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都市とITとが出合うところ 第13回 山崎×クラウドVR・スケッチ機能

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」も2年目に突入しました。今年度も宜しくお願いします。
第13回となる今回の旅は山崎。ITは前回までにご紹介したクラウドVRのスケッチ機能を。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1504machinami_FukudaFinal.pdf

山崎へ
 山崎は京都西山連峰の端っことなる天王山が淀川にぐっとせり出した地。対岸の男山とセットで自然の関所を成す。その関所には、桂川宇治川・木津川が合流し淀川となる三川合流、旧西国街道(国道171号)・名神高速道路(天王山トンネル)、JR在来線阪急京都線・新幹線・対岸には京阪電車が所狭しと並ぶ。鉄ちゃんでなくとも、JR快速と阪急電車、新幹線と阪急電車が並走する風景は面白い。大阪府京都府の府境の地でもあり、JR山崎駅の下りホームには府境看板が立つ。
 山崎といえば、サントリー山崎蒸溜所。この地は、大阪で唯一「名水百選」に選ばれた離宮の水があり、また、三川合流のため霧が立ち込める立地のため、約90年前よりウイスキーづくりが始められた。隣のJR島本駅では、電車が到着する際、サントリーオールドのCMソング「夜がくる」が流れてくる。筆者は、OSAKA旅めがねのエリアクルーを務めており(1)、2013年9月に「サントリー山崎蒸溜所見学・セミナー」プレミアムツアーを造成・案内した。内容は、ウイスキー製造工程の見学、そして、ウイスキー原酒とハイボールのテイスティング。ウイスキーを長年作ってこられた職人さんに解説をお願いしたので語り方がやはり違う。迫力たっぷりのツアーとなった(図1)。


図1 大阪旅めがね山崎ツアー

待庵
 待庵は、千利休が山崎の合戦(1582)後に建立した草庵風茶室。JR山崎駅前の妙喜庵にある(図2)。数寄屋造りの原点であり、にじり口が最初に設けられた茶室といわれる。待庵の見学は、要事前予約、撮影不可、室内はにじり口から覗くだけという制約付きだが、一目見ようと申し込んだ。内部は2畳敷だが意外に広く感じられる。隅を丸く壁土を塗りまわした塗り方や、駆込天井など、狭い室内を広く見せる工夫がなされている。異なる大きさの連子窓の桟は竹で簡素なつくり。事前予約が無理な方、いきなり山崎を訪れた方は、近くの大山崎町歴史資料館に待庵の原寸大模型があるのでそちらへ。


図2 妙喜庵(待庵)

天王山
 天王山(標高270.4m)に登ろう。宝積寺で金剛力士像、閻魔王、十一面観音立菩薩像にお参りしてから、山に入る。この山の東麓は、本能寺の変(1582)の後、中国大返しでやってきた羽柴秀吉軍と明智光秀軍が戦った山崎合戦の地。それもあって、天王山ハイキングコースには、秀吉の天下取りの物語を解説する陶板が道案内してくれる。旗立松展望台では山崎合戦の地が、また、山道の途上では三川合流や男山が一望できる(図3)。登山道は本当に静か。この直下には天王山トンネルが通り抜けており、正に今、8車線に及ぶ高速道路を車がビュンビューンと行き交っているのが信じられない。


図3 天王山より

淀城
 天王山を下り山崎合戦の地を超えて桂川を渡る。京都競馬場のレースが終わったのか、競走馬を載せたトラックやオジサン達が競馬場の方から続々とやってくる。淀城跡へ。この淀城は、江戸時代に築かれたものであり、淀君ゆかりの淀城はもう少し北方にあったそうだ。淀城跡をぶらぶらしていると地元のオジサンがやってきて、他の訪問客も巻き込んで、淀城にまつわる解説を始められた(図4)。昔の井戸のこと、井戸のそばにある石流しのこと、石垣に掘りこんだ島津藩の家紋のこと、石垣の中には財宝が隠されていると言い伝えが残されていることなど。オジサンは、一通り説明した後、ガイド料も取らずに、境内のお稲荷さんにお参りするよう指示だけをして立ち去った(笑)。


図4 淀城

三川合流
 桂川の左岸を下流に歩いて三川合流地点に向かう。桂川丹波高地から流れだし日吉ダム、嵐山を経て鴨川と合流してやってきた。宇治川は淀川北源(都市とITとが出合うところ 第5回)から琵琶湖、瀬田の唐橋平等院を経てやってきた。そして木津川は三重県の方からやってきた。三川は全く同地点で合流して淀川となるのではなく、まず南二川の宇治川と木津川が合流、そして500mほど下流で桂川が合流する。合流地点は、前近代までは先にご紹介した淀であったが、明治以降の淀川改良工事により山崎付近となった。
 宇治川と木津川を分ける淀川河川公園・背割堤地区へ。東に男山、西に天王山に挟まれた地。ここの桜並木はまことに立派(図5)。堤の上を約1.4kmに渡って列植されている。花見のシーズンは20万人もの利用があると聞いた。鳥のさえずりも絶え間なく。船着場の整備も進められているようだ。


図5 背割堤地区

クラウドVR・スケッチ機能
 前回まで、クラウドVRの技術面、及び比較機能を用いた遠隔デザイン会議の事例を紹介した。今回は、遠隔デザイン会議の参加者がクラウドVRの画面にフリーハンドスケッチを直接描いて他の参加者とネット越しに共有できるスケッチ機能(Annotation機能)について(2)
 三次元(3D)仮想空間を眺めながらデザイン検討する際、3D仮想空間の画面に直接、計画内容やVRコンテンツの内容に関する指摘や修正内容をフリーハンドでスケッチしたり、矢印やメモなどを書き込みたくなる。この行為が3D仮想空間の画面に直接できないと、ユーザーは別途、ホワイトボードや自分のノートを用意することになるが、記述内容は遠隔のメンバーとリアルタイムに共有できない。遠隔デザイン会議では、これらの記述内容をネット越しのメンバーがリアルタイムに共有できる必要がある。これらのスケッチ操作は2D情報でありスケッチ画面を決定するために、3D仮想空間でスケッチ操作を行う視点情報(位置、姿勢)を決定しておく必要がある。その上でスケッチを書き込んで検討を進めていく。書き込まれたスケッチは保存・再編集することができるようデータベースに蓄積され、保存されたスケッチ情報は3D仮想空間のある位置にアイコンとしてその存在が示される。
 開発したスケッチ機能を検証するために、ある地方都市で古くなった戸建住宅を建替えて、集合住宅を新築する実験プロジェクトを実施した。対象敷地は、面積151m2、建ぺい率80%、容積率600%、用途地域は商業地域(防火地域指定)である。プロジェクトでは、施主から設計依頼を受け、離れた場所にいる3人のデザイナーが、2日間、スケッチ機能を使いながら、更地に初期案を検討していった。建築計画の初期段階である。

 遠隔会議の役割分担と検討初日の様子を。各メンバーは、クラウドVRとGoogle+ ハングアウトを用いて、3D仮想空間、音声、Webカメラ映像を互いに共有した。デザイナー1(千葉)はマスターアーキテクトであり、設計条件に適合する建物ボリュームを建ぺい率と容積率を考慮しながら、空間の使い方を想定して計画・設計した。デザイナー2(大阪)は、現地の様子に詳しい担当者であり、クラウドVRの三次元仮想空間をフライスルーやウォークスルーしながら、対象地の現況や条件をメンバーに説明した。デザイナー3(ドイツ・ハイデルベルグ)は若手であり検討会議を記録したり気になる点をメンバーに質問した。結果、建設可能な階数は7階であり、1階は店舗と住宅用エントランス、2階から7階は住宅となった。そして、メンバーと議論しながら、デザイナー1はスケッチ機能を使用して、住宅エントランス、店舗、階段、住居など設計する空間の配置と、各空間の大きさをスケッチで表現した。メンバーは、描かれたスケッチを見ながら、空間構成をスタディして、最終的に初期案を決定した。
 検討2日目。SketchUPで作成した3DモデルをクラウドVRに挿入し、共用部から各戸に至る動線や各階からの景観など具体的な検討内容を議題として遠隔デザイン会議を引き続き実施し、初期段階での目的を達成した。
 このように、スケッチ機能は遠隔デザイン会議の双方向性の質を高めるために必要な機能であることが確認できた。現時点では、スケッチ機能が使えるのは操作権を取得したユーザーに限られる。そのため、複数のメンバーが同じスケッチ画面に書き込みあうには、あるユーザーがスケッチ画面を一度閉じてから、他のユーザーが同じスケッチ画面を開いて再編集する必要がある。今後の課題としたい。


図6 クラウドVR・スケッチ機能実験


ルート:JR山崎駅++<徒歩>++【大山崎町歴史資料館】++【サントリー山崎蒸溜所】++【待庵】++【宝積寺】++【天王山】++【天王山跨線橋】++【長岡京市立中山修一記念館】++【淀城跡】++【三川合流地点・淀川河川公園】++京阪八幡市駅(17km)

[1] OSAKA旅めがね http://tabimegane.com
[2] Fukuda, T., Sun L. and Mori, K.: A Synchronous Distributed Design Study Meeting Process with Annotation Function, CAADRIA 2014, 749–758, 2014.

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」2015年4月号)

キーワード:まちなみ,山崎,ウイスキー,まち歩き,天王山,茶室,桜,川,VR,クラウド,スケッチ

都市とITとが出合うところ(1〜11回)