ふくだぶろーぐ

福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第38回 水木しげるロード(3)

SfM

水木しげるロードの将来像を描いたVR仮想空間に配置する、ブロンズ像の3次元モデルを制作するために、SfM(Structure from Motion)技術を用いたことを前号で述べた。SfMは、デジタルカメラスマートフォンなどの低コストで身近な機材を使い、無料または低コストのソフトウェアを用いて、点群やメッシュの生成を可能とするため、急速に人気が高まっている。今回は、SfMに焦点を当ててみよう。

現存する3次元の物体や空間を3次元モデル化する方法(3次元復元技術)には、大きくレーザースキャナを用いる方法と画像を用いる方法がある。SfMは後者であり、レーザースキャナのような特殊な機材を使う必要がなく、異なる位置から撮影された複数枚の写真から、3次元構造を推定する技術である。処理の過程として、カメラのパラメータの推定、各画像の特徴量の抽出、ある画像と他の画像との共通の基準点の推定を経て、3次元モデルの点群(点の集まり)を生成する。この段階で生成された点群は密度が低く、この点群データを基に密度の高い点群を生成する。さらに、この密な点群から、多角形の生成(メッシュ化)、テクスチャの生成を行うことで、質の髙い3次元モデルを生成できる。

筆者が最初にSfMを使用した1990年代、写真上の共通の基準点は手作業で指定する必要があった。当時のPC性能では大量の画像を用いて処理することも困難であった。生成された3次元モデルも寸法誤差が大きく、結局、CAD/CGソフトでモデリングしていた。技術は長足の進歩を遂げ、現在は、一連の処理がほぼ自動化された。

SfM用の撮影ノウハウについて、ブロンズ像を例に紹介する。ブロンズ像を上空から見た時にブロンズ像に対して8方向の角度から撮り、さらに8地点それぞれにおけるカメラ位置の高さを、高、中、低の3地点、計24地点を基本とした。各画像を補完するための写真として、連続写真を撮影した。撮影する天候や時間帯は、曇りの日に、観光客が少ない時間帯とした。曇りの日とした理由は、VR仮想空間とSfMで作成した3次元モデルとの光学的整合性を確保するためである。つまり、VR仮想空間全体の陰影は、VRソフト上で日時や天候を設定した上で付けるため、SfMで3次元モデルを作成する時点では、陰影を付けないようにする必要がある。そのため、曇天時に撮影した。また、観光客が少ない時間帯とした理由は、可能な限りブロンズ像の全身を一枚の写真に収めること、そして、ブロンズ像以外の要素(観光客など)を写真に含めてしまうとそれらがノイズとなりうまく復元されないためである。この条件下で、153体のブロンズ像を撮影する必要があり、現地の境港市役所職員が撮影を担当した。撮影期間は約1か月を要したが、手持ちのデジカメで簡単なノウハウで撮影することができるため、日頃大阪で仕事をしている筆者らが時間とコストをかけて現地に行かなくとも、分担で作業を進めることができた。1体当たりの撮影時間は10~20分、SfMでの処理は1時間程度であった。ソフトウェアは、Agisoft PhotoScan、Autodesk Remake、UC-win/Road SfMプラグインを用いた(図1~5)。

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図1 ブロンズ像写真群|図2 推定されたカメラの撮影位置と姿勢

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図3 復元点群(低密度)|図4 復元点群(高密度)|図5 復元メッシュ
©水木プロ

ブロンズ像以外の対象として、VR仮想空間には、水木しげるロード沿道の建物を3次元モデリングする必要があり、SfMで3次元モデリングを試してみた。結果、生成した建物モデルは、内容の不足、不備、余剰が見られた(図6~8)。

  • 内容不足とは、本来モデリングされるべき個所がモデリングされていないことである。今回は、屋根部分が該当した。この課題は、ドローンを飛ばして上空から写真撮影すればクリアできそうである。
  • 内容不備とは、モデリングされてはいるものの、形状が正確に定義されていないことである。今回は、建物看板、アーケード、電柱などが該当した。
  • 内容余剰とは、不要なオブジェクトがモデリングされてしまったことである。今回は、電線に空の要素が多く含まれた。

SfMにより3次元モデルを生成した後、内容不備となるオブジェクトを修正したり、内容余剰のオブジェクトを削除するといった編集作業はSfMソフト上で可能であるものの、今回は、この編集作業に要する時間が多大となり、また作業内容が複雑となったため、最終的には従来手法(3次元CGソフトで、地図より得られる建物の平面輪郭線と立面写真より得られる建物の概算高さやファサード写真より3次元モデルを作成)により周辺建物を作成した。内容不備や余剰が発生した理由としては、商店街の建物は連坦しているため撮影できる建物立面が限られており、全ての面を撮影できなかったことがある。また、建物の前面にはアーケードや電線など建物をモデリングする際の阻害要素が多く含まれていたことがある。

3次元形状の復元精度は、現状では、レーザースキャナを用いる方法がSfMよりも信頼性は高いとされる。しかしながら、SfMは身近な機材を用いて3次元モデルを生成することができるため、今後、ますます普及が進むであろう。生成した3次元モデルは、3Dプリンターと組み合わせることにより、我々が住む現実世界に出力することも可能である。

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図6 周辺建物:現況写真|図7 従来手法|図8 SfMによる復元点群

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1705machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年5月号

北摂7市(吹田市・茨木市・高槻市・豊中市・摂津市・池田市・箕面市)新成人応援デー(ガンバ大阪 vs 大宮アルディージャ)に参加しました。

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3月29日より、吹田市教育委員会 委員を仰せつかることになりました。ガンバりますので色々と教えてください。どうぞよろしくお願いします。

4月21日は、北摂7市(吹田市茨木市高槻市豊中市摂津市池田市箕面市)新成人応援デーということで、ガンバ大阪 vs 大宮アルディージャをユニフォームを着て応援してきました。スコアは、6-0。若い選手が大活躍でした。

最後の写真はガンバ勝利のセレモニー。スタジアム照明はLEDなので点灯・消灯が瞬時に可能。演出の幅が広がりますね。

報道記事:
サッカー 観戦、新成人招待 「郷土愛はぐくんで」 ガンバと吹田市 /大阪毎日新聞

 

第40回 情報・システム・利用・シンポジウム:論文/報告募集中です

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www.aijisa2017.org

40年目を迎える日本建築学会 情報・システム・利用・システム技術シンポジウム(情報シンポ 2017)は、2017年12月14・15日、東京田町・建築会館で開催されます。

6月16日まで、論文/報告を募集中です。今年度より、報告部門では、学術論文に加え、実務者の方々より実用面に貢献する論文なども広く募集されています。

AIソフトで作った東京のまちなみをポチッをクリックしてください!

 

論文/報告のカテゴリー

  1. 情報インフラ(インターネット、通信)
  2. 情報機器(コンピュータ、モバイル、ウェラブル)
  3. 情報・メディア・コミュニケーション
  4. ソフトウェア・アルゴリズム
  5. データベース(数値・言語・画像・記号)
  6. 建築情報技術の標準・規準・規格化
  7. Building Information Modeling(BIM)、Computer Aided Design(CAD)
  8. 解析モデル、シミュレーション
  9. Virtual Reality(VR)、Augmented Reality(AR)、可視化
  10. Geographical Information System(GIS
  11. Artificial Intelligence(AI)、機械学習
  12. パラメトリックデザイン、アルゴリズミックデザイン
  13. 最適化、性能設計、ライフサイクル
  14. 対話的、動的な建築
  15. デジタルスキャニング、点群
  16. ビッグデータ、Internet of Things(IoT)
  17. デジタルファブリケーション、3Dプリンター
  18. ロボティックス、自動化施工
  19. モニタリング、センシング、データマイニング
  20. 人間科学(行動・心理・生理)分野の情報技術応用
  21. 建築計画・設計分野の情報技術応用
  22. 建築構造・材料分野の情報技術応用
  23. 建築環境・設備分野の情報技術応用
  24. 都市地域計画・地球環境管理分野の情報技術応用
  25. 構法・施工・生産分野の情報技術と応用
  26. 建設経済・流通・マネジメント分野の情報と応用
  27. スマートシティ
  28. 建築の情報技術教育と建築教育の情報化
  29. 情報化社会の建築都市ビジョンと情報倫理
  30. その他

Archi Future Web:

第40回情報・システム・利用・技術シンポジウムの応募要領を公開<日本建築学会>|Headline(ヘッドライン)|建築 × コンピュテーションのポータルサイト Archi Future Web

 

第5回 クラウド プログラミング ワールドカップ:CPWCの募集が始まりました。

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Cloud Programming World Cup(第5回 クラウド プログラミング ワールドカップ)のエントリーが始まりました。

ワールドカップ賞(最優秀賞) 賞金30万円!

詳しくは、

The 5th Cloud Programming World Cup 第5回 学生クラウドプログラミングワールドカップ

まで。お待ちしています!

CAADRIA2017 @ 蘇州に参加しました。

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先週は、CAADRIA2017 (Computer Aided Architectural Design Research In Asia)に参加してきました。CAADRIAは建築・都市設計分野のコンピュータ援用に関する学会です。アジア各国の大学がホストとなり、世界中からの参加者を迎え、毎年カンファレンスとワークショップを開催しています。22回目を迎えた今年は、中国蘇州・XI'AN JIAOTONG-LIVERPOOL UNIVERSITYで開催されました。大勢の参加がありました。

論文発表は計86編。査読無しのショートペーパーが16編、ポスター発表12編が加わりました。

Abstract Submission(梗概投稿): 190
Abstract Acceptance(梗概採用): 171
Full paper Submission(フルペーパー論文投稿): 117
Full paper Acceptance(フルペーパー論文採用): 86
Publication(論文集に掲載): 86
論文のテーマ(Main theme: PROTOCOLS, FLOWS AND GLITCHES. Sub themes are shown below:)

Virtual Reality
Augmented Reality
Design Tools
Design Process
Parametric and Generative Design
Design Optimisation
Spatial Analysis
Performance-Based Design
Materiality
Shape Studies
Interactive and Kinetic Architecture
Computational Aesthetics
Building Information Modelling
Digital Scanning and Point Cloud Modelling
Big Data
Digital Fabrication
3D Printing
Robotics

研究室の発表リストは下記です。論文は、CuminCAD論文DBにも既に登録されています。その内、他の論文にも掲載されるようです。
http://papers.cumincad.org/

Kazuki, YOKOI, Tomohiro, FUKUDA, Nobuyoshi, YABUKI and Ali MOTAMEDI: Integrating BIM, CFD and AR for Thermal Assessment of Indoor Greenery, Proceedings of the 22nd International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2017), 85-94, 2017.4.

Munetoshi, MIYAKE, Tomohiro, FUKUDA, Nobuyoshi, YABUKI and Ali MOTAMEDI: Outdoor Marker-less Augmented Reality: A System for Visualizing Building Models Using Simultaneous Localization and Mapping, Proceedings of the 22nd International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2017), 95-104, 2017.4.

来年は、2018年5月16日から18日まで、中国・北京での開催となります。

都市と建築のブログ Vol.37: ミャンマー:横断中 up!

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都市と建築のブログ 第37回目(2017年4月号)はミャンマーヤンゴンをご紹介します。

NAVERまとめにも都市と建築のブログの過去記事をアーカイブしています。

matome.naver.jp

■都市と建築のブログ バックナンバー

 

都市とITとが出合うところ 第37回 水木しげるロード(2)

VR制作

リニューアル計画中の水木しげるロード。2016年度は、工事着工に向けて詳細設計を詰めていくと共に、水木しげるロードの将来像をより多くの人々に周知し、沿道地権者との合意形成を図る必要があった。そのため、水木しげるロードの完成イメージをVR(Virtual Reality: 人工現実)で制作することになった。

事業説明会で、説明を聞いた沿道住民(商店主)からよくある質問は「リニューアル事業によって、自分の家(店)の前はどう変わるのか?何か具合の悪い問題は発生しないのか?」ということである。設計している3次元の都市空間の状況を口頭で伝えるのは難しい。しかし、会議の場で、沿道住民からの要求に応えられないと、その場の雰囲気が悪くなってしまい、ひいては説明者(事業者)の信頼が損なわれかねない。また、全ての沿道の家や店からの完成イメージをパースで描くのは、枚数が大量となり、現実的ではないであろう。

これらの課題を解決するために、VR技術を活用した立体映像を用いれば、完成イメージをできるだけ具体的に提示し、あらゆる視点場からの完成イメージを即座に提示することができる。会議の席上で要求のあった家や店からの将来像を即座に描くことが可能であり、質問者の要求に応じることが可能である。よって、利害関係者の間に対話が生まれ、合意形成につながりやすい。水木しげるロード・リニューアルプロジェクトでは、道路の一方通行化案について沿道住民の合意を得ると共に、水木しげるロードの更なる発展に向けて考えるための土台を作る必要があった。そのため、筆者は、このVRを作る段階から、水木しげるロード・リニューアルプロジェクトに参加し、VR制作に係る統括、設計、また、コミュニケーションを円滑に図るための企画等を境港市との共同研究により推進した。

都市や建築の完成イメージをVR制作する業務は実用化が進んでおり、大学が参画する必要はないことも増えた。しかしながら、水木しげるロード・リニューアルプロジェクトをVR化するためには、課題を抱えていた。それは、水木しげるロードのシンボルである171体のブロンズ像(現存:153体、新規:18体)を如何に3次元モデル化するか、であった。通常は、CAD/BIM(Computer Aided Design/Building Information Modeling)やCG(Computer Graphics)のソフトウェアで3次元モデリングするが、ブロンズ像の図面は存在しないため、現状のブロンズ像を採寸し、その複雑な形状を入力する必要があった。この作業は、手慣れたVR制作者であっても多大な労力と手間を必要とし、コストも膨大となってしまう。そこで、複数枚の画像から3次元形状を復元するSfM(Structure from Motion)技術を応用して、それぞれの妖怪ブロンズ像をあらゆる角度から撮影した写真群から3次元モデルを自動的に作成する方法の可能性を探った。153体のブロンズ像の写真撮影は市役所職員にお願いすることで、作業のスピードアップを図った。

完成したVRは、実施設計内容を元にして以下の要素で構成され、昼景、夕景、夜景の表現が可能である(図1~8)。

  • 道路本体(路面、マーキングなど)
  • 道路植栽(並木、植栽枡など)
  • 道路付属物(信号機、ブロンズ像、照明柱など)
  • 道路占有物(電柱、アーケード、サインなど)
  • 沿道の建築物
  • 広告看板
  • 空地(公園など)
  • 遠景の自然要素(地形、海など)
  • 人工要素(周辺建築物など)
  • 人間活動(歩行者、自転車、自動車など)

これらを、VR開発ソフトUC-win/Road(Ver.11)上で構築した。交通流の表現は、2015年11月の社会実験で得られたデータを使用し、現実感を高めている。

VRで描かれた水木しげるロードの完成イメージは、2016年9月に開催された地域活性化イベント「怪フォーラム2016 in とっとり」で、首長を含む大勢の事業関係者、市民らに披露された。水木しげるロードの将来像を客観的に見せるだけでなく、一反木綿に乗った鬼太郎水木しげるロードを案内するシナリオとし、アナウンサーにナレーションをしてもらうことで臨場感を高めた。VRは、2016年秋には、地元説明会、地元小学校への出前授業等で頻繁に使われている。また、「第15回 3D・VRシミュレーションコンテスト オン・クラウド」に応募して、グランプリを受賞した。そして、2017年3月に開催された「水木しげる生誕祭」では、最新の実施設計内容にVRを更新すると共に、HMDOculus Rift)で体験するシステムへと発展させた。

水木しげるロードリニューアル工事は、2017年に着工し、2018年7月の完成を目標としている。工事期間中も水木しげるロードを楽しんでいただけるよう、工事区間以外のブロンズ像は通常通りとする他、JR境港駅前公園にて工事期間限定の特別展示を実施する予定である。

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図1 上空:境港市街と島根半島を俯瞰

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図2 JR境港駅前:水木しげる先生執筆中像

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図3 駅前広場:目玉おやじ街灯

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図4 ねずみ男

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図5 大正川交差点:鬼太郎

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図6 本町アーケード入り口

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図7 大正川交差点:夕景

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図8 影絵

©水木プロ

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1704machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年4月号

 

都市とITとが出合うところ 第36回 水木しげるロード(1)

水木しげるロード

鳥取県境港市水木しげるロードは、JR境港駅から本町アーケード商店街までの延長約800mの道路と沿道店舗などで構成されている。1992年、商店街の再活性化を目指して、境港市出身の漫画家・水木しげるさんの代表作である「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する妖怪などのブロンズ像を歩道内に設置し、親しみの持てる街路としての整備が開始された(図1-3)。実はオープン早々、ブロンズ像が盗まれ、そのことが全国に報道されたことがきっかけで、水木しげるロードの知名度が高まったそうだ。

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図1 妖怪ブロンズ像

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図2 沿道店舗はユーモアたっぷり

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図3 目玉おやじ街灯

その後も水木しげるロード愛する人々のたゆまぬ努力とともに、2003年には「水木しげる記念館」がオープン、「妖怪のまち」としての人気が定着してきた。さらに、「ゲゲゲの鬼太郎」のアニメ、映画、そしてドラマ「ゲゲゲの女房」の大ヒットにより、2010年には過去最高となる372万人が水木しげるロードを訪れた。境港市の人口は3.4万人であるから、100倍を優に超える人々が来訪したことになる。その後も、年間200万人前後の来訪者で推移し、2016年5月には通算3000万人を突破した(図4)。

水木しげるロードのシンボルであるブロンズ像は、当初23体でスタートしたが、年々その数を増やし、現在は153体までになった。また、沿道の多くの店舗は、妖怪に関連するグッズやお土産を販売しており、妖怪の着ぐるみキャラクターも毎日登場して、「無料のテーマパーク」として賑わいをみせている(図5)。

2013年、境港市の宝である水木しげるロードの賑わいをこれからも続けていくため、市長がリニューアル事業の着手を宣言した。「誰もが訪れたくなるおもてなしとエンターテインメントのロードづくり」を基本理念として、「妖怪の魅力を堪能できる世界で唯一のロード」、「車が主役の道から人を大事にする道」としてリニューアルを実施することが決定した。 f:id:fukuda040416:20120504161308j:plain

図4 賑わう水木しげるロード(写真:境港市

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図5 鬼太郎

リニューアルプロジェクト

2014年度より、基本計画および基本設計の策定に入った。基本構想を具現化するために、主に次の内容となった。

  • 歩道:誰もが安心して安全に歩ける歩道とするために、車道を一方通行化して、さらに道路線形を蛇行させることで、変化に富む広い歩道空間を確保する。
  • 滞留スペース:拡がった歩道には、歩行者に楽しみながらくつろいでもらうため、多くの滞留スペースを設ける。この滞留スペースを活用して、ミニイベントなどを計画する。
  • 交差点:バリアフリー化を進めるため、交差点部分の車道の高さを歩道の高さに揃えて、歩道と車道の段差を解消する。
  • ブロンズ像の配置:ブロンズ像は追加しながら設置してきた結果、テーマ性のない配置となっている。さらに、ブロンズ像との記念撮影は訪問者の楽しみのひとつであるが、これに欠けた配置となっている。そこで、「水木マンガの世界」、「森にすむ妖怪たち」、「神仏・吉凶を司る妖怪たち」、「身近なところにひそむ妖怪たち」などのグループに分け直して、拡がった歩道上に再配置する。記念撮影がしやすいように、ブロンズ像の向き、間隔、背景なども考慮する。さらに、ブロンズ像を新たに18体設置することで、リニューアル完成後は171体となる。
  • 街なみの整備:水木作品で描かれた昭和の町並みなどをテーマとして、統一感のある街なみの整備の推進を目指す。
  • 夜間照明演出:水木しげるロード全線に渡り、これまでにない様々な仕掛けを施した夜間照明演出を実施する。

2015年度は、詳細設計と並行しながら、リニューアルプロジェクトの内容を最大限に盛り込んだ社会実験を実施した(図6)。これは、リニューアル後の状況を模擬実験すると共に、実験で得られた結果を詳細設計に反映させて、地元住民の方などとの合意形成を図るためである。主な内容は以下の通りである。

  • 道路空間の再配分調査:車道を2車線から1車線に変更して、歩道を拡げる。拡がった歩道には、歩行者の滞留スペースを確保して賑わいを創出する。自転車通行帯を設けて、歩車分離を図る。
  • 一方通行等調査:区間内は一方通行として、う回路を設定する。車道には、スラローム、ハンプ、狭さくを設けて、車両の速度低減を図る。沿道商業施設には、必要な荷捌きスペースを確保する。
  • 賑わいの創出:拡幅した歩道の滞留スペースの一部に人工芝を敷き、ミニイベントを実施する。その他の滞留スペースにはテーブル、ベンチを設置して、休憩場所として活用する。車道と歩道の仕切りには花のプランターを設置する。

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図6 社会実験の様子(写真:境港市

©水木プロ

この翌年となる2016年度、筆者は、この水木しげるロード・リニューアルプロジェクトに参加させて頂くことになった。次号でご紹介したい。

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1703machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年3月号

都市とITとが出合うところ 第35回 VRサマーワークショップ(3)

エクスカーション in 大阪

VRサマーワークショップ最終回。中央公会堂での最終プレゼンテーションが終わると、エクスカーション in 大阪へ。OSAKA旅めがね特別企画「プレミアム藤田男爵ツアー」に参加した。

このツアーは、東洋紡南海電鉄毎日新聞関西電力の創業に指導的役割を果たし、社会貢献で男爵にまでなった藤田伝三郎の足跡を、五感で堪能するもの。エリアクルー・上田眞由美さんのガイドにより、まずは、大阪水上バス淀屋橋港からアクアライナーに乗りこんで、土佐堀川から大川を遡上する。難波橋、天神橋、天満橋をくぐり、京阪電車の向こうに大阪城を眺めて、さらに、銀橋をくぐる。OAPでUターンして、普段はオープンしていない桜ノ宮港で下船(図1)。「網島御殿」といわれた旧藤田邸の地に船で乗りつける贅沢さ。 

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図1 桜の宮港にて

太閤園の敷地に入ると、昭和初期に世界的音楽家として活躍した貴志康一氏の祖父と父が再建した江戸時代の茶室「松花堂」を訪問(図2)。この茶室での茶事で使われた弁当が、松花堂弁当の始まりなのだそうだ。続いて、小林佳弘氏(アリゾナ州立大学/米国)が参画した宴会場「桜苑」での3Dプロジェクションマッピングなどを見学して(図3)、いよいよ、夕食会場となる「紹鴎の間」へ。旅めがねのツアーはこの時点で終了したのだが、旅めがねのメンバーにも夕食会に参加して頂いたので、夕食会はWorld16と地元のオモロイ人々との交流会となった。土井博子さんの箏(こと)の演奏が始まる。小林卓司さんセレクトの手ぬぐいは日本らしいお土産。最後は、山根秀宣さんの掛け声のもと、World16やフォーラムエイトのメンバーも前に出て、皆で大阪締め(図4)。

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図2 松花堂(360度カメラ)

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図3 桜苑:3Dプロジェクションマッピング

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図4 太閤園「紹鴎の間」:大阪締め

 

エクスカーション in 姫路

翌日は朝からバスに乗って、播磨の国へ。姫路城で納屋工房・長谷川香里さん、三川屋・内山猛雄さんと落ち合い、平成の大修理を終えた姫路城を案内して頂いた(図5)。

昼食は、明石・魚の棚近くで玉子焼(明石焼)。そして京コンピュータ、バンドー神戸青少年科学館を巡る(図6, 7)。神戸ビーフがワークショップ最後のパーティとなった。

「有朋自遠方來。不亦樂乎。(朋あり遠方より来る、また楽しからずや)」をたっぷりと体感させて頂いた、VRサマーワークショップ。2017年はどこで開催されるのか、楽しみである。f:id:fukuda040416:20160715121037j:plain

図5 姫路城

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図6 京コンピュータ

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図7 バンドー神戸青少年科学館

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1702machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年2月号

都市とITとが出合うところ 第34回 VRサマーワークショップ(2)

大阪大学サイバーメディアコモンズ

VRサマーワークショップの会場は大阪大学サイバーメディアコモンズ。学生のためのアクティブラーニングスペースとして、2015年5月にオープンした。6.5m×2.4mの大画面で24面フルHD画像を表示できる大規模立体可視化システム、可視化システムから3次元モデルを生成できる3Dプリンターなどが置かれている。

サマーワークショップ期間中に行ったサイバーメディアセンターのツアーでは、大阪大学 安福健祐 講師の案内により、大規模立体可視化システムの大画面に、大阪駅の地下街浸水シミュレーションやキトラ古墳の超精細VR映像をデモンストレーション。さらには、ベクトル型スーパーコンピュータとPCクラスタを見学させて頂いた。

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サイバーメディアコモンズ:大規模立体可視化システム

World16のプロジェクト提案

2日間で実施されたWorld16の各々のメンバーのプロジェクトの成果発表が大阪市中央公会堂特別室で開催された。

  • 楢原太郎氏(ニュージャージー工科大学/米国):VRをコントロールするデバイスを自主制作する方法として、Arduinoというマイコンボードを使い、センサーからのデータを取得しながらVRアプリを操作するプログラムの作成方法を紹介する。
  • Matthew Swarts氏(ジョージア工科大学/米国):WebSocketを使って、ブラウザから非同期にVRアプリと通信する方法について。この方法によりiPhoneなどのスマートフォンジャイロスコープで、VRツールを操作できるようになるため、エンターテイメント分野など幅広い応用が期待される。
  • Kostas Terzidis氏(ハーバード大学/米国):iPhoneAndroidのアプリ開発・販売のビジネスを始める際のプランニングとマネジメントのためのツール群について。
  • Marcos Novak氏(カリフォルニア大学サンタバーバラ校/米国):人工知能を用いたVR空間構築手法について、近年注目されているディープラーニングを使って、ゴッホなどのアートスタイルを学習した人工知能にVR空間を生成させる手法を紹介する。
  • Thomas Tucker & Dongsoo Choi氏(バージニア工科大学/米国):複数の写真からの3Dモデルを作成するツール(SfM: Structure from Motion)について、より精度の高いデータをSfMで作成するために注意すべき点について紹介する。
  • Ronald Howker氏(アルバータ大学/カナダ):浮世絵師・歌川広重東海道五十三次をVRで表現するプロジェクトについて。
  • Claudio Lebarca氏(カトリック大学/チリ):チリのチュキカマタ鉱山(世界最大の露天掘りの銅山)では、自動運転されたトラックを使って、採掘した銅鉱石を運搬するシステムを構築する国家プロジェクトが進められている。そのシステム構築のために鉱山内部のトンネル群をVRで可視化するためのデータ生成方法を紹介する。
  • Sky Lo氏(ヴィクトリア大学ウェリントンニュージーランド):オンラインでデザイン検討できるCADツールで生成した建築プランをVR化する方法を紹介する。
  • Amar Bennadji(ロバートゴードン大学/イギリス):点群データを用いて、歴史的な建造物のアーカイブを作成する方法について、点群データの修正や色補正などの方法も紹介する。
  • Paolo Fiamma氏(ピサ大学/イタリア):ピサ大学で始まる新しいBIM(Building Information Modeling)教育の概要、および、VRとBIMなどを統合するためのデータ変換とその方法を紹介する。
  • Wael Abdelhameed氏(バーレーン大学/バーレーン):建物内部のエネルギー効率の可視化研究プロジェクトについて、VR空間を探索しながら、各部屋のエネルギー効率等の計測データを表示させるためのシステム構築方法を紹介する。

 最後に、360度カメラで特別室の天井画や装飾と共に記念撮影してワークショップは終了した。

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大阪市中央公会堂特別室

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最終プレゼンテーション

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最終プレゼンが終わり、集合写真

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1701machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2017年1月号