ふくだぶろーぐ

福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第33回 VRサマーワークショップ(1)

VRサマーワークショプが大阪にやってきた!

7月11日から15日にかけて、大阪大学・サイバーメディアセンターを舞台として、国際VR(Virtual Reality: 人工現実感)シンポジウム 第7回サマーワークショップイン大阪が開催された。VRサマーワークショップは、世界各国から建築・建設・都市系の研究者・実務者が集まる研究会「World16」のメンバーが、VRソフトUC-win/Roadなどの3Dデジタル技術を如何に発展・実用化していくかを提案・議論する場である。その年の11月に東京で開催される国際VRシンポジウムでの成果発表をひとつの目標としている。

f:id:fukuda040416:20160712120959j:plain
VRサマーワークショップ集合写真(大阪大学サイバーメディアセンター)

これまで、アメリカ・フェニックス(2008)、箱根(2009)、アメリカ・サンタバーバラ(2010)、イタリア・ピサ(2011)、ハワイ(2014)、そして、ギリシャテッサロニキ(2015)で開催されてきた。そして今年は、筆者の大阪大学を中心に実施することになった。

近年、VRサマーワークショップの参加者は、ワークショッププログラムの多様化によって、World16や事務局スタッフに加えて、特別ゲストやコンペの審査員やその受賞者が参加するスタイルとなってきた。一方で、3Dデジタル技術の新たな研究開発、実用化への見通しを、World16のメンバーで時間をかけて議論したいという想いが芽生えてきた。そこで、今年のVRサマーワークショップは、本来の姿に立ち返ってみるべく、World16とフォーラムエイトのスタッフを中心に構成することになった。最終的に参加したWorld16メンバーは14名と、近年まれに見る多さとなった。

筆者自身、これまで、VRサマーワークショップには、大阪から海外に出かけて参加してきた。今回、世界各地で出会ってきたWorld16のメンバーが、アメリカ、カナダ、イギリス、チリ、ニュージーランドバーレーンなどから、忙しい合間を縫って、大阪にわざわざ来てくれるのは嬉しい限りである。かつて、大阪大学吹田キャンパスの隣で開催された大阪万博のテーマソング「♪こんにちは こんにちは 世界のひとが~」のような気持ちである。

個人的に、海外を訪問した際の楽しみのひとつは、地元の人々と出会えることである。オモロイ地元の人々と出会えれば、「また行きたい!」と思えるし、その逆もまた然りである。VRサマーワークショップの終盤には、エクスカーション(研修旅行)を企画することになっており、その中で、地元のオモロイ人々と交流してもらえれば、と考えた。 

イヴ

7月11日の夜、明日から本番となるVRサマーワークショップに向けて、メンバーが世界中から大阪に集まってきた。デジタル世界に浸かる前に、まずは大阪のフィジカルな広さを楽しんでもらうべく、万博記念公園のEXPOCITYにオープンしたての、日本一の観覧車「Osaka Wheel」へ。ゴンドラの床面はシースルーであり、空中に浮かんでいるかのような雰囲気になってくる。不思議なもので、リアルな大阪の夜景がVR世界に見えてくるものだ。

f:id:fukuda040416:20160711204215j:plain日本一の観覧車

ワークショップ本番

7月12日からはワークショップがいよいよスタート。オープニングセッションとして、World16の代表を務める小林佳弘氏(アリゾナ州立大学/アメリカ)より、World16の活動実績紹介と今回のミッションがメンバーに提示された。

ミッションは、これから48時間かけて、各メンバーが行っているプロジェクトのチュートリアル・ビデオを構築するものである。3Dデジタル技術を学ぼうとする人や、これからイノベーションを起こそうとする人々のための学習教材となることを期待している。2日後となる14日午後にはチュートリアル・ビデオを完成させ、大阪市中央公会堂特別室でプレゼンテーションを行う計画も披露された。続いて、事務局を務めるフォーラムエイト代表取締役伊藤裕二氏がウェルカムスピーチを行い、筆者がホスト役として大阪、大阪大学大阪弁について紹介した。そして、World16各メンバーからの技術提案が始まり、丸2日間のワークショップがスタートした。

f:id:fukuda040416:20160712160606j:plain

f:id:fukuda040416:20160713152039j:plain

f:id:fukuda040416:20160713001856j:plainワークショップ風景

f:id:fukuda040416:20160713202044j:plain回転寿司はやはり発祥の地・大阪で

f:id:fukuda040416:20160713221833j:plainホテルに戻ってもワークショップ

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1612machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年12月号

都市とITとが出合うところ 第32回 香港中文大学 国際研修プログラム(3)

ISP@大阪: 後半

香港中文大学 中國城市住宅研究中心が企画するInternational Study Programmes(ISP: 国際研修プログラム)の一環で、今年5月、香港の教員・学生たちが大阪に1週間ほど滞在された、ISP@大阪。本稿では、後半のハイライトをご紹介しよう。

 

ものづくり: 太陽工業 枚方工場(2016/5/20-21)

太陽工業(株)は、大型膜面構造物(テント構造物)のメーカー。今回訪問した枚方工場は、大阪万博を機に開設され、アメリカ館など過去に類を見ないテント構造物の誕生に貢献した。東京ドームの大屋根、膜天井など、膜素材の透光性や軽量性を活かした製品を開発している。

ISP@大阪では、何と、工場に宿泊させて頂くことになった。そのため、参加する学生たちに、「Make Our Own Pavilion Project」と題して、3時間で制作可能なパビリオンのコンペを実施した。自分で自分の寝床をメンバーのことも考えながらデザインするのである。結果、香港と日本から計2案のデザインが提案され、実現性などを考慮して最終案が決まった。パビリオンは工場内に設置するもので、形状は四角錐であり、屋根面を三角形に裁断し、両端を縫製し、4枚をグルリとつなぎ合わせ、天井から吊るし、底の四隅を引っ張る構造である(図1)。研修本番では、膜素材の裁断、縫製、そして、設営をプロに教えてもらいながら行った。パビリオンを吊るす作業の途中で(図2上)、テントの入り口を裁断し忘れたことに気づき、学生たちが、形と大きさを膜素材に直にスケッチすることなど、現場研修ならではであった(図2中)。

夕方には、ペアインタビューを実施した。これは、太陽工業の社員さんとISP@大阪の学生たちが2人1組となり、自己紹介したり、相手方の仕事や研究内容のインタビューを英語で行うもの。夜のバーベキューパーティでは、それぞれのペアが登壇して、相手方を他己紹介した。私も参加させて頂いたが、相手方となったベテラン社員さんは、東京ドームの大屋根プロジェクトを製品開発から現場施工まで携わられた方であり、興味深いお話であった。

工場近くの銭湯に入った後(これもメンバーに好評であった)、就寝して、翌日はいよいよMAKTANK ワークショップ。MAKTANKとは、役割を終えた膜素材を手入れし、世界で一つしかないカバンとして蘇生させようという、リサイクル・プロジェクト。9種類のバッグのテンプレートから一つを選び、そのテンプレートに見合った膜素材を調達する。一口に膜素材といっても、材質、手触り、模様、色など多種多様である。膜素材を調達したら、テンプレートに合わせて裁断する。ワークショップはここまでであり、縫製はプロの方にお願いした(図2下)。

f:id:fukuda040416:20160824140433j:plain

図1 太陽工業ワークショップ(完成したパビリオン)

f:id:fukuda040416:20160520154206j:plain

f:id:fukuda040416:20160520161511j:plain

f:id:fukuda040416:20160722113024j:plain

図2 太陽工業ワークショップ(上: 吊り作業中;中:入口の現場デザイン;下: 完成したMAKTANK)

 

景観まちづくり:永楽荘桜自治会(2016/5/21)

MAKTANKワークショップを終えて、路線バスと電車で枚方から豊中へ。桜自治会は、低層戸建住宅が建ち並ぶ良好な住宅環境を保全するため、継続的なコミュニティ活動(夏祭り、もちつき大会、自治会バザー、古紙等集団回収、清掃活動など)に加えて、土地利用のルール作りを長年にわたり行われてきた。ISP@大阪のメンバーにとって、住宅地に足を運び、地元住民の話の聞く機会は中々ないと考えて、企画した。当日は、藤井自治会長をはじめとする自治会メンバーと豊中市役所の方々に出席して頂いた。

1996年に自治会で作られた景観形成協定では、建物用途、敷地面積、建物高さ、建物意匠、敷際の演出、広告物、迷惑駐車防止、ごみ置き場清掃、そして、住区のシンボルである桜並木の保護について取り決められてきた。そして、景観形成協定の有効期限となる2016年が近づいてきた2012年頃より、今後の運用方針について、自治会で議論と周知が重ねられ、土地建物所有者に対するアンケート調査がなされてきた。

結果、建物用途、敷地面積、建物高さについては8割の賛同が得られたため地区計画(案)として、建物意匠(建物の屋根・外壁や塀の色)については景観計画 都市景観形成推進地区(案)として、自治会より市に提出された。緑化、擁壁の配置については8割の賛同が得られなかったため景観形成ガイドラインで運用することとされた。2015年、豊中市は、自治会より提出された地区計画、都市景観形成推進地区を決定した。桜が咲き誇る時期に、また来たいものである(図3)。

f:id:fukuda040416:20100101093909j:plain

図3 永楽荘 桜自治会館

 

大阪のまち歩き:野田(5/22)

ISP@大阪で、大阪をじっくりと歩いてもらいたい。そんな想いを、NPO法人 もうひとつの旅クラブに相談したところ「香港には無さそうな大阪らしいテーマが良い。ネタがディープ過ぎると初めての方には面白いと思ってもらえないかもしれない。メンバーは建築や都市計画を志す学生たちも多いので、JR大阪駅からたった2駅なのに古い町並みが残って珍しい、野田が良いのでは?」というアイデアが出た。確かに、高層ビルが立ち並ぶ香港都心に、野田のような長屋と路地は見たことがない。日本のお地蔵さん文化を伝えるにも丁度いい。「ななとこまいり」を企画・運営されている野田まち物語さんに旅クラブから相談して頂き、野田まち歩きの企画が実現した。

「ななとこまいり」はお地蔵さんを七つお参りすると願い事が叶う、という野田に古くから伝わる幸せの言い伝え。集合したJR野田駅で各自お願いごとを用意してから出発。路地を歩きはじめると、長屋に早速出会う。岸田さんによる長屋の解説が始まる。端に近い長屋の入り口には赤いランプが付いている。「このランプの付いているお宅は何かわかりますか?」鈴木さんが尋ねる。こうして、野田のガイドツアーは進んでいった(図4)。

お地蔵さんの前に来ると、鈴木さんがツアーを代表してお賽銭を入れてお参りする。そして小話が始まる。例えば、玉河塩屋地蔵の脇には赤い消火器が置かれてあるが、この消火器は実はお賽銭入であることなど。

古い民家を改修してデイサービスに使われている、ななとこ庵に立ち寄り、野田の歴史とお地蔵さん文化についてお話を伺う。浪花屋本店では、ななとこまんじゅうの試食をさせて頂いた。

f:id:fukuda040416:20160824141112j:plain

図4 野田のまち歩き

 

おわりに

野田まち歩きの夜は、香港中文大学、阪大OB&現役、もうひとつの旅クラブ、野田まち物語などのコミュニティが、古民家カフェに集まって交流パーティが開かれた。その後、中之島公園へ。丁度、満月の夜。風も気持ちよく、大阪都心なのに静かで、気持ちのいい時を過ごすことができた。野田締めで、打ち上げた。

ISP@大阪の準備や実施にあたり、IT(Information Technology)の恩恵に預かったことは言うまでもない。まず、IT社会でなければ、ISPの依頼自体が来なかったであろう。であれば、今回のような新たな出会いや数多くの研修はできなかった。準備にあたっては、香港中文大学と大阪大学、各受入先と大阪大学とのコミュニケーション手段には、主にメールを用いたが、時には、Skypeで遠隔会議をしたり、SkypeFacebookメッセンジャーでチャットしながら、メールのやり取りでは困難な、細かなニュアンスを確認した。公共交通機関を使って旅程を組むために、乗換案内や路線図で、ルートと運賃を調査できた(特に、路線バスが調査できたことは役立った)。待ち合わせ場所を共有するために、地図や住所だけでは迷子になってしまうので、Google ストリートビューを活用した。作成したBookletや撮影した写真の共有は、オンラインストレージや写真共有サイトを活用した。英単語が思いつかない時や、英語ではなく漢字で伝えた方が効果的な場合には、Google 翻訳を活用した(日<->英、日<->中)。

スマホWi-Fiなどの発達により、出先のモバイル環境下においても、情報検索やメンバーとのコミュニケーションがかなり便利になったことを再認識した次第である。

 

謝辞

太陽工業(株)、永楽荘桜自治会、豊中市都市計画課、野田まち物語、NPO法人 もうひとつの旅クラブ、ご協力頂いた皆さまには大変お世話になりました。感謝申し上げます。

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1611machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年11月号

都市と建築のブログ Vol.35: メルボルン:マルチカルチャー up!

f:id:fukuda040416:20160402111431j:plain

「都市と建築のブログ」第35回目(2016年10月号)はオーストラリア・メルボルンをご紹介します。

NAVERまとめにも都市と建築のブログの過去記事をアーカイブしています。

matome.naver.jp

■都市と建築のブログ バックナンバー

 

都市とITとが出合うところ 第31回 香港中文大学 国際研修プログラム(2)

ISP@大阪
香港中文大学 中國城市住宅研究中心が企画するInternational Study Programmes(ISP: 国際研修プログラム)の一環で、香港の教員・学生たちが5月に1週間ほど来阪されることになり、ホスト役を仰せつかった。このISP@大阪のテーマは、4月に香港で開催されたISP@香港「Envision Age-Friendliness in Hyper-Dense Hong Kong(超濃密な香港で高齢者への優しさを描く)」の延長線上にある。

研修のキーワードとして、香港側より以下が提案された。日本における高齢者に優しいデザイン、質の高いコミュニティデザイン、コミュニティと建築・都市デザインとの統合の方法、歩いて暮らせる都市の体験、地元の人々との交流、グリーン建築、水や緑の優れた利用など。これを受けて、大阪側で、1週間に渡る研修プログラムの検討、訪問先の調整、大阪側の参加者募集、ブックレットの作成などを準備していった。大阪側から香港側に提案した特筆すべき内容を挙げておこう。1) ホテルから訪問先への移動手段としてマイクロバスをチャーターすることが一般的だが、日本の公共交通を体感してもらうべく、地下鉄、JR、私鉄、路線バスなどを移動手段としたこと。2) わざわざ大阪に来なくてもインターネットなどで得られるような情報提供は極力避け、大阪・関西の地元メンバー、コミュニティと直に触れ合ってこそ得られる内容としたこと。3) 訪問先は、大阪・関西になじみ深い企業・メンバーにこだわったこと。

本稿では、前半のハイライトをご紹介しよう。

グリーン建築ツアー1: NEXT21(2016/5/17)
NEXT21は、大阪ガス(株)が1993年から続けている集合住宅の実験プロジェクト。近未来の都市居住ライフスタイル、環境・エネルギー面の取り組みなどの研究を行うために、大阪ガスの社員とその家族が実際に住んでいる。第1フェーズ(1994-1998)、第2フェーズ(2000-2004)、第3フェーズ(2007-2011)と3回の居住実験フェーズを経て、現在は第4フェーズ(2013-)を迎えている。第4フェーズでは、2020年頃までの都市型集合住宅を前提として、「環境にやさしい心豊かな暮らし」を追求している。そのため、「人と人のつながりの創出」「人と自然の関係性の再構築」「省エネ・スマートな暮らしの実現」の具現化に取り組んでいる。

具体的には、エネルギーシステムの実験としては、燃料電池をはじめとするガスコージェネレーションシステムを集合住宅で高効率に活用するために、SOFC(Solid Oxide Fuel Cell: 固体酸化物形燃料電池)住戸分散設置とエネルギー融通、デマンドレスポンス対応と逆潮運転、停電時自立システムの構築、HEMSの導入、再生可能エネルギーとの組み合わせなどを実施している。また、住まい・住まい方の実験として、現代家族の持つ課題への対応や都市緑化の促進のために、中間領域の実験、2020年の住まいの提案、省エネライフスタイルの醸成、緑地マネジメント実験などを実施している(図1)。

NEXT21は竣工してから早くも20年が経過し、類似の実験施設は他でも増えてきつつあるものの、大阪の都心で家族が実際に生活されている実験を続けられていることが、見学者にとって大きなインパクトであった。また、NEXT21の近くには、緑が多い大阪城公園そして上町台地があるのだが、鳥が運んできたと思われる種子がNEXT21の敷地に落ち、そこから芽が出た樹木が成長していた姿が印象的であった。

f:id:fukuda040416:20160517105740j:plainf:id:fukuda040416:20160517110548j:plain図1 NEXT21 

グリーン建築ツアー2: ダイビル本館(2016/5/17)
ダイビル本館は、賃貸オフィスビルの先駆けとして、1925年に完成。完成2年前に発生した関東大震災の教訓を生かし、大阪では最初に耐震構造を採用した。

今回の建替えは、建築主ダイビル(株)のアイデンティティとしての外観保全という強い想いに、最新の建築と設備の技術がうまく融合したプロジェクトであり、CASBEE大阪 OF THE YEAR 2013 最優秀賞を受賞されている(CASBEE Sランク)。

低層部は、大正時代の旧ビルの意匠を、実際に使われていたレンガ・石材等を再利用しつつ再現を試みており(中央玄関に飾られた「鷲と少女の像」、ギリシャ風彫刻が施された1階正面の円柱・角柱(播州竜山石を使用)も)、中之島の歴史的景観の継承を目指している(図2)。

高層部は石材フィンを外付けマリオンとしたカーテンウォールとして、日射をコントロールしている。外装には、Low-Eガラスを全面採用しており、特に西面はエアフローウィンドウとして空調負荷を抑制している。

外構には、都心の貴重な緑となり四季折々の表情を醸し出す中之島四季の丘が整備されている。また、ビルの冷暖房熱源として使用する全ての冷温水は、河川水を利用した地域冷暖房プラントから供給されている。メンバーが熱心に沢山質問をしていたのが印象的であった。

f:id:fukuda040416:20160517140239j:plainf:id:fukuda040416:20160517125710j:plain図2 ダイビル本館 

グリーン建築ツアー3: YANMAR FLYING-Y BUILDING(2016/5/19)
2012年に創業100周年を迎えたヤンマー(株)。YANMAR FLYING-Y BUILDINGは新しい本社社屋として、食とエネルギーのこれからを考え、自然との共生を追求したアイデアと技術を結集させて完成した。おおさか環境にやさしい建築賞 大阪市長賞を受賞されている(CASBEE Sランク)。

船のような特徴的なビルのエントランスからエレベーターに乗ると、エレベーターの中から壁面緑化が楽しめる。向こうには赤い観覧車。かなり高い位置まで緑化されており、大気汚染物質の吸着や都市景観の向上に寄与していることが窺える。11階の総合受付のディスプレイには、自家発電稼働率とCO2削減率がリアルタイムに大きく映し出されている。

オフィスフロアを垂直につなぐ象徴的な赤い螺旋階段はエコシリンダーと呼ばれ、自然換気システムから取り入れた外気の通り道にもなっている。屋上には、同社のコージェネレーションシステムとGHP(Gas Heat Pump air conditioning systems)、太陽光採光システムが設けられていた(図3)。

ヤンマーは、農業・漁業にも深く関わってきており、生産者のこだわりを食材に取り入れ「一汁三菜」メニューが提供される社員食堂が設けられている。食堂中央には、屋上庭園が見え、ハチの巣箱が置かれていた。ここに、20万匹もミツバチが居るいるとは。

f:id:fukuda040416:20160519102238j:plainf:id:fukuda040416:20160519104814j:plain図3 YANMAR FLYING-Y BUILDING 

元気なコミュニティと自然共生: 近江八幡(2016/5/18)
滋賀県近江八幡市へ。近江八幡駅でレンタ・ママチャリして、八幡酒蔵工房へ向かう。駅近辺は現代的な建物が並んでいるが、市役所を過ぎ、八幡商業高校のグラウンドを過ぎると旧八幡地区に入る。

八幡酒蔵工房に到着するや否や、まずは、ボランティアガイドによる旧八幡地区のまち歩き。ヴォーリズ建築第一号であるアンドリュース記念館、重要伝統的建造物群保存地区のまちなみ(新町筋、八幡堀周辺、永原町筋)などを巡った。八幡酒蔵工房に戻り、いよいよ、そば打ち体験。そばを自分で作らないとお昼ご飯抜きだよ、と事前告知(笑)。2人一組になって、先生のレクチャーの元、そば粉を練るところから作りあげた。アユや地元野菜の天ぷらと共にランチ(図4)。

ランチを終えると、ママチャリに再び乗って、ツッカーハウス、五葉館を見せて頂いた後、いまさかPJの地へ向かう。いまさかPJは、八幡山の景観を良くする会、近江八幡おやじ連の有志により設立された。2005年から継続的に活動されている八幡山の間伐作業で出てきた、間伐竹の再生活用を実践することなどを活動目的としている。ママチャリを止めて畦道を歩いていくと、そのうち畦道が途絶えて草むらとなり、いきなり細い水路が現れた。細い水路の向こうから、派手なカヌーに乗ったおじさんがやってきて、荷物ともども順番に乗せられ、対岸に渡る。この、いまさかPJの地には、橋は架かっていないので、舟を使うしかない。トイレはバイオトイレ。いきなり、自然の真ん中に放り込まれた感じ。実は、日本の重要文化的景観のエリア内。

ここから、和船とカヌーを交互に乗せてもらう。和船はエンジン付きなので、権座を眺めながら、西の湖までやってこれた。向こうに、安土山が見えてきたので、VR安土城タイムスコープを使って、往時の姿をAR体験。カヌーを漕いでみると、丁度、田植えのシーズンで水が濁っており、東南アジアのようであった。 

f:id:fukuda040416:20160518103743j:plainf:id:fukuda040416:20160518115356j:plainf:id:fukuda040416:20160518154902j:plainf:id:fukuda040416:20160518174152j:plain図4 近江八幡 元気なコミュニティと自然共生

 

謝辞
大阪市都市計画局、大阪ガス(株)、ダイビル(株)、ヤンマー(株)、(株)日建設計、八幡酒蔵工房、近江八幡おやじ連の皆さまには大変お世話になりました。感謝申し上げます。

PDF:  http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1610machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年10月号

水木しげるロード リニューアル計画

youtu.be

9月10日、鳥取県境港市で開かれた「怪フォーラム2016」前夜祭で披露した、水木しげるロード リニューアル計画の様子です。山陰放送 秦まりなアナの朗読により、リニューアルに至る経緯やコンセプト、そして、近未来に現れる昼夜景プランをVR(Virtual Reality: 人工現実感)やパワポでご案内。鳥取県平井知事、境港市中村市長、水木プロの皆さまはじめ、大勢の関係者や市民の方に見て頂きました。120インチのスクリーンに12000ルーメンのプロジェクターで映像を投影しました。

アップしたビデオは、風でスクリーンが揺れたり、鳥や虫が明るいスクリーンに近づいてきたリ(11:45辺り:飛んで赤いプロジェクションエリアに入る秋の虫^^)、暗騒音が含まれていたり、と屋外イベントならではの雰囲気たっぷりです(汗)

音声オン(スマホの場合は、ムービーをクリックすると音声が出るモードになるようです)で、ご覧頂ければ幸いです。
水木しげるロードの経緯: 0:42
・リニューアル コンセプト: 3:25
・VRによる将来像: 5:47
・夜景: 10:55
・今後について: 13:19

境港市では、水木しげるロードリニューアル計画の様子を紹介する、「かわら版」を発行されています。

www.city.sakaiminato.lg.jp

 

追記(2016年9月22日):境港市・水木ロードリニューアル計画が産経新聞で詳しく紹介されています(産経新聞 9月22日)。

www.sankei.com

追記(2016年9月28日):(一財)道路新産業開発機構トップページ(道路行政セミナー9月号)に記事「水木しげるロードリニューアル事業」について(境港市 建設部 水木しげるロードリニューアル推進課)が掲載されています。

http://www.hido.or.jp/12dourogyousei/1609/1609mizuki_shigeru_road.pdf

◆ 平成4年、衰退する商店街の活性化を目的に一部歩道の拡幅とあわせ、本市出身の漫画家水木しげる先生の代表作である「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する妖怪などのブロンズ像を歩道内に設置し、親しみの持てる街路としての整備が開始されました。妖怪のキャラクター(着ぐるみ)も毎日登場するなど、「無料のテーマパーク」として、連日にぎわいを見せています。この連日の賑わいを将来にわたって継続させるため、平成25年度よりリニューアル事業に着手することとしました。本稿では、当該事業の基本構想や社会実験の概要等について報告します。

 

都市とITとが出合うところ 第30回 香港中文大学 国際研修プログラム(1)

香港ISP

International Study Programmes(ISP: 国際研修プログラム)は、香港中文大学 中國城市住宅研究中心(Center of Housing Innovations, The Chinese University of Hong Kong)が毎年実施している教育プログラムである。学生の多次元思考やチーム・スピリットを開発するために、持続可能な都市開発をテーマとして、国際的、学際的、そして多文化のコラボレーション環境下で、都市計画・設計の実践、そして、学生の実践経験の蓄積を進めている。香港中文大学 建築学部 鄒經宇教授(Prof. TSOU, Jin Yeu)が中國城市住宅研究中心 主任を務める。

今年度のISP企画は、各国の研究者・実務者が香港中文大学に集まって学生の計画・設計作業を助言するIPS@香港の実施(4月)、そして、香港の教員・学生たちが各国の大学などを訪問して受け入れ側の大学が企画する研修プログラムに参加すること(5月以降)であった。筆者の関わりは、4月に香港に赴き、2題のプレゼンとワークショップチュータを務めた。そして、5月には香港メンバーが大阪に来られることになり、研修プログラム「ISP@大阪」を企画した。

本稿では、4月に香港へ訪問したISP@香港の様子をご紹介したい(図1, 2)。

f:id:fukuda040416:20160413141128j:plain f:id:fukuda040416:20100410153548j:plain
図1 香港の高層アパートメント群

f:id:fukuda040416:20160416081408j:plain図2 香港島の高層ビル群とスターフェリー

 

香港ISP

香港ISPのテーマは、「Envision Age-Friendliness in Hyper-Dense Hong Kong(超濃密な香港で高齢者への優しさを描く)」。平たくいえば、元気な高齢社会とそのための都市のあり方に関するワークショップ。香港島のChai Wan(柴湾)地区を対象地として、4つのテーマで検討が進められた。

  • Aグループ: 建物密集環境での計画と設計
  • Bグループ: 都市生活と住宅供給の戦略
  • Cグループ: 社会および人間の文化の持続可能性
  • Dグループ: 物理的環境での生きがい

柴湾は香港島の東部に位置する。古くは漁村であったが、経済成長期に公営住宅が建設された。現在は居住者の高齢化が進む。

参加した学生は66名。各グループは2チームずつで構成されており、計8チームである。香港中文大学の学生だけでなく、オーストリア・グラーツ大学の学生も多数参加してワークショップに取り組んだ。学生たちに助言する研究者・実務者は、オーストリア、イギリス、シンガポール、台湾、香港、日本から参加した。

ISP@香港は、4月11日から18日までの8日間で開催された。まず、期間中、中間報告会が2度(4/13, 15)、そして、最終報告会(4/18)がマイルストーンとして用意された。最初の中間報告会では、各グループのテーマに即して、現地調査や居住者インタビューを通じて発見した課題について、8つのチームが順に報告した。2回目の中間報告会では、課題解決に向けた計画・設計のコンセプトについて。最終報告会は、文字通り最終案について。ISP@香港2日目の夜に開催された懇親会で学生同士が打ち解けあったこともあって、プラニング、そしてチーム・コミュニケーションの内容も日に日に加速していくことを傍で感じた次第である(図3)。

報告会の間には、現地調査、研究者・実務者のプレゼン、関連機関「Housing Society Elderly Resources Centre」への訪問、そして懇親会が組まれており、短期間で充実したワークショップとなるような工夫がなされたプログラムであった(図4 - 6)。

f:id:fukuda040416:20160414175248j:plain f:id:fukuda040416:20160415173151j:plain

図3 ISP@香港 チーム別ワークショップ|中間報告会

f:id:fukuda040416:20160414121101j:plain

図4 建築学部棟屋上での集合写真終了!

f:id:fukuda040416:20160414191047j:plain

図5 西貢海鮮

f:id:fukuda040416:20160413171302j:plain

図6 香港中文大学の学食

 

研究者・実務者のプレゼン

 参加した研究者・実務者が話題提供した内容を紹介しておこう。

  • LI Yen-Yi (Shu-Te University, Taiwan): “The Green Light City: Some Approaches Toward Sustainability” と題して、氏が台湾・高雄で実施しているエコシティとグリーン建築プロジェクトの紹介。
  • Martin Watson (Brock Carmichael Architects, UK): “A Brief History of the Prefabricated Home” では、プレファブ住宅の歴史、設計、施工を概説。また、“A UK Overview of Elderly Housing and Designing for Dementia” では、認知症のための高齢者住宅供給と設計、そして、アクティブ・エイジング(活力のある高齢化)について概説。60歳以上の人々が30%を超える国は日本が今は唯一だが、2050年には64ヶ国がそうなる。
  • YEO Su-Jan, on behalf of Prof. HENG Chye Kiang and Prof. FUNG John Chye (National University of Singapore): “Population Ageing and Urban Environment: A Singapore Perspective” と題して、シンガポール高齢化社会の現状と1980年代と90年代に建設された公営集合住宅の紹介。シンガポールでは定年が65歳から67歳に引き上げられた。女性も男性同様の働き方をしており、定年後のライフスタイルの在り方が大切だと。
  • Wolfgang DOKONAL (Graz University of Technology, Austria): “Contemporary Urban Processes - Aging in the City” と題して、世界における人口、環境、経済、エネルギーの状況、欧州における高齢社会の現状、そして、オーストリアの介護付き集合住宅の紹介。オーストリアは収入の50%を納税するそう。
  • 筆者: “Challenges for Livable Physical Environemt and Virtual/Augmented Reality as 3D Communication Tool” と題して、我が国における環境設計や参加型デザイン、神戸市や箕面市での景観づくり、茨木市での緑の基本計画、神戸市での夜間景観づくり、グリーン建築の取り組み、そして、最近の3次元コミュニケーション・ツールとしての研究成果であるVR/ARについて。また、“Livable Community in Elderly Society Japan” では、日本の人口や高齢化の現状、元気なコミュニティ活動が見られる、近江八幡や大阪の取り組みについて。

プレゼン後、香港中文大学のコーヒーショップで談笑。プレゼンでは、近江八幡市で定年前に開催される料理教室、そして料理教室卒業後におやじ連が形成されている話題を紹介させて頂いたのだが、このことに関連して、我々よりも上の世代 (75歳-)の男性が料理を余りしないのはオーストリア、イギリスも同じだ、シニアになって料理を学び始めるのはかえってストレスかもよ(笑)、と盛り上がった。

また、日本では昔は(今でもそのような地域があるように思うが)自宅に鍵をかけなかった話をすると、イギリスでも昔は同じだったが、最近は素性がわからない者が増えたり、凶悪な者がいるかもしれないという不安から鍵をかけるようになったそうである。そもそも、イギリスでも鍵をかけない時代があったことには驚いた。

 

おわりに

我が国の高齢化率の高さは世界的に有名である。また、高齢者の絶対数も多く、研究者のプレゼンや学生との会話でも、日本に関する資料や質問が多く見られた。一方、2015年、平均寿命の男女世界1位は香港である。香港女性の平均寿命は87.32歳(日本人女性は87.05歳で2位)、香港男性は81.24歳(日本人男性は80.79歳で4位)である。

高齢社会の流れは世界共通であり、如何に健康に元気に暮らしていくか、考えていく必要がある。

 

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1609machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年9月号

スマホが熱中症にかかりました…

毎日異常な暑さですね。雨が降らない。そんな今夏と関係があるかわかりませんが、スマホ熱中症にかかってしまいました。

数日前、スマホをカーナビとして使い(話はそれますが、最近はGoogle Mapsをカーナビ代わりとして使うことが本当に増えました。こちらのナビの方がリアルタイムに精度よくナルホド!と思うルートを示してくれると思えることが増えました)、目的地に到着したので、さてスマホを持って散歩を、とスマホを車載アクセサリから外そうとしたら、「アッチッチ!」

特に背中が、触るとヤケドするくらいに熱くなってしまっており、さらに、液晶ディスプレイが剥離して本体から浮いてしまっており、中の様子が覗けるほどに…慌てて水を、、、それはアカンアカン。

スマホ熱中症に。電源は入るので、何とか使い続けることができましたが、いつ息絶えてしまうのか、不安フアン。

翌日、相談すべく、ソフトバンク・ショップを訪ねたら、ウチでは修理対応はできないので、Appleのサービスプロバイを訪ねてください、と。カメラのキタムラさんがサービスプロバイダをされているのですね。で、キタムラさんに相談してみると、そこで検査をしてくれて、やはりバッテリーの膨張だそうで、交換を依頼しました。

もういい年なので、機種変更しようか、キャリアを変えようか、迷ったのですが、まずは熱中症患者を治してあげよう。

お盆休みと相まって、1~2週間はスマホから離れた生活となりそうです。スマホから少し離れる良い機会なのだとオモイコミン。

都市とITとが出合うところ 第29回 建築・都市環境のための画像処理技術を用いたマーカレスARシステム

オーストラリア・メルボルン大学(The University of Melbourne)で開催されたCAADRIA2016国際会議(The 21th International Conference on Computer Aided Architectural Design Research In Asia)で発表した論文の3報目。今回は「A Marker-less Augmented Reality System Using Image Processing Techniques for Architecture and Urban Environment;建築・都市環境のための画像処理技術を用いたマーカレスARシステム」について [1]

背景
良好な景観形成を推進するためには、計画・設計・施工・維持管理の各段階で、事業者・設計者・管理者・近隣住民・利用者・一般市民などの多様な利害関係者による合意形成が求められる。そのため、検討会議においては、景観予測内容をわかりやすく伝達する手法が求められ、伝統的な模型や手書きパースに加え、コンピュータを用いた3次元CG静止画、アニメーション、バーチャルリアリティ(VR)が実用化されている。しかしながら、これらの手法は、周辺環境を含む全ての情報を3次元モデルとしてコンピュータに定義するために多大な労力が必要とされてきた。そこで、現実空間と3次元モデルとを重畳表現するAR(Augmented Reality:拡張現実感)技術を景観予測手法に応用する研究が進められている。ARは、リアルタイム・レンダリングを行う点などVRとよく似た技術である。一方、VRは全ての仮想空間を3次元モデルで定義するのに対して、ARは周辺環境の表現として実写映像などの現実空間を利用するため、3次元モデルを構築する工数と手間、データ量の増加を回避できる。建設予定地でARを使えば、実物大でその場の将来景観を確認できるために、より現実的な検討が可能になる。

一方、景観予測手法としてのARの現状は、用途や対象が限定的である。重要な課題は、現実空間と3次元モデルとの位置合わせ手法である。位置合わせ手法は、ロケーションベース型、ビジョンベース型に大きく区分される。ロケーションベース型として、スマートフォンに搭載されているGPSやセンサでは十分な位置・姿勢精度が得られず、RTK-GPSなどを用いると高精度な位置合わせが実現できるものの、特殊な機材を準備する必要があるため、一般ユーザへの実用化は課題が残る。ビジョンベース型として、人工マーカを用いた手法はマーカがAR仮想カメラから常に見えている必要があり、検討者の可動範囲に制約が生じてしまう。また、高精度を実現するために大きな人工マーカを用いると肝心の景観が隠れてしまう。 

目的
景観検討に資する高精度な位置合わせを実現するためには、実写映像と3次元モデルとを重畳させる際の基準点(以下、基準面、基準対象物も同義として扱う)の設計が重要である。基準点は、ロケーションベース型の場合はセンサ位置、ビジョンベース型の場合はマーカ位置となる。基準点と3次元モデルとの距離が小さいほど位置合わせ精度は一般に高くなる。一方、屋外現場で景観検討を行う場合には、既往手法では、基準点と3次元モデルとの距離は概ね10m~数kmと机上でARを使う場合と比べて大きく、精度は低下してしまう。

そこで本研究は、身近なモバイル端末を用いて、屋外で過去や将来の景観をより正確に重畳可能なARシステム「PhotoAR2015」の開発を目指した。高精度の景観検討用ARを実現するため、ビジョンベース型のひとつ、マーカレス型ARシステムの概念を応用して、3次元モデルの近傍に基準点を設置する手法を開発することを目的とした。

PhotoAR2015の概要
PhotoAR2015は、局所特徴量による画像マッチング技術を用いた位置合わせ、及び複数枚の画像から3次元形状を復元するSfM(Structure from Motion)を応用して開発した。PhotoAR2015は、事前に行う「前処理」とリアルタイムで行う「本処理」の2つのプロセスで構成される(図1, 2)。

f:id:fukuda040416:20160730091535p:plain

図1 PhotoAR2015の概要

f:id:fukuda040416:20160730092118p:plain

図2 PhotoAR2015のフロー

前処理では、まず、SfMにより、既存建物など位置合わせの基準対象物となる3次元モデルを復元する。この際、3次元モデルの復元と同時に、使用した写真の撮影カメラ位置・姿勢情報を取得する。復元した3次元モデルと撮影カメラ位置・姿勢情報をデータベースに保存する。次に、ARで重畳する新築建物などの3次元モデルの描画座標を、SfMにより復元した3次元モデルに対する相対座標で決定し、新たな3次元モデルとその描画座標をデータベースに保存する。最後に、SfMによる3次元モデル復元に用いた写真データベースから、各画像の特徴点と特徴量をSURF (Speeded-up Robust Features)により抽出してテキストファイルに出力する。各画像のファイルパスも同様に別のテキストファイルに出力する。

本処理では、まず、前処理で出力した2つのテキストファイルを入力する。次に、ARで表示するリアルタイムのカメラ画像からSURF特徴量を抽出して、その全特徴量と、前処理で作成済みのSfMによる3次元モデル復元に用いた各画像の特徴量をそれぞれ比較して、類似画像を選定する。そして、ARで重畳する新築建物などの3次元モデルを、その類似画像を撮影したカメラの位置・姿勢を利用して、3次元モデルを描画する。この際、トラッキングに利用する点を描画モデル周辺に配置し、描画に使用した位置・姿勢情報を利用しスクリーンに描画する。3次元モデルを重畳した後、ARカメラの移動・回転に伴うスクリーン上での移動ベクトルを計算する。そして、トラッキング対象点の移動後の座標と3次元空間上での座標、及びカメラの内部パラメータを元に算出した位置・姿勢情報を利用して、再描画を繰り返すことでトラッキングを行う。

PhotoAR2015の実装
PhotoAR2015は、C++を用いて実装した。前処理では、SfMには、3次元モデル復元に用いた写真の撮影カメラ位置・姿勢情報を出力可能なOpenMVG (Open Multiple View Geometry. Ver.0.7) を利用した。

本処理では、リアルタイムカメラ画像の取得及びマッチングを行うために、画像処理ライブラリOpenCV (Open Source Computer Vision Library. Ver.2.4.9) を利用した。並列処理を行うために、TBB (Threading Building Blocks. Ver. 4.4) を利用した。3次元モデル描画のために、OpenGL(Open Graphics Library)のためのツールキットfreeglut (Ver.2.8.1) を利用した。

さらに、本処理ではリアルタイム処理を行うため、類似画像選定の際に計算を高速化する必要がある。そのため、近似手法を用いた類似度計算、画像のトリミングの処理を実装した。また、実写映像と3次元モデルの前後関係を正確に表示するためにオクルージョン処理を実装した。

PhotoAR2015の性能検証
開発したPhotoAR2015の性能を検証した。大阪大学吹田キャンパスM3棟を対象とした。

まず、画像マッチング時間と精度を評価するため、画像の解像度、トリミング比率、クエリ画像を変更しながら、マッチング時間と精度を測定した。結果、画像に占める対象構造物の割合が大きい場合、高精度でのマッチングが可能であった。一方、画像に占める対象構造物の割合が小さい場合、画像をトリミングしてノイズ除去を行う必要性を確認した。現状では、より最適なマッチング画像を得るための工夫として、コンピュータがマッチング画像を自動抽出した後、ユーザが画像を正誤判定できる機能を加えている。

次に、位置合わせの精度検証を行うため、2つの視点を用意して、位置合わせを行った際のリアルタイムカメラ画像とマッチング画像とをそれぞれ抽出して、画像上の同一点のずれの状況を画素値で測定した。結果、描画スクリーン(960×720 pixels)に対する誤差の割合は、水平方向、垂直方向とも、いずれも5%未満であった。結果、画像マッチングによりリアルタイム画像と類似するデータベース内の画像が選定可能であれば、高精度な位置合わせは可能であることが示唆された。

PhotoAR2015の有用性検証
建物設計段階での有用性検証のため、大阪大学研究棟の仮想改築プロジェクトにPhotoAR2015を適用した。

本仮想改築プロジェクトでは、M3棟南側へのオーニング設置検討を利用シーンとして想定して、プロトタイプを開発した。使用したタブレットPCは、Microsoft Surface 3である。以下、主な内容を述べる。

前処理では、まず、M3棟を基準対象物として、複数の写真撮影、そして、SfMによる3次元復元モデルを構築した(図3)。次に、SfMによる3次元復元モデルを用いて、SketchUPで別途作成した新たなオーニングモデルの配置座標を決定した。本処理では、AR描画されたオーニングをユーザ操作により、色及び設置角度を適宜変更しながら設計検討を行った(図4)。

検証実験を通じて、リノベーション検討用の3次元モデルを事前に作成、データベースに登録しておけば、PhotoAR2015を用いて、様々な視点からのリノベーション検討が可能であることを確認した。

f:id:fukuda040416:20160730091605p:plain

図3 SfMによる復元結果(a: 対象構造物;b:復元モデル)

f:id:fukuda040416:20160730091641j:plain

図4 PhotoAR2015キャプチャ: オーニング設置検討

おわりに
屋外でAR景観シミュレーションが可能なPhotoAR2015を、画像マッチング技術を用いた位置合わせ、及びSfMを応用して開発した。尚、本稿で紹介した仮想プロジェクト以外にも実際の建築設計プロジェクトで適用している他、建物運用段階での適用も検討している。追って、ご報告したい。

参考文献
[1] SATO Yusuke, FUKUDA Tomohiro, YABUKI Nobuyoshi, MICHIKAWA Takashi and MOTAMEDI Ali: A Marker-less Augmented Reality System Using Image Processing Techniques for Architecture and Urban Environment, Proceedings of the 21st International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), 713-722, 30 March-2 April 2016, Melbourne (Australia)

4月1日にメルボルンでプレゼンした様子は下記となります(セルフィー)。

youtu.be

最近の論文はResearch Gateにアップしました。

www.researchgate.net

 

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1608machinami_FukudaFinal.pdf 
大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年8月号)

都市と建築のブログ Vol.34: ウィーン:音楽の都 up!

2009年より連載中の「都市と建築のブログ」。第34回目となる2016年7月号はオーストリア・ウィーンをご紹介します。

NAVERまとめにも都市と建築のブログの過去記事をアーカイブしています。

matome.naver.jp

■都市と建築のブログ バックナンバー

 

都市とITとが出合うところ 第28回 拡張現実感を用いた緑視率自動測定システム

「都市とITとが出合うところ」第28回。前回より3回に渡って、CAADRIA2016で発表した論文の内容をご紹介中です。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1607machinami_FukudaFinal.pdf

はじめに

オーストラリア・メルボルン大学(The University of Melbourne)で開催されたCAADRIA2016国際会議(The 21th International Conference on Computer Aided Architectural Design Research In Asia)で発表した論文の2報目。

今回は「Automatic Measurement System of Visible Greenery Ratio Using Augmented Reality;拡張現実感を用いた緑視率自動測定システム」について [1]

 

背景と目的

都市ヒートアイランド緩和、都市景観の質向上に向けて緑化が推進されている。緑の定量化は、客観的評価のために重要であり、定量化指標の一つに緑視率がある。

緑視率は、視界の中に占める自然の緑の割合であり、平面的にとらえる「緑被率」に対して、空間的な実感に近い指標として考えられた概念である。近年では、屋上、壁面、駐車場等の新たなみどりの創出、市民が実感できるみどりづくり、市民・企業・NPOと行政との協働によるみどりの行動の推進などの必要性 [2] から、視界の中に占める緑の割合を扱う緑視率は直感的に理解しやすい指標として注目される。

緑視率の一般的な測定方法は、いくつかの視点における測定データで代表させることである。すなわち、代表的な視点で写真撮影した後、画像処理ソフト(例:Adobe Photoshop)を用いてマニュアル操作により測定対象となる自然の緑部分のマスキングを行い、抽出された領域の画素数を全体の画素数で除して、緑視率測定を行う(以下、マニュアル手法とする)。

このマニュアル手法の課題は、マスキング時間を要すること、人により作業内容や作業時間にバラつきが発生することである。また、マニュアル手法は処理に一定の時間を要するため静止視点での測定に限られる。そのため、歩行中の緑視率の変化を測定するといった動視点への展開も困難である。

このような背景から、著者らは画像処理技術を応用した緑視率自動測定システムを開発中である。既に、入力した画像からガウシアンぼかしによる平滑化処理を行ったのち、自然の緑の対象範囲となる、色相値 [40-180] による抽出、そして、彩度値 [0.2-1.0] による抽出により緑成分となる画素を抽出し、抽出された画素数を全体の画素数で除して、緑視率を計算するシステム(以下、既システムとする)を開発した [3]

本研究では、既システムの課題であった、以下の2点の解決を目的とした。

  • ガラス窓に映りこんだ緑など、緑視率計算対象外のオブジェクトが抽出されてしまうため正解率が低いことへの改善を図ること。
  • 現状の緑視率のみ測定可能であるため、将来の緑視率シミュレーションに対応すること。

 

提案手法

本研究で提案する緑視率自動測定システムのフローを図1に示す。

  • 項目1)を実現するため、既システムで開発したガウシアンぼかしによる平滑化処理の後、クラスタリング手法の一つであるMean shift法によるフィルタリング処理を追加した。その後、既システムと同様に、自然の緑の対象範囲となる、色相、そして、彩度の値を抽出した(以下、新システムとする)。
  • 項目2)を実現するため、AR(Augmented Reality; 拡張現実感)機能を緑視率自動測定システムに追加した(以下、緑視率自動測定ARシステムとする)。

システムの実装には、画像処理用にOpenCV(ver.2.3)、AR開発環境はARToolKit(ver.2.72.1)を用いた。

f:id:fukuda040416:20160629131330j:plain

図1 提案する緑視率自動測定システムの概要

 

検証1:新システムについて

項目1)を検証するため、新・緑視率自動測定システムの性能を評価した。具体的には、建物に映りこんだ緑を含む風景写真を複数用意して、既システムと新システム(以下、これら両者、またはいずれかを指す場合には、自動測定システムという)の両者において、正解率、不正解率の状況を調査した。

正解、不正解の判定は、マニュアル手法で作成した画像を正解画像として、正解画像で抽出された緑成分画素と、自動測定システムで抽出された緑成分とを比較した。正解画素は、マニュアル手法と自動測定システムのいずれも抽出された画素を指す。不正解画素は、未抽出画素と過抽出画素を含む。未抽出画素は、マニュアル手法で抽出された(すなわち、本当は緑成分である)が自動測定システムでは抽出されなかった画素を指す。過抽出画素は、マニュアル手法で抽出されていない(すなわち、本当は緑成分ではない)が自動測定システムでは抽出されてしまった画素を指す(図2)。

f:id:fukuda040416:20160629131732j:plain

図2 正解画素、不正解画素の定義

実験の結果、2つの視点場において、既システム→新システムの順に、正解率(%)は85.4→93.3 (+7.9)、86.0→85.6% (-0.4)と一定の向上がみられた。また、不正解率(%)は、24.2→11.5 (-12.7)、32.1→21.4 (-10.7)と低下した(図3)。すなわち、Mean shift法によるフィルタリングにより正解率の向上と不正解率の低下を実現することができたといえる。

f:id:fukuda040416:20160629131750j:plain

図3 正解率・不正解率の新旧システム比較

 

検証2:緑視率自動測定ARシステムについて

項目2)を検証するため、緑視率自動測定ARシステムの性能を評価した。前処理として、新たな景観を形成する樹木の3Dモデルを用意して、ARシステムに登録した。本処理では、大型マーカを、webカメラでキャプチャする実写映像と3Dモデルの位置合わせとなる基準点に設置した [4]。そして、ARシステムを起動させて、樹木の3Dモデルを適切な位置に移動させて配置し、緑視率を測定した(図4)。

f:id:fukuda040416:20160629131800j:plain

図4 緑視率自動測定ARシステム:実験風景とAR例

結果、2つの視点場において、緑視率は、現状→将来の順に、15.1→25.4% (+10.3)、9.9→35.8 (+25.9)と向上する様子を確認することができた(図5)。

f:id:fukuda040416:20160629131807j:plain

図5 緑視率の現状・将来比較

 

おわりに

本研究は拡張現実感を用いた緑視率自動測定システムを開発した。成果を以下に示す。

  • ガラス窓に映りこんだ緑など、緑視率計算対象外のオブジェクトが抽出されてしまうことを回避するために、既システムに、Mean shift法によるフィルタリングを挿入するアルゴリズムを開発した。結果、正解率の向上と不正解率の低下を確認することができ、緑視率の精度向上を実現できた。
  • 現状の緑視率の測定だけでなく、将来の緑視率シミュレーションに対応するために、新システムにAR機能を加えた緑視率自動測定ARシステムを開発した。結果、実写映像中に樹木の3Dモデルを新たに加えて、将来の景観と緑視率の変化を確認することができた。

今後は、より多くのケーススタディを経て、正解率のさらなる向上、不正解率のさらなる低下を目指す必要がある。

 

参考文献

[1] DING, Yakui, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi and MOTAMEDI, Ali: AUTOMATIC MEASUREMENT SYSTEM OF VISIBLE GREENERY RATIO USING AUGMENTED REALITY, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), 703-712, 2016.4.

[2] 大阪府: みどりの大阪推進計画(2011.12.12更新), http://www.pref.osaka.lg.jp/midori/midori/keikaku.html (2016.5.13参照)

[3] DING, Yakui, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi: A MEASUREMENT TOOL FOR VISIBLE GREENERY RATIO DERIVED FROM GAUSSIAN BLUR, HUE AND SATURATION FILTERING, Proceedings of the Second International Conference on Civil and Building Engineering Informatics (ICCBEI2015), CD-ROM, 2015.4.

[4] YABUKI, Nobuyoshi, MIYASHITA, Kyoko, FUKUDA, Tomohiro: AN INVISIBLE HEIGHT EVALUATION SYSTEM FOR BUILDING HEIGHT REGULATION TO PRESERVE GOOD LANDSCAPES USING AUGMENTED REALITY, Automation in Construction, 20(3), 228-235, 2011.3.

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年7月号)