ふくだぶろーぐ

福田知弘(大阪大学 大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻)のオフィシャルブログです。

都市とITとが出合うところ 第17回 高野山×3D地図によるAR位置合わせ

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」。第17回となる旅は高野山へ。ITは3D地図を用いたAR位置合わせをご紹介します。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1508machinami_FukudaFinal.pdf

高野山
 高野山は今年、開創1200年を迎えた。弘法大師空海が、816年に嵯峨天皇からこの地を賜り、平安仏教・真言密教を開いた。本年4月2日より1200年記念大法会が始まっており、国内外からの観光客でごった返していた (1)。地理的には、実は「高野山」という名前の山はなく、八葉の峰々に囲まれた、標高約820mの盆地状の平地を指す。大きさは、東西5km×南北1km。

 高野山は恐らく2回目となる。私事で恐縮だが、子供の頃、書道を学んでいた時に、高野山の競書大会に応募して、何かの賞に選ばれ、金剛峰寺に展示されたことをうっすらと覚えている。確か、「江山清趣」と書いた。今となっては、当時訪問した記憶よりも、書道の腕の方が雲散霧消になってしまったのだが(笑)。

鋼索線
 南海高野線 極楽橋駅から、南海電鉄鋼索線(ケーブルカー)に乗る(図1)。2両連結の車両が最大29.2度、高低差328mの急勾配を一気に上っていく。深い山の中であるが、道中、濃い緑の中に銀色のシャガの花が光り輝いていたり、橋本方面の眺望が楽しめる。高野山駅は、木造2階建ての駅舎。標高867mにあり、聖なる場所の玄関に相応しく、頂上には宝珠が載せられている。今年2月にリニューアル工事が完成し、丸窓や欄干など、1930年開業当時の意匠が再現された。


図1 高野山ケーブル

奥の院
 南海りんかんバスに乗り、奥の院へ。老いた杉や桧が茂る中に20万基を超える墓や供養塔が立ち並んでいる。そこには、歴代皇室、公家、平敦盛法然上人、親鸞聖人、織田信長、豊臣家、明智光秀石田三成武田信玄徳川吉宗ら、多くの歴史上の人物を見出すことができる。これは、弘法大師の足下に眠れば、極楽往生できるという信仰によるもの。ピラミッド状の無縁塚も(図2)。荘厳な雰囲気。


図2 無縁塚

 玉川沿いには水かけ地蔵と観音様が鎮座しており、順に水を掛ける人たちで一杯だった(図3)。玉川にかかる御廟橋より先、すなわち、弘法大師御廟や灯籠堂へつながる超神聖エリアは、撮影禁止。すなわち、玉川は此岸と彼岸とを分けている。


図3 水向地蔵

檀上伽藍
 伽藍は僧侶が集い修行をする閑静清浄なところという意味で、後には、寺院の建物を指すようになった。奥の院と並ぶ、高野山の二大聖地。空海高野山造営にあたり、壇上伽藍からはじめられ、金堂、根本大塔、西塔などを建立していった。

 蛇腹道を歩いていくと、高野山のランドマークともいえる高さ約50m、朱塗りの根本大塔、そして、金堂が目に入ってくる(図4)。金堂は高野山一山の総本堂で、年中行事の大半がここで執り行われる。訪問時も金堂舎利会が開かれており、境内の一部は立ち入りが制限されていた(図5)。


図4 御影堂と根本大塔


図5 金堂舎利会

金剛峰寺
 金剛峰寺は、元来、高野山全体を指す名称であったが、明治初年に興山寺と秀吉の建てた青巌寺を合併して金剛峰寺と改称した。真言宗3600寺、信徒約1千万人の総本山(図6)。建物内部では見事な襖絵を楽しむことができる。空海が唐に留学した際の都、長安の賑わいを描いたもの、季節の花々を描いたものなど。また、関白・豊臣秀次が自刃した間もあった。


図6 金剛峰寺

3D地図によるAR位置合わせ
 AR(Augmented Reality: 拡張現実感)は、カメラ等で入力される現実のライブ映像に仮想空間の情報を重ね合わせて表示する技術である。人間が見えない現実世界の情報をコンピュータで拡張する。ARに関する研究は昔から行われていたが、実際に体験するためには特殊な装置が必要であったり、高価だったり、大がかりであったり、と敷居が高かった。近年になり、カメラを搭載したPCにオープンソースのARソフトウェアをインストールするだけで、ARを気軽に体験できるようになってきた。スマートフォンの登場はこの流れに拍車をかけている。なぜならスマートフォンは、ユーザが日常使い慣れている身近なコンピュータであり、そこにはカメラ、ディスプレイ、GPSや加速度・地磁気などのセンサー、通信機能など、ARを実現するための機能が揃っているからである。

 仮想空間の情報を現実世界の適切な位置と姿勢で表示させるために、位置合わせが必要となる。位置合わせは、ARの重要な研究課題である。

 位置合わせの方法として、大きく2つに分けられる。

  1. ロケーションベース:GPSWiFiなどでスマートフォンの位置情報、加速度・地磁気などのセンサーで姿勢情報を取得する。得られた位置情報と姿勢情報を基準として、そこからの相対位置に必要な情報(テキストのタグ、3Dモデルなど)を配置する。そして、スマートフォンのカメラで入力される現実映像と合成する。課題は、位置情報・姿勢情報を得るセンサーの精度が十分でないこと。数メールのズレが発生することも稀ではないため、筆者が扱うような、計画段階での景観検討のように、厳密な位置合わせが要求されるARコンテンツでは使用が難しい。
  2. ビジョンベース:画像や空間を基準とする方法。身近な方法として、モノクロで描かれたパターン画像を用意する方法がある(マーカ型)。もうひとつの方法として、現実世界に存在する物体や空間そのものを画像認識する方法がある(マーカーレス型)。いずれも、パターン画像や画像認識した物体を基準位置・姿勢として、そこからの相対位置に必要な情報を配置する。そして、スマートフォンのカメラで入力される現実映像と合成する。課題は、マーカ型の場合には、マーカを準備する必要があること、AR映像に表示されるマーカが本来表示したいコンテンツの邪魔となりうること。また、光環境の変化が大きい屋外においてマーカの認識が安定しないこと。マーカーレス型の場合には、計算量が多くなりハードウェア性能が要求されること、まだ研究課題が多く残されており、現状では、基準とする画像や物体によって位置合わせの精度が変化してしまうことなどがある。

 ここからは、ロケーションベースの改良版として、筆者らが試行したシステムを紹介したい (2)。先にも述べたとおり、GPSなどで得られる位置情報には数メートルの誤差が含まれる。そのため、ARで表示される3Dモデルのズレも大きくなる。そこで位置情報のズレを小さくする方法として、GPSではなく3D地図を使うことを考えた。ユーザが現在の正確な位置を地図上でタップすることができれば、GPSよりも位置情報を正確に入力できるという仮説である。地図は緯度・経度の2次元座標しか得られないが、開発したARシステムはデータベースとして各緯度・経度に対応した10mメッシュ標高データを蓄積している。そのため、ユーザがタップした現在位置の緯度・経度情報から串刺しして標高データを得るというシステムである(図7)。


図7 3D地図によるAR位置合わせ

 開発したシステムを阪大・吹田キャンパスのビル(高さ60m)を景観対象と見立て、ビルへの視距離D=200〜1700mとなる4つの視点場で、ビルと同じ寸法の3DモデルをAR表示させ、3Dモデルのビルと実写映像のビルとのずれを計測した(図8)。結果、GPSを使用した場合のずれEは、D=200の場合はE=4.3m、D=1700の場合はE=21mとなった。一方、3D地図を使用した場合のずれEは、D=200の場合はE=2.2m、D=1700の場合はE=8.5mとなった。この程度のズレであれば景観検討に使用可能であろう。今後は、姿勢情報を得るセンサーのズレを改善するための工夫が必要である。


図8 視距離別AR結果

ルートと参考文献
極楽橋駅__<ケーブル>__高野山駅**<南海りんかんバス>**【奥の院】**【壇上伽藍】++【金剛峰寺】**高野山駅__極楽橋駅(15.5km)

[1] 高野山開創1200年特設サイト - 和歌山県観光情報: http://www.wakayama-kanko.or.jp/worldheritage/koyasan1200/ (参照2015年6月4日)
[2] Fukuda,T., Zhang,T., Yabuki, N.:2014, Improvement of registration accuracy of a handheld augmented reality system for urban landscape simulation, Frontiers of Architectural Research, Elsevier, 3(4), 386-397. http://dx.doi.org/10.1016/j.foar.2014.08.003

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」2015年8月号)

キーワード:まちなみ,高野山,金剛峰寺,拡張現実,AR, 3次元地図

都市とITとが出合うところ NAVERまとめ

都市とITとが出合うところ(1〜16回)