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都市とITとが出合うところ 第9回 繖山×VR安土城タイムスコープ

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」第9回。今回は、近江鉄道沿いに、五個荘、繖山、太郎坊宮そして日野へ。ITについて は、VR安土城タイムスコープについて。お楽しみ 頂ければ幸いです。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1412machinami_FukudaFinal.pdf

五個荘
快晴。本日は近江鉄道沿いに巡ろう。まずは近江八幡駅から近江鉄道に乗る。丁度、早川鉄平氏のラッピング電車がお待ちかね。テーマは「米原市の自然と生息する動物たち」。

五箇荘駅で降りて歩いて五個荘金堂へ。金堂は、鈴鹿山脈と琵琶湖の間に広がる湖東平野のほぼ中央に位置し、近代日本経済の基礎を築いた近江商人の発祥地として、近江八幡、日野(後述)と共に知られる農村集落。遠景からは弘誓寺の大屋根を中心に商家の町並みが田園風景と一体となっている。近景では白壁、舟板塀からなる和風建築や庭園が連なって歴史的町並みを形成している(図1)。平成10年には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された。

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図1 舟板塀

繖山(きぬがさやま)
金堂から繖山(観音寺山)へ。繖山にはかつて観音寺城があった。佐々木六角氏が本拠としていた山城であるが、織田信長に滅ぼされた。石垣やとりでの跡が今も残る。

結神社の脇で「観音正寺これより13丁(=1.4km)」の看板を確認して山に入り、裏参道の林の中を登っていく。途中、ところどころに小さい石仏が置かれている。まだ暑い時期。途中の休憩所は風が抜けて気持ちがいい。ここからは北東方面の風景が広がり、荒神山、前回紹介した佐和山、遠くには伊吹山

三角点(標高433m)を抜けてしばらく歩くと視界がぱーっと開けた(図2)。五個荘駅からここまで2時間のハイキング。眼前にはかつて安土城があった安土山、安土の町並み、西の湖、長命寺山、琵琶湖、そして対岸の比良山系までもが多層に連なっている。本当に心地よい。

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図2 繖山から安土山

観音正寺まで戻り、一休み。観音正寺は西国三十二番札所。聖徳太子が1400年前に開基。かつては城郭があったであろう巨大な石垣の上に本堂が建つ。目を 引くのは本堂脇の石積み。ここに石積みが置かれた理由はよくわからないが、異様である。何だか、墓石の集合のようであり、芸術のようである。

教林坊
観音正寺から表参道石寺コースで下山。ひざの笑いを抑えながら教林坊へ。教林坊は聖徳太子により創建された、観音正寺の子院として現存する唯一の寺院。現在の庭は小堀遠州の作といわれる。個人的に、それ以上に興味深いのは、近年20年ほど放置され荒れてしまっていた無住寺を、青年僧が私財を投じて町の協力を得ながら復興したことだ。

江戸時代前期のヨシ葺き書院に入ると掛軸庭園が見事(図3)。庭は岩や苔でできた山が建築に迫る格好で盛り上がっており、立体感豊富。掛軸庭園とは、この和風庭園を掛軸に見立てたもの。生の掛軸を眺めていると、影が揺らめき、トンボが通り過ぎる。紅葉のシーズンが楽しみである。

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図3 教林坊掛軸庭園

太郎坊宮
近江鉄道河辺の森駅」までひたすら歩いて、ローカル線に乗り太郎坊宮へ。これは赤神山(標高350m)の中腹にある神社。おむすび山の格好をした、赤神山の山頂付近は奇石が露頭しており、社殿が岩に張り付いている様子が近江鉄道の車窓から見えた。ローカル線に揺られながらこんな風景に出会うと思わず行きたくなるものだ。

で、本日の二山目。山麓から参道となるまっすぐの階段をひたすら登っていく。本殿へは幅80センチの夫婦岩の間をくぐる(図4)。悪心あるものは岩に挟まれると言い伝えもあるパワースポット。夫婦岩を通り抜けて出合える蒲生野の風景も中々。万葉の頃、額田王と大海人王子(後の天武天皇)が恋の相聞歌を詠んだ地。麓の小学校の運動会の歓声も聞こえてきた。

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図4 太郎坊宮夫婦岩

日野
太郎坊宮を下り、東近江駅へ向かう途中のカフェでエネルギー注入。そしてレトロな東近江駅から近江鉄道日野駅へ。日野駅からバスで日野の旧市街へ。今朝の五個荘近江八幡と並ぶ、近江商人のふる里。

時間はすでに夕暮れ時(図5)。観光案内所などは終わっていたが、歴史的佇まいが残る清水町などでは三日月を背に井戸端会議を楽しむ住民の姿が見られた。虫の音色が似合う季節。

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図5 日野夕景

実はこの地も織田信長、そして安土城と関係が深い。蒲生定秀は六角氏の重臣であり観音寺城の戦いで信長に敗れ、信長の家臣となった。その後、本能寺の変 (1582)が起こった時、定秀の長男・賢秀は濃姫織田家の女性たちを保護して日野城に立て籠もった。この時、明智光秀の勧誘を拒絶して「日野の頑愚ど の」と呼ばれたのである。

VR安土城タイムスコープ
織田信長が築いた安土城は、琵琶湖畔に位置し、安土山山頂付近に天主、そして安土山全域に郭が築かれたとされる。しかしながら、築城からわずか3年で本能寺の変が起こり安土城は滅びてしまった。安土城を実際に復元することは幾度となく話題となってきたが、特別史跡内に建物を復元する際には図面が残っていること、又は外観を証明する写真等の資料があること等の条件があり、新たな資料の発見がない限り実物の復元は困難な状況である。また、仮に復元を可能とする学術上の諸条件が整ったとしても、巨額の建設費の捻出等、実現には大きな課題が残る。

安土城を幻のままでは終わらせたくない。」近江八幡市ではVRVirtual Reality)技術を用いて、コンピュータ上に安土城を再現するVR安土城プロジェクトを2011年より推進しており、既にいくつかのシステムやイベントをリリースしてきた。今回ご紹介するVR安土城タイムスコープもその一つ。

VR安土城タイムスコープは、タブレットスマートフォンを現地で安土山にかざせば、安土城が出現するアプリ。天主のみならず、郭や城下町など当時の風景全体を360°パノラマ画像として現在の風景と比較しながら体験することができる。アプリは、iPad/iPhone [1]またはAndroid端末[2]でダウンロードする。近江八幡市内では、安土山大手門広場、安土城外堀、セミナリヨ跡、安土城考古博物館、安土文芸セミナリヨ、安土やすらぎホール、安土城郭資料館、浄厳院、西の湖畔、八幡山山頂、近江八幡市役所、JR近江八幡駅の12か所にて、GPSで現在位置を感知しながら使用することができる。近江八幡市内をまち歩きをしながら主要なスポットに来れば安土城が存在した往時の風景を楽しむことができる(図6)。近江八幡市内以外の場所であれば、ひとつの視点場でお試し体験することができる。

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図6 VR安土城タイムスコープ

 VR安土城タイムスコープを作成するに当たり、天主は、故・内藤昌氏による復元案[3]を基に、花園大学 師茂樹准教授らが3次元モデル化した。郭と城下町は、発掘調査資料等を基に、筆者と(有)シージーラボが3次元モデル化した。システムは京都高度技術研究 所が開発した。

偶然であるが、VR安土城タイムスコープを制作していた2013年に「劇場版 タイムスクープハンター 安土城 最後の1日」が公開されることになった。この「タイムスクープハンター」はTV番組が始まりで、未来からやってきた時空ジャーナリストが歴史のあるシーン を密着取材するというドラマ風のドキュメンタリーである。そして此度安土城を舞台として映画化されることになった。

SF風の映画のコンセプ トがVR安土城のコンセプトと適合していることから、VR安土城タイムスコープのタイムスクープハンター版を作ろうという話になり、コラボレーションアプ リとしてついに実現した[4]。コンテンツは、VR安土城タイムスコープのパノラマ画像中にワープした時空ジャーナリストを発見すれば、映画のスペシャル 動画が鑑賞できるというものである。

VR安土城タイムスコープ、是非、お試しを。

ルートと参考文献
五箇荘駅++<徒歩>++【五個荘金堂】++【繖山】++【観音正寺】++【教林坊】++河辺の森駅–<近江鉄道>–太郎坊宮前駅++【太郎坊宮】++新八日市駅–<近江鉄道>–日野駅**<近江鉄道バス>**警察署前++【日野の町並み】++警察署前**<近江鉄道バス>**日野駅(39.5km)

[1] VR安土城タイムスコープ(iOS版)https://itunes.apple.com/jp/app/vr-an-tu-cheng/id626839608

[2] VR安土城タイムスコープ(Android版)https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.or.astem.android.vrazuchi

[3] 内藤昌:1976,「安土城の研究」上下 『國華』987, 988号.

[4] 劇場版TSH(iOS版)https://itunes.apple.com/us/app/ju-chang-bantsh/id651914659

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大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」12月号)