ふくだぶろーぐ

福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第79回 高校生が建築・都市VRを作る

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SEEDS「都市環境のVR(仮想現実・人工現実)を制作してみよう」受講生VRカット

SEEDSとは

大阪大学では、高校生向けの研究プログラムとしてSEEDS(Science & Engineering Enhanced Education for Distinguished Students)を提供している。多岐にわたる大学の研究に触れてもらい、傑出した科学人材発見と早期育成を目指している。

例年は大学の研究室に来てもらい実施するそうだが、今年度はCOVID-19感染拡大防止のため、オンラインで開催することになった。担当は輪番制で、筆者は今年度の担当となった。

建築・都市VR制作:準備

テーマ:都市環境のVR(仮想現実・人工現実)を制作してみよう」(応用技術系・情報数理系)。筆者の研究室で取り組んでいる建築・都市VRを受講生自身のPCで制作してもらう。

企画内容は、2020年5月に企画した第28回都市環境デザイン会議フォーラム関西2020「建築・都市をつくるデジタル技術のいま:2020年代に向けて」のプレイベントとして開催した建築・都市VRワークショップを踏襲したものである。但し、このワークショップの受講生は建築・都市分野のプロであったのに対して、今回は高校生である。

スケジュール:受講生が通う高校の授業・行事に普段通り参加しながら、SEEDSにも参加できるように、週末を利用して9月26日(土)と10月17日(土)の2日間開催とした。初日と最終日の間を3週間空けることで、じっくり考える時間、キャッチアップの時間を設けた。時間帯は、両日とも15~19時の4時間とした。

サポーター:研究室の学生(大学院生が中心)にTA(ティーチングアシステント)として、全面的にサポートしてもらった。受講生6名に対して、TAも同じく6名と、マンツーマンでの実施となった。受講生2名とTA2名の計4名がひとつのチームとなり、計3チームが分かれてブレイクアウトルームで作業することとした。

サポート内容は、VRソフトの使い方に限らず、大学生活の紹介、進路相談など、高校生にとってはオンライン上でありながらも、大学生・大学院生と直に対話する貴重な機会にもなったようである。

VRソフト:Twinmotionとした。選定理由として、アカウント登録すれば無料トライアルが可能で、コンピュータに関する知識がそれほどなくても、直感的な操作で、建築都市VRを見栄えよく制作できること。建築・都市ビジュアライゼーション用に特化したメニュー構成でありソフトが短時間で習得できそうなこと、日本語版への対応などがある。

受講生を募集する際には、Twinmotionをインストールするために必要なPCスペックを提示した。PCスペックが足りなければ、大学よりPCを貸出すことはできなくもなかったが、自主性のある参加をお願いしたかった。関西一円から高校生6名が参加することになった。

将来的には、データの構造化やプログラミングに関する知識・スキルを身に着ける必要があることを伝えつつ、今回はまず、VRでどんなことができそうか、体感してもらうことを主眼としていることを伝えた。

オンラインツール:ワークショップではZoomをコミュニケーションプラットフォームとした。但し、ZoomとVRソフトを一台のPCで併用する場合にはPCの負荷が大きくなるため、Zoomは必要に応じて接続してもよいことを認めた。また、準備段階からワークショップ終了までの期間、資料の共有や質問などのコミュニケーションを効率的にできるように、Chatwork(チャットワーク)を使用した。

無料のホームページ作成サイトを利用して、今回のワークショップ向けに、VRソフトの概要、インストール方法、作成チュートリアルVR制作上の留意点などを整備した。PCでもスマホでもアクセスでき、好きな時間に閲覧できる。

事前タスク初日開始までにVRソフトのインストール完了をアナウンスした。

自力でインストールする際には、アカウントの作成や途中でトラブルが発生した際にヘルプが必要になることが多い。そのため、初日の数日前となる9/22(火・祝)にインストールサポート日を設けた。

建築・都市VR制作:初日

いよいよワークショップスタート。初日のスケジュールは以下のとおりである。

  • 15:00 Zoom集合、オリエンテーション/自己紹介(TA。自身の研究紹介など)/自己紹介(受講生。SEEDSへの意気込みなど)
  • 15:30 課題説明
  • 15:45 ブレイクアウトルームで作業開始
  • 18:20 中間プレゼン(3分/人+質疑)
  • 18:55 講評、終了

初日は、Twinmotionで何ができるか、操作方法の習得を兼ねて、京セラドーム大阪を対象としたチュートリアルをまず進めてもらった。

VR制作する建築・都市対象やコンセプトは自由とした。コンセプトづくりのヒントとして、全くのゼロから自分で考えだすのも良いが、YouTubeなどネット上に、建築・都市のプレゼン事例がたくさん公開されているので参考になりそうな部分を分析しながら、何を作るか、どう見せるかを考えて取り組んでいく方が良いことを伝えた。

建築・都市VR制作:最終日

最終日のスケジュールは以下のとおりである。

  • 15:00 Zoom集合、Society 5.0について
  • 15:15 ブレイクアウトルームで作業開始
  • 17:45 最終プレゼン(5分/人+質疑)
  • 18:50 講評、終了

最終日は、17:45からの最終プレゼンに向けて、開始時点で、VRを既に完成させるだけでなく、パワポまで完成させていた受講生がいたのはビックリした。段取りが素晴らしい。

地元の課題を捉えてその改善案を提案する作品、大阪の未来を描いた作品、近未来の交通について考えた作品、太陽の塔を中心に万博を考察した作品、京セラドームを発展させた作品。単に3DモデルをVR空間上に配置するだけでなく、地形や奇岩を自力でモデリングした作品もあった。

高校生が制作したVRカットをいくつか紹介しておこう。夢のあるワクワクするようなアイデアを提案してくれて、沢山の刺激を受けた。それにしても、高校生が自分のPCでVRを作る時代、作れる時代がやってきた。今後の活躍に期待したい。

 

(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2021年3月号)

編集者の一人として携わらせて頂いた書籍の予約が始まっていました。

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編集者の一人として携わらせて頂いた書籍の予約がAmazonやSpringer社のサイトで始まっていました。ご笑覧いただければ幸いです。
The new book I worked on as one of the editors is now available for pre-order!


TITLE: Resilient and Responsible Smart Cities: Volume 1 (Advances in Science, Technology & Innovation) 2021/5/25

EDITORS: Norsidah Ujang, Tomohiro Fukuda, Anna Laura Pisello, Dinko Vukadinović

https://www.amazon.co.jp/Resilient-Responsible-Smart-Cities-Technology/dp/303063566X

https://www.springer.com/gp/book/9783030635664

ArchiFuture Webでコラムを連載させて頂くことになりました。

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初日の出 2021.1.1

明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

今月より、ArchiFuture Webでコラムを連載させて頂くことになりました。

トピックは、建築・都市とコンピュータです。

第1回は「3Dモデルを用いたAI学習用サンプル自動生成」をご紹介させて頂きます。

www.archifuture-web.jp

ご笑覧頂ければ幸いです!

都市と建築のブログ Vol.52 阿寒摩周:神秘 up!

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ご来光とけあらし:釧路川源流

2020年はあっと言う間に終わった気がします。COVID-19禍、季節を感じさせる行事が中止となったためでしょうか。2021年は、より自由に暮らせますように。

都市と建築のブログ 第52回目(2021年1月号)は阿寒摩周をご紹介します。晩秋、国立公園満喫プロジェクトとして阿寒摩周国立公園で推進されていた社会実験「川湯の森ナイトミュージアム」を体感するために、ひがし北海道を訪問しました。

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昨年11月、「都市と建築のブログ 総覧」を上梓させて頂きました。ご笑覧いただければ幸いです。

 

都市とITとが出合うところ 第78回 eCAADe 2020 オンライン国際会議

ベルリン→オンライン開催へ

eCAADe(Education and research in Computer Aided Architectural Design in Europe)は、建築および関連する分野のコンピュータ応用に関する研究と教育、優れた実践と情報の共有を目的として、1983年に設立された学会である。ヨーロッパ圏の大学が順番にホストを務め、世界中からの参加者を迎えて、カンファレンスとワークショップを毎年開催している。以前ご紹介したCAARDIA学会とは姉妹学会であり、eCAADeの方がお姉さんである。

eCAADe 2020はベルリン工科大学で昨年9月に開催予定だったが、COVID-19のためオンライン開催となった。eCAADe 2020での特筆的な内容を中心に紹介しよう。

バーチャル開催への工夫

バーチャル(virtual)の意味は、「実際の事実としては存在しないが、本質的にあるいは実質的には存在するさま」である。eCAADe 2020では、現実にできるだけ近づけるべく、バーチャル・ベニュー(virtual venue)が公式ウェブページに用意された(図1左上)。ベルリン工科大学の360°パノラマ画像が、ゆっくりと回っている。さらには、画像中に、以下のリンクが用意されている。

プログラム:パノラマ画像内の建物壁にプログラムが示された画像が貼られている。このプログラム画像をクリックすると、詳細プログラムのサイトが表示される。

詳細プログラムでは、タイトル、著者(発表者)、論文、プレゼン概要、プレゼンビデオが論文ごとに整理されている。何より嬉しいのは、時差への配慮である。ドイツと日本はサマータイム期間で7時間の時差があり、日本の方が進んでいる。時差の計算は面倒であり、特に日付をまたぐ場合には気を遣う。eCAADe 2020では、日本(アジア)の発表者が日本時間の深夜に発表しないように配慮されたほか、詳細プログラムでは、参加者の所在地での時刻がデフォルト表示されるようになっており、大変便利であった。

ギャラリー:発表者は、論文内容の概要書(プレゼン概要)を画像1枚に作成して、開催前に提出した。パノラマ画像内のギャラリー画像をクリックすると、プレゼン概要がセッション毎に整理されたページが表示され、各セッションの発表内容が視覚的に把握しやすい。

プレゼンテーション:発表者は、口頭説明を含むプレゼンテーションをビデオファイルとして、開催前に提出した。ビデオファイル作成の手引きが詳細に示されている [1]。例えば、口頭発表は5~7分で作成すること、スライドは計10枚とすること。ビデオ録画の方法について、パワーポイントの「スライドショーの記録」機能を使う方法、Zoomでパワーポイントを画面共有して録画する方法、スクリーン録画のできるホスティングサービスを使用する方法(Apowersoft screen recorder など)、本当の会議室でプレゼンしている風景を録画する方法など。そして重要なことは、作成したプレゼンビデオを、Youtubeなどにアップロードして、そのURLをホストに連絡することである。

論文:eCAADe 2020の論文集のみならず、公開されている過去の論文集にアクセスできる。

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図1左上 eCAADe 2020:公式HPのバーチャル・ベニュー

https://www.ecaade2020.tu-berlin.de/

eCAADe 2020本番

eCAADe 2020では、8名の基調講演が招待されていた。ベルリン工科大学に直接訪問できる講演者は、会場でプレゼンテーションしており、Webexを通じてオンライン配信された(図1右上)。ハイブリッド方式である。

研究発表が行われる各セッションは、フルオンラインで開催された。セッションに割り当てられた8名程度の発表者がパネリストとして参加した。発表者はまず、プレゼン概要を用いて各自2分で研究概要を順に説明した(図1 左下)。次に、2名の司会者の進行によりディスカッションが行われた(図1 右下)。

研究室からは4編発表した(表1)。国際学会の発表デビューを迎えた学生もいた。

話は少しそれるが、以前、金沢にある「谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館」を訪問した際、谷口吉郎著「雪あかり日記/せせらぎ日記」を購入した。建築家である谷口氏がベルリンに赴任した若き日の記録である。ベルリン当地でこの本を読むことを秘かに楽しみにしていたのだが、オンライン開催となり持ち越しとなった。

いつかまた、ベルリンを訪問したい。

 表1 eCAADe 2020における大阪大学からの発表(和訳)

Session セッション

Authors 著者

Title タイトル

DIGITAL PERCEPTION OF SPACE – CYBER-PHYSICAL SYSTEMS (VR, AR) – DESIGN STRATEGIES

空間のデジタル知覚 - サイバー・フィジカル・システム(VR、AR) - デザイン戦略

Yuehan Zhu, Tomohiro Fukuda, Nobuyoshi Yabuki

朱閲晗、福田知弘、矢吹信喜

Integrated co-designing using building information modeling and mixed reality with erased backgrounds for stock renovation [PDF]

ストックリノベーションのためのBIMと背景を仮想消去した複合現実を用いた統合的コ・デザイン

Daichi Ishikawa, Tomohiro Fukuda, Nobuyoshi Yabuki

石川大地、福田知弘、矢吹信喜

A mixed reality coordinate system for multiple HMD users manipulating real-time point cloud objects: towards virtual and interactive 3D synchronous sharing of physical objects in teleconference during design study [PDF]

複数のHMDユーザがリアルタイム点群オブジェクトを操作するための複合現実座標系:設計検討時の遠隔会議における実物オブジェクトの仮想的・対話的な3D同期共有に向けて

THE COGNITIVE CITY (AI)

認識都市(AI)

Kazunosuke Ikeno, Tomohiro Fukuda, Nobuyoshi Yabuki

池野和之介、福田知弘、矢吹信喜

Automatic generation of horizontal building mask images by using a 3D model with aerial photographs for deep learning [PDF]

深層学習のための航空写真を用いた3Dモデルによる水平方向の建物マスク画像の自動生成

Yunqin Li, Nobuyoshi Yabuki, Tomohiro Fukuda, Jiaxin Zhang

李韵琴、福田知弘、矢吹信喜、張嘉新

A big data evaluation of urban street walkability using deep learning and environmental sensors: A case study around Osaka University Suita campus [PDF]

深層学習と環境センサーを用いた都市の街路歩行性のビッグデータ評価:大阪大学吹田キャンパス周辺の事例

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図1右上 eCAADe 2020:ベルリン工科大学での基調講演のオンライン配信(ハイブリッド)

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図1左下 eCAADe 20202:セッションでの概要説明(presented by Ikeno)

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図1右下 eCAADe 20202:ディスカッション(Zhu, Ishikawa and Fukuda from Osaka-U)

[1] https://www.ecaade2020.tu-berlin.de/presentation-kit/

PDF:  https://y-f-lab.jp/fukudablog/files/2101machinami_FukudaFinal.pdf
(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2021年1-2月号)

都市とITとが出合うところ 第77回 VRサマーワークショップ オンライン

youtu.be

World 16の所在地をVRで表現してみました。時差19時間、遠くに離れていても、チャレンジャぶるなメンバーが集まってVR開発できました

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VRサマーワークショップ オンライン:World16メンバーと時差

 

時差19時間

今年は数々のイベントが残念ながら中止になってしまい、季節の移り変わりを感じにくい。気づけば早くも師走、確かに寒くなってきた。

2008年から続いているVRサマーワークショップ。VRをはじめとする3次元デジタル技術を応用して建築・都市の可視化やシミュレーションを専門とする「World16」のメンバーが最先端のVR応用を中心に、研究・教育・文化・産業などの幅広いテーマを議論する研究会である。アリゾナ州立大学・小林佳弘先生が個性的なメンバーを立ち上げ段階から取りまとめている。例年通り、地球のどこかに集まるべく、今夏は台湾での開催を予定していた。が、新型コロナウィルス禍により、メンバーの移動は大きく制限されてしまい、7/7―10にオンラインでのバーチャル開催となった。

近年のVRサマーワークショプのミッションは、各World16メンバーが新たなVR応用を企画し、他のメンバーと議論した上で、自ら、もしくはフォーラムエイトのシステム開発者と組んで開発する。メンバーの所在はカリフォルニアからニュージーランドまで地球上に散らばっており、時差は最大で19時間(図1左)。

クリエイティブな活動、時差を考慮した活動をオンラインでどう実現するか?

 

クリエイティブな活動支援

まず、ワークショップ1か月前に、Zoomによるプレ会議を数人ごとに実施した。各メンバー同士がオンラインながら再会すると共に、今回検討しているプロジェクトや必要なツールを幹事側で事前に把握し、担当するシステム開発者を事前に選出することができた。

ワークショップ本番では、メンバーが一堂に集い、企画内容や最終成果をプレゼンする場として、Zoomを使用した。次に、メンバーが各自のプロジェクトを進める際には、データ共有やコミュニケーションツールとして、Slack(スラック)を使用した(図1右)。 

Slackは、立ち上げたスレッド(ある特定の話題に関する投稿の集まり)ごとに、そのスレッドに参加するメンバー限定でコミュニケーションが可能である。今回の興味深い使い方として、あるスレッドに参加するメンバーは、そのプロジェクトのメンバーだけではなく、ワークショップメンバー全員であったこと。こうすることで、プロジェクトメンバー以外のメンバーが、他のプロジェクトの開発状況をチラ見したり、プロジェクトメンバーに岡目八目で情報提供やアドバイスしたりできる。

このような複数のプロジェクトが同時並行的に進むことは日常茶飯事であるが、メールでこのようなやり取りを行うと、メールボックスに沢山のスレッドが混ざりこんでしまい話の流れがつかみにくくなってしまうし、後でもう一度読みたいメールを探し出すことも苦労する。Slackは、ファイル共有なども行え、非常に効率的にコミュニケーションできた。尚、Slackと同様のツールとしてChatwork(チャットワーク)は国産であり、使いやすい。

その他、新興のVRコミュニケーションツールの体験会を兼ねた雑談タイム用に、バーチャルSNS cluster(クラスター)やSpatialChat(スペチャ)が用意された。

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VRサマーワークショップ オンライン:Slackによるコミュニケーション)

時差を考慮した活動支援

本の時間帯を中心とした時差マップを作成して見える化を図ると共に、コアタイムとして、日本から東方面(ニュージーランドから米国まで)は日本時間の朝9時~12時、逆に、西方面(中国からイギリスまで)は日本時間の午後3時~6時とした。

コアタイム以外の時間帯は自由参加とした。結果、全員が一堂に集うことはほとんどできなかったが、Zoomでのプレゼンは録画されており、オンデマンドで各自の進捗を共有することは可能であった。

 

成果

初めてのオンラインワークショップであったが、例年以上に興味深いプロジェクトが数多く提案され、着実に開発が進められたように思う。11月中旬には、東京会場とオンラインのハイブリッド方式で、第13回 国際VRシンポジウムが開催された。各メンバーのテーマは、表1の通りである。VRを中心にBIM、AI、点群など様々なデジタル技術との連携が読み取れる。

 

 表1 第13回 国際VRシンポジウムでの成果発表(2020年11月18日)

タイトル

World16メンバー

概要

Virtual & Interactive Museums Real Estates Collaborative Design

Amar Bennadji(ロバートゴードン大学)

covid-19影響によりコミュニケーション手段が大きく揺れた。今回は建築設計の教育の一環としてWeb上のバーチャルツアーの活用について。

Flexible Traffic Lights

Kostas Terzidis(同済大学設計創意学院)

AI技術を使った交通制御への挑戦。道路使用者から見た快適さを中心に考えた最適な交通制御とは?VR技術を使って検証!

Visual Voxel Heatmap Generation

Marc Aurel Schnabel(ヴィクトリア大学ウェリントン

最適な環境づくりのために人の行動を分析し理解する必要がある。視線計測装置を用いた多次元的に分析するシステムの開発と今後の発展について。

GANs and Latent Space

Marcos Novak(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)

映像などの情報に含まれている根本的な要素がディープラーニングにより抽出され、潜在空間として生成される。元の現実と異なる角度で潜在空間を表現しなおすGANとVRとどのように組み合わせて活用できるか。

VR Immersive Experience Engaging Five Senses

Thomas Tucker(バージニア工科大学

アートやエンタテインメントで体験者の感覚の刺激の与え方により印象が大きく変化する。高精度の3Dモデリングと模型をVR技術で融合させて得られた効果とは?

The Colors of Point-Cloud

Dongsoo Choi(バージニア工科大学

点群は3D形状を詳細に捉えるものでありながら立体感のある可視化には様々な工夫が必要。今回は色と輝度情報がない点群データから立体感のある表現技術と可視化のツールの開発について。

VRI for Architecture Modeling Design within Immersive Virtual Reality

Sky Lo Tian Tian(ハルビン工業大学深圳校)

没入感のあるARを考えると本格的なVRヘッドセットを想像する。今回は軽量で没入感を楽に与えるAR技術の研究開発について。

Assessing VR toward Preventing VR Sickness

福田 知弘(大阪大学

VRコンテンツの作成が増えている。快適なVR体験のため、VR酔い対策などVRの活用と普及促進に向けた新たなVRコンテンツ評価技術の開発について紹介する。

Agent Based Modeling of Infection in the Built Environment

Matthew Swarts(ジョージア工科大学)

covid-19をはじめ感染リスクを制御しながら、長期的に継続可能な対策をシミュレーションで見極める!本プロジェクトはエージェントを用いた感染拡大と対策シミュレーションを行い、その結果をVRで表現。

Artistic Filters on Point Clouds in UC-win/Road

Rebeka Vital(シェンカル工科デザイン大学)

重要な遺産のデジタル保存に点群が良く使われる。点群を使って遺産をVRでどのように甦らせるか?

Car accident Simulation & Visualization The advantage of VR and UC-win/Road

Ruth Ron(マイアミ大学

衝突事故の原因調査に衝突の物理シミュレーションによる再現が使われているが、VRを用いた再現ができればどのような効果が?

5D Development system UC-win/Road Sustainable Planning and Design

Paolo Fiamma(ピサ大学)

欧州でのBIM/CIMについての活用状況とUC-win/Roadに期待されるインパクトについて。

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/2011machinami_FukudaFinal.pdf
(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2020年12月号)

フォーラムエイト・デザインフェスティバル2020

11月18日~20日は、フォーラムエイト デザインフェスティバル2020に参加しました。今年はハイブリッド型の開催となりました。会場とオンラインの接続に様々な工夫がなされていました。

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 新刊「都市と建築のブログ 総覧」出版記念講演

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新刊「都市と建築のブログ 総覧」は会場で20%オフで販売されました。購入いただいた方に、メッセージ付きサインと記念ショット!

書籍は11月18日より、楽天、ヤフー、アマゾンなどで購入いただけます。ご笑覧いただければ幸いです!

www.forum8.co.jp
item.rakuten.co.jp

store.shopping.yahoo.co.jp

www.amazon.co.jp



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CPWC(第8回学生クラウド・プログラミング・ワールド・カップ)最終公開審査会。最終審査に残った7チームが各2分で開発システムを紹介しました。今年は海外からオンライン参加のチームがほとんどでした。

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World16による第13回国際VRシンポジウムでは、VRの新たなレンダリング手法に関して、夏のサマーワークショップで開発してその後考察を深めた内容を発表しました。

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CPWC表彰式が始まる頃。審査員は2名が会場、別の2名がオンラインで参加しました。パックンが司会を務めています。

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最優秀賞は、韓国のチームが受賞しました。おめでとうございます!
CPWC 2020 受賞結果発表

 

出版した書籍のアーカイブ(Publication of Books)

J-11
タイトル:
デジタルツイン活用事例集
著者(共著): 野村 淳一、青田 健太郎、松田 克巳、仲原 英喜、大塚 孝信、丸山 翼、多田 充徳、遠藤 維、藤井 正和、川浪 洋資、大西 秀一、星川 孝治、月森 悠太、卓田 郁也、藤井 亮太、阿部 幸太、澁谷 遊野、関本 義秀、福田 知弘、臼田 裕一郎、金本 薫希、野中 康司、細沢 貴史、小津 宏貴、林 典之、脇嶋 秀行、坂井 浩紀、森 研人、村上 善則、小林 智久、佐々木 栄二、金地 哲史、王 元、太田 香苗、太田 進、先崎 心智、金子 達哉、宮城 教和、西村 昭治、目黒 慎吾、本間 悠暉、中村 清人、秋田 亮平、山本 聡史、高田 祐一
出版社: (株)エヌ・ティー・エス
ISBN: 978-4-86043-877-7 C3004
出版日: 2024年2月

www.nts-book.co.jp

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J-10
タイトル:
都市と建築のブログ 総覧 電子版
著者: 福田知弘
出版社: フォーラムエイトパブリッシング
ASIN: B09LCMQ3QS
出版日: 2021年11月

www.amazon.co.jp

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新刊『都市と建築のブログ 総覧』上梓させていただきました!

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新刊『都市と建築のブログ 総覧』上梓させていただきました!印刷版を届けて頂きました。実物はやっぱりいいですね。11/18に出版です。単著は初めて。まち医者として各方面でご活躍されている阪大環境工学科の同級生、泉英明さんに特別寄稿をして頂きました(お宝写真てんこ盛りです 汗)。忙しい中、本当にありがとうございました。

目次

はじめに

【特別寄稿】まちの楽しみ方と楽しむチカラ 泉 英明

【やはり訪れたい都市・建築】
1 シドニー:世界一の美港(Sydney, AUSTRALIA)
2 マチュピチュ:空中都市(Machu Picchu, PERU)
3 ヴェネツィア:水網都市(Venice, ITALY)
4 タージ・マハル:総大理石の墓廟(Taj Mahal, INDIA)
5 アンコール・ワット:見立て(Angkor Wat, CAMBODIA)
6 キンベル美術館:トップライト(Texas, USA)
7 サントリーニ島エーゲ海に舞い降りた白い集落(Santorini, GREECE)

【都市・建築プロジェクト】
8 クリチバ:鍼治療(Curitiba, BRAZIL)
9 ストラスブール:トラムとまちづくり(Strasbourg, FRANCE)
10 大阪:中之島(Osaka, JAPAN)
11 ハンブルグ:ハーフェンシティ開発(Hamburg, GERMANY)
12 フライブルク:環境首都(Freiburg, GERMANY)
13 神戸:山も海もデザインも(Kobe, JAPAN)
14 台中:亜洲現代美術館(Taichung, TAIWAN)

【地域力】
15 南砺:合掌造り(Nanto, JAPAN)
16 神山:案山子(Kamiyama, JAPAN)
17 近江八幡:奥行き(Omihachiman, JAPAN)
18 沖縄:行逢りば兄弟(Okinawa, JAPAN)
19 鎌倉:いざ!(Kamakura, JAPAN)
20 潮来と佐原:ちばらき(Itako & Sawara, JAPAN)
21 信濃大町北アルプスの資源を活かして(Shinano Omachi, JAPAN)

【建築・都市とコンピュータの探求:ヨーロッパ】
22 ヴォロスとアテネ:素敵な小広場(Volos & Athens, GREECE)
23 チューリッヒとヴァイル・アム・ライン:国境越え(Zurich & Weil am Rhein, SWITZERLAND & GERMANY)
24 デルフト:ボンエルフ (Delft, NETHERLANDS)
25 ウィーン:音楽の都(Wien, AUSTRIA)
26 イスタンブール古今東西(Istanbul, TURKEY)
27 ローマ:一日にして成らず(Rome, ITALY)
28 ウッチ:文化観光都市へ(Lodz, POLAND)

【旅好きと】
29 瀬戸内の島々:国際芸術祭(Setouchi, JAPAN)
30 南信:ジビエ料理(Nanshin, JAPAN)
31 ぶんご大野:里の旅(Bungo-Ono, JAPAN)
32 郡上八幡:水とおどりの都(Gujo Hachiman, JAPAN)
33 ボストン:歴史と新たな刺激の融合(Boston, USA)
34 ヤンゴン:横断中(Yangon, MYANMAR)
35 深圳:創新(Shenzhen, CHINA)

【建築・都市とコンピュータの探求:アジア・オセアニア
36 台湾:元気はつらつ(Tainan, TAIWAN)
37 香港:ピア(Kowloon, HONG KONG)
38 豪・ニューカッスル:地方都市の楽しみ方(Newcastle, AUSTRALIA)
39 チェンナイ:ベンガル湾(Chennai, INDIA)
40 シンガポール:赤道直下の都市国家(Marina Bay, SINGAPORE)
41 京都:おこしやす(Kyoto, JAPAN)
42 メルボルン:マルチカルチャー(Melbourne, AUSTRALIA)
43 蘇州:不易流行(Shenzhen, CHINA)

【世界はまだまだ広い】
44 サンパウロ:南半球一のメガシティ(Sao Paulo, BRAZIL)
45 ウェリントン:世界最南首都(Wellington, NEW ZEALAND
46 南京:多少楼台煙雨中(Nanjing, CHINA)
47 ホーチミン:王の法律も村の垣根まで(Ho Chi Minh, VIETNAM)
48 マナーマ:古新が織りなす中東の島(Manama, BAHRAIN)
49 済州島スマートグリッド・アイランド(Jeju, KOREA)
50 ラスベガス:ネオン(Las Vegas, USA)

【xRを活かしたプロジェクトノート】
1 水木しげるロードリニューアル:境港
2 境港市民交流センター(仮称):境港
3 回廊の家:潮来
4 VR安土城近江八幡
5 丹後国分寺五重塔AR:宮津
6 川湯の森ナイトミュージアム:阿寒摩周国立公園

3Dデジタルシティ 都市と建築のブログ
初出誌と参考文献
あとがき

都市とITとが出合うところ 第76回 CAADRIA 2020オンライン国際会議(2)

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図1 CAADRIA 2020 交流(順に、25周年ブース、ワークショップ展示)

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図2 CAADRIA 2020 テクニカルツアー(順に、チュラロンコン大学図書館トゥクトゥク、ランチタイム)

交流の大切さ

国際会議に参加して得られるものは、まず、厳しい査読プロセスを通過した国際水準での研究発表や、業績ある専門家の基調講演を聴講できることがある。

もうひとつは、参加者との交流である。講演者との新たな出会いや旧知との再会、研究発表についてのディスカッション、学会の運営の振り返り、新たなプロジェクトの相談、参加者が暮らしている国や都市の現状、研究者同士の悩み相談など、話のネタは尽きない。友だちになれば、それぞれの国に帰ってからもSNSで写真や動画を共有し合ったりと交流は続く。

CAADRIAは、参加者同士が交流しやすいアットホームな学会運営がなされてきた。フルオンラインとなった2020年、交流の場をどう確保するのか?

交流ツールの選定

Zoomのようなウェブ会議システムは、参加者が一堂に会して、ひとつの話題を共有したり議論することはできるが、大人数で複数の話題を交えながら交流するには使いづらい。Zoomには、ブレイクアウトセッションという個室が用意されているが、他の部屋の様子がわからないし、他の個室への移動も面倒である。

参加者が3次元仮想空間を自由に動き回れるソーシャルVRも登場しているが、日ごろ使っている参加者はまだ限られており、誰もがいきなり手軽に使えるとは言いがたい。

今回は、SpatialChatを使うことになった。参加者は、丸いアイコンで表示され(参加者のライブ表示も可能)、マウスやタッチ操作で画面内を自由に移動できる。参加者同士の距離が近ければ会話が成立して、距離が遠くなるほど声が小さくなる。なので、会話したい人たちが近くに集まって交流できる。画面には、静止画やYoutube動画を表示させることができる。

CAADRIA 2020期間中、SpatialChatは3室用意された。1つ目はCAADRIA 25周年を記念する部屋。過去の論文集の表紙や集合写真がムービー化されて展示されていた(図1)、2つ目はカンファレンス直前に開催されたワークショップの成果が並べられた部屋(図1)、3つ目はスポンサーブースである。

自由に移動しながら会話できるのは、やはり楽しい。人々の動き方で興味深かったのは、Zoomで行われている研究発表のセッションが終わり、SpatialChatでの交流がはじまった時間帯は参加者がワーッとひとつの場所に集まって記念のスクショをとったりしているが、次第に個別の会話に分散していったこと。そのため、画面の端っこの方に小さなアイコンがたくさん表示されている。CAADRIAカンファレンスに初めて参加した方、そもそも交流が苦手な方はどんな印象を持たれたのだろうか。

ポストツアー

国際会議では、学会終了後に開催地を巡るツアーが用意されていることが多い。ポストカンファレンスツアー(ポストツアー)、テクニカルツアー、エクスカーションなどと呼ばれ、訪問先を巡りながら、参加者同士が交流できる。CAADRIAの場合は物見遊山ではなく、建築・都市とICTに興味津々のメンバー達がワクワクする訪問先が企画されてきた。フルオンラインとなった2020年、ポストツアーをどう企画するのか?

CAADRIA 2020テクニカルツアーは、Zoomで3時間かけて行われた。女性2名がナビゲーターとなり、ウェブカメラで現地の様子を実況中継。まず、学会のホストを務めたチュラロンコン大学で近年リニューアルされた図書館のライブ案内(図2)。別の場所から参加している専門家が詳しい解説を加えていた。

図書館の案内を終えると、ナビゲーターは屋外にあるトゥクトゥクに乗り込む(図2)。トゥクトゥクで次の場所であるタイランド・クリエイティブ・アンド・デザインセンター(TCDC)へと移動する。トゥクトゥクのエンジン音や風を切る音など、ライブ感を味わえた。TCDCでは予め収録された内部見学やインタビューの様子が紹介された。

次は、ランチである。ナビゲーターたちがレストランで、地元のタイ料理を食べながら、食事を中心にタイの文化を紹介。日本は、時差の関係でランチタイムを過ぎていたが、食事を見ているだけなのは辛い(笑)(図2)。

最後に、バンコクを代表する風景である、ワット・アルン・ラーチャワラーラームの紹介。ツアー時間、訪問先、訪問先間の案内、ライブと録画の使い分け、カメラワークなど、質の高いオンラインツアーだった。

今後、実際の人々との出会いや現地訪問については、現地へ行く必要までもない会議はウェブ会議に置き換わっていく一方で、自発的なものほどますます増えていくと思えている。

参加は、新たな出会いにつながり、普段の生活では得られない刺激を受け、経験となり、記憶に残り、そして、成長へつながっていく。

 

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/2011machinami_FukudaFinal.pdf
(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2020年11月号)