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都市とITとが出合うところ 第3回 針江

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」第3回。今回は、針江(滋賀県高島市)を中心に。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1406machinami_FukudaFinal.pdf

都市とITとが出合うところ 第3回 針江

近江・高島へ
湖西線を北上。先回ご紹介した堅田を過ぎると、車窓からの風景は大きく変化する。琵琶湖は南湖から北湖に入るため、湖面の占める割合が大きくなり対岸はみるみる小さくなっていく。山側は比良の山なみが琵琶湖に迫り、さながら山岳風景となる。北小松を過ぎ明神崎のトンネルを抜けると、平野がパッと広がる。琵琶湖に流れ込む安曇川、鴨川によって形成された扇状地だ。近江高島駅で下車。

大溝城跡
大溝城は織田信澄(信長の甥)が内湖・乙女ケ池を取り込んで築いた水城。明智光秀の設計といわれる(図1)。現在は天主台の石垣が残る程度だが、一つひとつの石は結構大きい。往時の威光が伺える。
 織田信長は湖東の安土城を拠点にして、湖北に長浜城、安土の対岸となる湖西に大溝城、湖南に坂本城を築き、それらを結ぶ城郭ネットワークで琵琶湖を掌握しようとした。各城間の距離を概測してみると、坂本城-大溝城28km、大溝城-長浜城24km、長浜城-安土城26km、安土城-坂本城26kmと、ほぼ同じ距離となった。城郭ネットワークは、きれいな菱形に形成されていたことがわかる。

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図1 大溝城跡

高島びれっじ
近江高島駅前は、北国街道西近江路沿いを中心に、水路で区画された町割りと古いまちなみが残る。建物は、近江商人の中でも最も古くから活躍した商人といわれる高島商人が構えた商家や蔵などだ。260年続く造り酒屋「萩の露」の軒先には緑色の大きな杉玉がぶら下がっており、新酒ができたようだ。一方で、そのまちなみが失われていく中、地元の有志が立ち上がり、旧商家を手作りで保存再生させる「高島びれっじ構想」を発案、カフェや体験施設に活かす取り組みがなされている。今から20年ほど前に始まったこの取り組みは、1号館から始まり、現在は8号館までオープンしている。1号館に立ち寄り地図を頂いてから、1号館と曳山蔵の間の路地を入っていくと、商家の敷地にあったと思われる民家、蔵、納屋などを改装して、建物の風情に似合った店舗が看板を上げていた。

オルレ
大溝城下町から琵琶湖畔へ。萩の浜から近江白浜にかけて水際に白砂青松が続く。対岸には、三上山(近江富士)、沖島長命寺山、繖山、荒神山鈴鹿山系、伊吹山などがパノラマで見渡せる(図2)。ジモティと思われる散歩途中のオジサンに出会った。日頃はここでよくグランドゴルフをするそう。何とも贅沢な環境。
 ここから琵琶湖湖岸を安曇川、新旭方面へとてくてく歩く。鴨川の橋を渡ると、大きな内湖か、と思いきや、メガソーラーだった。近江鉄道㈱が遊休地を活用するために、3.8haの敷地に約1万枚の太陽光パネルを設置したそうだ。メガソーラーの内湖に別れを告げてさらに進むと、今度は本物の「松ノ木内湖」の湿地帯。さらに、南船木集落を抜けて安曇川を渡る。安曇川では簗漁が始まろうとしていた。簗(ヤナ)とは魚を取る仕掛けのことであり、安曇川を横断する格好で扇形に簀を張り、川を上ってきた魚(アユなど)を川岸に誘導して捕らえる。この伝統的な漁法は「未来に残したい漁業漁村の歴史文化財産百選」のひとつである。
 安曇川左岸の竹林に沿って、針江を目指す。そういえば歩き出してから長い間、コンビニはおろか、自販機にも出合っていない。オルレとは、韓国・済州島の方言で「家に帰る細い道」という意味であるが、現在ではトレッキングやウォーキングを指すようになった。湖畔、田園、古い集落、竹林などを歩いているこの旅もオルレなのだろう。仲間とワイワイ歩くのも楽しいが、たまには一人で長時間歩いてみるのも中々有意義である。

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図2 萩の浜より三上山

生水(しょうず)の郷
「この地点より生水の郷です 水は宝 自然を大切に川を美しくしましょう 針江生水の郷委員会」
 針江集落入口の立て看板。針江は、比良山系に降った雪や雨が伏流水となり、200年もの歳月を経て地下から澄んだ水が湧き出す地区。水温は年間を通じて13℃であり、夏は冷たく冬は温かい。この湧き水を現在も110世帯ほどが日常生活で飲料や炊事にそのまま利用している。「カバタ(川端)」と呼ばれる仕組みであり、家屋の外の小屋にある「外カバタ」と家屋の中にある「内カバタ」がある。
 針江生水の郷委員会の有料ツアー「川端と街並コース」に参加した[1]。個人の生活空間の中にある川端を地元の方にガイドしてもらいながら、実際に利き水を体験できるプログラム(図3)。集合は針江公民館。見学カードを首からぶら下げ、水利き用に竹のコップを頂く。実はこのコップは、放置された竹やぶを集落の人々が手を加えて作ったものだそうだ。
 ガイドとゲスト3名で90分のツアースタート。目の前の針江大川には梅花藻が自生している(図4)。初夏にはホタルが舞い、盛夏には子供たちの川遊び場になるそうだ。日吉神社の前を曲がり、焼杉塀のまちなみを歩いて最初のカバタに着いた(図5)。カバタは一般的に、上水として利用できる湧水をためておく「元池」、野菜や汚れた食器を洗う水をためておく「壺池」、さらに、「壺池」から流れ出た食品残差を食べるコイ等の魚を泳がせておく「端池」の3つの要素から成り立つ[2]。端池と道端の水路はつながっている。
 早速、元池の湧き水を竹コップへ。「うまい!」。各カバタには上水検査の成績書が掲示されており安心だ。魚屋さんのカバタの脇には湧き水と普通の水道水の蛇口が並んでいる。順番に利き水。飲み比べてみるとわかりやすい。すでに数か所のカバタで湧き水を飲みなれたせいか、水道水のカルキ臭がいつも以上にきつく感じられた。
 地区内には花が溢れ、河川や水路にはコイ、フナ、ヨシノボリ、カワニナ等が生息。正伝寺の境内にはワサビやミズバショウが。また、近年では下水道の空気取り入れ口を兼ねた常夜灯が設置されたが、必要な電気は小型水力発電太陽光発電により賄っているそうだ。集落内の「生水の生活体験処」では古民家に宿泊して川端の生活体験ができる。空き家の活用も兼ねたアイデアである。

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図3 針江ツアー

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図4 針江大川

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図5 外カバタ

おわりに
今回の旅は結果的に18kmものオルレとなったが、長い距離を歩くのはちょっと、という方にはレンタサイクルをお勧めしたい。レンタサイクルは、これまで自転車を借りた場所まで戻ってきて返す、という方式が当たり前であったが、近年では自転車を借りた場所とは別の場所で返却可能な「乗り捨て制度」の採用が増えてきた。コミュニティサイクルやシティサイクルと呼ばれる。高島市では近江高島安曇川近江今津、マキノの各駅でレンタルでき、乗り捨てができる。香川県高松市では、引き取り期限の過ぎた放置自転車をコミュニティサイクル用に再利用している。
 ITは、コミュニティサイクルの利用促進のため、利用者の登録、料金決済、自転車の居場所追跡などに不可欠な存在である。実は今年4月から、大阪大学吹田キャンパス、それも私の研究室から70歩ほどのところに利用無料のコミュニティサイクル「COGOO」が登場した[3]。早速COGOOに乗ってランチへ。ネットで会員登録を済ませた後、理工学図書館前でレンタル。
 レンタルしたい自転車の番号を、スマホでCOGOOサイトに入力すると、暗証番号が表示される。その暗証番号を、サドル後ろに付けられたパネル(コグマシーン)に入力すると、コグマシーンから自転車キーが出てくる(図6)。あとは普段通り、自転車を利用(2時間以内)。
 自転車の返却は、指定された理工学図書館、本部前福利会館、体育館の3か所から選べる。返却場所でコグマシーンの「かえす」ボタンを押す。この時、返却場所が正しいかどうか位置情報をチェックしている感じ。自転車キーをコグマシーンに入れて完了。
 各地に広がるコミュニティサイクル、是非お試しを。

 

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図6 コミュニティサイクル

ルートと参考文献
近江高島駅++<徒歩>++【大溝城跡】++【高島びれっじ】++【萩の浜】++【安曇川の簗漁】++【針江・川端と街並見学】++<徒歩>++新旭駅(18.8km)

[1]針江生水の郷委員会:http://www.geocities.jp/syouzu2007/
[2]環境省平成24年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書
[3] Relations Inc.,COGOO: https://cogoo.jp/

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大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」6月号)