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都市とITとが出合うところ 第12回 信楽×遠隔景観デザイン会議

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」第12回。今回の旅は信楽。ITは遠隔景観デザイン会議の事例を。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1503machinami_FukudaFinal.pdf

ミホミュージアムへ
 本日は陶都・信楽方面へ。まずはミホミュージアムを目指そう。JR石山駅から路線バスに乗る。バスは瀬田唐橋を渡り、石山寺を右手に見ながら、瀬田川左岸を下っていく。途中、熟した柿をくわえて悠々と飛ぶカラス、前号で登った金勝山・天狗岩にも出合いながら、終点のミホミュージアムへ。約50分。見知らぬ土地で路線バスに乗るのはちょっと勇気が要る上に遠回りになる場合が多い。それでも、バスは地域に密着しながら、人の住む地区を回遊してくれる。初めて訪れる地域を理解するには意外といいツールなのかもしれない。
 ミホミュージアムに着いた。自然豊かな山の中にある美術館。設計者のI.M.ペイルーブル美術館のガラスのピラミッドや香港の中国銀行タワーの設計で知られる。ミホミュージアムの施設は、大まかに、レセプション棟と美術館棟に分かれる。まず、レセプション棟でチケットを購入して、美術館棟へ向かう。美術館棟へのアプローチは山を一つ越えることになり、桃源郷をテーマとした森の中を歩き、銀色のトンネルに入る(図1)。トンネルはカーブしており出口は最初見えないが徐々に白けてくる。そしてトンネルは、象徴的なアーチを主塔とする斜張橋に繋がっており、美術館棟はその先である(図2)。このように、レセプション棟から美術館棟へ向かうアプローチは、単に10分ほど歩くだけではなく、仕掛けが次々に用意されていた。


図1 銀色のトンネル


図2 斜張橋

 美術館棟は、路線バスが先ほど坂を登ってきた谷の上に位置し、建物容積の80%以上が地中に埋められている。ロビーに立つと湖南アルプスの美しい山並みが臨める。太陽の光でガラス屋根のフレームが落とす影も美しい。丁度、特別展「獅子と狛犬」が催されていた。普段神社や寺で見慣れた狛犬でありながら、こんなに数多くの種類と歴史があったとは。木造の狛犬には特に圧倒された。


信楽

 ミホミュージアムから路線バスで信楽へ。一般に信楽のイメージといえばタヌキの置物ではないだろうか。信楽は日本六古窯のひとつ、信楽焼の町(瀬戸、常滑、越前、信楽丹波備前)。確かに、信楽に行けば、幹線道路沿いの土産物屋の屋内外に大小多数のタヌキがびっしりと並んでいる。タヌキは「他を抜く」の意味があり商売繁盛の縁起物。また、タヌキの体や持ち物には「八相縁起」と呼ばれる八つの意味があるそうだ(笠:災難から守る、笑顔:愛想よく、大きな目:正しい判断をする、大きな腹:大胆さ、徳利:人徳、通帳:信用、太い尻尾:しっかり終える、金袋:金運)。
 今回は沿道のタヌキに出合うだけでなく、もう少しじっくりと信楽を巡りたい。そんな気持ちから、観光案内所で入手した「信楽窯元散策路マップ」を頼りに、窯元や登り窯が多数点在している長野地区を歩いてみた。

窯元巡り
 長野地区は、ろくろ坂、ひいろ壺阪、窯場坂を中心に細い路地が多くまるで迷路のよう。坂道が多いこともあって景観がどんどん変化する。道路に埋められた信楽焼の敷石がユニーク。新宮神社の脇からろくろ坂を登り、沿道の窯元をいくつか訪問した後、坂の頂上にあるOgamaで休憩。ここは役目を終えた大きな登り窯を保存し、脇に整備したカフェとギャラリーでくつろげる場(図3)。登り窯という生の芸術作品を間近に眺めながらコーヒーを飲むのは初めてかも。


図3 カフェから登り窯を眺める

 休憩を終え、ピーナッツみたいな焼き物の水道、子供たちの安全を見守るお巡りさんタヌキ、そしてレトロなペンギンに挨拶しながら窯場坂を下りていくと、屋根のない大きな登り窯に出合った。斜面を登ろうとする巨大な芋虫のようであり、古墳のようでもある。社長さんに話を伺った。この丸又窯は、昭和8年に完成して昭和38年まで使われ、今は近代化産業遺産に指定されている。登り窯が現役の頃は町に10か所ほど登り窯があり、それぞれから煙が立ち上る風景は壮大だったそう。30度の斜面をゆっくり上り、11ある登り窯の部屋を覘きながら、ゼーゲルコーン(焼き物の焼成状況を確認するために窯に入れるもの)、立ちざや・継ぎざや(壺や火鉢などを焼く時に使った台)、信楽の寝仏の話についても丁寧に解説して頂いた。丸又窯の模型が可愛らしい(図4)。ただ、維持管理が大変なこと、鹿の獣害もあって高い柵で囲う必要があることなど苦労話も聞いた。


図4 丸又窯模型

 信楽はしっとりとした町と改めて実感。名物・たぬき丼は食べそびれたので次回にでも。


クラウドVRで遠隔景観デザイン会議

 前号ではクラウドVRの開発背景と仕組みをお伝えした。今回は、クラウドVRを用いた建築・都市分野の遠隔デザイン会議の具体について、街路整備事業で実験した内容を紹介しよう 1)
 実験は、下関市中心市街地(街路幅員15m、街路延長約350m)を対象とした。筆者らが数年前に当地の街路整備事業に関わったのが縁である。中心市街地は人口減、来訪者減、低未利用地化が進行しており、再生が求められている。街路に着目すれば、老朽化したアーケードによる危険な歩行環境、電線・電柱の存在による景観の乱れなどが現状の課題であり、「歩きたくなる、回遊したくなる街」を実現することが求められた。
 そのため、アーケードの撤去と電線地中化を実施すると共に、車道と歩道の再構成を検討した。検討の結果、街路整備計画案として、①歩道幅3.5m×2+車道幅8m(現状追認)案、②歩道幅4m×2+車道幅7m案、③歩道幅5m×2+車道幅5m案、④歩行者専用道路案(案③で車両進入禁止を期間限定で実施)が出された。歩行環境向上のための装置であるパラソルセットや街路樹は歩道幅員に応じて変更している。この景観検討を実現するために、街路(現状、各街路整備計画案)、沿道建物、地形(10km四方)、ランドマーク建物(海峡ゆめタワーなど)、土木構造物(歩道橋など)の3Dモデルを作成してクラウドVRに登録した。クラウドVRの機能は、三次元仮想空間を自由に動き回れる他、視点場の切替え、道路の走行、プランの切換え等、景観検討で良く使用する機能が使用可能である。そして離れた場所にいる関係者が、会議スケジュールを調整した後、クラウドVRとSkypeGoogle+ハングアウトのテレビ会議システムとを自身の端末(ノートPCやタブレット)で起動させて遠隔デザイン会議を実施した。同期共有する内容は、クラウドVRで三次元仮想空間、テレビ会議システムで相手方の映像と音声である。
 遠隔デザイン会議の様子であるが、まず話し手が現状の課題を説明した後、それぞれの街路整備計画案について、街路センターからの景観や歩道環境をウォークスルーしながら説明する。車道幅員の増減に伴い、車の通行状況も変化するため、交通流も適宜表示させる。聞き手は話し手の説明を聞いた上で、クラウドVRを適宜操作しながら質問を行い議論した(図5)。


図5 クラウドVRを用いた遠隔景観デザイン検討画面

 クラウドVRは時折、インターネット通信の影響により映像配信の遅延が見られたものの、問題ない程度であった。また、過去にVRシステムを利用したことのあるVR経験者は、VR未経験者に比べて、クラウドVR使用中に不具合が発生しても柔軟に対応していた。クラウドVRを使用した遠隔デザイン会議の実用シーンを拡げるためには、まずは、シビアな議論が起こりうる会議よりはむしろ、知識レベルや価値観が共有しやすい仲間内の会議で試行する方がよい。一方、遠隔デザイン会議の準備としてインターネットの整備と接続チェックが必要となる。
 ここ2〜3年、㈱フォーラムエイトとの共同研究により、このような実験を繰り返しながら、クラウドVRの機能改善に務めている。機会があれば、また詳しくご紹介したい。

おわりに
 この一年間、琵琶湖を時計回りにぐるりと一周した(図6)。その際、自家用車を使わずに自身の足・自転車・公共交通を使って、惹かれる地域を順に巡ってきた。また、事前準備をしっかりとして出発する旅ではなく、ふらりと出かけて現地での出合いを大切にする旅にしたつもりである。それなりの情報はネットでいくらでも取得でき、事前準備をし過ぎると現地へは確認しにいくだけとなるのを恐れた。こんな時代だからこそ、現地で出合った時の生の感動を大切にしたい。


図6 足どり2014

ルートと参考文献
石山駅**<帝産バス>**ミホミュージアム駅++<徒歩>++【ミホミュージアム】++ミホミュージアム駅**<帝産バス>**信楽案内所駅++【信楽】++信楽駅(41.1km)

1) 福田,田口,清水,孫:景観検討を対象としたクラウドコンピューティング型VRによる分散同期型検討会議の実現可能性, 日本建築学会計画系論文集, 第76巻, 第670号, pp.2395-2401, 2011.12.

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」2015年3月号)

キーワード:まちなみ,滋賀,琵琶湖,信楽,VR,景観まちづくり,デザイン,遠隔会議,クラウド

都市とITとが出合うところ(1〜11回)