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都市とITとが出合うところ 第76回 CAADRIA 2020オンライン国際会議(2)

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図1 CAADRIA 2020 交流(順に、25周年ブース、ワークショップ展示)

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図2 CAADRIA 2020 テクニカルツアー(順に、チュラロンコン大学図書館トゥクトゥク、ランチタイム)

交流の大切さ

国際会議に参加して得られるものは、まず、厳しい査読プロセスを通過した国際水準での研究発表や、業績ある専門家の基調講演を聴講できることがある。

もうひとつは、参加者との交流である。講演者との新たな出会いや旧知との再会、研究発表についてのディスカッション、学会の運営の振り返り、新たなプロジェクトの相談、参加者が暮らしている国や都市の現状、研究者同士の悩み相談など、話のネタは尽きない。友だちになれば、それぞれの国に帰ってからもSNSで写真や動画を共有し合ったりと交流は続く。

CAADRIAは、参加者同士が交流しやすいアットホームな学会運営がなされてきた。フルオンラインとなった2020年、交流の場をどう確保するのか?

交流ツールの選定

Zoomのようなウェブ会議システムは、参加者が一堂に会して、ひとつの話題を共有したり議論することはできるが、大人数で複数の話題を交えながら交流するには使いづらい。Zoomには、ブレイクアウトセッションという個室が用意されているが、他の部屋の様子がわからないし、他の個室への移動も面倒である。

参加者が3次元仮想空間を自由に動き回れるソーシャルVRも登場しているが、日ごろ使っている参加者はまだ限られており、誰もがいきなり手軽に使えるとは言いがたい。

今回は、SpatialChatを使うことになった。参加者は、丸いアイコンで表示され(参加者のライブ表示も可能)、マウスやタッチ操作で画面内を自由に移動できる。参加者同士の距離が近ければ会話が成立して、距離が遠くなるほど声が小さくなる。なので、会話したい人たちが近くに集まって交流できる。画面には、静止画やYoutube動画を表示させることができる。

CAADRIA 2020期間中、SpatialChatは3室用意された。1つ目はCAADRIA 25周年を記念する部屋。過去の論文集の表紙や集合写真がムービー化されて展示されていた(図1)、2つ目はカンファレンス直前に開催されたワークショップの成果が並べられた部屋(図1)、3つ目はスポンサーブースである。

自由に移動しながら会話できるのは、やはり楽しい。人々の動き方で興味深かったのは、Zoomで行われている研究発表のセッションが終わり、SpatialChatでの交流がはじまった時間帯は参加者がワーッとひとつの場所に集まって記念のスクショをとったりしているが、次第に個別の会話に分散していったこと。そのため、画面の端っこの方に小さなアイコンがたくさん表示されている。CAADRIAカンファレンスに初めて参加した方、そもそも交流が苦手な方はどんな印象を持たれたのだろうか。

ポストツアー

国際会議では、学会終了後に開催地を巡るツアーが用意されていることが多い。ポストカンファレンスツアー(ポストツアー)、テクニカルツアー、エクスカーションなどと呼ばれ、訪問先を巡りながら、参加者同士が交流できる。CAADRIAの場合は物見遊山ではなく、建築・都市とICTに興味津々のメンバー達がワクワクする訪問先が企画されてきた。フルオンラインとなった2020年、ポストツアーをどう企画するのか?

CAADRIA 2020テクニカルツアーは、Zoomで3時間かけて行われた。女性2名がナビゲーターとなり、ウェブカメラで現地の様子を実況中継。まず、学会のホストを務めたチュラロンコン大学で近年リニューアルされた図書館のライブ案内(図2)。別の場所から参加している専門家が詳しい解説を加えていた。

図書館の案内を終えると、ナビゲーターは屋外にあるトゥクトゥクに乗り込む(図2)。トゥクトゥクで次の場所であるタイランド・クリエイティブ・アンド・デザインセンター(TCDC)へと移動する。トゥクトゥクのエンジン音や風を切る音など、ライブ感を味わえた。TCDCでは予め収録された内部見学やインタビューの様子が紹介された。

次は、ランチである。ナビゲーターたちがレストランで、地元のタイ料理を食べながら、食事を中心にタイの文化を紹介。日本は、時差の関係でランチタイムを過ぎていたが、食事を見ているだけなのは辛い(笑)(図2)。

最後に、バンコクを代表する風景である、ワット・アルン・ラーチャワラーラームの紹介。ツアー時間、訪問先、訪問先間の案内、ライブと録画の使い分け、カメラワークなど、質の高いオンラインツアーだった。

今後、実際の人々との出会いや現地訪問については、現地へ行く必要までもない会議はウェブ会議に置き換わっていく一方で、自発的なものほどますます増えていくと思えている。

参加は、新たな出会いにつながり、普段の生活では得られない刺激を受け、経験となり、記憶に残り、そして、成長へつながっていく。

 

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/2011machinami_FukudaFinal.pdf
(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2020年11月号)