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都市とITとが出合うところ 第5回 淀川北源

大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」で連載中の「都市とITとが出合うところ」第5回。今回は、淀川の北源に行ってきました (滋賀県長浜市)。ITについては洪水リスク表示図(≒ハザードマップ)を。どうぞお楽しみください。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1408machinami_FukudaFinal.pdf

都市とITとが出合うところ 第5回 淀川北源

淀川の北源へ
「淀川の源」へ向かう。淀川を構成する淀川水系は、桂川、木津川、瀬田川の他に、琵琶湖、そして琵琶湖に流入する河川が含まれるため、淀川全体の支流数は965本と日本一である。つまり、「淀川の源」は、多くの河川にある訳だが、今回は淀川水系の最北端となる高時川の源を訪問した。

JR木ノ本駅から余呉町コミュニティバスに乗って中河内へ。木之本から中河内行のバスは朝、昼、夕方の三本。中河内行から木之本への戻りは同じく朝、昼、夕方であるから、行きは朝、昼の2本のいずれかになる。気持ちとしてはやはり朝一で向かいたい。路線検索サイトで調べてみると朝のバスは木ノ本駅 7:35発。大阪から在来線を使うと始発電車でも間に合わないので、京都から米原間は思い切って新幹線を利用した。

コミュニティバスの乗客は輪行バッグのサイクリストと小生のみ。出発してすぐに農村や田園風景がはじまり、余呉を超えると山あいの道に入る。途中、北陸自動車道がすぐ真横を並走する風景に出合う。

バスに揺られて45分。椿坂峠を越えて終点の中河内に着いた。さらにここから4km歩いて、淀川の源の碑へ向かう。中河内集落では田植えが終わり、カエルの合唱が谷間にこだまする。この先集落はなさそうで、さすがに「街歩き」とは呼べないが、50分ほど歩いて碑に到着した(図1)。碑の裏には「河川の恵みに感謝して」。この地点から淀川河口まで直線距離で131km。ここに浮かべられた笹舟が運よく大阪湾まで辿り着けたとして、それはいつのことだろう。

さらに少し歩くと栃ノ木峠滋賀県福井県の県境であり見晴らしがいい。木之本からはるばるやってきた道は北国街道であり、福井県今庄で北陸街道に合流する。栃ノ木峠は水分れ地点でもあり橋の下を流れる孫谷川は日本海へ向かう。

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図1 淀川北源

中河内
木之本まで戻るバスの出発時刻まで中河内集落をぶらり(図2)。滋賀県最北の集落。廣峯神社ケヤキが物凄く大きい。かつては北国街道の宿場町として「今庄朝立ち、木之本泊まり、中河内で昼弁当」と歌われ、旅人にとって重要だった集落も人口減・高齢化が進む。また、ここは全国でも屈指の豪雪地帯であり、近畿以西唯一の特別豪雪地帯に指定されている。運転手さん曰く、冬はバスを待つ待機小屋の屋根当たりまで雪が積もるそう。雪かきだけでも大変だ。

農作業中のおばさんに「県の方ですか?」と声をかけられた。理由を聞くと獣害の見回りをされているのかと思われたそう。サル、シシ、カモシカによる農作物被害。「ここはヒトより動物が圧倒的に多い」と半分笑いながら話してくれた。田んぼや畑の周囲にはトタンや金網で柵が張り巡らされている。簡単な柵では容易に壊されてしまうそうである。かなり深刻な話である。

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図2 中河内集落

賤ヶ岳
木ノ本駅でレンタサイクルを借りる。観光案内所のスタッフが地図を広げて丁寧に道案内をしてくれた。

駅前の食堂で昼ご飯を済ませ、まずは西方面へポタリング。田園風景、里山風景の広がる田舎道。この辺りは「いかごの里」といわれ、古代からの伝承と和楽器糸の産地として有名。黒田家廟所や伊香具神社を訪れてから、賤ヶ岳リフトへ。リフトに乗りながら斜面を眺めるとシャガが満開。濃い緑の中に銀色の花が光り輝いている。7分ほど揺られて賤ヶ岳山頂に着く。賤ヶ岳は琵琶湖と余呉湖を分ける山であり、織田信長が本能寺で討たれた後、家督争いに端を発した羽柴秀吉柴田勝家とが壮絶な戦いを繰り広げた戦国合戦の地。リフトを降りて歩き出すとすぐに視界が開けて、奥琵琶湖の碧い風景がばっと広がる。ここまで琵琶湖が全く見えなかったこともあって見事な演出だ。

尾根を10分ほど上って山頂に着いた。南西には琵琶湖と竹生島(図3)、北には余呉湖、東には湖北平野、小谷山、伊吹山。三方の美しい眺め、正に三方よし

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図3 奥琵琶湖

木之本
東方面へポタリング。木之本は北国街道の宿場町、または木之本地蔵の門前町として栄えた。往時の面影を色濃く残し、うだつのある旧家が数多く残る。木之本地蔵院は、賤ヶ岳合戦時に秀吉の本陣があったとされる。また、旧本陣の当主(第22代 竹内五左衛門)は我が国の薬剤師第一号であり[1]、「淺田飴」など古い薬の看板が残る(図4)。造り酒屋や造り醤油屋も複数あり。昭和10年建造の近代建築「きのもと交遊館」(旧・滋賀銀行木之本支店)では大河ドラマに併せて「黒田官兵衛博覧会」が催されていた。

さらに数kmほどポタリングして、石道寺、鶏足寺へ。寺へ向かう途中、高時川に架かる井明神橋を渡る。今朝、源流付近では小川だった高時川が、この辺りでは大きな川に成長していた。鶏足寺参道は、樹高約10m、約200本のモミジの古木が並んでおり、緩やかな石段、苔むした石垣とともに風情が漂う(図5)。ひっそりとした山寺なのだが、紅葉の名所として知られるようになった。訪問時は初夏の夕暮れ時。参道は毛虫たちと小生のみ。貸し切り状態でかなりお得感。

それにしても今日はよく移動した。木ノ本駅へ帰る途中、石道の集落を流れる小川で思わず顔を洗ってリフレッシュ。レンタサイクルを返却してから、再び木之本宿へ。今も大きな杉樽で作られる「ダイコウ醤油」でたまりを購入。このお店には昭和3年製の古いレジスターがあった。つるやパンではお隣の富田酒造の酵母を使用したパン、そして、今年限定の「黒田パンべぇ」を購入。パッケージに描かれた官兵衛はちょっと怖い顔だが、中身を開けるとスィートなカボチャ餡の菓子パン。パッケージとパンのギャップも旨い!

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図4 木之本本陣跡

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図5 鶏足寺

ハザードマップ
前回は「気象レーダーとAR」として降雨観測技術と降雨状況を現地で直感的に確認できるAR技術とを紹介した。関連して今回はハザードマップを取り上げたい。ハザードマップは災害予測図のことであり、発生の予想される自然災害について、被害の及ぶ範囲、被害の程度、避難経路、避難場所等を地図上に表したもの。国土交通省ポータルサイトを設けて各種ハザードマップをまとめて閲覧できるようにしている[2]。

大阪府では様々な降雨により想定される河川の氾濫や浸水の可能性を示すため、大阪府管理の全154河川を対象として、洪水リスク表示図を公開している[3]。対象は降水による河川の氾濫による災害に限られるが、詳細に洪水のリスクを把握できるサービスである(図6)。

内容は以下の通りである。洪水リスク表示図のメニューから、降雨の発生状況として、

1)10年に一度の降雨(概ね50mm/時)
2)30年に一度の降雨(概ね65mm/時)
3)100年に一度の降雨(概ね80mm/時)
4)200年に一度の降雨(概ね90mm/時)

からひとつを選ぶ。次に、河川の状況として、

1)現状
2)治水目標に基づき河川改修した後

からひとつを選ぶ。選んだ条件に基づいて、地図上に50m程度のメッシュで「危険度1」「危険度2」「危険度3」の区域が表示される。ここで、

「危険度1」では床下浸水(想定浸水深0.5m未満)
「危険度2」では床上浸水(想定浸水深0.5m以上3.0m未満)
「危険度3」では建物1階が水没すること(想定浸水深3.0m以上または家屋流出指数2.5m3/s2以上)

を意味する。併せて、大阪府下に設置されている水位計、雨量計、ライブカメラのアイコンをクリックすると最新情報を閲覧することも可能である。

居住地、勤務地のみならず、通勤経路やよく訪れる場所の洪水リスク、是非ご確認を。

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図6 大阪府洪水リスク表示図

ルートと参考文献
木ノ本駅**<余呉町コミュニティバス>**中河内++<徒歩>++【淀川の源・栃ノ木峠】++<徒歩>++中河内**<余呉町コミュニティバス>**木ノ本駅@@<レンタサイクル>@@【黒田家発祥の地】@@【伊香具神社】@@賤ヶ岳リフト乗り場\<賤ヶ岳リフト>\【賤ヶ岳】\<賤ヶ岳リフト>\賤ヶ岳リフト乗り場@@<レンタサイクル>@@【木ノ本宿】@@<レンタサイクル>@@【石道寺・鶏足寺】@@木ノ本駅(69.2km)

[1] 漢方の本陣薬局 http://www.kampo-honjin.com/rekishi.html
[2] 国土交通省ハザードマップポータルサイト http://disapotal.gsi.go.jp/
[3]大阪府:洪水リスク表示図 http://www.river.pref.osaka.jp/

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大阪府建築士事務所協会誌「まちなみ」8月号)