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都市とITとが出合うところ 第52回 CAADRIA 2018(1)

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デジタル設計の学会

5月中旬、CAADRIA 2018(Computer Aided Architectural Design Research in Asia)に参加した。CAADRIAは建築・都市のデジタル設計に関する国際会議。年次大会がアジア・オセアニア圏で、世界中からの参加者を迎えて1996年から開催されている。欧州圏ではeCAADe、北米圏ではACADIA、南米圏ではSIGraDI、中東圏ではASCAAD、そして全世界を対象としてCAAD Futuresという姉妹学会がある。23回目を迎えたCAADRIA 2018は、中国北京・清華大学で開催された。

筆者自身、CAADRIAへは1997年からほぼ毎年参加している。近年の傾向として、コンピュータ設計、デジタル製作、BIM、VR、IoT、AIなどの発展が目覚ましく、建築分野での注目が大きくなっており、投稿論文数や参加者数が大幅に増えている。

CAADRIA 2018では、全文査読を通過した論文発表は113編。これに、ショートペーパー46編とポスター発表が加わった。日本からは、慶応大学、筑波大学大阪大学の大学研究者・学生の他、竹中工務店からの研究発表があった。

論文審査委員会

CAADRIA 2018開催に向けて、論文審査委員長を仰せつかることになり、中国、シンガポール、香港、オーストラリアの委員と共に、昨年の年次大会後から準備を進めた。CAADRIAでは、論文審査委員会は、ホスト大学からは独立した組織である。これは、論文審査の中立性を確保するため、そしてホスト大学ごとの質のバラつきを避けるためである(最終的な論文集の印刷はホスト大学が担当)。主な仕事は、論文募集要項の作成、論文募集、論文投稿システムの構築、関連学会やSNSでのPR、アブストラクト審査、フルペーパー審査のための査読者の招聘と査読の依頼、論文集の前付けの作成、論文集の編集、著者からの質問への対応などである。今年は、質の髙い論文応募が増え、例年よりも数多く出版することになった。募集から出版に至る論文数は以下の通りである。論文のテーマを最後に示す。

  • アブストラクト投稿: 254
  • アブストラクト採用: 233
  • フルペーパー投稿: 161
  • フルペーパー採用: 117
  • 論文集掲載: 113

大きな出来事を紹介しておきたい。中国は昨年から「一つの中国」政策を強めており、各分野に影響が出ている。今回、論文集を中国国内で出版するにあたり、①「Taiwan」を「Taiwan, China」と記載しなければならないこと、②台湾内の大学・組織名に「National」「Central」が付く場合にはこれらを削除しなければならないこと(すなわち大学名の変更)というものであった。

この問題が発覚したのは論文の各著者が版下原稿の校正を終えた本番1か月前であり、修正と解決を急ぐ必要があった。委員会内部での議論と台湾からの各著者とのやり取りを経て、論文集の出版物に、①の指摘に対しては国名・地域名を記載しないこと、②の指摘に対しては省略語で記載すること(例えば「National Chiao Tung University(国立交通大学)」は「NCTU」とする)で落ち着いた。一方、インターネット上の論文データベースへの登録(Web of Science, EI Compendex, Scopus, CuminCADなど)は、ホスト大学とは無関係であるため、「一つの中国」の影響を受けていない論文が登録される。このように出版間際まで気を抜くことができなかった。113編の論文はCuminCAD(http://papers.cumincad.org/)で「series:caadria year:2018」と検索するとアクセスできる。

学会期間中の様子

年次大会では、まず10テーマからなるワークショップが開催され、次いで国際会議が開催された。ザハ・ハディッド・アーキテクツのパトリック・シューマッハー氏がサプライズで登場するなど盛り上がりをみせた。参加者は300名を超えた。

個人的には、日頃、メールやSNSで準備を進めてきたCAADRIA仲間と再会できるのは大いなる楽しみである。互いの労をねぎらうと共に、学会の運営や研究活動について新たな企画を始めるきっかけになる。また、CAADRIAのコンセプトの一つは「アット・ホーム」。年次大会に初めて参加したメンバーや学生・若手にフレンドリーな学会である。

来年の年次大会・CAADRIA 2019は、2019年4月にニュージーランドウェリントンで開催される。

表1 CAADRIA2018論文テーマ(意味)

  • Robotic Fabrication and Automation(ロボット製造と自動化)
  • Computational Design Processes, Theory and Education(コンピュータ設計のプロセス、理論、教育)
  • Generative, Algorithmic and Evolutionary Design(生成的、アルゴリズムに関する、進化的な設計)
  • Additive Manufacturing and Optimization Processes(付加製造と最適化プロセス)
  • Digital Fabrication and Construction(デジタル製作と建設)
  • Augmented and Mixed Reality in Architecture(建築分野の拡張・複合現実)
  • Mixed Reality and Interactive Environments(複合現実と相互作用環境)
  • Virtual Reality and Interactive Environments(人工現実と相互作用環境)
  • Human-Computer Interaction and Wearables(人間とコンピュータの相互作用とウェアラブル
  • Building Information Modelling and Interoperability(BIMと相互運用)
  • Environmental Analysis - Adaptive Facades(環境解析 適応性のあるファサード
  • Computational Fluid Dynamics and Optimization(計算流体力学と最適化)
  • BIG Data and Machine and Deep Learningビッグデータと機械・深層学習)
  • BIG Data, Clustering and Information Processing(ビッグデータクラスタリング、情報処理)
  • Adaptive Materials and Kinetic Architecture(適応材料とキネティック建築)
  • Architecture and Urban Form and Analysis(建築・都市の形態と解析)
  • Shape Studies and Design Synthesis(形状研究とデザインの合成)
  • City Modeling and Thermal Comfort(都市モデリングと熱的快適性)
  • Smart Built Environment and Internet of Things(スマート建築環境とIoT)
  • Visual and Spatial Studies(視覚、空間研究)

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1807machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2018年7月号