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都市とITとが出合うところ 第11回 金勝×クラウドVR

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」第11回。今回は、栗東市へ。ITについて は、クラウドVRについて。ご笑覧頂ければ幸いです。

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金勝寺へ
快晴。本日は湖南アルプスへ。湖南アルプス栗東市の南部にそびえる金勝山(阿星山・龍王山・鶏冠山の総称)などを指す。JR草津線手原駅から栗東市観光物産協会が季節限定で運営するシャトルバスに乗る。何と満席。途中、道の駅「こんぜの里りっとう」で昼食を確保してから金勝寺へ。栗東の朝らしく、競走馬専用運搬車が競馬場に向かっていた。
金勝寺は天平5(733)年、良弁上人が創建したと伝えられる古刹。聖武天皇平城京の鬼門鎮護のため勅願を発したことに由来する寺で、奈良を向いて建てられている。周囲はヒノキやスギの森であり、キツツキが「コンコンコンコーン」と木を突っついていた。仁王門では阿吽の木造仁王立像がおられた(図1)。境内では、木造釈迦如来坐像などの重要文化財が拝観できる。

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図1 金勝寺

金勝山
金勝寺から龍王山(604m)山頂を目指す。馬頭観音堂付近では北東方面の風景が広がる。近江富士・三上山、近江八幡長命寺山と八幡山、以前登った観音寺山と太郎坊宮、そしてはるかに伊吹山。ここから山道に入り、しばらく歩くと龍王山山頂。茶沸観音を過ぎると分岐点である白石峰に辿り着く。尾根道は非常に歩きやすい。白石峰から重岩や国見岩を過ぎ、沢のある急斜面を下っていくと狛坂磨崖仏に出会えた(図2)。狛坂磨崖仏は、金勝山中の狛坂廃寺跡にある、高さ6.3m×幅4.5mの花崗岩の磨崖面に掘られた仏像。奈良時代後期の作といわれる。実際にこの仏像に出会って写真と見比べると、写真では中々この大きさや立体感を伝えるのが難しいと気づく。近づくとやはりかなり大きい。恐らくこんな岩を動かすことはできないからこの地で掘ったのであろうが、大昔、職人はどのようにして長い時間をかけて掘ったのだろうか、不思議に思う。

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図2 狛坂磨崖仏

白石峰まで戻る。左手に、自然にできた珍しい形の岩々がポコポコと山頂部に露頭している。有名なのは耳岩や天狗岩。岩の形が耳や天狗に似ていることから、そう呼ばれるらしい。天狗岩を遠くから眺めていると、かつて訪問した、中国・黄山の飛来石を思い出す。ただ、このような有名な岩に限らず、この付近には自然が長年かけて作った岩や石のアートが沢山。目に留まった岩を色んな角度から眺めるだけでも楽しいものだ。松が自生している岩は盆栽のようでもある。そして時には岩と岩の狭い間を抜けなければならないことも。
耳岩のちょっと先の茂みを抜けると、360度絶景パノラマが広がる場所に出合えた(図3)。眼下には新名神高速道路草津、大津の町並み、琵琶湖の対岸には、比叡山と比良山系。

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図3 耳岩付近より

片山
天狗岩に登ってから(図4)、耳岩へ戻る途中の分岐点で片山方面へ山を下りていく。途中、ロープを頼りに下りていかなければならない厳しいところも。山道は一旦、走井林道と出合うがそのまま下りていくと砂防ダム、そして白糸の滝に出合う。それからさらに下っていくと片山の集落に辿り着けた。片山で帰りのシャトルバスを待つ間、金勝寺里坊、春日神社、そして大野神社へ。里坊とは山坊(本坊)で修行を続けていた僧が人里に下って営んだ僧房をいう。

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図4 天狗岩

大野神社の楼門は見事。鎌倉初期のもの。しかしそれより有名な話題として、この神社は現在、某アイドルの聖地となっており参拝客の嵐が起こっているそう。国内遠方のみならず海外からも来られるそうだ。境内に掛けられた数えきれないほどの絵馬には良く見られる「○○大学合格!」ではなく、コンサートへの当選祈願といったファンのメッセージが奉納されていた。

草津
手原からJR線で草津に戻る。草津東海道中山道とが分岐する宿場町。駅から中山道となる商店街を歩いていきアーケードが終わった先のトンネルが旧草津川隧道。トンネルの上は、道路でも鉄道でもなく河川。旧草津川は短期間に、洪水のたびに土砂が流れ込み、河床の高さが増し、堤防を嵩上げするといったことの繰り返しによって天井ほどの高さで川が流れる「天井川」として有名であるが、治水対策のため既に新草津川に付け替えられた。廃川となった旧草津川は人が集まるにぎわい空間として再整備中である。訪問時は、地球の耳かきが旧河川のコンクリート壁を板チョコのようにバリッバリッと剥がしていた。
草津宿本陣を訪ねてから東海道を歩いて草津名物うばがもちを本店で購入。小さくて可愛らしいフォルム。そして草津駅前には、昨夏草津市草津まちづくり会社によりオープンしたniwa+(ニワタス)に若いファミリーや大学生、高校生たちがひと時を過ごす。駅前一等地に芝生広場が設けられ、等身大の建物に個性的なショップが軒を並べる。

矢橋帰帆
「瀬田へ廻ろうか矢橋へ下ろか此処が思案のうばがもち」草津宿で江戸時代に流行った言葉。草津から大津へは陸路の瀬田か湖路の矢橋のどちらのルートで行くか考えている歌である。湖路は陸路より距離が短く時間も早かったため、矢橋港は琵琶湖の渡しとして栄えた。しかし、大津港に向かう舟は時折比叡おろしの強風にあおられて難破することもあった。そのため、時間がかかっても東海道を進み、陸路で瀬田唐橋を渡った方が安全確実。「急がば回れ」という言葉はここから生まれたらしい。
近江八景・矢橋帰帆の舞台となった旧港は埋立てられ矢橋帰帆島ができた。かつての港跡には石積みがわずかに残る(図5)。思えば、本連載の第1回(石山秋月、瀬田唐橋、粟津晴嵐、三井晩鐘、唐崎夜雨)、第2回(堅田落雁、比良暮雪)、そして今回の矢橋帰帆とを併せて、近江八景制覇!

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図5 矢橋帰帆

クラウドVR
前号で紹介したVRVirtual Reality)は様々なアプローチで研究と実用化が進められている。例えば、VRが抱える課題の一つとして、VRシステムを動作させるためにユーザは高性能な3Dグラフィックス性能を有するクライアント端末を準備しなければならない。事務用PCでは3D処理が追いつかないためである。単純な3Dモデルならまだしも、建築や都市のようなデータ量が多くなる対象は尚更である。
そのため、建築・都市の計画・設計段階でVRを用いて検討会議を行うシーンとしては、利害関係者が同じ時間に同じ場所で会議する同期同室型環境か、空間・時間の制約を気にせずに自らのクライアント端末にVRシステムをダウンロードして閲覧する非同期遠隔型環境が主流であった。しかしながら、同期同室型は移動時間を含む会議のスケジュール調整が中々困難であること、非同期遠隔型は発言のタイムラグの発生、メール等のテキストコミュニケーションではニュアンスの伝達が難しいことや空間のある位置の課題解決をテキストでやり取りすることは中々手間であることといった課題を抱える。一方、同期遠隔型である「三次元仮想空間を遠隔で共有しながら検討会議を行い意思決定する」という行為はその会議環境を整備するハードルが高く実用面では気軽に実現できてこなかった。
このような背景および、近年、ブロードバンド環境の整備やクラウドコンピューティング技術の発展を受けて、クラウド技術とVR技術を融合させたクラウドコンピューティングVRの開発を㈱フォーラムエイトと進めている。経済産業省の研究開発プロジェクトにも採択されたこの技術はパワフルなクライアント端末でなくても三次元仮想空間を共有しながら、GoogleハングアウトやSkype等のテレビ会議システムと組み合わせて同期遠隔型会議を可能とする(図6)。技術的な内容は以下の通りである。

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図6 クラウドVRを用いた同期遠隔型会議システム例

クラウドサーバ上に設置したVRアプリケーション「UC-win/Road」の高画質な映像や音声を伝送し、クライアント端末(PC、タブレット)で共有することができる。また、クライアント端末のマウス、キーボード等から操作コマンドが入力された場合、入力内容はクラウドサーバへ伝送され、クラウドサーバ上で要求に応じたレンダリングが実行され、クライアント端末にレンダリング結果は再度伝送され再描画される。実際には、レンダリングされた映像の転送は動画形式で行われており、解像度および圧縮品質は設定可能である。クライアントとの接続が遅い場合にはフレーム更新レートを自動的に低減する機能も備えている。
筆者らは、クラウドVRを用いた建築・都市分野の同期遠隔型検討会議を行う可能性を模索している。次号で詳しくご紹介したい。

ルートと参考文献
手原駅**<こんぜシャトルバス>**金勝寺駅++【金勝寺】++<徒歩>++【龍王山山頂】++【白石峰】++【狛坂磨崖仏】++【耳岩】++【天狗岩】++【白糸の滝】++【大野神社】++片山駅**<こんぜシャトルバス>**手原駅–<JR草津線>–草津駅++【追分道標】++【うばがもち本店】++【niwa+】++草津駅西口駅**<近江鉄道バス>**矢橋北口駅++【矢橋公園】++矢橋北口駅**<近江鉄道バス>**南草津駅(41.5km)

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大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」2015年2月号)