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都市とITとが出合うところ 第50回 情報シンポ

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学会、日本建築学

 IT(情報技術)革命のけん引役となったインターネットが広く使われるようになって20年以上が経ち、スマホの圧倒的な普及もあって、あらゆる活動がネットにつながった。最近、ビジネスの世界においては、AI(Artificial Intelligence)、ロボットなどによるデジタルトランスフォーメーションが注目されている。

 学会とは、それぞれの学問分野で、学術研究の進展や連絡などを目的として、研究者を中心に運営される団体である。デジタル技術の発展のスピード、その影響の大きさを考えてみると、学会とは狭い意味の研究者やその卵が集うだけでなく、企業家や実務者が最先端の考えや技術を収集したり、多様な人々が交流する場として機能していくものであろう。よって、研究機関に限らず、企業や行政のトップや実務担当者が参加していることはよく見られる光景である。

 日本建築学会には、材料施工、構造、建築歴史・意匠、防火、建築社会システム、環境工学、建築法制、建築教育、都市計画、建築計画、農村計画、海洋建築、情報システム技術、災害、地球環境の合計15からなる常置調査研究委員会が設置されている。日本のように幅広い分野が融合している建築学会は世界的にも珍しいようである。このうち、情報システム技術委員会は、情報化時代の建築・都市・社会ビジョン、建築生産流通システムの情報化技術、設計・コミュニケーションの高度化技術、建築分野のための情報・解析理論と応用に関する調査・研究を行っている。すでに、建築の各分野においても情報の扱いや情報技術を考慮する必要性から、情報技術に関する小委員会を設けている常置調査研究委員会はある。一方、情報システム技術委員会は、建築の各分野を横断的に俯瞰しながら先進的な情報システム技術を扱おうとする姿勢に特徴がある。

情報シンポ

 情報システム技術委員会では、年に一度の大きなイベントのひとつとして「情報・システム・利用・技術シンポジウム(通称:情報シンポ)」を開かれている。第1回情報シンポは1979年に開催された(当時は「電子計算機利用シンポジウム」であった)。インベーダーゲームが大流行した頃である。以来、建築・都市の各分野を横断するITの新しい可能性を追求する場として毎年開かれており、近年では、コンピュテーショナル・デザイン、BIM(Building Information Modeling)、IoT(Internet of Things)、AIをはじめとする、最先端の研究開発、応用事例を発表すると共に、参加者が交流する場として機能している。

 昨年12月に行われた情報シンポ2017は第40回目に相応しいテーマ「バック・トゥ・ザ・フューチャー:次の40年へ」の下、基調講演4題、情報システム技術委員会傘下の小委員会による4つのオーガナイズドセッション、76題の論文・報告部門の研究発表が2日間に渡り行われた。基調講演者とそのタイトルは以下の通りである(図1, 2)。

  • MITメディアラボ副所長 タンジブル・メディア・グループ・ディレクター 石井裕 教授「独創・協創・競創の未来:タンジブル・ビットからラディカル・アトムズへ」
  • 東京大学 大学院情報理工学系研究科 廣瀬通孝教授「VR2.0の世界」
  • 日建設計 都市開発部 主管 福田太郎 氏「都市のアクティビティを豊かにする情報の可能性」
  • FunLife 代表取締役 COO・CFO 黄木桐吾 氏「AR技術がもたらす可能性」

 情報シンポ2017当日は、大学の研究者、学生、建設会社、設計事務所コンサルタント、行政、メーカー、IT企業などから多数の参加者が一堂に会した(図3, 4)。運営に際して、特別後援1社、協賛5社の協力を得ることができた。

学会参加の副産物?

 情報シンポに限らないが、学会は、社会人と学生が出会う場として捉えることもできる。特に発表の場は、ライブでありリアルでもある。社会人の発表を学生が聴講する。学生は、その企業の最新成果を直に聴くことができる。企業のホームページやパンフレットでは得られない、リアルさを味わえる。逆に、学生の発表を社会人が聴講する。社会人は、学生の研究推進力、論理的思考力、プレゼンテーション力、質疑応答での対応力を直に知ることができる。

 ライブの世界では、その場での対応力が求められ、事前準備なんぞ役に立たないこともある。リアルの世界では、見せたい箇所、いいところだけを見せられるわけではない。よって、感動を生む半面、落胆を生む可能性もはらんでいるわけであるが、最近のインターネットの世界では最適化が進められており、若者がライブやリアルを通じてホンモノを求めているのも確かである。

おわりに

 今年の情報シンポ2018は、12月6日・7日に開催される。公式HP( http://aijisa2018.org/ )は先日立ち上がった(図5)。皆様からの論文・報告投稿(7月13日〆切)と参加をお願いしたい。最後に基調講演の概要を紹介しておこう。

 現在、第3次AIブームの様相があり、大学を含む建築業界でもAIとロボットの台頭により、建築家や構造家の職能までも大きな影響を受ける可能性があるのではないか、と懸念する声が多い。

 山田誠二先生(国立情報学研究所総合研究大学院大学 教授)には、『人とロボットの<間>をデザインする』HAI(ヒューマンエージェントインタラクション)について講演いただく。人工知能やロボット技術で職業が奪われると昨今いわれていることについて、またIoTやビックデータは、これからどのようになっていくのかについて講演いただく。

 松井龍哉様(フラワー・ロボティクス株式会社代表取締役社長/ロボットデザイナー)には、ロボットデザイナーの視点から、AIとロボットの発展により建築・都市がどのように変容していくのかを講演いただく。

 AIとロボット、人間が各々の得意分野を相互に補うことが重要となってくると言われる。建築界では、AIを活用するためにどのような取り組みが必要となってくるのか、藤村龍至先生(東京藝術大学准教授/RFA主宰)のコーディネイトにより、ディスカッションしていただく。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1805machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2018年5月号)