ふくだぶろーぐ

福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第42回 情報処理教育プログラム (4)

コンピュータビジョン

 過去3回に渡り、学部2年生の高度情報処理プログラムをご紹介した。今回は3年生の講義ノートを。

 コンピュータビジョンは、コンピュータに視覚を持たせる技術の総称であり、2次元画像の解析、3次元シーンの復元、物体認識、対象の検出・追跡など、数多くの研究が行われており、ロボットや自動運転と馴染み深い。環境・エネルギー分野では問題解決に向けて現状の把握を行うことがよく行われるが、その多くは人の手に委ねられており、調査者の多大な労力・コストとエラーが生じている。コンピュータビジョンは、この問題を解決すべく、視覚分野を主な対象として、現状把握を行うための資料作成の自動化、ひいては現状把握の自動化が期待される。また、AR(拡張現実)とコンピュータビジョンを組み合わせることで、将来の緑視率の変化など、肉眼では見えない環境シミュレーションが可能となる1)

 国土基盤システム学は、3年生春・夏学期に開講する選択科目である。筆者の担当は5回であり、授業内容は以下の通りである。

  1. Visual Studio 2015でOpenCV 3.2のセットアップ方法
  2. カラー画像からグレー画像への変換
  3. ピクセル単位の処理
  4. マスク処理
  5. 空間フィルタリングと平滑化
  6. エッジ検出
  7. 幾何学的変換
  8. 2値画像処理
  9. Structure from Motion(SfM

 授業は、Visual StudioがインストールされたWindowsPCが設置されている情報教育室で、プログラミング演習を交えて実施している。上記、項目1~7は、OpenCV(Open Source Computer Vision Library: 画像処理、画像認識、画像理解のためのオープンソースライブラリ)をVisual Studio上でインクルードして実装する。項目8のSfMは、異なる位置から撮影された複数枚の写真から、3次元構造を推定する技術であり、Agisoft PhotoScan、Autodesk Remakeを使用する。担当最終回は、上記単元から出題した課題のプレゼンテーションとした。SfMの課題には、「吹田キャンパスなどで、あなたがインスパイアされたオブジェクトを対象としてSfM化すること」。対象の選定条件として、さらに以下を伝えた。

  • オブジェ、建物、土木構造物など
  • CAD/BIMで作成が難しそうなもの
  • SfMが得意・不得意とする対象物があることに注意すること
  • 再撮影の可能性を配慮しておくこと
  • パラメータや対象などを複数用意して違いや変化を比較考察できること

 図1は、今年3月に進路講演で訪問した、兵庫県加古川東高等学校の校訓の石碑をSfM化したものである。講演開始40分ほど前に会場に入り、写真撮影とSfM作成を行い、講演で紹介した。日頃見慣れた校訓が精緻な3次元モデルとして講演会場に登場した時、高校生たちは相当驚いていたようだ。でき立てホヤホヤのデジタル石碑が舞台の上でクルクル回っている。松の樹皮もリアルだ。やはり、身の回りにあるオブジェクトを対象に、デモすることはインパクト強いようだ。

f:id:fukuda040416:20170816152322j:plain

図1 SfMによる3次元モデリング: (左)入力写真群, (中)生成した点群, (右)生成したテクスチャ付きポリゴン

 さて、大学生たちは、吹田キャンパスにある、室外機、螺旋階段、椅子、ビル、消火栓、人物のブロンズ像、モニュメントなどにインスパイアされ、SfMしてきた(図2(a))。特徴が把握しづらい植栽や線の細い螺旋階段など、うまくいかなかった対象もあったようである。コンピュータビジョンがまだまだ発展途上の技術であり、あらゆる対象がまだ全自動ではないことを併せて理解してもらえれば幸いである。

f:id:fukuda040416:20170703154556j:plain

図2(a) プレゼンテーション: 国土基盤システム学

アクティブラーニング

 環境・エネルギー工学コア演習・実験 第2部(コア演習2)は、同 第1部に引き続いて開講する選択必修科目である。受講生は16個の演習テーマから2つを選択する。2つの演習テーマを各6週ずつ演習していく。各回の受講人数は6名程度である。

 著者の提供する演習テーマは「VR/ARを応用した環境設計シミュレータの開発」である。演習は、アクティブラーニング形式で進めた。まず、2~3名のチームを作り(メンバーはくじ引き)、ここからはチームごとにテーマ決めや役割分担の検討を始める。システム開発の企画書を作成し、実現技術や実装方法を調査し、中間報告会を2度ほど行い、システム開発を進め、最終報告会で成果発表する。報告会を中心として、教員、TA、研究室の上級生からアドバイスをもらう。

 今年度の受講生たちは、MRを用いた立体植物図鑑、画像解析を用いたスポーツ観戦アプリ、顔認識技術を用いた髪型検討ARアプリ、カメラを用いた文字認識と音声出力システム、という4つのテーマを定めてシステム開発を行った。例えば図2(b)は、「顔認識技術を用いた髪型検討ARアプリ」の中間報告会の様子で、写真右端のI君がPCに接続されたWebカメラを持って、隣にいる発表中のS君の顔に向けると、開発したシステムが顔を認識して、3次元の髪型が顔の上方の正しい位置にAR表示されて、スクリーンに表示されている様子である。これらは、Unity上でプログラミングを適宜交えて開発したものである。

f:id:fukuda040416:20170706155140j:plain

図2(b) プレゼンテーション: コア演習2

 自らの考えを表現し、その考えを他人と交換するために、ますます重要となるプログラミング能力。コア演習2は、この能力伸長を含めて、「問題を定義する能力」、「問題を解決する能力」、「チームを組織・運用する能力」を体感してもらう演習プログラムとした。これらの能力は、一朝一夕に身につくものではないが、とにかく早い時期にやり始めて、失敗を少しでも多く経験して、改善していく姿勢が大切であろう。いずれ社会人となり、国際社会で本格的に仕事をする前に、この進め方を少しずつ身に着けてもらえれば幸いである。

 

参考文献

  1. Tomohiro Fukuda, Kazuya Inoue, Nobuyoshi Yabuki: 2017, PhotoAR+DR2016: Integrating Automatic Estimation of Green View Index and Augmented and Diminished Reality for Architectural Design Simulation, Proceedings of the 35th eCAADe Conference, Rome, Italy, 2017.9 (accepted)

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1709machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年9月号)

Tokyo MX: パックン&河北麻友子のあつまれ!VRフレンズ 夏休みスペシャル inアメリカ(8月19日19:00~)

Tokyo MXのTV番組「パックン&河北麻友子のあつまれ!VRフレンズ 夏休みスペシャル inアメリカ」で、先月参加してきた、ボストン・MITでの「VRサマーワークショップ2017」などが紹介されるそうです。

日時: 2017年8月19日 19:00~20:00
チャンネル: Tokyo MX1(全国で視聴可能だそうです)

s.mxtv.jp

web版エムキャス:

mcas.jp

スマートフォンアプリ:

mcas.jp

で視聴可能のようです。エムキャスを使ったことがないので、これを機に使ってみようかと 汗

f:id:fukuda040416:20170718100023j:plain

都市とITとが出合うところ 第41回 情報処理教育プログラム (3)

C/C++によるプログラミング

 前回、前々回と、学部2年生 春・夏学期(1学期)の高度情報処理教育プログラムをご紹介した。今回は秋・冬学期(2学期)の様子を。

 情報処理は、2年生秋・冬学期に開講する選択科目である。コンピュータサイエンスの基礎、プログラミングの設計方法、C/C++の基本文法を理解しながら、いくつかのアルゴリズムC/C++でプログラミングする方法を身に着ける。

 情報処理を講義する情報教育室では2-3年前に、統合開発環境IDE: Integrated Development Environment)としてマイクロソフト社のVisual Studioが数多くのPCにインストールされ、普段接するWindows環境でプログラミングを学べるようになった。よって、学生個人のPCにVisual Studioをインストールして、課題を自宅で進めることも可能となる。授業内容は以下の通りである。

  1. システム開発、プログラム設計
  2. アルゴリズムと計算時間(オーダ)
  3. C: C言語と開発環境
  4. C: 変数、定数、宣言、演算子、型変換
  5. C: 分岐制御、反復制御、入力、出力、ファイル
  6. C: 演習、解説
  7. C: 関数、引数、外部変数と局所変数再帰、配列
  8. C: ポインタ、関数へのポインタ
  9. C: 構造体
  10. C: 演習、解説
  11. C++: C++言語とCとの相違点
  12. C++: クラス、継承
  13. C++: 配列、ポインタ、参照
  14. C++: 演習、解説

 C/C++言語は、国際的に広い分野で使われていること、コンピュータの動作理解に役立つこと、他の言語取得に役立つ基本的な言語であること、から選定している。また近年では、インターンシップの申し込み条件にC言語の習得状況が問われることも増えてきた。授業内容の後半には、C++が含まれているが、C++の全てをひとつのセメスターで講義することはできない。ただ、C++を通じてオブジェクト指向プログラミングに触れ、クラスを設計する経験は大切であると考えている。なぜなら、オブジェクト指向のプラグミング言語は市井に普及しており、それらのサンプルを触る必要が少なくないからである。

 プログラミング演習は、プログラムの理解だけでなく、論理的思考力や物事を仕上げる力(段取り力)を習得する上でも大切なトレーニングであるといえるだろう。

VR/ARシステムを作る

 環境・エネルギー工学コア演習・実験 第1部は、情報処理と同時期に開講する選択必修科目である。受講生は14個の演習テーマから4つを選択し、選択した4つの演習テーマを各3週ずつ演習していく。(教員は同じ演習テーマを4回繰り返すことになる…)各回の受講人数は6名程度である。

 著者の提供する演習テーマは大まかには「3次元環境設計シミュレーションの基礎」である。内容として、基礎的な理論・技術だけでなく、国際会議で発表したての最先端技術を取り込んだ演習内容を作るように心がけている。この両立を3週間の演習で行うのは「言うは易く行うは難し」であるが、最先端技術に少しでも触れてもらうことは大切であると考えている。そこで、昨年(2016)度は、ゲームエンジン(Unity)を基盤としてVR/ARシステムを開発することを演習内容とした。3週間の内容は以下の通りである。

  1. Unityチュートリアル球ころがしゲーム)の実施
  2. カフェBIMモデルをUnityで表示、VR(Virtual Reality)シミュレーション
  3. カフェBIMモデルをAR(Augmented Reality)で表示(Unity)、建設予定地で実スケールでAR体験

 第1週は、球ころがしゲームの作成を通じて、Unityで簡単なゲームを作成する。Unityが提供する単純なモデルやユーザインターフェースだけでゲームを短時間で構築し、Unityの簡単な使い方について理解を深めてもらうものである。ユーザは玉を操作して、範囲内にあるカプセルを全て回収する。玉が赤色のバーに触れたらゲームオーバー。Unity内部で完結した練習問題である。

 第2週は、春夏学期で実施したBIMソフトを用いたカフェ設計(前々号)の発展と位置づけ、カフェBIMモデルをUnityにインポートして、Unity上でアセットと呼ばれる外部プログラムやオブジェクトのインポートと設定、教員側で作成した太陽光シミュレーションや照明変化プログラムの実装などを行う。照明のオン・オフや、照明の色を変更するなどを演習課題としている。Oculus Rift等のHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)でもVR体験する。

 第3週は、まず、カフェBIM設計モデルを模型のようにAR表示させる。紙の平面図の上に、カフェの3次元モデルが現れる。ARはVRと違って、現実空間とのつながりがあるため、受講生は新鮮に感じるようである。次に、研究室で開発中の屋外型ARシステム1) にカフェBIMモデルを入力して、建設予定地で実スケール体験する。屋外型ARシステムC/C++言語で記述されており、このプログラムのハンドリングは学部2年生にとって敷居がまだ高いため、TA学生が主体的に作業してくれた。一方、受講生にとっては、自分ではじめて設計した建物を、建設予定地で実物大で眺めることができ、良い体験になっているようだ(図1)。

f:id:fukuda040416:20161219151954j:plain
図1 建設予定地・実スケールでのARを用いた設計シミュレーション

参考文献
K. Inoue, T. Fukuda, N. Yabuki, A. Motamedi and T. Michikawa: 2016, Post-Demolition Landscape Assessment Using Photogrammetry-based Diminished Reality (DR), Proceedings of the 16th International Conference on Construction Applications of Virtual Reality (conVR2016), 689-699.

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1708machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年8月号)

CAADFutures 2017: 発表スライド、論文集など

f:id:fukuda040416:20170731120946j:plain7月にトルコ・イスタンブールで開催された、17th International Conference, CAADFutures 2017国際会議で発表したスライドをSlideshareにアップロードしました(一部改変)。

CAADFutures 2017は、1985年に始まり、2年に一度開催される、建築・都市設計とコンピュータに関する国際学術会議です。論文発表された研究カテゴリーは以下の通りです。

  • Shape Studies
  • Urban Studies
  • Building Performance Studies
  • Design Geometry and Form Studies
  • Building Information Modeling
  • Decision Support System and Human Computer Interactions
  • Fabrication and Materiality
  • Parametric Tools and Models for Design
  • Pedagogical Approaches to CAAD
  • Augmented and Virtual Reality Environmental Studies
  • Generative Design Systems
  • Rethinking Design in Digital Context

当方の研究グループの発表は以下となります。

Proceedings (全文査読有 | Full paper reviewed)
Tomohiro Fukuda, Hideki Nada, Haruo Adachi, Shunta Shimizu, Chikako Takei, Yusuke Sato, Nobuyoshi Yabuki, and Ali Motamedi: 2017, Integration of a Structure from Motion into Virtual and Augmented Reality for Architectural and Urban Simulation: Demonstrated in Real Architectural and Urban Projects, Future Trajectories of Computation in Design: 17th International Conference CAAD Futures 2017, p.596, 2017.7

Book (Book contribution)
Tomohiro Fukuda, Hideki Nada, Haruo Adachi, Shunta Shimizu, Chikako Takei, Yusuke Sato, Nobuyoshi Yabuki, and Ali Motamedi: 2017, Integration of a Structure from Motion into Virtual and Augmented Reality for Architectural and Urban Simulation: Demonstrated in Real Architectural and Urban Projects, Computer-Aided Architectural Design - Future Trajectories,pp.60-77,Springer (Communications in Computer and Information Science 724), ISSN 1865-0929,ISBN 978-981-10-5196-8,2017.7

尚、Proceedings、Springerは学会サイトよりダウンロード可能です(期間限定あり)。

  1. CAAD Futures 2017のサイトにアクセス (At first, access the top page of CAAD Futures 2017.) http://caadfutures2017.itu.edu.tr/
  2. Springer Bookの画像のすぐ下にある、下記のリンクをクリック (Then, click the link "The book of selected papers ? CCIS 724" in the top page of CAAD Futures 2017.) The book of selected papers ? CCIS 724 (access available until August 13th, 2017 )
  3. そこで表示される下記URLのページからだと、PDFが8月13日まで無料ダウンロードができると思います。(You can download PDFs by free until August 13th, 2017) https://link.springer.com/book/10.1007%2F978-981-10-5197-5

尚、印刷版は、Springer社やAmazonで購入可能です。

www.amazon.com

 

都市と建築のブログ Vol.38: 蘇州:不易流行 up!

都市と建築のブログ 第38回目(2017年7月号)は中国・蘇州をご紹介します。下記の写真は前回訪問した1999年の様子です。18年経つと...

f:id:fukuda040416:20170710173319j:plain

NAVERまとめにも都市と建築のブログの過去記事をアーカイブしています。

matome.naver.jp

■都市と建築のブログ バックナンバー

 

CAADFutures 2017

f:id:fukuda040416:20170708104117p:plain

f:id:fukuda040416:20170708104119p:plainf:id:fukuda040416:20170708104121p:plain

次週、イスタンブールで開催されるCAADFutures 2017のスケジュールがアップされました。研究室からの発表は下記となります(発表は7月13日)。

タイトル: Integration of a Structure from Motion into Virtual and Augmented Reality for Architectural and Urban Simulation: Demonstrated in Real Architectural and Urban Projects
著者: Tomohiro Fukuda, Hideki Nada, Haruo Adachi, Shunta Shimizu, Chikako Takei, Yusuke Sato, Nobuyoshi Yabuki and Ali Motamedi

これは、SfM技術 (写真から3次元オブジェクトを生成する技術) をVR用モデリングやARカメラパラメータ取得へと応用させる方法論を開発し、境港市 水木しげるロードリニューアルプロジェクト (VR検証実験)、大阪市 極洋電機本社ビル設計 (設計: アトリエドン+seki.design) (AR検証実験) の実プロジェクトで検証した研究論文です。

応募された論文の中で、Selected Paperとして選ばれたこともあり、書籍として、Amazonでも論文集の販売が既に始まっています。

www.amazon.co.jp

www.youtube.com

みのおエフエム「まちのラジオ」(大阪大学 社学連携事業 番組)

f:id:fukuda040416:20170708094049p:plain

f:id:fukuda040416:20170708094052p:plain

f:id:fukuda040416:20170708094055p:plain

大阪大学では、社学連携事業の一環として、みのおエフエムと連携し、「まちのラジオ」番組を運営しています。此度、僭越ながら、出演させて頂くことになりました。放送日は、下記の通りです。

  • 2017年7月13日 (木) 15:00-16:00 みのおFM「タッキー816」(再放送:同日21:00-22:00, 7月16日 (日) 13:00~14:00)


スマホアプリでは「日本ラジオ」で世界中どこからでも聴くことができるそうです。

上の画像は、事務局がO+PUSという阪大キャンパス内の大型ディスプレイに映し出すためのスライドを作成してくれました。

よろしくお願いします。

21c-kaitokudo.osaka-u.ac.jp

goo.gl

www.osaka-u.ac.jp

都市とITとが出合うところ 第40回 情報処理教育プログラム (2)

中身を理解する
 筆者の所属する環境・エネルギー工学科で学部生に提供している情報処理教育プログラムについて、前号はBIM(Building Information Modeling)ソフトを用いた環境デザイン演習について紹介した。

 高度情報社会の時代において、大学(院)を卒業してエンジニアとしての進路を目指す場合はもちろん、ビジネスに関わる上においても、ITの知識や技術スキルの差は、仕事の生産性に大きく影響する。現在の学生たちは、幼少の頃よりパソコンや携帯端末に接してきたデジタルネイティブだが、ハード・ソフトやそれらによるサービスの高度化・複雑化に伴い、その内部構造はブラックボックス化しており、触れる機会は少ない。そのため、ハード・ソフトがバージョンアップされてメニューが変わっただけで、もはやお手上げという状況が見られる。このような状況において、プログラングをはじめITの基礎を身につけておけば推測が可能となり、このような状況は少なからず回避できるであろう。当学科において、これを担う中心科目は、情報活用基礎E(学部2年生1学期)と情報処理(同2学期)であり、5年前に内容を大幅改定した。

 情報活用基礎Eは、2年生1学期に開講する必修科目である。約80名の受講生が、Windows PCの並ぶ情報教育室で、講義を受けながら演習を行う。4名の教員が分担して担当している。講義内容は、情報処理技術者試験経産省認定国家資格)のレベル1(ITパスポート試験)のテクノロジ系をできるだけ網羅した以下の内容としている。

  1. システムの基本操作、ファイル操作、メールの送受信(情報量の単位、文字表現など)
  2. 図書館ガイダンス
  3. コンピュータ・アーキテクチャ
  4. テキスト(テキストエディタ、文書作成ソフトの取得)
  5. 図・画像(ドローイング,画像作成ソフト(GIMP)の取得)
  6. プログラミング①(プログラムの考え方,演算子フローチャート等)
  7. アルゴリズムの基本構造①
  8. データ及びデータ構造
  9. プログラミング②
  10. 表計算(算術論理演算が可能な解析ソフトとしての表計算ソフト(Excel)の習得①)
  11. 表計算表計算ソフト(Excel)の習得②)
  12. 表計算表計算ソフト(Excel)の習得③)
  13. アルゴリズムの基本構造②、ネットワーク
  14. 課題発表会

Processingによるプログラミング
 以下、私の担当回を中心にご紹介しよう。

「3.コンピュータ・アーキテクチャ」では、殆どの学生がPCの中身を見たことがないことを受け、古いPCを分解しながら、各パーツを紹介(図1)。人間も知恵熱が出るように、CPU(=PCの頭脳)も熱が出る。なので、CPUには冷却ファンが必要などとウンチクを交えて。80名が一度にPCを見ることができないので、約25名/チームに分けてPC分解デモを実施。残りのチームは、MIPS値やデータ量の計算問題やタイピング演習(e-typingの英語タイピング:目標はまずBランク!)を実施してもらう。講義の最後に、Processingのチュートリアルサイトを紹介して、予習アナウンス。

f:id:fukuda040416:20170616115516j:plain
図1 PC分解デモ

「7.アルゴリズムの基本構造①」では、整列(ソート)の基本アルゴリズムである、隣接交換法、基本選択法基本挿入法を。アルゴリズムの流れが理解しやすいよう、パワポのアニメーションで解説する。ただ、アニメを眺めるだけでは、「わかったつもり」で終わる恐れがあるため、手書きの演習問題を加える。アルゴリズムを一通り解説した後、Processingの実装内容を解説する(図2)。

f:id:fukuda040416:20170616115805j:plain

図2 Processing: 隣接交換法

 Processingは、MITメディアラボで開発されたプログラミング言語であり統合開発環境IDE: Integrated Development Environment)である。Processingはサンプルも多く、プログラムを書き込んで実行すると、自動的にコンパイルしてくれ、エラー表示も比較的わかりやすいため、初学者にも扱いやすい(図3)。講義の最後に、Processingを用いたシステム開発課題を出した。最終回は全員プレゼンである(後述)。

f:id:fukuda040416:20170616121125j:plain
図3 Processing画面例

「13.アルゴリズムの基本構造②、ネットワーク」では、ネットワークの概念を説明した後、クライアント―サーバーネットワークを体感してもらうべく、2~3人でチームを作り、サーバー役とクライアント役に分かれて、Processingでサーバープログラム、クライアントプログラムをそれぞれ入力する。IPv4アドレスが個々のPCで異なるため、プログラムを単純にコピーするだけではできず、コマンドプロンプトを起動して、ipconfigコマンドを用いて、IPv4アドレスを調べる必要がある。GUIに慣れ親しんでいるせいか、正確なタイピングが不慣れなせいか、コマンドプロンプトの操作は意外に苦労していた。プログラムを実行すると、クライアントサーバ側のPCに表示されたキャンバス上をマウスでクリックすると点が描かれ、サーバー側のキャンバス上の同じ座標にも点が描かれる(図4)。

f:id:fukuda040416:20170616115842j:plain
図4 Processing: ネットワーク演習

「14.課題発表会」では、約1か月前に提示した、Processing開発内容をプレゼンテーションしてもらう。各受講生はテーマ「夏」からイメージを膨らませて、Processingを用いて、「静止画」「動画」「インタラクティブ動画」のいずれかを作成してもらう。発表会当日は、90分の授業時間で受講生全員がプレゼンするという条件から、50秒/人にて、作品の概要と開発したProcessingのデモを交えて順にプレゼンテーションしてもらう。画面内を金魚が泳ぐ作品、自分で撮影した線香花火を動画にして再生させた作品、マウスをクリックすると花火が上がる作品、ロールプレイングゲームなど、様々であった。1か月という短い期間で、自ら、または友人と試行錯誤しながら、何らかの作品を作り上げる作業は大変だったと思うが、発表会当日は頑張って仕上げてきた熱気が伝わってきた。尚、聴講者は、前号でも紹介した、Googleフォームを用いた学生間投票システムを使用して、プレゼンター全員の評価を全員にしてもらった。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1707machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年7月号

都市とITとが出合うところ 第39回 情報処理教育プログラム (1)

高度な情報処理教育の取り組み

ICT(情報通信技術)革命の波は建築分野にも押し寄せている。ICT利用を基本とした建築計画がなされ、手書き作業がコンピュータ化され、さらに、ヒトが行う入力作業は自動化されつつある。建物には多様なセンサーが取り付けられ、ビッグデータが蓄積されている。建築物の大規模化、複雑化への対応、業務においては、情報化、国際化、効率化、高付加価値化への対応のために、情報の活用、ICTの開発と応用は、ますます重要になってくるであろう。

大学教育の現場に立って10数年が経とうとしているが、赴任以来、学部学生の教育の段階から、高度な情報処理教育プログラムを提供することを心がけてきた。若い頃にひとつでも多くの最新技術に触れておくことは何より大切であること、プログラミングは論理的思考力のトレーニングになることが主な理由である。また、コンピュータの中身やアルゴリズムを多少なりとも理解しておけば、使用するハード・ソフトに遊ばれてしまうことは減るように思える。

情報処理教育を実施するためには、コンピュータとソフトウェアが必要である。以前は、研究室にあるコンピュータでしか実施できず、研究室に配属された学生や少人数の学部学生を対象とせざるを得なかった。近年、大学に整備されているコンピュータに必要なソフトウェアをインストールしてもらうことで、学科全体を対象とした、より多人数への教育プログラムが可能となってきた。現在の取り組みを中心に、ご紹介しよう。


BIM
ソフトを用いたカフェ設計

環境・エネルギー工学創成演習・実験は、2年生1学期に開講する必修科目である。約80名の受講生が4つのグループ(20人/グループ)に分かれて、4つの演習テーマを12週かけて各3週ずつ演習していく。

テーマのひとつが、環境デザイン演習であり、吹田キャンパス内の敷地(40×30m)にある駐輪場と緑地を改善するため、カフェを含む施設をBIMソフト(Autodesk Revit)で設計するものである。1週目に現地調査と建物配置計画と新たな駐輪場の設計、2週目に建物の設計、3週目にプレゼンテーションを実施する。

3DCAD/BIM(Building Information Modeling)ソフトを用いた設計演習は、2005年頃より始めていたが、現在の姿となったのは、学部共通のCALL/CAD室にBIMソフトが導入された2010年からであり、今年は8年目となる。受講生の中には、1年生の選択科目でSketchUPを使って建物3次元モデリングを経験した受講生もいるが、全員が受講するのは本演習が初めてとなる。

この演習は、いわゆる芸術的建築を作ることが主眼ではない。環境・エネルギー面も視野に入れた建物のあり方を考察すること、そしてBIMソフトの様々な機能を試行することを狙いとしている。また、当学科の学生は必ずしも建築土木分野に進む訳ではない。しかし将来、どの工学分野に進もうと(プラント、自動車、機械、ITなど)、研究企画や実験設備を自ら考えたり他人に説明したりするために、3次元の図を描くことは普遍的に要求されるスキルであり、そのための演習とも捉えている。下記は演習内容である。

1. Revitの自作チュートリアルで教員と進める内容

  • カフェ、厨房、トイレ、倉庫を含む、建物の定義方法(1階のみ)
  • 平面図、立面図、断面図、パースの作成方法

2. チュートリアル後、受講生が検討すべき必須内容

  • 2階以上の作成(階段の作成を含む)
  • 建物の使い方や環境・エネルギー面を考慮した、開口部(窓、ドア)、什器の配置

3. チュートリアル後、受講生が検討すべき挑戦内容

  • 天井の作成
  • 壁、床の仕上げ変更
  • 屋根形状の変更

まず、約1時間半、TA 2名の助けを借りつつ、教員側で自作したチュートリアルを順に進める。建物を作るために、通り芯、地面、柱、梁、壁、ドア、窓、床、什器、屋根の定義の仕方、そして、でき上がった建物を操作しながら、パースや断面図の描き方、レンダリング、日影シミュレーション、集計表の作り方、図面をパワポ用に出力する方法を受講生は習得していく。

その後は自習時間であるが、途中、先輩の優れた作品の解説や、チュートリアルでは実施しなかったRevit操作方法の調べ方(ヘルプなど)を紹介する。

演習時間後は、3週目のプレゼンに向けて、研究室に足を運ぶ受講生が多いが、自宅のPCで作業を進める受講生もいる。


プレゼンテーション

3週目は、プレゼンである。持ち時間を2.5分/人として、現状の課題分析と解決方針、提案内容(駐輪場、オープンスペース、建物の全体配置と各設計内容)を順に説明する。プレゼン後、教員やTAと質疑を行う。

プレゼン本番に入る前に、2人1組になってピアレビューを行う。いわゆる予行演習であり、本番同様に時間を測り、はじめて聞く他人が内容理解できる内容となっているか、互いに確認し合い、最終修正を行う。

プレゼンの様子を眺めていると、プレゼンター以外の受講生のモチベーション維持が大切であることに気づいた。そこで、昨年度より、Googleフォームで学生間投票システムを作り、7段階のリッカート尺度で、自分以外のプレゼンター全員の評価を全員にしてもらった。演習用のPCで投票する者もいれば、自分のスマホで投票する者もいた。尚、この学生間投票結果は教員評価とは直接結びつきはない。 

プレゼンテーション終了後、集計をして(紙のアンケートに比べると集計作業はかなり早い)、掲示板に張り出しておく。

この学生間投票は、発表時間以外のモチベーションアップと、他人のプレゼンから学ぶ姿勢を身に着けてもらうという意味では、概ね好評を得たように思う。継続していきたい。

f:id:fukuda040416:20160603092253j:plain

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1706machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年6月号

書籍「VRインパクト(ダイヤモンド社)」でコラム「デジタルものづくり革命を推進する」が掲載されました。

f:id:fukuda040416:20170524211944j:plain f:id:fukuda040416:20170524211946j:plain

伊藤裕二著「:知らないではすまされないバーチャルリアリティの凄い世界」がダイヤモンド社より、先日発売されました。 トヨタ自動車、竹中土木、デンソーアイティラボラトリ、パイオニアなどのVR導入事例が紹介されています。

この書籍の中で、執筆させて頂いたコラム「デジタルものづくり革命を推進する」が7ページに渡って掲載されました。

伊藤さんが書かれた序章「なぜ日本からは世界的なソフトウェア企業が生まれないのか?」は自分たちの問題として考えてみるべき内容です。

ITに限らず、形のないもの(アイデア、ソフトウェア)にお金を惜しむ風土に少しでも風が吹くよう、ご笑覧頂ければ幸いです。