ふくだぶろーぐ

福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第8回 彦根×点群のポリゴン化システム

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」第8回。今回は、彦根サイクルトレイン、豊郷へ。ITについては、3Dレーザースキャナを建築・都市模型に照射して取得した点群を後工程(CAD)で使えるようにポリゴンするためのシステム開発化について。お楽しみ頂ければ幸いです。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1411machinami_FukudaFinal.pdf

佐和山城跡へ
 彦根駅でレンタサイクルを借りてポタリングスタート。まずは佐和山城跡へ。佐和山城跡は、鎌倉時代から江戸時代初期にかけて、近江支配の拠点、京都と岐阜の中継地点、西国への最前線として機能した山城である。信長の時代には丹羽長秀、秀吉の時代には石田三成が入城した。関ヶ原合戦の後、彦根山に彦根城が築かれ、その役割を終えた。

 麓の佐和山城跡観光案内詰所よりボランティアガイドさんに案内してもらいながら佐和山を登る。龍潭寺の境内を抜けると山道である。測量調査が進む西の丸跡を過ぎ、本丸跡に着いた。佐和山城彦根城を造る際、大規模な破城が行われたそうで、現在確認できる石垣はわずかである。ただ、標高232.6mの山頂からの景色は素晴らしい(図1)。南東方面には彦根城彦根市街、琵琶湖。遠くには荒神山、観音寺山と安土山、沖島、三上山まで眺められる。北東方面には中山道(旧東山道)、米原、長浜の街並みと伊吹山。遠くには竹生島や小谷山(小谷城跡)も確認できた。

f:id:fukuda040416:20140830100959j:plain

図1 佐和山城跡より彦根市

彦根城
 佐和山城を下り、彦根城へ。お城と緑がまちの中心に広がる風景はいいものだ。彦根城1622年に完成したとされる。天守は、江戸時代かそれ以前に建設された現存天守12城のひとつであり、姫路城、松本城犬山城と並んで国宝指定されている。珍しいのが天秤櫓(図2)。これは、大手門と表門からの道が合流する位置に築かれ、天主へとつながる櫓。上から見ると全体として「コ」の字型をしており、両隅に2階建ての櫓が設けられ、中央に門がある構造となっている。天秤櫓へは、架けられた廊下橋を渡って入ることになる。有事の際には廊下橋を落とすことで、敵は高い石垣を登らないと本丸へ侵入できなくなる(実は築城以来これまで戦とは無縁とのことだが)。また、江戸末期の大規模修繕では、石垣の積み替えが行われており、右手が築城当時の牛蒡積み、左手が幕末に積み替えられた切石の落し積みとなっている。

f:id:fukuda040416:20140830112449j:plain

図2 天秤櫓と廊下橋

 彦根城から南へ伸びる、夢京橋キャッスルロードには江戸町家風の歴史的なまちなみが甦っている(図3)。これは地権者全員が参加し建築家が支援する「本町地区まちなみづくり検討委員会」を組織して、まちなみ形成の誘導に向け、条例制定等に関する調査研究を行い、軒の傾斜を揃えるなど具体的計画づくりを進めてきた長年の成果である。飲食、物販など個性豊かなお店が連なる。道路幅は築城時から続いた6mから18mに拡幅され、交通渋滞の解消と歩行者の安全確保にも寄与している。夢京橋キャッスルロードに隣接する四番町スクエアでは、大正ロマンをコンセプトに、区画整理事業に取り組む区画整理組合と、賑わいの仕掛けづくり・まちづくりの仕組みづくりに取り組む共同整備事業組合を同時に設立して、かつて彦根の台所と呼ばれた本町市場商店街の再現に取り組んでいる。

f:id:fukuda040416:20140830131444j:plain

図3 夢京橋キャッスルロード

サイクルトレイン
 米原彦根八日市近江八幡を結ぶ近江鉄道。その大部分の区間で、自転車を電車内に持ち込めるサイクルトレインが実施されている。自転車を解体することなく車内に持ち込めて、持ち込み料は何と無料(運賃は必要)。行動範囲がグッと拡がる。乗車したひこね芹川駅は高架駅でJRが並走しており、ホームで自転車と待っていると何だか不思議な気分(図4)。2両編成の黄色い電車がやってきて、電車に乗り込み、JR線と別れると、急にローカルな田園風景となる。多賀大社行きと分岐する高宮駅を過ぎると東海道新幹線の真下を通ることになる。新幹線を頻繁に利用している身であるが、夢の超特急の足下をサイクルトレインが走っているとは、これまで知らなかった。

f:id:fukuda040416:20140830133832j:plain

図4 サイクルトレイン

豊郷
 
豊郷駅で自転車共々下車。豊郷小学校旧校舎群へ。ヴォーリズ建築では珍しい公立小学校。新校舎建設の際の保存運動は記憶に新しい。現在は耐震化を終えて町立図書館、子育て支援センター、シルバー人材センター、集会所やギャラリーなど地域の教育・福祉の拠点として活用されている。この建物は、当時、丸紅の専務だった卒業生・古川鉄治郎氏の寄附により完成した。学校建築らしくシンプルなデザインであるが、ゆったりとした階段の手すりにはウサギとカメが追いかけっこをしているなど(コツコツがんばれ=古川鉄治郎氏にまつわる逸話らしい)、優しい雰囲気を持ち合わせる(図5)。廊下は特徴的であり、広く長く、幅は2.7m、長さは100m(1階)もある。校庭は、日本初の造園設計家とされる戸野琢磨氏による。豊郷小学校旧校舎は、アニメの舞台に設定されており、聖地巡礼の若者が多い。

f:id:fukuda040416:20140830143713j:plain

図5 旧豊郷小学校階段

 近傍には、豊郷小学校旧校舎群のさらに先輩となる旧豊郷尋常高等小学校本館(明治20年築)があり、向かいには豊郷の先人たちを紹介する「先人を偲ぶ館」がある。

多景島
 豊郷から中山道をさらに南下して、愛知川駅から近江鉄道に自転車を乗せて彦根へ戻る。夕方の城下町は日中とはまた違った風情。クランク状の鍵曲の辻をいくつか抜けて琵琶湖畔の松原へ。湖にポツンと浮かぶ多景島は船のような形をしている。さざ波や行きかう雲のせいか、後光がさす多景島は動いているように思えた。

点群のポリゴン化システム
 
彦根にもみられるが、近年では景観まちづくりやシビックプライド活動のように、専門家のみならず市民の積極的な参画によって新たな都市空間を創ろうとする動きがみられる。その計画設計プロセスでは、その時点で存在しない将来の都市像をわかりやすく表現し、関係者の合意形成を図りながら進めることが求められる。そのため、模型やVRVirtual Reality)のような三次元表現媒体が用いられているが、前号でも述べたように、模型とVRとは異なる特徴を有しており、使い分けがなされている。また、模型とVRとは別々の工程で制作されており、複雑な形状になればなるほど、時間とコストがかかってしまう。

 模型のような実物・実空間から3次元のデジタルデータを得る方法として、3次元スキャナを用いるレーザー測量法がある。この方法により得られるスキャンデータは点群であり、一般に、必要以上の頂点数を有するため後段階の編集加工作業がやりにくいこと、表面の凹凸などの測量誤差が含まれること、レーザー光が届かない、または透過・吸収してしまう部位の点群が得られないこと、VR上ではオブジェクトの陰影や前後関係の表現が困難であること、といった課題が残る。そのため、筆者らは、模型の幾何的特徴に着目して、点群から最適化を図りつつポリゴン(多角形)を生成するシステム「Poly-Opt2012」を試作した [1]。

 システムの流れは次の通りである。3次元スキャナを用いて模型のスキャンデータを作成する。そして「点群データの補正」段階では、得られたスキャンデータで定義される座標軸が実空間の垂直水平方向と異なっているため、座標軸を補正する。また、スキャンデータをメッシュ化すると、その表面には微少な凹凸が生じ、以降の処理を行う際の精度低下の原因となるため、点群を平滑化しておく。次に「稜線の算出」段階では、同一平面上に存在すると考えられる点群を抽出し、これらを近似する平面を凸包により算出する。この平面に先ほどの点群を投影してメッシュ化する。その後、余分なメッシュを除去し、稜線の方程式を算出することで、新たなポリゴンを生成する。最後に「算出結果の調整」段階では、前の段階で算出された各稜線の関係性を調節して、形状データの出力や画面描画のため、これらのポリゴンにメッシュを生成する。また、実用シーンを考慮すると、点群間の距離、凹凸の状態、ポリゴン化の要求精度などがスキャンデータごとに異なるため、GUI(Graphical User Interface)を作成して、各引数を適宜変更できるようにした(図6)。

f:id:fukuda040416:20191022122455j:plain

図6 Poly-Opt2012 GUI

 筆者らの取り組みはほんの一例であり、模型と3次元デジタルデータのスムーズな連携のための研究開発が進められている。ご注目を。

ルートと参考文献
彦根駅@@<レンタサイクル>@@佐和山城跡観光案内所詰所++<徒歩>++【佐和山城跡】@@【彦根城】@@【夢京橋キャッスルロード】++【四番町スクエア】@@ひこね芹川駅–<近江鉄道本線>–豊郷駅@@【豊郷小学校旧校舎群】@@【愛知川宿】@@愛知川駅–<近江鉄道本線>–ひこね芹川駅@@【琵琶湖畔】@@彦根駅(45.1km)

[1] 福田知弘,北川憲佑,矢吹信喜:非凸多角形を含む建築模型に対応した点群からの対話的な3次元モデリングシステムの開発, 日本建築学会計画系論文集, 第78巻, 第687号, pp.1231-1239, 2013.5.
http://dx.doi.org/10.3130/aija.78.1231

f:id:fukuda040416:20191022122515j:plain

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」11月号)