ふくだぶろーぐ

福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第60回 デジタルサイネージ (1)

f:id:fukuda040416:20190401182745j:plain

図1. LEDデジタルサイネージ心理的影響実験:(a) 渋谷昼景,(b)大阪夜景,(c)実験装置, (d)LEDディスプレイ,(e)実験平面図,(f)まぶしさ量反応曲線,(g)不快さ量反応曲線

ビルファサードへの電子機器の組み込み

近年、ビルのファサード(建物の正面部分)には、電子機器が組み込まれるものが見られ、さらにそれらがネットワーク化されているものも増えてきた。デジタルサイネージはそのひとつであり、時間や場所に応じて適切なコンテンツを配信できる可変性、双方向機能による効果的な情報提供が可能であることから、ビルや都市空間の新たな表現方法や役割として期待されている(図1(a))。一方で、人間や周辺環境への影響などを検討しておく必要がある。

デジタルサイネージ

デジタルサイネージの定義は様々であるが、(一社)デジタルサイネージコンソーシアムは「屋外・店頭・公共空間・交通機関など、あらゆる場所で、ディスプレイなどの電子的な表示機器を使って情報を発信するメディアの総称」と定義している1)。一方、文献2)では、広告効果と景観を調和させるための法的環境に関して調査するために、「広告や販売促進、プロモーション或いは公的なものを含めた情報提供に関するものに限定」してデジタルサイネージを定義している。本稿では、後者の定義を採用する。

デジタルサイネージは、従来の印刷による看板や案内板に代わる新しいメディアとして、平常時の広告・案内等の利用に加えて、災害時の情報伝達手段としても期待されている。その外観は、矩形の平面形状が大多数であるが、ロンドンのピカデリーサーカスには曲面状のサイネージが設置されており3)、ニューヨークのタイムズスクエアには3次元ロボットによる動くサイネージが設置されている4)。年月が進むにつれて、大型化、高解像度化する傾向にある。

LEDディスプレイの眩しさ、不快さ

デジタルサイネージを屋外に設置する場合、LEDディスプレイが光源として採用されることが多い。LEDディスプレイは、フルカラーを表示できるLED(発光ダイオード)が高密度に集まることで、一つの面となり、文字、静止画、動画を表示できる。LEDは、長寿命、省エネルギー性に加えて、高輝度の光源であり太陽光のような強い外光が当たる場所でも、視認性が確保できる。

一方、LEDディスプレイのデジタルサイネージ(以下、LEDデジタルサイネージ)が普及していくと、高輝度ゆえんの光害など、夜間景観への影響が懸念される。例えば、大阪市内での現地調査では、5000 cd m-2のLEDデジタルサイネージが存在していた(図1(b))。LEDデジタルサイネージは光の指向性が強く、人が直接眺めるものであるから、グレアによりまぶしさや不快感などの悪影響が予想される。

LEDディスプレイの心理的影響実験

そこで、人がLEDディスプレイを眺めた際の心理的影響を明らかにするための印象評価実験を行った5)。概要は、以下の通りである。

  • LEDディスプレイ(3000 mm × 5400 mm)を部屋の壁に設置してデジタルサイネージによる光環境を構築した(図1(c)(d))。
  • LEDディスプレイに提示する映像刺激として、無彩色の光源色で16、32、64、128、256、512、768、1024、1536、2048 cd m-2の10段階の光源輝度をそれぞれ10秒間表示する映像を作成した。
  • 被験者の視認距離として、水平静視野の飽和角である60°(結果、被験者—ディスプレイ距離:4mとなる)と、その半分となる30°(同:10m)の2つの条件を設定した(図1(e))。
  • LEDディスプレイの背景は、反射光による輝度が若干存在するものの、ほぼ真っ暗である。LEDディスプレイと背景との輝度の対比は大きく、夜間の住宅地のような環境が想定できる。
  • 20代から60代までの全年齢層,ならびに男女の性別を網羅した52名が被験者として参加した。まぶしさと不快さに対する7段階評価により実施した。

実験結果では、例えば1000 cd m-2 でみると、視認距離 4 mで 5 割の人々がまぶしいと感じ、3 割の人々が不快だと感じる結果が得られた。視認距離 10 mで 2割の人々がまぶしいと感じ、1.5 割の人々が不快だと感じる結果が得られた(図1(f)(g))。

参考文献

  1. (一社)デジタルサイネージコンソーシアム:https://www.digital-signage.jp/about/
  2. (社)日本機械工業連合会・(財)デジタルコンテンツ協会:平成22年度景観と調和したデジタルサイネージに関する調査研究報告書,2011.
  3. The New Piccadilly Lights: https://piccadillylights.co.uk/
  4. 3D Coke Sign in Times Square https://vimeo.com/229199452
  5. 福田知弘,松井孝典,長町志穂: デジタルサイネージ景観向上のための光源輝度を指標としたLEDディスプレイの心理的影響評価,日本建築学会東海支部研究報告書,第53号,321-324,

※URLはいずれも2019年3月2日に参照した。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1904machinami_FukudaFinal.pdf

一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2019年4月号)