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福田知弘(大阪大学 大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻)のオフィシャルブログです。

都市とITとが出合うところ 第23回 亜洲大学@台中(1)

早くも2月ですね。「都市とITとが出合うところ」第23回は昨年11月に台湾・亜洲大学を訪問した様子をご紹介します。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1602machinami_FukudaFinal.pdf

亜洲大学へ
昨年11月、台湾・台中にある亜洲大学を訪問した。台湾初のANDO建築・亜洲現代美術館を擁する大学。今回は、国際デザインワークショップ「The Evolution of Design Thinking」に出席するためである。このワークショップには、デジタルメディア(Digital Media Design)、ビジュアルコミュニケーション(Visual Communication Design)、プロダクト(Creative Product Design)、ファッション(Fashion Design)、インテリア(Interior Design)の各デザイン分野の専門家がイギリス、オーストリア、中国、日本から招かれた(図1)。小生はインテリア部門を担当した。

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図1 国際デザインワークショップ集合写真

本稿では、インテリアデザイン部門の学生たちに講義した、最新のデジタル設計技術の内、「Integrating CFD, VR, AR and BIM for Design Feedback in a Design Process(設計プロセスにおける設計フィードバックのためのCFD・VR・AR・BIMの統合)」をご紹介したい。これは、アトリエ・ドン森啓祐氏(建築設計)、フォーラムエイト今泉潤氏(建築エンジニア)との共同研究であり、アトリエ・ドン茨城県潮来市で進めている戸建住宅の実設計プロセスを支援するために、CFD(Computational Fluid Dynamics)、VR(Virtual Reality)、AR(Augmented Reality)、BIM(Building Information Modeling)を統合的に扱おうと試みたものである。昨年9月にウィーンで開催されたeCAADe2015国際会議で論文発表した [1]

研究の背景と目的
近年、地球環境問題等への関心の高まり、生活水準の向上や高齢化の進行を背景に、住宅分野において室内の温熱環境の向上と省エネルギー化が期待されている。住宅単体のみならず近隣影響に対する配慮も求められる。これらの要求を高水準で満足させるためには、無駄のない設計プロセスの推進が必要であり、設計段階から実験や数値計算による予測と合意形成が不可欠となってきた。

一方、コンピュータソフトウェアとハードウェアの急速な進歩に伴い、設計・開発を取り巻く環境は近年大きく変わりつつある。各種のコンピュータシミュレーションの登場により、設計段階において、物理現象や完成予想図をスタディすることが可能となってきた。これまで、設計者の経験やプロダクトメーカーのカタログスペックに頼らざるを得なかった設計行為であったが、CFD、VR、ARなどにより精度の高い支援が可能になってきた。また、シミュレーションの高速化は、ユーザとコンピュータとの双方向化を加速させてくれる。そのため、設計した結果をシミュレーションで単に確認するだけでなく、何らかの問題が発見された場合には設計案へのフィードバックをも実現可能にする。しかしながら、このようなコンセプトは、十分に検証されていない。

そこで本研究は、BIMを核として、CFD、VR、ARを統合させた設計ツールを構築した(図2)。そして、実証的な研究アプローチとして、実際の住宅設計プロジェクトの課題に対して、構築した設計ツールを適用した。結果、各ツールが実プロジェクトで果たす機能、シミュレーションを通じた設計案へのフィードバックの状況について考察した。

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図2 CFD・VR・AR・BIMの統合モデル

検証対象: 潮来市
検証対象となる計画敷地は、茨城県潮来市の郊外にある。敷地面積が401.73m2、建築面積が104.97m2、総床面積が135.46m2の2階建て住宅である。空間計画は、平面的に3重の入れ子状となっている「回廊のある家」。家族にとって生活の中心であるリビングを家の中心に吹き抜け空間として配置して、その周りに回廊状の廊下を配置して、さらにその外側に各居室や水回り、2階への階段、テラスなどを配置してある(図3)。

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図3 回廊のある家 平面図(設計:アトリエ・ドン

本研究に関する、設計上の主な課題は以下である。

  • リビングの大きな吹き抜け空間は、1階では回廊、ダイニング、キッチン、玄関とつながり、2階では回廊、子供部屋、階段とつながる、一体的な大きな空間である。リビングは、家族の滞在時間が長いため、最適な温熱環境を実現すること。
  • 風呂には、生活者が風呂に入りつつ、外気に触れたり空を眺められるように屋外テラスが設計された。周辺の住宅からこの屋外テラスが見えないこと、すなわち、プライバシーの問題を確実にクリアする必要があること。
  • 計画敷地周辺は古い集落の中にあるため前面道路幅は狭い。そのため、駐車しやすい駐車場の配置について施主の意見も聞きながら検討すること。

紙面の都合上、本稿では、課題1)を中心に取り上げる。

結果: CFDシミュレーションによる設計へのフィードバック
課題1)の解決のため、CFDシミュレーションを実施した。CFDシミュレーションには、DesignBuilder Engineering Pro 4.1を使用した。夏季(8月12日16時、外気温35℃)、冬季(2月13日16時、外気温7℃)それぞれにおいて、壁・窓等の表面温度、エアコンの吹き出し口を設定して、室内の気流及び温度の定常状態の解析を行った。エアコン風量は、強と弱の2種類とした。

可視化された解析結果を眺めると、冬季において、エアコンの暖気が吹き抜け空間で上昇し、その気流が階段を伝って冷たい下降気流となり、リビングに流れ込んでいることが明らかになった。そのため、1階の階段と回廊の間にスライドドアを設けて、再度解析を実施した。その結果、階段の下降気流が抑制され、温熱環境が改善されている様子が確認された(図4)。このスライドドアは、ドアを開放した場合には壁と一体となるよう設計されており、暖房使用時のみ階段室を塞ぐドアとして利用できる。このようにして、CFDシミュレーション結果を基に、設計案へのフィードバックが行われた。

 

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図4 CFD結果:初期案(左)、改善案(右)

結果: CFDとVRの統合
課題2)の解決のため、UC-win/Road ver.10 & VR-Cloud ver.6を使用してVRシミュレーションを実施したが、課題1)に関しても、上に述べたCFDシミュレーションの結果をVR空間上に配置することを試みた。つまり、リアルな住宅3Dモデル上に、吹き抜け空間の温熱環境を風向(矢印)や温度(色情報)を可視化してみた(図5)。この手法は、例えば施主のような建築設計や温熱環境の専門家でない方々にとって、空気の流れをより直感的に把握することが可能になりそうである。

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図5 CFDとVRの統合

一方、今回用いたCFDシミュレーションソフトウェアから、矢印や色情報をベクタ形式として出力することができず、代替手法として、矢印や色情報をラスタ形式として画像出力してVR空間上にテクスチャマッピングにより対応した。この課題を解決するため、現在改良中である。

おわりに
設計検討を終えた住宅は施工を経て、昨年7月に竣工した(図6)。温熱環境は完成後のクレームが多いと聞いたことがある。「不満がないレベルでできあがって当然」「寒けりゃ我慢」などで済ませるのではなく、施主と設計者が設計段階でもっともっとコミュニケーションしていくべきであろう。

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図6 完成した住宅(撮影:アトリエ・ドン

参考文献
[1] Fukuda, Tomohiro; Mori, Keisuke and Imaizumi, Jun: Integration of CFD, VR, AR and BIM for Design Feedback in a Design Process - An Experimental Study, Proceedings of the 33rd eCAADe Conference (1), 665-672, 2015.