-iPad/iPhone接続用ケーブル
  • Mac-プロジェクターHDMI, D-Sub15ピン)接続用アダプタ(あれば。プレゼン用)

ソフト

  • Unity:開発用ゲームエンジン。必須。バージョン: 2017.4以降(2018系が望ましい(動作確認済みver. 2018.1.0f2を推奨)。インストールの際、iOS build supportにチェックを入れる。)
  • ARKit:必須。バージョン: 2.0
  • Xcode:必須。ver. 10.0以降。MacOSは上記指定の「High Sierra バージョン10.13.6」以降でないと、Xcode 10.0以降がインストールできない。
  • Apple ID(パスワードもお忘れなく)
  • 3Dモデル(建築・都市設計モデルなどをSketchUPなどで。なければ立方体で)

スケジュール

  • 10:00-11:00 インストール作業(必要な方のみ)
  • 11:00-11:20 開始、参加者自己紹介
  • 11:20-13:00 Unity+ARKit チュートリアル
  • 13:00-14:00 昼食
  • 14:00-17:30 作品制作
  • 17:30-18:00 最終プレゼンテーション
  • 18:30-20:30 懇親会

会費

  • 無料(懇親会は有料)

対象者

  • 前向きな実務者(建築・都市分野の設計者、デザイナー、プランナー、ゼネコン、メーカー、SEなど)、研究者、教員、学生など

お申込

fukuda[AT]see.eng.osaka-u.ac.jp 

宛([AT]->@に置き換えてください)、「氏名」「所属」「ワークショップ参加動機(簡単で結構です)」と共にご連絡ください。5/10一杯迄とさせて頂きます。

申込受付後、折り返し、詳細をご案内します。満席になり次第、〆切前に受付終了とさせて頂く場合がございます。

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■2019年4月に香港中文大学で開催したVRワークショップ。香港中文大学と墺・グラーツ工科大学80名の学生さんを対象に、ゲームエンジンのインストールから始めて、BIM/CADモデルをVR空間上に表示させるところまで、1日半で実施しました。各学生が持ち込みのPC=WindowsMacでできたことがお土産として大きいように思います。

都市とITとが出合うところ 第61回 デジタルサイネージ (2)

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令和の時代がはじまりました。引き続き、どうぞよろしくお願いします。「都市とITとが出合うところ」第61回は前回に引き続き「デジタルサイネージ (2)」です。

 

デジタルサイネージの屋外設置

屋外に設置する電子看板デジタルサイネージ)は、建築物や都市空間の賑わい形成や魅力向上、新たな表現手段として期待されている。その一方で、光源として使われるLEDの高輝度化、ディスプレイの大型化や高解像度化、さらに、設置される数が増えてくると、人間や都市景観への影響が懸念されてくる。

先月号「デジタルサイネージ (1)」で紹介した実験内容は、ディスプレイの背景がほぼ真っ暗の状態でディスプレイの輝度(無彩色)を変化させた時のまぶしさ、不快さを定量化したものである。そのため、あらゆるコンテンツや都市環境下においてそのまま適用できるわけではないものの、得られた結果はあやふやな経験則よりも役に立つであろう。一方、実際にデジタルサイネージの設置基準を数字のみで決めてしまうと、数字だけがひとり歩きしてしまい、単に数字のみ守ればよい、となりがちである。もともとの精神は何なのか、何が大切なことなのか、定量化が難しいコンテンツの評価を含めて、総合的に考える必要がある。

大阪市デジタルサイネージ等取扱要綱

大阪市では、大阪市景観計画に定める重点届出区域におけるデジタルサイネージ等取扱要綱を制定している1)。これは、デジタルサイネージ設置協議対象地区(大阪駅周辺、難波駅周辺の重点届出区域)でデジタルサイネージを設置する際に、事前審査する制度であり、LEDの輝度値だけでなく、コンテンツの質を含めて、総合的に評価しようというものである。筆者は、委員会のメンバーとして関わった。主なポイントを記す。

  • 設置地区:デジタルサイネージ設置協議対象地区かどうか。
  • 設置の前提条件:にぎわいの形成やまちの魅力向上につながるデザイン性の高いものであること。中層部に設置する場合には、地域独自の基準や協議体制を設けていること。
  • 設置期間:a)常時設置するのか、一定の期間設置するのか(要綱では以上を「デジタルサイネージ」と定義)、あるいは、b)イベント等の実施期間のみ一時的に設置するのか(要綱ではこれを「一時広告物」と定義)。
  • 設置位置:建築物の低層部なのか、中層部なのか。
  • 大きさ:設置位置と視点場との関係や周辺への影響を考慮して最大面積を設けている。多くの歩行者が地上面を歩く場合、低層部のディスプレイは間近で眺める可能性が高くまぶしさや不快さの影響が出やすい。中層部のサイネージは眺望できる範囲が広くなる。
  • 周辺への影響:a)色彩はまちなみを阻害していないか。補色や彩度差の大きい色の組み合わせを使用せず、類似色や中間色など、落ち着いた色を推奨している。b)コンテンツは、まぶしすぎない明るさ(輝度)か。特に夜間。c)不快感を与えないような、ゆるやかな表示速度や繰り返し回数か(画像と画像を切り替える際のトランジッションを含む)。d)不快感を与えないような音量や音色か。
  • コンテンツ:a)デザイン性の高いものであるか。例えば、ニュースや災害時の避難情報等を除いて、原則、文字のみの広告物は認めていない。b)広告媒体のみならず、都市の利便性や安全性を高める情報やまちの魅力を向上させるエリアマネジメントの情報等を提供しているか(割合として1/4以上)。c)公序良俗に反していないか。d)見る人に不快感や不安感を与えないものであるか、など。

デジタルサイネージのコンテンツは常に変わっていく。そのため、設置後の運用状況を年度末に確認し、必要に応じて事業者にアドバイスしながらデザイン調整、デザイン誘導を行っている。

参考文献

大阪市:重点届出区域におけるデジタルサイネージ等取扱要綱(2019年4月1日参照)

www.city.osaka.lg.jp

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1905machinami_FukudaFinal.pdf

(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2019年5月号)

CAADRIA2019 @ ウェリントンに参加しました。

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4月中旬、CAADRIA 2019 (24th Annual Conference of the Association for Computer-Aided Architectural Design Research in Asia) に参加してきました。24回目を迎えた今年は、ニュージーランドウェリントンにある、ヴィクトリア大学ウェリントンで開催されました。

CAADRIA (Computer Aided Architectural Design Research In Asia) は、アジア・オセアニア地域を対象とした建築・都市のコンピュータ設計に関する学会であり1996年に設立されました。年に一度、国際会議が開催され、研究者・実務者・学生らが全世界から集まります。近年は、建築・都市とコンピュータが対象とする応用範囲はBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)、Digital Fabrication(デジタル・ファブリケーション)、Generative Design(ジェネレーティブ・デザイン)、VR/AR/MR(人工現実、拡張現実、複合現実)、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、スマートシティなど拡がりをみせています。そのため、CAADRIAに投稿される論文の分野は拡がりをみせ、投稿数は急増している状況にあります。

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CAADRIA 2019の開催に向けて、論文審査委員を仰せつかりました。昨年度は、論文審査委員長を務めたので、その引継ぎを兼ねて、となりました。
論文募集テーマ Intelligent & Informed

セッションテーマ

  • Digital Fabrication & Construction
  • Generative, Algorithmic & Evolutionary Design/Techniques
  • Simulation & Analysis
  • Virtual/Augmented/Mixed/Interactive-Environments
  • Building/City/Region Information Modelling/Management
  • Smart Buildings/Cities/Regions
  • Design Cognition
  • Theory, Philosophy & Methodology
  • Practice & Interdisciplinary
  • Computational Design Education/Conversation
  • Human-Computer Interaction
  • Collaborative & Collective Design
  • Artificial Intelligence & Machine Learning

研究室の発表リストは下記です。

Proceedingsの全論文は以下よりアクセス可能です。Abstractの投稿が668編と過去最高、最終的に掲載されたのが162編と、ハイレベルな競争となりました。

Cumincad : CUMINCAD Papers : Search Results (CAADRIA 2019)

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私事で恐縮ですが、CAADRIA学会よりフェローの称号を賜わりました。表彰式は、CAADRIA 2019にて行われました。これまでの皆さまのご協力とご支援に感謝申し上げます。Victoria University of Wellington・Marc Aurel Schnabel 先生も同じく授与されました。CAADRIA学会を、引き続き盛り上げていきたく、どうぞよろしくお願いします。

環エネTopics (大阪大学 大学院工学研究科/工学部 環境・エネルギー工学専攻/環境・エネルギー工学科)

www.see.eng.osaka-u.ac.jp

トピックス大阪大学 大学院工学研究科/工学部) 

www.eng.osaka-u.ac.jp

 

Social Media

Web CAADRIA - The Association of Computer-Aided Architectural Design Research in Asia

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都市と建築のブログ Vol.45 アンコール・ワット:見立て up!

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アンコール・ワット中央祠堂の脇にそびえる祠堂

5月1日から施行される新たな年号が「令和」となりましたね。同じく、平成31年度がはじまり、新たな気持ち^2でどうぞよろしくお願いします。

都市と建築のブログ 第45回目(2019年4月号)はカンボジア アンコール・ワットをご紹介します。

NAVERまとめにも都市と建築のブログの過去記事をアーカイブしています。

matome.naver.jp

■都市と建築のブログ バックナンバー

都市とITとが出合うところ 第60回 デジタルサイネージ (1)

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図1. LEDデジタルサイネージ心理的影響実験:(a) 渋谷昼景,(b)大阪夜景,(c)実験装置, (d)LEDディスプレイ,(e)実験平面図,(f)まぶしさ量反応曲線,(g)不快さ量反応曲線

ビルファサードへの電子機器の組み込み

近年、ビルのファサード(建物の正面部分)には、電子機器が組み込まれるものが見られ、さらにそれらがネットワーク化されているものも増えてきた。デジタルサイネージはそのひとつであり、時間や場所に応じて適切なコンテンツを配信できる可変性、双方向機能による効果的な情報提供が可能であることから、ビルや都市空間の新たな表現方法や役割として期待されている(図1(a))。一方で、人間や周辺環境への影響などを検討しておく必要がある。

デジタルサイネージ

デジタルサイネージの定義は様々であるが、(一社)デジタルサイネージコンソーシアムは「屋外・店頭・公共空間・交通機関など、あらゆる場所で、ディスプレイなどの電子的な表示機器を使って情報を発信するメディアの総称」と定義している1)。一方、文献2)では、広告効果と景観を調和させるための法的環境に関して調査するために、「広告や販売促進、プロモーション或いは公的なものを含めた情報提供に関するものに限定」してデジタルサイネージを定義している。本稿では、後者の定義を採用する。

デジタルサイネージは、従来の印刷による看板や案内板に代わる新しいメディアとして、平常時の広告・案内等の利用に加えて、災害時の情報伝達手段としても期待されている。その外観は、矩形の平面形状が大多数であるが、ロンドンのピカデリーサーカスには曲面状のサイネージが設置されており3)、ニューヨークのタイムズスクエアには3次元ロボットによる動くサイネージが設置されている4)。年月が進むにつれて、大型化、高解像度化する傾向にある。

LEDディスプレイの眩しさ、不快さ

デジタルサイネージを屋外に設置する場合、LEDディスプレイが光源として採用されることが多い。LEDディスプレイは、フルカラーを表示できるLED(発光ダイオード)が高密度に集まることで、一つの面となり、文字、静止画、動画を表示できる。LEDは、長寿命、省エネルギー性に加えて、高輝度の光源であり太陽光のような強い外光が当たる場所でも、視認性が確保できる。

一方、LEDディスプレイのデジタルサイネージ(以下、LEDデジタルサイネージ)が普及していくと、高輝度ゆえんの光害など、夜間景観への影響が懸念される。例えば、大阪市内での現地調査では、5000 cd m-2のLEDデジタルサイネージが存在していた(図1(b))。LEDデジタルサイネージは光の指向性が強く、人が直接眺めるものであるから、グレアによりまぶしさや不快感などの悪影響が予想される。

LEDディスプレイの心理的影響実験

そこで、人がLEDディスプレイを眺めた際の心理的影響を明らかにするための印象評価実験を行った5)。概要は、以下の通りである。

  • LEDディスプレイ(3000 mm × 5400 mm)を部屋の壁に設置してデジタルサイネージによる光環境を構築した(図1(c)(d))。
  • LEDディスプレイに提示する映像刺激として、無彩色の光源色で16、32、64、128、256、512、768、1024、1536、2048 cd m-2の10段階の光源輝度をそれぞれ10秒間表示する映像を作成した。
  • 被験者の視認距離として、水平静視野の飽和角である60°(結果、被験者—ディスプレイ距離:4mとなる)と、その半分となる30°(同:10m)の2つの条件を設定した(図1(e))。
  • LEDディスプレイの背景は、反射光による輝度が若干存在するものの、ほぼ真っ暗である。LEDディスプレイと背景との輝度の対比は大きく、夜間の住宅地のような環境が想定できる。
  • 20代から60代までの全年齢層,ならびに男女の性別を網羅した52名が被験者として参加した。まぶしさと不快さに対する7段階評価により実施した。

実験結果では、例えば1000 cd m-2 でみると、視認距離 4 mで 5 割の人々がまぶしいと感じ、3 割の人々が不快だと感じる結果が得られた。視認距離 10 mで 2割の人々がまぶしいと感じ、1.5 割の人々が不快だと感じる結果が得られた(図1(f)(g))。

参考文献

  1. (一社)デジタルサイネージコンソーシアム:https://www.digital-signage.jp/about/
  2. (社)日本機械工業連合会・(財)デジタルコンテンツ協会:平成22年度景観と調和したデジタルサイネージに関する調査研究報告書,2011.
  3. The New Piccadilly Lights: https://piccadillylights.co.uk/
  4. 3D Coke Sign in Times Square https://vimeo.com/229199452
  5. 福田知弘,松井孝典,長町志穂: デジタルサイネージ景観向上のための光源輝度を指標としたLEDディスプレイの心理的影響評価,日本建築学会東海支部研究報告書,第53号,321-324,

※URLはいずれも2019年3月2日に参照した。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1904machinami_FukudaFinal.pdf

一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2019年4月号)