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都市とITとが出合うところ 第7回 小谷城と都市プレゼンテーションシステム

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」第7回。今回は、湖北・小谷城跡、近江孤篷庵、国友、そして長浜へ。ITについては、都市プレゼンテーションシステムを。どうぞお楽しみください。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1410machinami_FukudaFinal.pdf

小谷城
湖北・河毛駅でレンタサイクルを借りてポタリングスタート。東に向かい、北陸自動車道の高架を抜けると、小谷城跡は間もなくである。小谷城は戦国武将・浅井家の居城であり、浅井長政お市の方織田信長の妹)との間の生まれた3人の娘、浅井三姉妹(茶々、初、江)ゆかりの地。図1で中央より少し左に見える頂が小谷山(495m)。頂にある大嶽城跡から両側の尾根筋に郭が築かれ、特に東側(写真右側)の尾根筋に本丸をはじめとする主要施設が築かれていた。攻めにくく守りやすい城であり、信長も攻めあぐねたといわれる。日本五大山城の一つに数えられる。

小谷城戦国歴史資料館を見学してから、いよいよ小谷城跡に登る。追手道から望笙峠へ。少々霞んでいたものの、虎御前山と山本山との間に竹生島が琵琶湖に浮かんでいる(図2)。さらに登っていくと、番所跡、御茶屋跡、御馬屋跡、桜馬場跡、黒金御門跡、大広間跡、そして、本丸跡と続く。山全体に18の郭を配置した要塞。石垣など山城の遺構が当時のままに残されており、こんな険しい高所に城をよく築いたものだ、と改めて感心させられた。本丸跡に着いた頃に持参した水が無くなったので、小谷山頂はあきらめ、六坊跡から谷沿いを歩いて山を下りた。所々、蛙岩、八畳岩など大きな岩が顔を出す。険しい下り坂で途中から膝の笑いが止まらなくなった。

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図1 小谷城

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図2 望笙峠より

近江孤篷庵
小谷城から北国脇往還(現在の365号線)を南下し、田園地帯を抜けて、近江孤篷庵を目指す。近江孤篷庵は、茶人、建築家、作庭家などで名高い小堀遠州菩提寺。今は地元の方により手入れされているが、知る人もなく放置されていた時代が長らくあったそうである。

本堂の南西面は五老峰、舟石、海等を配した枯山水庭園、北東面は錦渓池を中心に瀟湘八景を模した池泉回遊庭園。背景の山の起伏や稜線は庭園全体の借景となっている。本堂は4室あるが、襖絵が部屋毎に異なり、松、竹、梅がダイナミックに描かれている(図3)。写真を撮ろうとしたらオニヤンマが前を横切った。正に、自然と一体の景。

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図3 近江孤篷庵

国友
北国脇往還をさらに南下すると姉川古戦場跡に辿り着いた。1570年、織田・徳川連合軍と浅井・朝倉軍が戦った地。ここから姉川沿いに西に向かい、国友へ。時折自転車を止めて振り返ると、伊吹山が綺麗だ。

「国友村は、湖の底のようにしずかな村だった。家並はさすがにりっぱでどの家も伊吹山の霧で洗いつづけているように清らかである。」[1] 国友は、1543年ポルトガル人により伝えられた鉄砲を国内で最も早く作った村。鉄砲を自前で作る際に課題であったネジを日本で初めて発明した地でもある。姉川の合戦より前、鉄砲伝来の翌年となる天文13年(1544)に創業した国友源重郎商店は現在も営業中である。この、ものづくり職人集団の風土は引き継がれ、江戸時代後期には東洋のエジソンといわれる国友一貫斎を生み出した。反射望遠鏡、気砲(空気銃)等の製作や懐中筆(筆ペン)、玉燈(ランプ)等を発明した一貫斎の屋敷前には、現在、星を見つめる少年と夢見るナナの2つの銅像が道を挟んで対話しており、ロマンチックである(図4)。

話が少しそれるが、奈良は、都が京都に移ってから明治時代を迎えるまで、歴史遺産を抱えたまま1000年の長い眠りについていたと言われる [2]。対して、以前に紹介した木之本や高月、そして小谷城から国友の辺りは、戦国時代が色濃く保存されている地域である。

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図4 夢見るナナ

長浜
長浜へ。羽柴秀吉が初めて城主となった長浜城。以来、町は湖上交通の要として栄え、明治時代、東海道本線は琵琶湖航路を利用していた時期もあるが、長浜駅浜大津駅と共に鉄道連絡船の玄関駅として栄えた。1882年に建築された初代長浜駅は、現存する日本最古の駅舎である。

黒壁スクエアへ。時間帯のせいかもしれないが、この辺りは観光客でごった返していた。本日はここまで、人にほとんど会わずに来たのでギャップが凄い。黒壁スクエアは、1980年代後半、黒漆喰の和風建築である黒壁1號館の保存と再生から始まり、現在は30館ほどになっている。再生された古建築は、ガラスショップや郷土物産、喫茶やレストラン、工房、ミュージアムに生まれ変わった。郷土料理・鯖そうめんを食べそびれたのが残念。

長浜駅から西は豊公園が広がる。駅から緑あふれる豊公園を抜けて、たった5分で琵琶湖に辿り着くことができるロケーション。レンタサイクルを返却し、浜に出て、琵琶湖に沈む夕陽を眺める(図5)。何とも贅沢なひと時である。

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図5 長浜夕焼け

模型とVRによる都市プレゼンテーションシステム
小谷城戦国歴史資料館にもあったが、博物館や資料館では過去、現在、未来の都市や建物の姿を模型で紹介することが多い。模型は実物あるいは過去や未来の3次元空間を、一定の比率で縮小されて表現された物体である。模型の特徴として、複数のユーザが任意の視点から同時に眺めることが可能なこと、都市などの表現された対象全体を一度に把握できること、ユーザが直接触れられることなどの強みがある。一方、歩行者視点から眺めるにはファイバースコープなどを併用する必要があること、縮尺や使用材料による表現の制約、制作可能範囲が限定的であること、大きな模型は運搬や保管が困難であることなどの弱みがある。

対して、コンピュータ上に3次元仮想空間(デジタル模型)を定義して、2次元のディスプレイで表現する技術が3DCG(3次元コンピュータ・グラフィックス)として研究、実用化されてきた。近年では、現実と見間違えるほどに表現された3次元仮想空間をリアルタイム(実時間)にレンダリング(描画)することも可能となっており、VR(バーチャル・リアリティ。人工現実感)体験が可能となっている。VRの特徴としては、模型と同様に3次元空間を表現しつつ、模型の弱みであった歩行者視点や建物内部などの視点移動を容易にすること、日射などの環境シミュレーションが可能なこと、人々や車などの動的な表現が可能であることなどの強みがある。一方、直接触れることは困難であること、距離感の把握が難しいことなどの弱みがある。

すなわち、模型とVRはそれぞれ異なる特徴を有しており、現時点ではどちらかが完全に優れているとはいえない。そこで、筆者らは、模型とVRを一体的に扱い、より効果的な都市プレゼンテーションができないかと考えて、ユーザがレーザーポインタを用いて眺めたい視点を模型上で指定すると、指定された視点のVRが描画されるシステムを試作した [3]

システムの流れは次の通りである。同じ対象が表現された都市模型とVRを用意する。システムがインストールされたPCにWebカメラを接続する。Webカメラは模型の真上からの映像をキャプチャする。ユーザがレーザーポインタを用いて模型上で眺めたい視点を指定する。Webカメラは指定されたレーザーポインタの光点をキャプチャする。キャプチャされた光点座標をWebカメラの座標系からVR座標系に変換する。VR座標系に変換された座標値はVRシステムの視点座標か眺められる対象の中心座標となる。これらの座標を用いてVRを再描画する。結果、模型上で指定された視点からのVRが描画され、ユーザは模型で都市を一望しながらVRで歩行者目線の景観を確認することができる(図6)。開発したシステムに課題は残るが、システム開発と検証を通じて模型とVRとの連携の可能性を示すことができたように思う。

ここ数年、3次元プリンターの応用も広がっており、設計やプレゼンテーションの生産性向上や価値創出に向け、実物(模型)とデジタル3次元モデル(VR)との連携や循環がますます進みそうである。是非お試しを。

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図6 都市プレゼンテーションシステム

ルートと参考文献
河毛駅@@<レンタサイクル>@@【小谷城戦国歴史資料館】++<徒歩>++【小谷城跡】@@<レンタサイクル>@@【近江孤篷庵】@@【姉川古戦場】@@【国友】@@【長浜】++<徒歩>++【黒壁スクエア】++【長浜城歴史資料館】++@@長浜駅(33.7km)

[1] 司馬遼太郎街道をゆく朝日新聞社
[2] 竹村公太郎,日本史の謎は「地形」で解ける,PHP文庫
[3] 孫磊,福田知弘,徳原俊樹,矢吹信喜:模型とVRとの視点連携による都市プレゼンテーションシステムの開発 - 二つのマーカーによる精度向上と専門家による評価 -, 日本建築学会環境系論文集, 第76巻, 第668号, 953-961, 2011.10.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aije/76/668/76_668_953/_pdf

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大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」10月号)