ふくだぶろーぐ

福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第4回 竹生島

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」第4回。今回は、竹生島滋賀県長浜市)などを。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1407machinami_FukudaFinal.pdf

都市とITとが出合うところ 第4回 竹生島

近江今津
第4回となる今回は、湖西線をさらに北上して竹生島へ向かう。竹生島へは2つの船会社が定期船を運航している。1社は今津航路と長浜航路(琵琶湖汽船)、もう1社は彦根航路とマキノ航路(オーミマリン)である。航路の決め方として、まず出発港を選びそこに寄港する船会社の航路、すなわち、ひとつの港を往復する航路か、竹生島を経由して対岸の港へ渡る航路を選ぶものだが、今回は、高島市北部の町を効率よく回るため、往路は今津港から琵琶湖汽船竹生島へ、復路は竹生島からオーミマリンでマキノ港へと、2社を利用した。

船に乗る前に、早朝の近江今津を歩く。今津は、京都と北国・敦賀とを結ぶ北国街道西近江路と、日本海・小浜と琵琶湖とを結ぶ九里半街道(若狭街道)が交わる要衝として古くから発展してきた。「♪われは湖の子さすらいの・・・」琵琶湖一周を漕艇中のクルー・小口太郎が今津の宿で部員達に初めて披露した「琵琶湖周航の歌」の町としても知られる。

辻川通りへ。この通りは、建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計による、今津ヴォーリズ資料館、今津基督教会会館、旧今津郵便局通りが並んでおり、近年はヴォーリズ通りとして町並み整備が進められている。浜通りを歩くと湖魚の佃煮屋から甘い醤油だきの美味しそうな匂い。昔ながらの旅館や民家の間から琵琶湖が垣間見えてくる(図1)。浜に出ると、江戸時代に金沢藩が築いた石垣が残る。今津の町が遠く離れた金沢藩の飛び地だったとは初めて知った。

f:id:fukuda040416:20140426081139j:plain

図1 浜通りの路地

竹生島
快晴、微風。「インターラーケン」号は竹生島へ。若干霞んでいるものの、ぐるりと見渡せば、北にはマキノ、海津大崎、葛籠尾崎、西には出港してきた今津の町並みと背後の箱館山、南には安曇川扇状地、その向こうには近江八幡長命寺山、そして前進中の東には竹生島(図2)。今津港を出てしばらくすると、エリ漁が見えてきた。これは小鮎を獲るための伝統的な定置網。魚を狙っているためか、鳥が湖面ぎりぎりに飛んでいる。

20分ほどで竹生島へ。ちょっとしたクルージング。竹生島花崗岩の一枚岩からなり、周囲2km、面積0.14km2と、琵琶湖では沖島に次いで2番目に大きい島。神が住む島として厚く信仰されてきた。「深緑 竹生島の沈影」として琵琶湖八景の一つに数えられる。

竹生島港に着いた。急峻な階段を上り、宝厳寺と都久夫須麻神社を巡る。豊臣秀吉が建てた大坂城の唯一の現存遺構として注目されている唐門、そして秀吉の御座船「日本丸」の骨組みを利用した舟廊下を歩いて、都久夫須麻神社 本殿へ。竜神拝所は琵琶湖に突き出しており、長浜、伊吹山彦根近江八幡長命寺山までパノラマビュー。ここの名物は、かわらけ投げ(図3)。竜神拝所で二枚の素焼の小皿(かわらけ)を購入し、一枚に名前を、もう一枚に願い事をそれぞれ書いて、名前、願い事の順に思いきり投げる。投げたかわらけが鳥居をくぐると願いが成就するといわれる。実際にトライしてみたものの、鳥居まであと一歩で届かず。しかし確かに、パワースポット。

f:id:fukuda040416:20140426094457j:plain

図2 竹生島遠景

f:id:fukuda040416:20140426111015j:plain

図3 かわらけ投げ

マキノ
竹生島に2時間ほど滞在。寺社巡りを終えて帰りの船を待つ間、門前町で美味しい草餅を頂いた。そして、「Kirari」号に乗り、20分ほどでマキノ港へ。港の桟橋は、何と、砂浜に設置されている(図4)。見慣れた人工的なコンクリート岸壁とは違って、まるで南国リゾートに来たようだ。レンタサイクルを借りるため、マキノ駅までてくてく散歩。駅前ではランチバルが開催されていた。

海津方面へポタリング。古くから北国街道西近江路の宿場町として繁栄してきた町は、今も当時の面影が残る。特に、江戸時代に築かれた波よけの石積みが長さ約1.2km、高さ約2.5mにわたって続く湖岸の風景は圧巻。西浜から海津方面に向かうほど、大きな石が使われている(図5)。他にも、洗濯のための「ハシイタ」や、「イケ」と呼ばれる暮らしの水場や共同井戸など、多様な水文化が維持されており、「海津・西浜・知内の水辺景観」は全国で五番目の重要文化的景観に選定された。湖岸4kmに及ぶ海津大崎ソメイヨシノの桜並木は既に葉桜となっていたが、つい2週間ほど前は大勢の人や車で賑わっていたそうである。「美しいマキノ・桜守の会」が保全活動を続けている。

マキノ高原ポタリング。以前から気になっていたこと。なぜ「マキノ」とカタカタで書くのか?調べてみたところ、大正時代末期、マキノ高原スキー場がオープンすることになった。大阪・京都などからお客さんを呼び込みたいが、枚方市に「牧野」という地名があり紛らわしい。そこで区別するためにカタカナ名にした。その後、昭和30年に4つの村が合併して町名を付ける際に、有名となったスキー場の名前に因んで、日本で初めてカタカナで「マキノ町」となったそうである[1]。

マキノ高原へはなだらかな上り坂。途中、延長2.4kmにも及ぶメタセコイヤの並木道に出合った。カタカナ地名と相まって北海道を思わせる風景。丁度芽吹きが始まる頃。周りは広大な栗園が広がっており、ヒツジが散歩していた。マキノ高原にはソメイヨシノ、大島桜、八重桜が約1000本。訪問時は丁度八重桜が満開。実は、レンタサイクルを借りる際、コンシェルジュマキノ高原がお勧めだと教えられここまでやってきた。マキノ駅までの帰り道は下り坂が多く、風を切りながら走れて気持ちいい。

f:id:fukuda040416:20140426122238j:plain

図4 マキノ港

f:id:fukuda040416:20140426141646j:plain

図5 海津の町並み

気象レーダーとAR
屋外で活動する時、悩ましいのは何といっても天気。特に最近は単なる雨降りだけではなく、ゲリラ豪雨、竜巻、落雷のような極端気象が、局所的に急激に発達した積乱雲により引き起こされ、大きな被害を及ぼしている。雨や雪による降雨の被害を防止・抑制するための観測手段として、気象レーダーが用いられている。気象レーダーは、リモートセンシングの一つであり、アンテナを回転させながら電波(マイクロ波)を発射し、半径数百kmの広範囲内に存在する雨や雪を観測する。発射した電波が戻ってくるまでの時間から雨や雪までの距離を測り、戻ってきた電波(レーダーエコー)の強さから雨や雪の強さを観測する[2]。既に大型の気象レーダーが日本全土を覆うように配備され、台風、低気圧、梅雨前線などによる降雨を観測してきた。最近では、特に都市域の降雨をよりきめ細かく(250mメッシュ)、短い時間間隔(1分毎)で観測できるようXバンドMPレーダーの整備と運用が始まっている。これにより、降雨監視体制の強化を行い、河川の増水などによる被害の軽減を図ろうとしている[3]。

次に、観測した降雨量の表示について。気象庁国土交通省XPバンドMPレーダー雨量情報、Yahoo!雨雲ズームレーダー等の各webサイトでは、一般地図に降雨の状況が重ね合わせられて表示される。さらに現地では、現在地での降水の分布状況を地図以上に体感的に把握したい。そんなニーズに応えようと、AR(Augmented Reality)を応用したアプリ「Go雨!探知機」がリリースされている[4]。ARは拡張現実と訳され、人間が知覚する現実環境を、コンピュータを用いて拡張する技術を指す。「Go雨!探知機」は、スマートフォンGPS機能でユーザの現在位置情報を取得し、カメラ機能で今眺めている風景の映像を取得し、現在の位置情報と角度情報を媒介として、周囲5kmの雨量情報をスマートフォンのディスプレイ上にリアルタイム表示してくれるサービスである(図6)。

雨が急に降ってきた時、しばらく雨宿りすべきか、傘を買って先を急ぐべきか。降雨の状況をより精度よく観測でき、より体感的に確認できる最新技術、是非お試しを。

f:id:fukuda040416:20191022115412p:plain

図6 Go雨!探知機画面(一部)

ルートと参考文献

近江今津駅++<徒歩>++【ヴォーリズ通り】++【琵琶湖周航の歌資料館】++【今津港】~~<琵琶湖汽船>~~【竹生島港】++【宝厳寺・都久夫須麻神社】++【竹生島港】~~<オーミマリン>~~【マキノ港】++【マキノ駅】@@<レンタサイクル>@@【海津】@@【大崎寺】@@【マキノ高原】@@【正眼院】@@<レンタサイクル>@@【マキノ駅】(46.8km)

[1] マキノまちづくりネットワークセンター: http://www.ex.biwa.ne.jp/~machinet/contents/page7/main.html ; JP21, Inc.: http://sooda.jp/qa/130054 など
[2] 気象庁:気象レーダー観測 http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/radar/kaisetsu.html
[3] 国土交通省:XPバンドMPレーダー雨量情報 http://www.river.go.jp/xbandradar/
[4] 日本気象協会:Go雨!探知機 https://itunes.apple.com/jp/app/go-yu!-tan-zhi-ji-xbandompreda/id655469995

f:id:fukuda040416:20191022115433j:plain

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」7月号)