ふくだぶろーぐ

福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第36回 水木しげるロード(1)

水木しげるロード

鳥取県境港市水木しげるロードは、JR境港駅から本町アーケード商店街までの延長約800mの道路と沿道店舗などで構成されている。1992年、商店街の再活性化を目指して、境港市出身の漫画家・水木しげるさんの代表作である「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する妖怪などのブロンズ像を歩道内に設置し、親しみの持てる街路としての整備が開始された(図1-3)。実はオープン早々、ブロンズ像が盗まれ、そのことが全国に報道されたことがきっかけで、水木しげるロードの知名度が高まったそうだ。

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図1 妖怪ブロンズ像

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図2 沿道店舗はユーモアたっぷり

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図3 目玉おやじ街灯

その後も水木しげるロード愛する人々のたゆまぬ努力とともに、2003年には「水木しげる記念館」がオープン、「妖怪のまち」としての人気が定着してきた。さらに、「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメ、映画、そしてドラマ「ゲゲゲの女房」の大ヒットにより、2010年には過去最高となる372万人が水木しげるロードを訪れた。境港市の人口は3.4万人であるから、100倍を優に超える人々が来訪したことになる。その後も、年間200万人前後の来訪者で推移し、2016年5月には通算3000万人を突破した(図4)。

水木しげるロードのシンボルであるブロンズ像は、当初23体でスタートしたが、年々その数を増やし、現在は153体までになった。また、沿道の多くの店舗は、妖怪に関連するグッズやお土産を販売しており、妖怪の着ぐるみキャラクターも毎日登場して、「無料のテーマパーク」として賑わいをみせている(図5)。

2013年、境港市の宝である水木しげるロードの賑わいをこれからも続けていくため、市長がリニューアル事業の着手を宣言した。「誰もが訪れたくなるおもてなしとエンターテインメントのロードづくり」を基本理念として、「妖怪の魅力を堪能できる世界で唯一のロード」、「車が主役の道から人を大事にする道」としてリニューアルを実施することが決定した。 f:id:fukuda040416:20120504161308j:plain

図4 賑わう水木しげるロード(写真:境港市

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図5 鬼太郎

リニューアルプロジェクト

2014年度より、基本計画および基本設計の策定に入った。基本構想を具現化するために、主に次の内容となった。

  • 歩道:誰もが安心して安全に歩ける歩道とするために、車道を一方通行化して、さらに道路線形を蛇行させることで、変化に富む広い歩道空間を確保する。
  • 滞留スペース:拡がった歩道には、歩行者に楽しみながらくつろいでもらうため、多くの滞留スペースを設ける。この滞留スペースを活用して、ミニイベントなどを計画する。
  • 交差点:バリアフリー化を進めるため、交差点部分の車道の高さを歩道の高さに揃えて、歩道と車道の段差を解消する。
  • ブロンズ像の配置:ブロンズ像は追加しながら設置してきた結果、テーマ性のない配置となっている。さらに、ブロンズ像との記念撮影は訪問者の楽しみのひとつであるが、これに欠けた配置となっている。そこで、「水木マンガの世界」、「森にすむ妖怪たち」、「神仏・吉凶を司る妖怪たち」、「身近なところにひそむ妖怪たち」などのグループに分け直して、拡がった歩道上に再配置する。記念撮影がしやすいように、ブロンズ像の向き、間隔、背景なども考慮する。さらに、ブロンズ像を新たに18体設置することで、リニューアル完成後は171体となる。
  • 街なみの整備:水木作品で描かれた昭和の町並みなどをテーマとして、統一感のある街なみの整備の推進を目指す。
  • 夜間照明演出:水木しげるロード全線に渡り、これまでにない様々な仕掛けを施した夜間照明演出を実施する。

2015年度は、詳細設計と並行しながら、リニューアルプロジェクトの内容を最大限に盛り込んだ社会実験を実施した(図6)。これは、リニューアル後の状況を模擬実験すると共に、実験で得られた結果を詳細設計に反映させて、地元住民の方などとの合意形成を図るためである。主な内容は以下の通りである。

  • 道路空間の再配分調査:車道を2車線から1車線に変更して、歩道を拡げる。拡がった歩道には、歩行者の滞留スペースを確保して賑わいを創出する。自転車通行帯を設けて、歩車分離を図る。
  • 一方通行等調査:区間内は一方通行として、う回路を設定する。車道には、スラローム、ハンプ、狭さくを設けて、車両の速度低減を図る。沿道商業施設には、必要な荷捌きスペースを確保する。
  • 賑わいの創出:拡幅した歩道の滞留スペースの一部に人工芝を敷き、ミニイベントを実施する。その他の滞留スペースにはテーブル、ベンチを設置して、休憩場所として活用する。車道と歩道の仕切りには花のプランターを設置する。

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図6 社会実験の様子(写真:境港市

©水木プロ

この翌年となる2016年度、筆者は、この水木しげるロード・リニューアルプロジェクトに参加させて頂くことになった。次号でご紹介したい。

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1703machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年3月号

都市とITとが出合うところ 第35回 VRサマーワークショップ(3)

エクスカーション in 大阪

VRサマーワークショップ最終回。中央公会堂での最終プレゼンテーションが終わると、エクスカーション in 大阪へ。OSAKA旅めがね特別企画「プレミアム藤田男爵ツアー」に参加した。

このツアーは、東洋紡南海電鉄毎日新聞関西電力の創業に指導的役割を果たし、社会貢献で男爵にまでなった藤田伝三郎の足跡を、五感で堪能するもの。エリアクルー・上田眞由美さんのガイドにより、まずは、大阪水上バス淀屋橋港からアクアライナーに乗りこんで、土佐堀川から大川を遡上する。難波橋、天神橋、天満橋をくぐり、京阪電車の向こうに大阪城を眺めて、さらに、銀橋をくぐる。OAPでUターンして、普段はオープンしていない桜ノ宮港で下船(図1)。「網島御殿」といわれた旧藤田邸の地に船で乗りつける贅沢さ。 

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図1 桜の宮港にて

太閤園の敷地に入ると、昭和初期に世界的音楽家として活躍した貴志康一氏の祖父と父が再建した江戸時代の茶室「松花堂」を訪問(図2)。この茶室での茶事で使われた弁当が、松花堂弁当の始まりなのだそうだ。続いて、小林佳弘氏(アリゾナ州立大学/米国)が参画した宴会場「桜苑」での3Dプロジェクションマッピングなどを見学して(図3)、いよいよ、夕食会場となる「紹鴎の間」へ。旅めがねのツアーはこの時点で終了したのだが、旅めがねのメンバーにも夕食会に参加して頂いたので、夕食会はWorld16と地元のオモロイ人々との交流会となった。土井博子さんの箏(こと)の演奏が始まる。小林卓司さんセレクトの手ぬぐいは日本らしいお土産。最後は、山根秀宣さんの掛け声のもと、World16やフォーラムエイトのメンバーも前に出て、皆で大阪締め(図4)。

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図2 松花堂(360度カメラ)

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図3 桜苑:3Dプロジェクションマッピング

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図4 太閤園「紹鴎の間」:大阪締め

 

エクスカーション in 姫路

翌日は朝からバスに乗って、播磨の国へ。姫路城で納屋工房・長谷川香里さん、三川屋・内山猛雄さんと落ち合い、平成の大修理を終えた姫路城を案内して頂いた(図5)。

昼食は、明石・魚の棚近くで玉子焼(明石焼)。そして京コンピュータ、バンドー神戸青少年科学館を巡る(図6, 7)。神戸ビーフがワークショップ最後のパーティとなった。

「有朋自遠方來。不亦樂乎。(朋あり遠方より来る、また楽しからずや)」をたっぷりと体感させて頂いた、VRサマーワークショップ。2017年はどこで開催されるのか、楽しみである。f:id:fukuda040416:20160715121037j:plain

図5 姫路城

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図6 京コンピュータ

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図7 バンドー神戸青少年科学館

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1702machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年2月号

都市とITとが出合うところ 第34回 VRサマーワークショップ(2)

大阪大学サイバーメディアコモンズ

VRサマーワークショップの会場は大阪大学サイバーメディアコモンズ。学生のためのアクティブラーニングスペースとして、2015年5月にオープンした。6.5m×2.4mの大画面で24面フルHD画像を表示できる大規模立体可視化システム、可視化システムから3次元モデルを生成できる3Dプリンターなどが置かれている。

サマーワークショップ期間中に行ったサイバーメディアセンターのツアーでは、大阪大学 安福健祐 講師の案内により、大規模立体可視化システムの大画面に、大阪駅の地下街浸水シミュレーションやキトラ古墳の超精細VR映像をデモンストレーション。さらには、ベクトル型スーパーコンピュータとPCクラスタを見学させて頂いた。

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サイバーメディアコモンズ:大規模立体可視化システム

World16のプロジェクト提案

2日間で実施されたWorld16の各々のメンバーのプロジェクトの成果発表が大阪市中央公会堂特別室で開催された。

  • 楢原太郎氏(ニュージャージー工科大学/米国):VRをコントロールするデバイスを自主制作する方法として、Arduinoというマイコンボードを使い、センサーからのデータを取得しながらVRアプリを操作するプログラムの作成方法を紹介する。
  • Matthew Swarts氏(ジョージア工科大学/米国):WebSocketを使って、ブラウザから非同期にVRアプリと通信する方法について。この方法によりiPhoneなどのスマートフォンジャイロスコープで、VRツールを操作できるようになるため、エンターテイメント分野など幅広い応用が期待される。
  • Kostas Terzidis氏(ハーバード大学/米国):iPhoneAndroidのアプリ開発・販売のビジネスを始める際のプランニングとマネジメントのためのツール群について。
  • Marcos Novak氏(カリフォルニア大学サンタバーバラ校/米国):人工知能を用いたVR空間構築手法について、近年注目されているディープラーニングを使って、ゴッホなどのアートスタイルを学習した人工知能にVR空間を生成させる手法を紹介する。
  • Thomas Tucker & Dongsoo Choi氏(バージニア工科大学/米国):複数の写真からの3Dモデルを作成するツール(SfM: Structure from Motion)について、より精度の高いデータをSfMで作成するために注意すべき点について紹介する。
  • Ronald Howker氏(アルバータ大学/カナダ):浮世絵師・歌川広重東海道五十三次をVRで表現するプロジェクトについて。
  • Claudio Lebarca氏(カトリック大学/チリ):チリのチュキカマタ鉱山(世界最大の露天掘りの銅山)では、自動運転されたトラックを使って、採掘した銅鉱石を運搬するシステムを構築する国家プロジェクトが進められている。そのシステム構築のために鉱山内部のトンネル群をVRで可視化するためのデータ生成方法を紹介する。
  • Sky Lo氏(ヴィクトリア大学ウェリントンニュージーランド):オンラインでデザイン検討できるCADツールで生成した建築プランをVR化する方法を紹介する。
  • Amar Bennadji(ロバートゴードン大学/イギリス):点群データを用いて、歴史的な建造物のアーカイブを作成する方法について、点群データの修正や色補正などの方法も紹介する。
  • Paolo Fiamma氏(ピサ大学/イタリア):ピサ大学で始まる新しいBIM(Building Information Modeling)教育の概要、および、VRとBIMなどを統合するためのデータ変換とその方法を紹介する。
  • Wael Abdelhameed氏(バーレーン大学/バーレーン):建物内部のエネルギー効率の可視化研究プロジェクトについて、VR空間を探索しながら、各部屋のエネルギー効率等の計測データを表示させるためのシステム構築方法を紹介する。

 最後に、360度カメラで特別室の天井画や装飾と共に記念撮影してワークショップは終了した。

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大阪市中央公会堂特別室

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最終プレゼンテーション

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最終プレゼンが終わり、集合写真

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1701machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年1月号

都市と建築のブログ Vol.36: 郡上八幡:水とおどりの都 up!

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旧年中は大変お世話になりありがとうございました。2017年もどうぞよろしくお願いします。「都市と建築のブログ」第36回目(2017年1月号)は郡上八幡をご紹介します。

NAVERまとめにも都市と建築のブログの過去記事をアーカイブしています。

matome.naver.jp

■都市と建築のブログ バックナンバー

 

屋外LEDデジタルサイネージ、建築学会情報シンポ、そしてconVR 2016 in 香港

屋外公共空間にデジタルサイネージが増えてきています。デジタルサイネージは広告ですから気持ちよく見てもらってなんぼですが、まぶしさの配慮がなされていなかったり、コンテンツによっては不快感を感じるものがあるようです。

ディスプレイの光源はLEDであり、技術進歩と共に、高い輝度のLEDが使われはじめています。LEDの光源輝度が高まるに伴い、人々がまぶしいと感じることはないか、不快と感じることはないか、一定の条件下で実験を行い、整理した論文が下記となります。

An Experiment of Psychological Impact of LED Display
Takanori Matsui, Tomohiro Fukuda, Shiho Nagamachi
The 23rd International Display Workshops/Asian Display 2016 proceedings, vol.23, UXC2/VHF2-3, 35-37, 2016.12

大阪市では、キタの大阪駅前とミナミの難波駅前に、デジタルサイネージを設置する際には、事前に審査する制度が設けられています。これは、LEDの輝度値だけでなく、コンテンツの質を含めて、総合的に評価しようというものです。

大阪市市政 大阪市建築美観誘導制度におけるデジタルサイネージ等取扱要綱

先日、JR大阪駅から阪急百貨店への横断歩道上に設けられたデジタルサイネージは、この制度により設置されています。画像や映像のグラフィックデザイン、そこで使われている色、画像と画像を切り替える際のトランジッションなどに配慮が見られ、広告の役割を果たしながらも一定の質が確保されたデジタルサイネージだと思います。

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他の近況を。12月8日・9日は、東京で開催された、第39回 日本建築学会 情報・システム・利用・技術シンポジウム(情報シンポ)に参加。研究室から、4編の論文を発表しました。驚いたのは、論文発表会場がほぼ満員だったことです。このシンポジウムにはここ20年ほど参加していますが、論文を聴講される方が一番多かったように思いました。大学関係者だけでなく企業の方も多く来られていました。環境シミュレーション、AR・VRというテーマが建築・都市分野でも広く興味を持ち始められていることなのかもしれません。

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環境設計支援手法としての緑視率測定と拡張現実機能を有するDiminished Realityシステム
井上和哉・福田知弘・矢吹信喜・Ali Motamedi
日本建築学会 第39回情報・システム・利用技術シンポジウム論文集(報告),97-100,2016.12

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Structure from Motionにより生成した三次元モデルを含む都市空間Virtual Realityの構築 境港市水木しげるロードリニューアル計画を対象として-
福田知弘・灘 英樹・足立晴夫・清水駿太・武井千雅子
日本建築学会 第39回情報・システム・利用技術シンポジウム論文集(報告),133-136,2016.12.

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室内温熱環境設計フィードバックのためのCFDとARの統合 -緑化を対象にして-
横井一樹・福田知弘・矢吹信喜・Ali Motamedi
日本建築学会 第39回情報・システム・利用技術シンポジウム論文集(報告),89-92,2016.12

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建築デザイン検討のためのSLAMを用いた屋外型ARシステムの開発
三宅宗俊・福田知弘・矢吹信喜・Ali Motamedi
日本建築学会 第39回情報・システム・利用技術シンポジウム論文集(報告),137-140,2016.12

翌、
12月12・13日には、香港で開催された、conVR 2016に参加。研究室から、4編の論文を発表しました。こちらも世界中から沢山の参加者がありました。私は大学での講義の合間に香港を訪問することになったため、12日の夜行便で香港に入り、13日の会議に出席して(セッションの司会を務めました)、13日の深夜便で大阪に戻って14日の1限から講義する、という強行スケジュールとなりました。学生たちの発表を聞き逃してしまいましたが、皆、英語でのプレゼンをしっかりと準備して、本番に臨んでいました。私自身も参加してみて、参加する意義を改めて感じました。

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Integrating Building Information Modeling and Game Engine for Indoor Lighting Visualization
Worawan Natephra, Ali Motamedi, Tomohiro Fukuda and Nobuyoshi Yabuki
Proceedings of the 16th International Conference on Construction Applications of Virtual Reality (conVR2016), 605-618, 2016.12

Post-Demolition Landscape Assessment Using Photogrammetry-based Diminished Reality (DR)
Kazuya Inoue, Tomohiro Fukuda, Nobuyoshi Yabuki, Ali Motamedi and Takashi Michikawa
Proceedings of the 16th International Conference on Construction Applications of Virtual Reality (conVR2016), 689-699, 2016.12

Polygonization of Point Cloud of Elongated Civil Infrastructures Using Lofting Operation
Nao Hidaka, Takashi Michikawa, Ali Motamedi, Nobuyoshi Yabuki and Tomohiro Fukuda
Proceedings of the 16th International Conference on Construction Applications of Virtual Reality (conVR2016), 677-688, 2016.12

Development of a Simplified Acoustic Visualization System Using Kinect Sensors
Ryo Yamasaki, Nobuyoshi Yabuki, Tomohiro Fukuda and Takashi Michikawa
Proceedings of the 16th International Conference on Construction Applications of Virtual Reality (conVR2016), 570-580, 2016.12

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深夜に香港に入り、早朝散歩。12月とは思えない温かさ。目の前には、”♪Slow Boat To China~"

www.youtube.com

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香港夜景。夜8時からの、Symphony of Lightsに初めて出会えました。1.5kmほど離れた香港島と九龍を挟んで、音楽に合わせて、沢山のビルからのレーザー光線が放たれた。

建築学会 情報シンポが近づいてきました。

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39年目を迎えた、情報・システム・利用・技術シンポジウム(主催:日本建築学会 情報システム技術委員会)が12月8日(木)、9日(金)の2日間、建築会館(田町)で開催されます。お会いできれば幸いです。

申込方法/定員― WEB申込み(事前申込み優先。定員に達しない場合の当日申込みは会場先着順)/200名 

goo.gl

シンポジウムテーマ「オープン・イノベーション時代の個人と社会」

建築情報学セミナー1:12月8日(木)15:00~18:00

  • 淺間 一(東京大学工学部精密工学科/サービスロボティクス、自律分散・空間知能化)
  • 大江 匡(プランテックアソシエイツ/建築家)
  • 妹尾堅一郎(産学連携推進機構理事長/問題学・構想学、コンセプトワーク、ビジネスモデル論・知財マネジメント)
  • 中島正愛(本会会長、京都大学/鉄骨構造、建築構造物の耐震)

建築情報学セミナー2:12月9日(金)13:30~16:30

★建築情報学セミナー1・2はリアルタイム動画配信があります。無料です。


Enterprise Video Solutionswww.ustream.tv

Twitterアカウント(ハッシュタグ #情報シンポ

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論文/報告発表講演

防災、行動分析、都市、設計・計画・スマートハウス、環境シミュレーション、AR・VR

小委員会企画研究集会・オーガナイズドセッション

  • アルゴリズミック・デザイン ―実践とこれから
  • 建築情報教育の今
  • GISの地域空間情報による計画設計手法への展開
  • 知的情報処理技術の応用と展開
  • デザイン科学の方法と展開

研究室からは下記の4件を発表します。聴講いただき、忌憚のないご意見を頂ければ幸いです。

  • 環境設計支援手法としての緑視率測定と拡張現実機能を有するDiminished Realityシステム:井上和哉・福田知弘・矢吹信喜・Ali Motamedi(12月9日 9:30~10:00)
  • Structure from Motionにより生成した三次元モデルを含む都市空間Virtual Realityの構築 -境港市水木しげるロードリニューアル計画を対象として-:福田知弘・灘 英樹・足立晴夫・清水駿太・武井千雅子(12月9日 10:50~11:10)
  • 室内温熱環境設計フィードバックのためのCFDとARの統合 -緑化を対象にして-:横井一樹・福田知弘・矢吹信喜・Ali Motamedi(12月9日 11:30~11:50)
  • 建築デザイン検討のためのSLAMを用いた屋外型ARシステムの開発:三宅宗俊・福田知弘・矢吹信喜・Ali Motamedi(12月9日 12:10~12:30)

都市とITとが出合うところ 第33回 VRサマーワークショップ(1)

VRサマーワークショプが大阪にやってきた!

7月11日から15日にかけて、大阪大学・サイバーメディアセンターを舞台として、国際VR(Virtual Reality: 人工現実感)シンポジウム 第7回サマーワークショップイン大阪が開催された。VRサマーワークショップは、世界各国から建築・建設・都市系の研究者・実務者が集まる研究会「World16」のメンバーが、VRソフトUC-win/Roadなどの3Dデジタル技術を如何に発展・実用化していくかを提案・議論する場である。その年の11月に東京で開催される国際VRシンポジウムでの成果発表をひとつの目標としている。

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VRサマーワークショップ集合写真(大阪大学サイバーメディアセンター)

これまで、アメリカ・フェニックス(2008)、箱根(2009)、アメリカ・サンタバーバラ(2010)、イタリア・ピサ(2011)、ハワイ(2014)、そして、ギリシャテッサロニキ(2015)で開催されてきた。そして今年は、筆者の大阪大学を中心に実施することになった。

近年、VRサマーワークショップの参加者は、ワークショッププログラムの多様化によって、World16や事務局スタッフに加えて、特別ゲストやコンペの審査員やその受賞者が参加するスタイルとなってきた。一方で、3Dデジタル技術の新たな研究開発、実用化への見通しを、World16のメンバーで時間をかけて議論したいという想いが芽生えてきた。そこで、今年のVRサマーワークショップは、本来の姿に立ち返ってみるべく、World16とフォーラムエイトのスタッフを中心に構成することになった。最終的に参加したWorld16メンバーは14名と、近年まれに見る多さとなった。

筆者自身、これまで、VRサマーワークショップには、大阪から海外に出かけて参加してきた。今回、世界各地で出会ってきたWorld16のメンバーが、アメリカ、カナダ、イギリス、チリ、ニュージーランドバーレーンなどから、忙しい合間を縫って、大阪にわざわざ来てくれるのは嬉しい限りである。かつて、大阪大学吹田キャンパスの隣で開催された大阪万博のテーマソング「♪こんにちは こんにちは 世界のひとが~」のような気持ちである。

個人的に、海外を訪問した際の楽しみのひとつは、地元の人々と出会えることである。オモロイ地元の人々と出会えれば、「また行きたい!」と思えるし、その逆もまた然りである。VRサマーワークショップの終盤には、エクスカーション(研修旅行)を企画することになっており、その中で、地元のオモロイ人々と交流してもらえれば、と考えた。 

イヴ

7月11日の夜、明日から本番となるVRサマーワークショップに向けて、メンバーが世界中から大阪に集まってきた。デジタル世界に浸かる前に、まずは大阪のフィジカルな広さを楽しんでもらうべく、万博記念公園のEXPOCITYにオープンしたての、日本一の観覧車「Osaka Wheel」へ。ゴンドラの床面はシースルーであり、空中に浮かんでいるかのような雰囲気になってくる。不思議なもので、リアルな大阪の夜景がVR世界に見えてくるものだ。

f:id:fukuda040416:20160711204215j:plain日本一の観覧車

ワークショップ本番

7月12日からはワークショップがいよいよスタート。オープニングセッションとして、World16の代表を務める小林佳弘氏(アリゾナ州立大学/アメリカ)より、World16の活動実績紹介と今回のミッションがメンバーに提示された。

ミッションは、これから48時間かけて、各メンバーが行っているプロジェクトのチュートリアル・ビデオを構築するものである。3Dデジタル技術を学ぼうとする人や、これからイノベーションを起こそうとする人々のための学習教材となることを期待している。2日後となる14日午後にはチュートリアル・ビデオを完成させ、大阪市中央公会堂特別室でプレゼンテーションを行う計画も披露された。続いて、事務局を務めるフォーラムエイト代表取締役伊藤裕二氏がウェルカムスピーチを行い、筆者がホスト役として大阪、大阪大学大阪弁について紹介した。そして、World16各メンバーからの技術提案が始まり、丸2日間のワークショップがスタートした。

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f:id:fukuda040416:20160713001856j:plainワークショップ風景

f:id:fukuda040416:20160713202044j:plain回転寿司はやはり発祥の地・大阪で

f:id:fukuda040416:20160713221833j:plainホテルに戻ってもワークショップ

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1612machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年12月号

都市とITとが出合うところ 第32回 香港中文大学 国際研修プログラム(3)

ISP@大阪: 後半

香港中文大学 中國城市住宅研究中心が企画するInternational Study Programmes(ISP: 国際研修プログラム)の一環で、今年5月、香港の教員・学生たちが大阪に1週間ほど滞在された、ISP@大阪。本稿では、後半のハイライトをご紹介しよう。

 

ものづくり: 太陽工業 枚方工場(2016/5/20-21)

太陽工業(株)は、大型膜面構造物(テント構造物)のメーカー。今回訪問した枚方工場は、大阪万博を機に開設され、アメリカ館など過去に類を見ないテント構造物の誕生に貢献した。東京ドームの大屋根、膜天井など、膜素材の透光性や軽量性を活かした製品を開発している。

ISP@大阪では、何と、工場に宿泊させて頂くことになった。そのため、参加する学生たちに、「Make Our Own Pavilion Project」と題して、3時間で制作可能なパビリオンのコンペを実施した。自分で自分の寝床をメンバーのことも考えながらデザインするのである。結果、香港と日本から計2案のデザインが提案され、実現性などを考慮して最終案が決まった。パビリオンは工場内に設置するもので、形状は四角錐であり、屋根面を三角形に裁断し、両端を縫製し、4枚をグルリとつなぎ合わせ、天井から吊るし、底の四隅を引っ張る構造である(図1)。研修本番では、膜素材の裁断、縫製、そして、設営をプロに教えてもらいながら行った。パビリオンを吊るす作業の途中で(図2上)、テントの入り口を裁断し忘れたことに気づき、学生たちが、形と大きさを膜素材に直にスケッチすることなど、現場研修ならではであった(図2中)。

夕方には、ペアインタビューを実施した。これは、太陽工業の社員さんとISP@大阪の学生たちが2人1組となり、自己紹介したり、相手方の仕事や研究内容のインタビューを英語で行うもの。夜のバーベキューパーティでは、それぞれのペアが登壇して、相手方を他己紹介した。私も参加させて頂いたが、相手方となったベテラン社員さんは、東京ドームの大屋根プロジェクトを製品開発から現場施工まで携わられた方であり、興味深いお話であった。

工場近くの銭湯に入った後(これもメンバーに好評であった)、就寝して、翌日はいよいよMAKTANK ワークショップ。MAKTANKとは、役割を終えた膜素材を手入れし、世界で一つしかないカバンとして蘇生させようという、リサイクル・プロジェクト。9種類のバッグのテンプレートから一つを選び、そのテンプレートに見合った膜素材を調達する。一口に膜素材といっても、材質、手触り、模様、色など多種多様である。膜素材を調達したら、テンプレートに合わせて裁断する。ワークショップはここまでであり、縫製はプロの方にお願いした(図2下)。

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図1 太陽工業ワークショップ(完成したパビリオン)

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図2 太陽工業ワークショップ(上: 吊り作業中;中:入口の現場デザイン;下: 完成したMAKTANK)

 

景観まちづくり:永楽荘桜自治会(2016/5/21)

MAKTANKワークショップを終えて、路線バスと電車で枚方から豊中へ。桜自治会は、低層戸建住宅が建ち並ぶ良好な住宅環境を保全するため、継続的なコミュニティ活動(夏祭り、もちつき大会、自治会バザー、古紙等集団回収、清掃活動など)に加えて、土地利用のルール作りを長年にわたり行われてきた。ISP@大阪のメンバーにとって、住宅地に足を運び、地元住民の話の聞く機会は中々ないと考えて、企画した。当日は、藤井自治会長をはじめとする自治会メンバーと豊中市役所の方々に出席して頂いた。

1996年に自治会で作られた景観形成協定では、建物用途、敷地面積、建物高さ、建物意匠、敷際の演出、広告物、迷惑駐車防止、ごみ置き場清掃、そして、住区のシンボルである桜並木の保護について取り決められてきた。そして、景観形成協定の有効期限となる2016年が近づいてきた2012年頃より、今後の運用方針について、自治会で議論と周知が重ねられ、土地建物所有者に対するアンケート調査がなされてきた。

結果、建物用途、敷地面積、建物高さについては8割の賛同が得られたため地区計画(案)として、建物意匠(建物の屋根・外壁や塀の色)については景観計画 都市景観形成推進地区(案)として、自治会より市に提出された。緑化、擁壁の配置については8割の賛同が得られなかったため景観形成ガイドラインで運用することとされた。2015年、豊中市は、自治会より提出された地区計画、都市景観形成推進地区を決定した。桜が咲き誇る時期に、また来たいものである(図3)。

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図3 永楽荘 桜自治会館

 

大阪のまち歩き:野田(5/22)

ISP@大阪で、大阪をじっくりと歩いてもらいたい。そんな想いを、NPO法人 もうひとつの旅クラブに相談したところ「香港には無さそうな大阪らしいテーマが良い。ネタがディープ過ぎると初めての方には面白いと思ってもらえないかもしれない。メンバーは建築や都市計画を志す学生たちも多いので、JR大阪駅からたった2駅なのに古い町並みが残って珍しい、野田が良いのでは?」というアイデアが出た。確かに、高層ビルが立ち並ぶ香港都心に、野田のような長屋と路地は見たことがない。日本のお地蔵さん文化を伝えるにも丁度いい。「ななとこまいり」を企画・運営されている野田まち物語さんに旅クラブから相談して頂き、野田まち歩きの企画が実現した。

「ななとこまいり」はお地蔵さんを七つお参りすると願い事が叶う、という野田に古くから伝わる幸せの言い伝え。集合したJR野田駅で各自お願いごとを用意してから出発。路地を歩きはじめると、長屋に早速出会う。岸田さんによる長屋の解説が始まる。端に近い長屋の入り口には赤いランプが付いている。「このランプの付いているお宅は何かわかりますか?」鈴木さんが尋ねる。こうして、野田のガイドツアーは進んでいった(図4)。

お地蔵さんの前に来ると、鈴木さんがツアーを代表してお賽銭を入れてお参りする。そして小話が始まる。例えば、玉河塩屋地蔵の脇には赤い消火器が置かれてあるが、この消火器は実はお賽銭入であることなど。

古い民家を改修してデイサービスに使われている、ななとこ庵に立ち寄り、野田の歴史とお地蔵さん文化についてお話を伺う。浪花屋本店では、ななとこまんじゅうの試食をさせて頂いた。

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図4 野田のまち歩き

 

おわりに

野田まち歩きの夜は、香港中文大学、阪大OB&現役、もうひとつの旅クラブ、野田まち物語などのコミュニティが、古民家カフェに集まって交流パーティが開かれた。その後、中之島公園へ。丁度、満月の夜。風も気持ちよく、大阪都心なのに静かで、気持ちのいい時を過ごすことができた。野田締めで、打ち上げた。

ISP@大阪の準備や実施にあたり、IT(Information Technology)の恩恵に預かったことは言うまでもない。まず、IT社会でなければ、ISPの依頼自体が来なかったであろう。であれば、今回のような新たな出会いや数多くの研修はできなかった。準備にあたっては、香港中文大学と大阪大学、各受入先と大阪大学とのコミュニケーション手段には、主にメールを用いたが、時には、Skypeで遠隔会議をしたり、SkypeFacebookメッセンジャーでチャットしながら、メールのやり取りでは困難な、細かなニュアンスを確認した。公共交通機関を使って旅程を組むために、乗換案内や路線図で、ルートと運賃を調査できた(特に、路線バスが調査できたことは役立った)。待ち合わせ場所を共有するために、地図や住所だけでは迷子になってしまうので、Google ストリートビューを活用した。作成したBookletや撮影した写真の共有は、オンラインストレージや写真共有サイトを活用した。英単語が思いつかない時や、英語ではなく漢字で伝えた方が効果的な場合には、Google 翻訳を活用した(日<->英、日<->中)。

スマホWi-Fiなどの発達により、出先のモバイル環境下においても、情報検索やメンバーとのコミュニケーションがかなり便利になったことを再認識した次第である。

 

謝辞

太陽工業(株)、永楽荘桜自治会、豊中市都市計画課、野田まち物語、NPO法人 もうひとつの旅クラブ、ご協力頂いた皆さまには大変お世話になりました。感謝申し上げます。

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1611machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年11月号

都市と建築のブログ Vol.35: メルボルン:マルチカルチャー up!

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「都市と建築のブログ」第35回目(2016年10月号)はオーストラリア・メルボルンをご紹介します。

NAVERまとめにも都市と建築のブログの過去記事をアーカイブしています。

matome.naver.jp

■都市と建築のブログ バックナンバー

 

都市とITとが出合うところ 第31回 香港中文大学 国際研修プログラム(2)

ISP@大阪
香港中文大学 中國城市住宅研究中心が企画するInternational Study Programmes(ISP: 国際研修プログラム)の一環で、香港の教員・学生たちが5月に1週間ほど来阪されることになり、ホスト役を仰せつかった。このISP@大阪のテーマは、4月に香港で開催されたISP@香港「Envision Age-Friendliness in Hyper-Dense Hong Kong(超濃密な香港で高齢者への優しさを描く)」の延長線上にある。

研修のキーワードとして、香港側より以下が提案された。日本における高齢者に優しいデザイン、質の高いコミュニティデザイン、コミュニティと建築・都市デザインとの統合の方法、歩いて暮らせる都市の体験、地元の人々との交流、グリーン建築、水や緑の優れた利用など。これを受けて、大阪側で、1週間に渡る研修プログラムの検討、訪問先の調整、大阪側の参加者募集、ブックレットの作成などを準備していった。大阪側から香港側に提案した特筆すべき内容を挙げておこう。1) ホテルから訪問先への移動手段としてマイクロバスをチャーターすることが一般的だが、日本の公共交通を体感してもらうべく、地下鉄、JR、私鉄、路線バスなどを移動手段としたこと。2) わざわざ大阪に来なくてもインターネットなどで得られるような情報提供は極力避け、大阪・関西の地元メンバー、コミュニティと直に触れ合ってこそ得られる内容としたこと。3) 訪問先は、大阪・関西になじみ深い企業・メンバーにこだわったこと。

本稿では、前半のハイライトをご紹介しよう。

グリーン建築ツアー1: NEXT21(2016/5/17)
NEXT21は、大阪ガス(株)が1993年から続けている集合住宅の実験プロジェクト。近未来の都市居住ライフスタイル、環境・エネルギー面の取り組みなどの研究を行うために、大阪ガスの社員とその家族が実際に住んでいる。第1フェーズ(1994-1998)、第2フェーズ(2000-2004)、第3フェーズ(2007-2011)と3回の居住実験フェーズを経て、現在は第4フェーズ(2013-)を迎えている。第4フェーズでは、2020年頃までの都市型集合住宅を前提として、「環境にやさしい心豊かな暮らし」を追求している。そのため、「人と人のつながりの創出」「人と自然の関係性の再構築」「省エネ・スマートな暮らしの実現」の具現化に取り組んでいる。

具体的には、エネルギーシステムの実験としては、燃料電池をはじめとするガスコージェネレーションシステムを集合住宅で高効率に活用するために、SOFC(Solid Oxide Fuel Cell: 固体酸化物形燃料電池)住戸分散設置とエネルギー融通、デマンドレスポンス対応と逆潮運転、停電時自立システムの構築、HEMSの導入、再生可能エネルギーとの組み合わせなどを実施している。また、住まい・住まい方の実験として、現代家族の持つ課題への対応や都市緑化の促進のために、中間領域の実験、2020年の住まいの提案、省エネライフスタイルの醸成、緑地マネジメント実験などを実施している(図1)。

NEXT21は竣工してから早くも20年が経過し、類似の実験施設は他でも増えてきつつあるものの、大阪の都心で家族が実際に生活されている実験を続けられていることが、見学者にとって大きなインパクトであった。また、NEXT21の近くには、緑が多い大阪城公園そして上町台地があるのだが、鳥が運んできたと思われる種子がNEXT21の敷地に落ち、そこから芽が出た樹木が成長していた姿が印象的であった。

f:id:fukuda040416:20160517105740j:plainf:id:fukuda040416:20160517110548j:plain図1 NEXT21 

グリーン建築ツアー2: ダイビル本館(2016/5/17)
ダイビル本館は、賃貸オフィスビルの先駆けとして、1925年に完成。完成2年前に発生した関東大震災の教訓を生かし、大阪では最初に耐震構造を採用した。

今回の建替えは、建築主ダイビル(株)のアイデンティティとしての外観保全という強い想いに、最新の建築と設備の技術がうまく融合したプロジェクトであり、CASBEE大阪 OF THE YEAR 2013 最優秀賞を受賞されている(CASBEE Sランク)。

低層部は、大正時代の旧ビルの意匠を、実際に使われていたレンガ・石材等を再利用しつつ再現を試みており(中央玄関に飾られた「鷲と少女の像」、ギリシャ風彫刻が施された1階正面の円柱・角柱(播州竜山石を使用)も)、中之島の歴史的景観の継承を目指している(図2)。

高層部は石材フィンを外付けマリオンとしたカーテンウォールとして、日射をコントロールしている。外装には、Low-Eガラスを全面採用しており、特に西面はエアフローウィンドウとして空調負荷を抑制している。

外構には、都心の貴重な緑となり四季折々の表情を醸し出す中之島四季の丘が整備されている。また、ビルの冷暖房熱源として使用する全ての冷温水は、河川水を利用した地域冷暖房プラントから供給されている。メンバーが熱心に沢山質問をしていたのが印象的であった。

f:id:fukuda040416:20160517140239j:plainf:id:fukuda040416:20160517125710j:plain図2 ダイビル本館 

グリーン建築ツアー3: YANMAR FLYING-Y BUILDING(2016/5/19)
2012年に創業100周年を迎えたヤンマー(株)。YANMAR FLYING-Y BUILDINGは新しい本社社屋として、食とエネルギーのこれからを考え、自然との共生を追求したアイデアと技術を結集させて完成した。おおさか環境にやさしい建築賞 大阪市長賞を受賞されている(CASBEE Sランク)。

船のような特徴的なビルのエントランスからエレベーターに乗ると、エレベーターの中から壁面緑化が楽しめる。向こうには赤い観覧車。かなり高い位置まで緑化されており、大気汚染物質の吸着や都市景観の向上に寄与していることが窺える。11階の総合受付のディスプレイには、自家発電稼働率とCO2削減率がリアルタイムに大きく映し出されている。

オフィスフロアを垂直につなぐ象徴的な赤い螺旋階段はエコシリンダーと呼ばれ、自然換気システムから取り入れた外気の通り道にもなっている。屋上には、同社のコージェネレーションシステムとGHP(Gas Heat Pump air conditioning systems)、太陽光採光システムが設けられていた(図3)。

ヤンマーは、農業・漁業にも深く関わってきており、生産者のこだわりを食材に取り入れ「一汁三菜」メニューが提供される社員食堂が設けられている。食堂中央には、屋上庭園が見え、ハチの巣箱が置かれていた。ここに、20万匹もミツバチが居るいるとは。

f:id:fukuda040416:20160519102238j:plainf:id:fukuda040416:20160519104814j:plain図3 YANMAR FLYING-Y BUILDING 

元気なコミュニティと自然共生: 近江八幡(2016/5/18)
滋賀県近江八幡市へ。近江八幡駅でレンタ・ママチャリして、八幡酒蔵工房へ向かう。駅近辺は現代的な建物が並んでいるが、市役所を過ぎ、八幡商業高校のグラウンドを過ぎると旧八幡地区に入る。

八幡酒蔵工房に到着するや否や、まずは、ボランティアガイドによる旧八幡地区のまち歩き。ヴォーリズ建築第一号であるアンドリュース記念館、重要伝統的建造物群保存地区のまちなみ(新町筋、八幡堀周辺、永原町筋)などを巡った。八幡酒蔵工房に戻り、いよいよ、そば打ち体験。そばを自分で作らないとお昼ご飯抜きだよ、と事前告知(笑)。2人一組になって、先生のレクチャーの元、そば粉を練るところから作りあげた。アユや地元野菜の天ぷらと共にランチ(図4)。

ランチを終えると、ママチャリに再び乗って、ツッカーハウス、五葉館を見せて頂いた後、いまさかPJの地へ向かう。いまさかPJは、八幡山の景観を良くする会、近江八幡おやじ連の有志により設立された。2005年から継続的に活動されている八幡山の間伐作業で出てきた、間伐竹の再生活用を実践することなどを活動目的としている。ママチャリを止めて畦道を歩いていくと、そのうち畦道が途絶えて草むらとなり、いきなり細い水路が現れた。細い水路の向こうから、派手なカヌーに乗ったおじさんがやってきて、荷物ともども順番に乗せられ、対岸に渡る。この、いまさかPJの地には、橋は架かっていないので、舟を使うしかない。トイレはバイオトイレ。いきなり、自然の真ん中に放り込まれた感じ。実は、日本の重要文化的景観のエリア内。

ここから、和船とカヌーを交互に乗せてもらう。和船はエンジン付きなので、権座を眺めながら、西の湖までやってこれた。向こうに、安土山が見えてきたので、VR安土城タイムスコープを使って、往時の姿をAR体験。カヌーを漕いでみると、丁度、田植えのシーズンで水が濁っており、東南アジアのようであった。 

f:id:fukuda040416:20160518103743j:plainf:id:fukuda040416:20160518115356j:plainf:id:fukuda040416:20160518154902j:plainf:id:fukuda040416:20160518174152j:plain図4 近江八幡 元気なコミュニティと自然共生

 

謝辞
大阪市都市計画局、大阪ガス(株)、ダイビル(株)、ヤンマー(株)、(株)日建設計、八幡酒蔵工房、近江八幡おやじ連の皆さまには大変お世話になりました。感謝申し上げます。

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1610machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年10月号