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都市とITとが出合うところ 第79回 高校生が建築・都市VRを作る

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SEEDS「都市環境のVR(仮想現実・人工現実)を制作してみよう」受講生VRカット

SEEDSとは

大阪大学では、高校生向けの研究プログラムとしてSEEDS(Science & Engineering Enhanced Education for Distinguished Students)を提供している。多岐にわたる大学の研究に触れてもらい、傑出した科学人材発見と早期育成を目指している。

例年は大学の研究室に来てもらい実施するそうだが、今年度はCOVID-19感染拡大防止のため、オンラインで開催することになった。担当は輪番制で、筆者は今年度の担当となった。

建築・都市VR制作:準備

テーマ:都市環境のVR(仮想現実・人工現実)を制作してみよう」(応用技術系・情報数理系)。筆者の研究室で取り組んでいる建築・都市VRを受講生自身のPCで制作してもらう。

企画内容は、2020年5月に企画した第28回都市環境デザイン会議フォーラム関西2020「建築・都市をつくるデジタル技術のいま:2020年代に向けて」のプレイベントとして開催した建築・都市VRワークショップを踏襲したものである。但し、このワークショップの受講生は建築・都市分野のプロであったのに対して、今回は高校生である。

スケジュール:受講生が通う高校の授業・行事に普段通り参加しながら、SEEDSにも参加できるように、週末を利用して9月26日(土)と10月17日(土)の2日間開催とした。初日と最終日の間を3週間空けることで、じっくり考える時間、キャッチアップの時間を設けた。時間帯は、両日とも15~19時の4時間とした。

サポーター:研究室の学生(大学院生が中心)にTA(ティーチングアシステント)として、全面的にサポートしてもらった。受講生6名に対して、TAも同じく6名と、マンツーマンでの実施となった。受講生2名とTA2名の計4名がひとつのチームとなり、計3チームが分かれてブレイクアウトルームで作業することとした。

サポート内容は、VRソフトの使い方に限らず、大学生活の紹介、進路相談など、高校生にとってはオンライン上でありながらも、大学生・大学院生と直に対話する貴重な機会にもなったようである。

VRソフト:Twinmotionとした。選定理由として、アカウント登録すれば無料トライアルが可能で、コンピュータに関する知識がそれほどなくても、直感的な操作で、建築都市VRを見栄えよく制作できること。建築・都市ビジュアライゼーション用に特化したメニュー構成でありソフトが短時間で習得できそうなこと、日本語版への対応などがある。

受講生を募集する際には、Twinmotionをインストールするために必要なPCスペックを提示した。PCスペックが足りなければ、大学よりPCを貸出すことはできなくもなかったが、自主性のある参加をお願いしたかった。関西一円から高校生6名が参加することになった。

将来的には、データの構造化やプログラミングに関する知識・スキルを身に着ける必要があることを伝えつつ、今回はまず、VRでどんなことができそうか、体感してもらうことを主眼としていることを伝えた。

オンラインツール:ワークショップではZoomをコミュニケーションプラットフォームとした。但し、ZoomとVRソフトを一台のPCで併用する場合にはPCの負荷が大きくなるため、Zoomは必要に応じて接続してもよいことを認めた。また、準備段階からワークショップ終了までの期間、資料の共有や質問などのコミュニケーションを効率的にできるように、Chatwork(チャットワーク)を使用した。

無料のホームページ作成サイトを利用して、今回のワークショップ向けに、VRソフトの概要、インストール方法、作成チュートリアルVR制作上の留意点などを整備した。PCでもスマホでもアクセスでき、好きな時間に閲覧できる。

事前タスク初日開始までにVRソフトのインストール完了をアナウンスした。

自力でインストールする際には、アカウントの作成や途中でトラブルが発生した際にヘルプが必要になることが多い。そのため、初日の数日前となる9/22(火・祝)にインストールサポート日を設けた。

建築・都市VR制作:初日

いよいよワークショップスタート。初日のスケジュールは以下のとおりである。

  • 15:00 Zoom集合、オリエンテーション/自己紹介(TA。自身の研究紹介など)/自己紹介(受講生。SEEDSへの意気込みなど)
  • 15:30 課題説明
  • 15:45 ブレイクアウトルームで作業開始
  • 18:20 中間プレゼン(3分/人+質疑)
  • 18:55 講評、終了

初日は、Twinmotionで何ができるか、操作方法の習得を兼ねて、京セラドーム大阪を対象としたチュートリアルをまず進めてもらった。

VR制作する建築・都市対象やコンセプトは自由とした。コンセプトづくりのヒントとして、全くのゼロから自分で考えだすのも良いが、YouTubeなどネット上に、建築・都市のプレゼン事例がたくさん公開されているので参考になりそうな部分を分析しながら、何を作るか、どう見せるかを考えて取り組んでいく方が良いことを伝えた。

建築・都市VR制作:最終日

最終日のスケジュールは以下のとおりである。

  • 15:00 Zoom集合、Society 5.0について
  • 15:15 ブレイクアウトルームで作業開始
  • 17:45 最終プレゼン(5分/人+質疑)
  • 18:50 講評、終了

最終日は、17:45からの最終プレゼンに向けて、開始時点で、VRを既に完成させるだけでなく、パワポまで完成させていた受講生がいたのはビックリした。段取りが素晴らしい。

地元の課題を捉えてその改善案を提案する作品、大阪の未来を描いた作品、近未来の交通について考えた作品、太陽の塔を中心に万博を考察した作品、京セラドームを発展させた作品。単に3DモデルをVR空間上に配置するだけでなく、地形や奇岩を自力でモデリングした作品もあった。

高校生が制作したVRカットをいくつか紹介しておこう。夢のあるワクワクするようなアイデアを提案してくれて、沢山の刺激を受けた。それにしても、高校生が自分のPCでVRを作る時代、作れる時代がやってきた。今後の活躍に期待したい。

 

(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2021年3月号)