ふくだぶろーぐ

福田知弘(大阪大学 大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻)のオフィシャルブログです。

人類は今なにをすべきなのか、千年単位で考える。


■「縮小文明の展望」月尾嘉男 東京大学出版会

人口爆発、資源枯渇、環境破壊、文化消滅など、環境の限界という絶壁直下に接近しつつある人類は今なにをすべきなのか?副題にもあるように、1,000年単位で未来を展望すべき壮大な内容である。
多くのデータと考察を元に、判りやすい解説とヒントが示されている。

18世紀にイギリスで始まった産業革命が、現在の世界の社会構造を決定してきた出発地点であることは間違いない。
その恩恵として、世界規模で人口は増大し、多くの人々の生活を最低限確保するという水準から、高度な生活水準を確保するために、技術を開発し制度を整備してきた。現在の人類が消費しているエネルギーは、平均すれば1人で100人程度の奴隷を使用するのに匹敵するまで増大している。その見返りとして、資源の枯渇や環境の破壊、地域固有の産業や社会、文化を喪失してしまった。

現在直面する地球規模の問題を解決するため、これまでの拡大再生産方式でとられてきた方式
【生活水準の向上 → 経済活動の拡大 → 資源消費の増大 → 環境問題の拡大】
を見直すには、
【生活水準の低下 → 経済活動の停滞 → 資源消費の減少 → 環境問題の緩和】
が最も効果的であるが世界的な合意は得られず、現在は
【生活水準の向上 → 経済活動の拡大 → 資源消費の減少 → 環境問題の緩和】=サスティナブル・ディベロップメントを如何に進めていくかが課題となっている。

このように、人類は農耕革命・産業革命以来築き上げてきた過去と今まさに逆向きの理念を要求されており、そのためには「多様で少量」を実現するIT技術と、多神教宗教観が有力な手段になると、著者は期待を込めている。

■「IT」については、
これまで人間が努力して開発してきた技術の大半は、便益の向上には貢献してきたが、残念ながら結果として資源枯渇や環境破壊をもたらすことになった。情報技術は、便益の向上と資源の消費が比例しない。郵便とE-mailのトータルエネルギーを比べると明らかである。写真の料理で満腹にならないのと同様に、モノの機能を情報で代替することは困難であるが、情報の能力を駆使して、資源の限界や環境の限界に接近しつつある工業社会を持続の方向に転換することは可能である。ITには100人程度の執事を提供する能力があるとも述べている。


多神教宗教観については、
トルストイは『アンナ・カレーニナ』の冒頭で「幸福な家庭はどこも同様であるが、不幸な家庭はすべて相違している」と説明しているが、著者は「不幸な家庭はどこも同様であるが、幸福な家庭はすべて相違している」時代になると説いている。モノやカネに縛られない多様な価値観を持つことが大切である。
情報は多様であることに最大の価値があるので、多様な価値を尊重する必要のある今後の社会においては、日本のような多神崇拝が有用であるとも。一神の社会では、それ以外の宗教を否定する結果、社会全体が画一になる傾向にある。日本人は、盆栽や俳句など、物事を縮小させる能力が突出している民族でもあり、これから日本の役割が問われるとも言えよう。
仏教の思想にも通じるところがあり、私自身非常に共感できる内容であった。



第1章 爆発 人類の登場/人類の爆発/消費の爆発/集団の爆発
第2章 原因 農業革命/産業革命
第3章 制約 狩猟経済の終焉/農耕経済の終焉/工業経済の終焉
第4章 転換 牧畜の農耕への転換/農業の工業への転換/工業の情報への転換
第5章 限界 淡水資源の限界/鉱物資源の限界/生物資源の限界/文化資源の限界
第6章 喪失 地域産業の喪失/地域市場の喪失/地域社会の喪失/地域文化の喪失/地域環境の喪失
第7章 挑戦 巨大な挑戦/技術の挑戦/制度の挑戦/精神の挑戦
第8章 彼方 多神崇拝/万物平等/縮小礼賛


#産業革命が巨大都市へヒト、モノ、カネを集中することを証明する興味深い数字が第1章に紹介されている。石川県が明治初期に最大の人口を有する県だとは知らなかった。
「江戸へ出向していた各藩の住人が郷里へ帰郷してしまった明治初期の東京の人口は、日本全体の人口3590万人の2.6%に相当する96万人で、府県単位の順位では15番目でしかなかった。首位は石川の183万人、二位は新潟の152万人、3位は愛媛の144万人であり、米所に人口が集中していた。ところが、東京への遷都が実施され産業革命が進行して都市へ人口が吸収されることによって、東京の人口は1200万人まで増大し、1都3県には日本全体の26%にあたる3300万人が集中している。一方石川は119万人、新潟は249万人、愛媛は150万人と減少してしまっている。」

環境と情報を融合させる秘策とは。是非お勧めしたい一冊である。

■月尾嘉男の洞窟(オフィシャルサイト)