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都市とITとが出合うところ 第62回 メディアファサード

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メディアファサード(香港・環球貿易廣場)

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メディアファサード香港島

メディアファサード

デジタルサイネージに続いて、メディアファサードについて考えてみよう。メディアは情報を伝達する媒体を、ファサードは建築物の正面(立面)部分を、それぞれ意味する。すなわちメディアファサードは、建物の立面(壁やガラス)にLEDなどの光源を設置して、デジタル技術により映像を動的に表示する照明演出といえる。

ビル単体のメディアファサード

建物の照明演出は、直接投光照明方式(対象となるファサードの外側から投光。ライトアップなど)、自発光照明方式(建物自身に点状・線状の発光体を設置。イルミネーションなど)、透過光照明方式(屋内照明を外観上も美しく見せる)などの方式により取り組まれてきたが 1)、光源(照明器具)は長らく単色であり、さらに、光源同士がネットワーク化された事例は少なかった。

LEDはフルカラーの表示が可能であり、光の強さや色を変化させることで動きを表現することができる。各LED光源はネットワーク化もできる。4月に香港を訪問した時のこと、香港で最も高い環球貿易廣場(484m)はファサード全体を使って、デジタル時計、月の満ち欠け、鳥の飛ぶ様子、雲の動きを白色の落ち着いた色合いで大らかに表現されていた。夜7時を迎えると、アナログ時計やハートの表示となり、時報を意識させた。余談であるが、ビル足元の香港西九龍駅からは、北京までの直通列車が昨年開通、2000kmを9時間で結ぶ。

香港島のビクトリアハーバー側はもう少し派手な演出。中国銀行タワー(367m)は象徴的な三角形を構成する各辺が白色でテンポよく移動する。また、香港上海銀行・香港本店ビルはファサード中央部のまとまったエリアがデジタルサイネージなどで表示されていた。

都市スケールのメディアファサード

ビル単体だけでなく、都市スケールでのメディアファサードも出現している。筆者が最近驚いたのは、中国・深センの取り組みである。中心部に位置する公共施設地区広場とそれを囲むビル群が、一体的にメディアファサード化されている。規模を地図で測ってみると、およそ1km×2kmという巨大さ。季節ごとにコンテンツを変えながら、毎日実施されているそうである。是非、Youtubeで実写映像をご覧頂きたい(下)。これは、メディアアーキテクチャ学会(Media Architecture Institute)で活動する知人に教えていただいた。

www.youtube.com

メディアアーキテクチャ学会

メディアアーキテクチャ学会(Media Architecture Institute)は、メディアファサードを研究対象のひとつとしている。2009年にヨーロッパで設立され、全世界に広がっている。当学会ではメディアファサードの他、モバイルアプリ、ソーシャルメディア、位置情報サービス(Location based services)、都市のスクリーン(Urban Screens)、応答環境(Responsive Environments)など、建築・都市の空間や活動に関するデジタル技術を扱っており、研究発表会のみならず、ビエンナーレが2年に一度開催されている。また、メディアアーキテクチャビエンナーレの賞に応募された作品を集めた書籍も出版されている 3)

メディアファサードがまちなみの景観に与える影響は小さくない。広告物は情報伝達媒体のひとつであり、立面全体に広告物がLED表示されたものは、メディアファサードともデジタルサイネージともいえそうである。これらをどう考えていくのか、質の髙いメディアファサードを如何に作っていくか、隣接するメディアファサード同士は折り合えるのか、気になるところである。

参考文献

1) 景観材料推進協議会: 景観照明 ー景観に配慮した照明の使い方ー,1997.

2) Media Facade Limited: Shenzhen media facade project https://www.youtube.com/watch?v=b1n-aFwkGqc(2019年5月8日参照)

3) Luke Hespanhol et al., Media Architecture Compendium: Digital Placemaking, Av Edition Gmbh, 2017.

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1906machinami_FukudaFinal.pdf

(一般社団法人 大阪府建築士事務所協会 「まちなみ」2019年6月号)