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福田知弘の公式ブログです。

都市とITとが出合うところ 第30回 香港中文大学 国際研修プログラム(1)

香港ISP

International Study Programmes(ISP: 国際研修プログラム)は、香港中文大学 中國城市住宅研究中心(Center of Housing Innovations, The Chinese University of Hong Kong)が毎年実施している教育プログラムである。学生の多次元思考やチーム・スピリットを開発するために、持続可能な都市開発をテーマとして、国際的、学際的、そして多文化のコラボレーション環境下で、都市計画・設計の実践、そして、学生の実践経験の蓄積を進めている。香港中文大学 建築学部 鄒經宇教授(Prof. TSOU, Jin Yeu)が中國城市住宅研究中心 主任を務める。

今年度のISP企画は、各国の研究者・実務者が香港中文大学に集まって学生の計画・設計作業を助言するIPS@香港の実施(4月)、そして、香港の教員・学生たちが各国の大学などを訪問して受け入れ側の大学が企画する研修プログラムに参加すること(5月以降)であった。筆者の関わりは、4月に香港に赴き、2題のプレゼンとワークショップチュータを務めた。そして、5月には香港メンバーが大阪に来られることになり、研修プログラム「ISP@大阪」を企画した。

本稿では、4月に香港へ訪問したISP@香港の様子をご紹介したい(図1, 2)。

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図1 香港の高層アパートメント群

f:id:fukuda040416:20160416081408j:plain図2 香港島の高層ビル群とスターフェリー

 

香港ISP

香港ISPのテーマは、「Envision Age-Friendliness in Hyper-Dense Hong Kong(超濃密な香港で高齢者への優しさを描く)」。平たくいえば、元気な高齢社会とそのための都市のあり方に関するワークショップ。香港島のChai Wan(柴湾)地区を対象地として、4つのテーマで検討が進められた。

  • Aグループ: 建物密集環境での計画と設計
  • Bグループ: 都市生活と住宅供給の戦略
  • Cグループ: 社会および人間の文化の持続可能性
  • Dグループ: 物理的環境での生きがい

柴湾は香港島の東部に位置する。古くは漁村であったが、経済成長期に公営住宅が建設された。現在は居住者の高齢化が進む。

参加した学生は66名。各グループは2チームずつで構成されており、計8チームである。香港中文大学の学生だけでなく、オーストリア・グラーツ大学の学生も多数参加してワークショップに取り組んだ。学生たちに助言する研究者・実務者は、オーストリア、イギリス、シンガポール、台湾、香港、日本から参加した。

ISP@香港は、4月11日から18日までの8日間で開催された。まず、期間中、中間報告会が2度(4/13, 15)、そして、最終報告会(4/18)がマイルストーンとして用意された。最初の中間報告会では、各グループのテーマに即して、現地調査や居住者インタビューを通じて発見した課題について、8つのチームが順に報告した。2回目の中間報告会では、課題解決に向けた計画・設計のコンセプトについて。最終報告会は、文字通り最終案について。ISP@香港2日目の夜に開催された懇親会で学生同士が打ち解けあったこともあって、プラニング、そしてチーム・コミュニケーションの内容も日に日に加速していくことを傍で感じた次第である(図3)。

報告会の間には、現地調査、研究者・実務者のプレゼン、関連機関「Housing Society Elderly Resources Centre」への訪問、そして懇親会が組まれており、短期間で充実したワークショップとなるような工夫がなされたプログラムであった(図4 - 6)。

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図3 ISP@香港 チーム別ワークショップ|中間報告会

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図4 建築学部棟屋上での集合写真終了!

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図5 西貢海鮮

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図6 香港中文大学の学食

 

研究者・実務者のプレゼン

 参加した研究者・実務者が話題提供した内容を紹介しておこう。

  • LI Yen-Yi (Shu-Te University, Taiwan): “The Green Light City: Some Approaches Toward Sustainability” と題して、氏が台湾・高雄で実施しているエコシティとグリーン建築プロジェクトの紹介。
  • Martin Watson (Brock Carmichael Architects, UK): “A Brief History of the Prefabricated Home” では、プレファブ住宅の歴史、設計、施工を概説。また、“A UK Overview of Elderly Housing and Designing for Dementia” では、認知症のための高齢者住宅供給と設計、そして、アクティブ・エイジング(活力のある高齢化)について概説。60歳以上の人々が30%を超える国は日本が今は唯一だが、2050年には64ヶ国がそうなる。
  • YEO Su-Jan, on behalf of Prof. HENG Chye Kiang and Prof. FUNG John Chye (National University of Singapore): “Population Ageing and Urban Environment: A Singapore Perspective” と題して、シンガポール高齢化社会の現状と1980年代と90年代に建設された公営集合住宅の紹介。シンガポールでは定年が65歳から67歳に引き上げられた。女性も男性同様の働き方をしており、定年後のライフスタイルの在り方が大切だと。
  • Wolfgang DOKONAL (Graz University of Technology, Austria): “Contemporary Urban Processes - Aging in the City” と題して、世界における人口、環境、経済、エネルギーの状況、欧州における高齢社会の現状、そして、オーストリアの介護付き集合住宅の紹介。オーストリアは収入の50%を納税するそう。
  • 筆者: “Challenges for Livable Physical Environemt and Virtual/Augmented Reality as 3D Communication Tool” と題して、我が国における環境設計や参加型デザイン、神戸市や箕面市での景観づくり、茨木市での緑の基本計画、神戸市での夜間景観づくり、グリーン建築の取り組み、そして、最近の3次元コミュニケーション・ツールとしての研究成果であるVR/ARについて。また、“Livable Community in Elderly Society Japan” では、日本の人口や高齢化の現状、元気なコミュニティ活動が見られる、近江八幡や大阪の取り組みについて。

プレゼン後、香港中文大学のコーヒーショップで談笑。プレゼンでは、近江八幡市で定年前に開催される料理教室、そして料理教室卒業後におやじ連が形成されている話題を紹介させて頂いたのだが、このことに関連して、我々よりも上の世代 (75歳-)の男性が料理を余りしないのはオーストリア、イギリスも同じだ、シニアになって料理を学び始めるのはかえってストレスかもよ(笑)、と盛り上がった。

また、日本では昔は(今でもそのような地域があるように思うが)自宅に鍵をかけなかった話をすると、イギリスでも昔は同じだったが、最近は素性がわからない者が増えたり、凶悪な者がいるかもしれないという不安から鍵をかけるようになったそうである。そもそも、イギリスでも鍵をかけない時代があったことには驚いた。

 

おわりに

我が国の高齢化率の高さは世界的に有名である。また、高齢者の絶対数も多く、研究者のプレゼンや学生との会話でも、日本に関する資料や質問が多く見られた。一方、2015年、平均寿命の男女世界1位は香港である。香港女性の平均寿命は87.32歳(日本人女性は87.05歳で2位)、香港男性は81.24歳(日本人男性は80.79歳で4位)である。

高齢社会の流れは世界共通であり、如何に健康に元気に暮らしていくか、考えていく必要がある。

 

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1609machinami_FukudaFinal.pdf

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年9月号

スマホが熱中症にかかりました…

毎日異常な暑さですね。雨が降らない。そんな今夏と関係があるかわかりませんが、スマホ熱中症にかかってしまいました。

数日前、スマホをカーナビとして使い(話はそれますが、最近はGoogle Mapsをカーナビ代わりとして使うことが本当に増えました。こちらのナビの方がリアルタイムに精度よくナルホド!と思うルートを示してくれると思えることが増えました)、目的地に到着したので、さてスマホを持って散歩を、とスマホを車載アクセサリから外そうとしたら、「アッチッチ!」

特に背中が、触るとヤケドするくらいに熱くなってしまっており、さらに、液晶ディスプレイが剥離して本体から浮いてしまっており、中の様子が覗けるほどに…慌てて水を、、、それはアカンアカン。

スマホ熱中症に。電源は入るので、何とか使い続けることができましたが、いつ息絶えてしまうのか、不安フアン。

翌日、相談すべく、ソフトバンク・ショップを訪ねたら、ウチでは修理対応はできないので、Appleのサービスプロバイを訪ねてください、と。カメラのキタムラさんがサービスプロバイダをされているのですね。で、キタムラさんに相談してみると、そこで検査をしてくれて、やはりバッテリーの膨張だそうで、交換を依頼しました。

もういい年なので、機種変更しようか、キャリアを変えようか、迷ったのですが、まずは熱中症患者を治してあげよう。

お盆休みと相まって、1~2週間はスマホから離れた生活となりそうです。スマホから少し離れる良い機会なのだとオモイコミン。

都市とITとが出合うところ 第29回 建築・都市環境のための画像処理技術を用いたマーカレスARシステム

オーストラリア・メルボルン大学(The University of Melbourne)で開催されたCAADRIA2016国際会議(The 21th International Conference on Computer Aided Architectural Design Research In Asia)で発表した論文の3報目。今回は「A Marker-less Augmented Reality System Using Image Processing Techniques for Architecture and Urban Environment;建築・都市環境のための画像処理技術を用いたマーカレスARシステム」について [1]

背景
良好な景観形成を推進するためには、計画・設計・施工・維持管理の各段階で、事業者・設計者・管理者・近隣住民・利用者・一般市民などの多様な利害関係者による合意形成が求められる。そのため、検討会議においては、景観予測内容をわかりやすく伝達する手法が求められ、伝統的な模型や手書きパースに加え、コンピュータを用いた3次元CG静止画、アニメーション、バーチャルリアリティ(VR)が実用化されている。しかしながら、これらの手法は、周辺環境を含む全ての情報を3次元モデルとしてコンピュータに定義するために多大な労力が必要とされてきた。そこで、現実空間と3次元モデルとを重畳表現するAR(Augmented Reality:拡張現実感)技術を景観予測手法に応用する研究が進められている。ARは、リアルタイム・レンダリングを行う点などVRとよく似た技術である。一方、VRは全ての仮想空間を3次元モデルで定義するのに対して、ARは周辺環境の表現として実写映像などの現実空間を利用するため、3次元モデルを構築する工数と手間、データ量の増加を回避できる。建設予定地でARを使えば、実物大でその場の将来景観を確認できるために、より現実的な検討が可能になる。

一方、景観予測手法としてのARの現状は、用途や対象が限定的である。重要な課題は、現実空間と3次元モデルとの位置合わせ手法である。位置合わせ手法は、ロケーションベース型、ビジョンベース型に大きく区分される。ロケーションベース型として、スマートフォンに搭載されているGPSやセンサでは十分な位置・姿勢精度が得られず、RTK-GPSなどを用いると高精度な位置合わせが実現できるものの、特殊な機材を準備する必要があるため、一般ユーザへの実用化は課題が残る。ビジョンベース型として、人工マーカを用いた手法はマーカがAR仮想カメラから常に見えている必要があり、検討者の可動範囲に制約が生じてしまう。また、高精度を実現するために大きな人工マーカを用いると肝心の景観が隠れてしまう。 

目的
景観検討に資する高精度な位置合わせを実現するためには、実写映像と3次元モデルとを重畳させる際の基準点(以下、基準面、基準対象物も同義として扱う)の設計が重要である。基準点は、ロケーションベース型の場合はセンサ位置、ビジョンベース型の場合はマーカ位置となる。基準点と3次元モデルとの距離が小さいほど位置合わせ精度は一般に高くなる。一方、屋外現場で景観検討を行う場合には、既往手法では、基準点と3次元モデルとの距離は概ね10m~数kmと机上でARを使う場合と比べて大きく、精度は低下してしまう。

そこで本研究は、身近なモバイル端末を用いて、屋外で過去や将来の景観をより正確に重畳可能なARシステム「PhotoAR2015」の開発を目指した。高精度の景観検討用ARを実現するため、ビジョンベース型のひとつ、マーカレス型ARシステムの概念を応用して、3次元モデルの近傍に基準点を設置する手法を開発することを目的とした。

PhotoAR2015の概要
PhotoAR2015は、局所特徴量による画像マッチング技術を用いた位置合わせ、及び複数枚の画像から3次元形状を復元するSfM(Structure from Motion)を応用して開発した。PhotoAR2015は、事前に行う「前処理」とリアルタイムで行う「本処理」の2つのプロセスで構成される(図1, 2)。

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図1 PhotoAR2015の概要

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図2 PhotoAR2015のフロー

前処理では、まず、SfMにより、既存建物など位置合わせの基準対象物となる3次元モデルを復元する。この際、3次元モデルの復元と同時に、使用した写真の撮影カメラ位置・姿勢情報を取得する。復元した3次元モデルと撮影カメラ位置・姿勢情報をデータベースに保存する。次に、ARで重畳する新築建物などの3次元モデルの描画座標を、SfMにより復元した3次元モデルに対する相対座標で決定し、新たな3次元モデルとその描画座標をデータベースに保存する。最後に、SfMによる3次元モデル復元に用いた写真データベースから、各画像の特徴点と特徴量をSURF (Speeded-up Robust Features)により抽出してテキストファイルに出力する。各画像のファイルパスも同様に別のテキストファイルに出力する。

本処理では、まず、前処理で出力した2つのテキストファイルを入力する。次に、ARで表示するリアルタイムのカメラ画像からSURF特徴量を抽出して、その全特徴量と、前処理で作成済みのSfMによる3次元モデル復元に用いた各画像の特徴量をそれぞれ比較して、類似画像を選定する。そして、ARで重畳する新築建物などの3次元モデルを、その類似画像を撮影したカメラの位置・姿勢を利用して、3次元モデルを描画する。この際、トラッキングに利用する点を描画モデル周辺に配置し、描画に使用した位置・姿勢情報を利用しスクリーンに描画する。3次元モデルを重畳した後、ARカメラの移動・回転に伴うスクリーン上での移動ベクトルを計算する。そして、トラッキング対象点の移動後の座標と3次元空間上での座標、及びカメラの内部パラメータを元に算出した位置・姿勢情報を利用して、再描画を繰り返すことでトラッキングを行う。

PhotoAR2015の実装
PhotoAR2015は、C++を用いて実装した。前処理では、SfMには、3次元モデル復元に用いた写真の撮影カメラ位置・姿勢情報を出力可能なOpenMVG (Open Multiple View Geometry. Ver.0.7) を利用した。

本処理では、リアルタイムカメラ画像の取得及びマッチングを行うために、画像処理ライブラリOpenCV (Open Source Computer Vision Library. Ver.2.4.9) を利用した。並列処理を行うために、TBB (Threading Building Blocks. Ver. 4.4) を利用した。3次元モデル描画のために、OpenGL(Open Graphics Library)のためのツールキットfreeglut (Ver.2.8.1) を利用した。

さらに、本処理ではリアルタイム処理を行うため、類似画像選定の際に計算を高速化する必要がある。そのため、近似手法を用いた類似度計算、画像のトリミングの処理を実装した。また、実写映像と3次元モデルの前後関係を正確に表示するためにオクルージョン処理を実装した。

PhotoAR2015の性能検証
開発したPhotoAR2015の性能を検証した。大阪大学吹田キャンパスM3棟を対象とした。

まず、画像マッチング時間と精度を評価するため、画像の解像度、トリミング比率、クエリ画像を変更しながら、マッチング時間と精度を測定した。結果、画像に占める対象構造物の割合が大きい場合、高精度でのマッチングが可能であった。一方、画像に占める対象構造物の割合が小さい場合、画像をトリミングしてノイズ除去を行う必要性を確認した。現状では、より最適なマッチング画像を得るための工夫として、コンピュータがマッチング画像を自動抽出した後、ユーザが画像を正誤判定できる機能を加えている。

次に、位置合わせの精度検証を行うため、2つの視点を用意して、位置合わせを行った際のリアルタイムカメラ画像とマッチング画像とをそれぞれ抽出して、画像上の同一点のずれの状況を画素値で測定した。結果、描画スクリーン(960×720 pixels)に対する誤差の割合は、水平方向、垂直方向とも、いずれも5%未満であった。結果、画像マッチングによりリアルタイム画像と類似するデータベース内の画像が選定可能であれば、高精度な位置合わせは可能であることが示唆された。

PhotoAR2015の有用性検証
建物設計段階での有用性検証のため、大阪大学研究棟の仮想改築プロジェクトにPhotoAR2015を適用した。

本仮想改築プロジェクトでは、M3棟南側へのオーニング設置検討を利用シーンとして想定して、プロトタイプを開発した。使用したタブレットPCは、Microsoft Surface 3である。以下、主な内容を述べる。

前処理では、まず、M3棟を基準対象物として、複数の写真撮影、そして、SfMによる3次元復元モデルを構築した(図3)。次に、SfMによる3次元復元モデルを用いて、SketchUPで別途作成した新たなオーニングモデルの配置座標を決定した。本処理では、AR描画されたオーニングをユーザ操作により、色及び設置角度を適宜変更しながら設計検討を行った(図4)。

検証実験を通じて、リノベーション検討用の3次元モデルを事前に作成、データベースに登録しておけば、PhotoAR2015を用いて、様々な視点からのリノベーション検討が可能であることを確認した。

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図3 SfMによる復元結果(a: 対象構造物;b:復元モデル)

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図4 PhotoAR2015キャプチャ: オーニング設置検討

おわりに
屋外でAR景観シミュレーションが可能なPhotoAR2015を、画像マッチング技術を用いた位置合わせ、及びSfMを応用して開発した。尚、本稿で紹介した仮想プロジェクト以外にも実際の建築設計プロジェクトで適用している他、建物運用段階での適用も検討している。追って、ご報告したい。

参考文献
[1] SATO Yusuke, FUKUDA Tomohiro, YABUKI Nobuyoshi, MICHIKAWA Takashi and MOTAMEDI Ali: A Marker-less Augmented Reality System Using Image Processing Techniques for Architecture and Urban Environment, Proceedings of the 21st International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), 713-722, 30 March-2 April 2016, Melbourne (Australia)

4月1日にメルボルンでプレゼンした様子は下記となります(セルフィー)。

youtu.be

最近の論文はResearch Gateにアップしました。

www.researchgate.net

 

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1608machinami_FukudaFinal.pdf 
大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年8月号)

都市と建築のブログ Vol.34: ウィーン:音楽の都 up!

2009年より連載中の「都市と建築のブログ」。第34回目となる2016年7月号はオーストリア・ウィーンをご紹介します。

NAVERまとめにも都市と建築のブログの過去記事をアーカイブしています。

matome.naver.jp

■都市と建築のブログ バックナンバー

 

都市とITとが出合うところ 第28回 拡張現実感を用いた緑視率自動測定システム

「都市とITとが出合うところ」第28回。前回より3回に渡って、CAADRIA2016で発表した論文の内容をご紹介中です。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1607machinami_FukudaFinal.pdf

はじめに

オーストラリア・メルボルン大学(The University of Melbourne)で開催されたCAADRIA2016国際会議(The 21th International Conference on Computer Aided Architectural Design Research In Asia)で発表した論文の2報目。

今回は「Automatic Measurement System of Visible Greenery Ratio Using Augmented Reality;拡張現実感を用いた緑視率自動測定システム」について [1]

 

背景と目的

都市ヒートアイランド緩和、都市景観の質向上に向けて緑化が推進されている。緑の定量化は、客観的評価のために重要であり、定量化指標の一つに緑視率がある。

緑視率は、視界の中に占める自然の緑の割合であり、平面的にとらえる「緑被率」に対して、空間的な実感に近い指標として考えられた概念である。近年では、屋上、壁面、駐車場等の新たなみどりの創出、市民が実感できるみどりづくり、市民・企業・NPOと行政との協働によるみどりの行動の推進などの必要性 [2] から、視界の中に占める緑の割合を扱う緑視率は直感的に理解しやすい指標として注目される。

緑視率の一般的な測定方法は、いくつかの視点における測定データで代表させることである。すなわち、代表的な視点で写真撮影した後、画像処理ソフト(例:Adobe Photoshop)を用いてマニュアル操作により測定対象となる自然の緑部分のマスキングを行い、抽出された領域の画素数を全体の画素数で除して、緑視率測定を行う(以下、マニュアル手法とする)。

このマニュアル手法の課題は、マスキング時間を要すること、人により作業内容や作業時間にバラつきが発生することである。また、マニュアル手法は処理に一定の時間を要するため静止視点での測定に限られる。そのため、歩行中の緑視率の変化を測定するといった動視点への展開も困難である。

このような背景から、著者らは画像処理技術を応用した緑視率自動測定システムを開発中である。既に、入力した画像からガウシアンぼかしによる平滑化処理を行ったのち、自然の緑の対象範囲となる、色相値 [40-180] による抽出、そして、彩度値 [0.2-1.0] による抽出により緑成分となる画素を抽出し、抽出された画素数を全体の画素数で除して、緑視率を計算するシステム(以下、既システムとする)を開発した [3]

本研究では、既システムの課題であった、以下の2点の解決を目的とした。

  • ガラス窓に映りこんだ緑など、緑視率計算対象外のオブジェクトが抽出されてしまうため正解率が低いことへの改善を図ること。
  • 現状の緑視率のみ測定可能であるため、将来の緑視率シミュレーションに対応すること。

 

提案手法

本研究で提案する緑視率自動測定システムのフローを図1に示す。

  • 項目1)を実現するため、既システムで開発したガウシアンぼかしによる平滑化処理の後、クラスタリング手法の一つであるMean shift法によるフィルタリング処理を追加した。その後、既システムと同様に、自然の緑の対象範囲となる、色相、そして、彩度の値を抽出した(以下、新システムとする)。
  • 項目2)を実現するため、AR(Augmented Reality; 拡張現実感)機能を緑視率自動測定システムに追加した(以下、緑視率自動測定ARシステムとする)。

システムの実装には、画像処理用にOpenCV(ver.2.3)、AR開発環境はARToolKit(ver.2.72.1)を用いた。

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図1 提案する緑視率自動測定システムの概要

 

検証1:新システムについて

項目1)を検証するため、新・緑視率自動測定システムの性能を評価した。具体的には、建物に映りこんだ緑を含む風景写真を複数用意して、既システムと新システム(以下、これら両者、またはいずれかを指す場合には、自動測定システムという)の両者において、正解率、不正解率の状況を調査した。

正解、不正解の判定は、マニュアル手法で作成した画像を正解画像として、正解画像で抽出された緑成分画素と、自動測定システムで抽出された緑成分とを比較した。正解画素は、マニュアル手法と自動測定システムのいずれも抽出された画素を指す。不正解画素は、未抽出画素と過抽出画素を含む。未抽出画素は、マニュアル手法で抽出された(すなわち、本当は緑成分である)が自動測定システムでは抽出されなかった画素を指す。過抽出画素は、マニュアル手法で抽出されていない(すなわち、本当は緑成分ではない)が自動測定システムでは抽出されてしまった画素を指す(図2)。

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図2 正解画素、不正解画素の定義

実験の結果、2つの視点場において、既システム→新システムの順に、正解率(%)は85.4→93.3 (+7.9)、86.0→85.6% (-0.4)と一定の向上がみられた。また、不正解率(%)は、24.2→11.5 (-12.7)、32.1→21.4 (-10.7)と低下した(図3)。すなわち、Mean shift法によるフィルタリングにより正解率の向上と不正解率の低下を実現することができたといえる。

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図3 正解率・不正解率の新旧システム比較

 

検証2:緑視率自動測定ARシステムについて

項目2)を検証するため、緑視率自動測定ARシステムの性能を評価した。前処理として、新たな景観を形成する樹木の3Dモデルを用意して、ARシステムに登録した。本処理では、大型マーカを、webカメラでキャプチャする実写映像と3Dモデルの位置合わせとなる基準点に設置した [4]。そして、ARシステムを起動させて、樹木の3Dモデルを適切な位置に移動させて配置し、緑視率を測定した(図4)。

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図4 緑視率自動測定ARシステム:実験風景とAR例

結果、2つの視点場において、緑視率は、現状→将来の順に、15.1→25.4% (+10.3)、9.9→35.8 (+25.9)と向上する様子を確認することができた(図5)。

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図5 緑視率の現状・将来比較

 

おわりに

本研究は拡張現実感を用いた緑視率自動測定システムを開発した。成果を以下に示す。

  • ガラス窓に映りこんだ緑など、緑視率計算対象外のオブジェクトが抽出されてしまうことを回避するために、既システムに、Mean shift法によるフィルタリングを挿入するアルゴリズムを開発した。結果、正解率の向上と不正解率の低下を確認することができ、緑視率の精度向上を実現できた。
  • 現状の緑視率の測定だけでなく、将来の緑視率シミュレーションに対応するために、新システムにAR機能を加えた緑視率自動測定ARシステムを開発した。結果、実写映像中に樹木の3Dモデルを新たに加えて、将来の景観と緑視率の変化を確認することができた。

今後は、より多くのケーススタディを経て、正解率のさらなる向上、不正解率のさらなる低下を目指す必要がある。

 

参考文献

[1] DING, Yakui, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi and MOTAMEDI, Ali: AUTOMATIC MEASUREMENT SYSTEM OF VISIBLE GREENERY RATIO USING AUGMENTED REALITY, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), 703-712, 2016.4.

[2] 大阪府: みどりの大阪推進計画(2011.12.12更新), http://www.pref.osaka.lg.jp/midori/midori/keikaku.html (2016.5.13参照)

[3] DING, Yakui, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi: A MEASUREMENT TOOL FOR VISIBLE GREENERY RATIO DERIVED FROM GAUSSIAN BLUR, HUE AND SATURATION FILTERING, Proceedings of the Second International Conference on Civil and Building Engineering Informatics (ICCBEI2015), CD-ROM, 2015.4.

[4] YABUKI, Nobuyoshi, MIYASHITA, Kyoko, FUKUDA, Tomohiro: AN INVISIBLE HEIGHT EVALUATION SYSTEM FOR BUILDING HEIGHT REGULATION TO PRESERVE GOOD LANDSCAPES USING AUGMENTED REALITY, Automation in Construction, 20(3), 228-235, 2011.3.

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年7月号)

 

 

CAADRIA2016@メルボルン大学での発表したビデオをYoutubeにアップしました。

CAADRIA2016@メルボルン大学で、3篇論文発表したビデオをYoutubeにアップしました。ノートPC付属のカメラとマイクで自撮りしました。少しの機器と手間で、より良い品質のビデオ録画をしたいですね・・・

youtu.be

TITLE: Integrating CFD and VR for Indoor Thermal Environment Design Feedback
AUTHORS: Masahiro HOSOKAWA, Tomohiro FUKUDA, Nobuyoshi YABUKI, Takashi MICHIKAWA and Ali MOTAMEDI (Presenter), Osaka University, Suita, Osaka, Japan

youtu.be

TITLE: Automatic Measurement System of Visible Greenery Ratio Using Augmented Reality
AUTHORS: Yakui DING, Tomohiro FUKUDA (Presenter), Nobuyoshi YABUKI, Takashi MICHIKAWA and Ali MOTAMEDI, Osaka University, Suita, Osaka, Japan

youtu.be

TITLE: A Marker-less Augmented Reality System Using Image Processing Techniques
AUTHORS: Yusuke Sato, Tomohiro FUKUDA (Presenter), Nobuyoshi YABUKI, Takashi MICHIKAWA and Ali MOTAMEDI, Osaka University, Suita, Osaka, Japan

都市とITとが出合うところ 第27回 室内温熱環境設計フィードバックのためのCFDとVRの統合

「都市とITとが出合うところ」第27回。今回より3回に渡って、CAADRIA2016で発表した論文の内容をご紹介します。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1606machinami_FukudaFinal.pdf

CAADRIA2016

本年3月末から4月初旬にかけて、CAADRIA2016(The 21th International Conference on Computer Aided Architectural Design Research In Asia)がオーストラリア・メルボルン大学(The University of Melbourne)で開催された。CAADRIAは、デジタル建築・都市設計技術に関する国際学会である(まちなみ2015年11月号)。CAADRIA2016で筆者らのグループは3編の査読付き研究論文を発表した。3回に渡って紹介したい。

今回は「Integrating CFD and VR for Indoor Thermal Environment Design Feedback;室内温熱環境設計フィードバックのためのCFDとVRの統合」について[1]

 

背景と目的

地球温暖化への配慮、省エネルギー性能や生活の質の向上などを背景に、温熱環境の設計は建築物にとってより重要になりつつある。施主が求める意匠設計、ならびに、快適性と省エネルギー性が両立する高性能な建築物が求められている。

設計案の温熱環境を初期段階から詳細に評価することが可能な手法として、CFD(Computational Fluid Dynamics)解析が利用されている。CFD解析を行うことで、設備設計者の経験やメーカのカタログ値に基づいて評価されていた熱環境を、客観的に評価することが可能となる。これにより、ステークホルダーが設計案の性能を共有しながら設計検討を進めることが可能となり、設計性能の向上と施工後の変更の削減が期待される。しかし、現状の設計プロセスでCFD解析を十分に活用するためには、幾つかの課題が残る。

まず、CFD解析設定の複雑さである。CFD解析を行うための条件設定は複雑で、実務設計者の多くはCFD解析を実施する際、専門の担当者やコンサルタントに解析を依頼する。そのため、実務設計者は即座に解析結果を得ることができず、対話的な設計検討が実現できているとはいいがたい。

次に、解析結果の可視化に関する課題である。既存の多くの商用CFD解析ソフトでは、解析対象の建物は概形形状で表示される。そのため、発注者やその他の専門設計者が解析結果を確認する際に、完成後の建物内を具体的に想像しながら解析結果を理解することは難しく、限られた時間の中で十分な検討を行うことは困難である。

そこで本研究は、CFDとVR(Virtual Reality)を統合した温熱環境設計システムを開発し、日常的に温熱環境設計に従事していないユーザでも、解析結果を迅速に把握し、必要に応じて設計案にフィードバックすることができる設計プロセスの実現を目標とした。

 

CFDとVRを統合した温熱環境設計システム

本研究で提案するCFDとVRを統合した温熱環境設計システムは、VR仮想空間内においてCFD解析結果の可視化と新規設計案の解析実行を行う。システムの処理は、1)メッシュ生成と境界条件の定義、2)計算処理、3)可視化処理、4)設計案の比較とフィードバックの4つのプロセスで構成される(図1)。

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図1 CFD とVR を統合した温熱環境設計システム概要

  • メッシュ生成では、3D-CADやBIMソフトで作成した建物モデルを入力データとして、非構造格子のボリュームメッシュを生成する。境界条件はマニュアル操作で定義した。
  • 計算処理では、計算時間の短縮を図るためにGPGPU(General-purpose computing on Graphics Processing Units;GPUによる汎用計算)を利用し、定常状態の熱流体解析を行う。
  • 可視化処理では、フォトリアリスティックに内観表現がなされた建物空間にCFD解析結果の可視化を行う。温度の分布は、カラーマップを持つ平面と空間中の点による3次元表現で、気流性状はベクトルに応じて色と向きの変化する矢印と流線により表現した(図2)。空間の広がりの認識と、3次元表現されたCFD解析結果の理解を容易にするため、HMD(Head Mounted Display;頭部装着ディスプレイ)を用いてVRを表示した。

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図2 CFD 解析結果のVR 表示例

設計の比較とフィードバックでは、構成の異なる複数の設計案を対象としたCFD解析結果を比較し、設計案の検討を行う。事前に解析の行われていなかった構成でも、必要に応じて解析を行うことが可能であり、対話的に設計検討を行うことが可能である。

 

検証実験

本研究で開発した温熱環境設計システムの検証として、既存建物(大阪大学 吹田キャンパス M3棟403号室)を対象としたプロトタイプを作成して、温熱環境の改善検討を実施した。BIMソフトはAutodesk Revit 2015、メッシュ生成ツールはsnappyHexMesh (ver.2.2)、CFDライブラリはOpenFOAM (ver.2.2)、VR開発環境はUnity 3D (ver.5.2)、HMDOculus Rift DK2を用いた。

まず、図面に基づいて作成したBIMモデルからメッシュを生成し、CFD解析を実施した。開発したシステムのCFD解析結果が実在の温熱環境を正しく予測・評価できることを確認するため、温度センサを用いた空気温度の実測値とCFD解析結果を比較し、概ね精確な評価を行うことが可能であると確認した。

次に、改善検討では、VR仮想空間内に可視化されたCFD解析結果を観察分析し、改善を検討した後に新規構成を設定し、再度CFD解析を実施した。新規構成の設定では、窓の種類を「金属サッシ・単盤ガラス」から「樹脂サッシ・複層ガラス」へと変更して部屋の断熱性能を向上させ、変更前と温熱環境を比較した(図3)。f:id:fukuda040416:20160531201929j:plain
図3 窓の種類の違いによる室内温熱環境の比較

結果、窓の種類の変更により、変更前に比べて、室内全体で気温が上昇することが確認された。また、実務設計者へのヒアリングを通してシステムの有用性の評価を行った(図4)。

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図4 
実務設計者による評価

 

結論

本研究は、十分な設計検討に基づく建物性能の向上と確かな合意形成の成立を目指して、ステークホルダー間の対話的な検討を可能とする設計支援システムを開発した。また開発したシステムを用いて改善検討のケースステディを実施した。本研究で得られた結論は以下の通りである。

  • CFDとVRを統合し、CFD解析結果の可視化と一部構成変更によるパラメータスタディをシームレスに実行することを可能とする温熱環境設計システムを開発した。
  • 開発したシステムによる熱環境解析の精度検証を行い、概ね精確な温熱環境評価を行うことが可能であると確認した。
  • 開発したシステムを用いて温熱環境の改善検討を実施することで、設計案の容易な理解と分析に基づいた改善案の迅速な評価を行うことが可能であり、温熱環境の設計検討に有効であることを確認した。
  • 実務設計者へのヒアリング調査を通して提案する設計プロセスの評価を行い、対話性の向上により設計案の理解が深まることで、発注者の設計検討への積極的な参加の誘発や施工後のクレームの削減が期待できるとの評価を得た。

今後の課題は、多様なケースを対象として設計検討を実施して有用性の検証を行うこと、BIMモデルとの連携を強化して検討による変更結果をBIMモデルにフィードバック可能とする必要があることなどが挙げられる。

 

参考文献

[1] HOSOKAWA, Masahiro, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi and MOTAMEDI, Ali: INTEGRATING CFD AND VR FOR INDOOR THERMAL ENVIRONMENT DESIGN FEEDBACK, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), 663-672, 2016.4.

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年6月号)

都市とITとが出合うところ 第26回 ビデオ×コミュニケーションメディア

「都市とITとが出合うところ」第26回。2016年5月号は、近年、コミュニケーション・メディアとして急速に拡がりをみせている、ビデオについて整理してみよう。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1605machinami_FukudaFinal.pdf

ビデオの進化

インターネットの普及により、物理的な空間・時間・コストの制約を乗り越えて、遠隔地に住む人々が居ながらにして学習したり、会話したりできるようになってきた。インターネットで扱えるメディア(媒体)は、テキスト(ニュース、論文など)、画像(写真、グラフ、絵など)、音声(音楽、ネットラジオなど)、動画(映画、インターネットテレビ、ウェブカメラの映像など)、3次元仮想空間(VRなど)と多様であり、それらを組み合わせて使用することが多い。本稿では、ビデオ(動画+音声)を使って遠隔で学習したり、コミュニケーションすることを考えてみたい。

ビデオが身近になったのはここ30年ほどであろうか。筆者の経験を紹介すれば、我が家にビデオカメラ(撮影用)とポータブルVHSデッキ(録画用。ナショナル(現・パナソニック)製 NV-3000)がやってきたのは、1981年だったように思う。当時、まだ民生用カムコーダ(ビデオカメラとビデオデッキが一体化したもの)はなく、VHSデッキをビデオカメラと接続する必要があったが、旅行やスポーツ大会で大活躍した。一方、ビデオカメラ、VHSデッキ、バッテリー(付属バッテリーは寿命が短すぎるため、オートバイのバッテリーを使用した)、ミニTV(液晶ディスプレイはビデオカメラに付属しておらずファインダーを長時間覗くことはできないため)を合わせると重さは10kgを優に超え、これらを携えながら撮影するのは大人でも大変であった。それでも、それまでの8ミリフィルムと比べると画期的であった。何より、限られた専門家のモノだったビデオ機材が家庭に普及し始めたことは、誰もがビデオの撮影者になれ、そして、録画・編集したビデオコンテンツの発信者になれることを窺わせた。

その後、カムコーダは進化していく。記録媒体は、アナログからデジタルへ、すなわち、磁気テープからハードディスクやメモリチップとなり、画質の劣化がなくなった。画面解像度は、NTSC(総画素数640×480=307,200)、フルHD(同1920×1080=2,073,600)、そして、4K(同3840×2160=8,294,400)と、向上した。また、ビデオカメラの小型化・軽量化が進み、手のひらサイズ(重さ約300g)、ウェアラブルカメラ(同約45g)が出回っている。

さらに、パソコンがインターネットに接続されるようになると、Youtubeなどのインターネットの動画共有サイトが始まり、ビデオデータの投稿と共有が始まった。筆者がビデオをYoutubeに初投稿したのは2007年、今から9年前のことである。ただこの頃は、デジカメのビデオ機能やビデオカメラで撮影したビデオデータを、パソコンに一旦コピーしてから、インターネットに投稿する必要があり、今よりも手間がかかっていた。

その後、スマートフォンスマホ)やタブレットが登場した。ビデオカメラが当たり前のように付いており、撮影したビデオは即座にインターネットに投稿・共有できるようになった。尚、ビデオを作成する方法には、ビデオカメラで撮影する以外に、PCやスマホの画面をキャプチャする方法もある。撮影したビデオの編集作業は、主に、PC上で行われてきたが、近年では、MixChannel(ミックスチャンネル)のように、スマホで編集可能なアプリも出現している。スマホの大画面化、通信環境の高速化により、スマホでビデオを利用する状況はますます整えられている。このように、ビデオとインターネットの親和性はぐっと高まっており、誰もがビデオの撮影者、発信者、受信者になれ、ビデオを介した学習やコミュニケーションが可能になってきたといえる。

次節では、インターネットに投稿されたビデオの利用について見てみたい。切り口は、発信者と受信者の関係(片方向か、双方向か)、時間軸(オン・デマンドか、リアルタイムか)の2軸とした。

 

遠隔地でのビデオ利用(片方向)

「片方向」は、テレビのように、発信者と受信者の役割が分かれ、受信者である視聴者は概ねビデオを視聴するだけの使い方である。

「片方向×オン・デマンド」は、Youtubeのように予め投稿されたビデオを視聴者が好きな時間に視聴できる。学習上のメリットでいえば、受講者は、個人の興味や習熟度に応じて学習を進めることができ、内容を聞き逃したとしても巻き戻せるし、聞きたくない箇所は早送りできる。教師は、同じ授業を何度も繰り返す必要がなく、標準化された授業を提供できる。個人的に特に便利になったと感じるのは、ソフトウェアの操作マニュアルがビデオで提供されるようになったこと。以前は、マニュアル本に沿って操作を覚えようとしたが、どこかでつまずくとその先に進めず困った。また、チューターに一通り説明を受けた後に自分で操作しようとしたが忘れてしまったり、メモを見ても思い出せないことがあった。

講演ではTED(Technology Entertainment Design)が有名である。TED Conferenceは、学術・エンターテイメント・デザイン分野などの著名な人物がプレゼンテーションを行うもので、講演会場には大勢の聴衆が詰めかけ、face-to-face(FtoF。対面型)方式で講演会は催される。一方、講演終了後には、インターネット上で動画配信されるため、遠隔地での視聴が可能である。筆者の経験では、「都市の針治療」スペシャル版として、明治学院大学 服部圭郎教授と対談させて頂いた模様がインターネット上に配信されている(図1左)。

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図1 左 片方向の例: 「都市の針治療」スペシャル(http://www.hilife.or.jp/cities/?p=859

「片方向×リアルタイム」は、ニコニコ生放送Ustreamのようにライブストリーミングを指す。例えば、観光地、街なかスポット、コンサート、授業、講演、国会中継天体観測の生放送を遠隔地で視聴する使い方である。

尚、YoutubeやTEDのサイトでは、視聴したビデオに対して掲示板にコメントを投稿できるため「双方向」といえなくもない。しかし、ビデオコンテンツ自体は情報伝達の意味合いが強く、次節で紹介するようなビデオ自体にコメントを書き込む機能とは一線を画すため「片方向」に分類した。

 

遠隔地でのビデオ利用(双方向)

「双方向」とは、テレビ会議や会話のように、発信者と受信者の役割が相互に入れ替わる状況を指す。

「双方向×オン・デマンド」は、投稿されたビデオに視聴者がビデオ上にコメントを直接付けるサービスが該当しよう。このサービスは、ビデオが再生されるタイミングに合わせてコメントを投稿(その後、表示)することができるため、ビデオコンテンツのある部分に対するコミュニケーションが可能だという意味で「双方向」に分類した。学習用ビデオでいえば、教師が発信するビデオに対して、受講生が「ここの説明がわからない」といった質問をビデオ上に付記することで、受講生の不明な点を説明したり、受講生のわからない箇所を教師が把握できるメリットがある。

「双方向×リアルタイム」は、SkypeGoogle ハングアウトのようなビデオ通話サービスを使って会議や会話を行うものである。教育学者である英・ニューカッスル大のスガタ・ミトラ教授(Prof. Sugata Mitra)は、自己学習環境SOLE(Self Organised Learning Education)の構築のため、「クラウド上の学校」という学習実験室をインドに作ろうとしている [1]。これは、子どもたち同士が協力して自由に学習できる環境であり、クラウド上のお婆ちゃん達(教師役)が子供たちを励ます役割を担おうとするものである。筆者の経験では、香港中文大学が開催したワークショップで講演をすることになった時に、移動時間とコストの制約のため、香港の人々に、大阪大学の研究室からSkypeで講演させて頂いた。また、ワークショップ「自主簡易アセスの取組みを広めよう」では、東京と大阪をテレビ会議システムで接続して、情報提供、ディスカッションをさせて頂いた。その場では、2015年2月~4月に本稿で紹介させて頂いた、クラウドVRも使用して、3次元仮想空間を共有しつつ東京と大阪で自主簡易アセスの可能性について議論した(図1右)。

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図1右 双方向の例: 「自主簡易アセスの取組みを広めよう」(http://assessment.forum8.co.jp/assessment/php/home.php

 

おわりに

期待を込めて課題を記しておきたい。ビデオの視聴にはビデオの長さと同じだけの時間が必要となる。1時間のビデオを見るには1時間が必要となる。映画作品ならまだしも、コンテンツによってはできるだけ短時間で概観したい場合や目当ての箇所だけ見たい場合がある。音声を聞きつつ早回しで視聴するならば、ビデオの再生速度を上げたとして2倍速迄が限度であろう。この視聴時間の壁を如何に取り除けるか。例えば、ビデオの映像カットや発話内容を直接検索することができれば、ビデオコンテンツをもっと効率的に利用できるかもしれない。

「双方向×リアルタイム」の場合には、FtoFの会議と比べて、まだ自然体で話すことができないように思える。どうやらテレビ会議システムに気を遣っているようだ。無音状態になるとインターネットが切れたのではないか、ビデオ画面に変化がないとシステムがフリーズしたのでは、と不安になる。ビデオ画面の中にメンバーが納まるよう座席を配置し直したり、スピーカやマイクの音量、照明環境にも配慮が必要である。利用シーンの見極めやユーザが慣れていくべき点を含め、今後の改善に期待したい。

参考文献
[1] School in the Cloud: https://www.theschoolinthecloud.org/ (参照 2016年3月9日)

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年5月号)

CAADRIA2016 (Computer Aided Architectural Design Research In Asia) @Melboruneに参加してきました。

f:id:fukuda040416:20160330133838j:plain■会場となった、メルボルン大学 の斬新なリノベーション校舎

f:id:fukuda040416:20160330191814j:plain■John Wood教授の基調講演

f:id:fukuda040416:20160401194945j:plain■学会最後の表彰式を見守る研究者・実務家・学生たち。

先週は、CAADRIA2016 (Computer Aided Architectural Design Research In Asia)に参加してきました。CAADRIAは建築・都市設計分野のコンピュータ援用に関する学会です。アジア各国の大学がホストとなり、世界中からの参加者を迎え、毎年カンファレンスとワークショップを開催しています。21回目を迎えた今年は、オーストラリア・メルボルンメルボルン大学で開催されました。21か国から190名の参加がありました。

論文発表は計82編。これにポスター発表25編が加わりました。

  • Abstract Submission(梗概投稿): 256
  • Abstract Acceptance(梗概採用): 195
  • Full paper Submission(フルペーパー論文投稿): 136
  • Full paper Acceptance(フルペーパー論文採用): 93
  • Publication(論文集に掲載): 86

論文のテーマ(Main theme: LIVING SYSTEMS AND MICRO-UTOPIAS: TOWARDS CONTINUOUS DESIGNING. Sub themes are shown below:)

  • Big Data and Precinct/City/Spatial Modelling(ビッグデータと地区・都市・空間モデリング
  • Practice-Based and Collaborative Computational Design and Research(実務ベース、協調的なコンピュータ設計研究)
  • Shape Studies(形状スタディ)
  • Generative, Parametric and Evolutionary Design(生成的、アルゴリズム的、進化的設計)
  • Computational Design Analysis(コンピュータ設計解析)
  • Human-Computer Interaction(人間とコンピュータの対話)
  • Simulation and Visualization(シミュレーションと可視化)
  • New Digital Design Concepts and Strategies(新たなデジタル設計コンセプトと戦略)
  • Building Information Modelling(BIM)
  • 3D Printing and Robotic Assemblies(3Dプリンティングとロボットの組み立て)
  • Theory, Philosophy and Methodology of Computational Design Research(コンピュータ設計研究の理論、哲学、方法論)
  • Virtual / Augmented Reality and Interactive Environments(人工現実感、拡張現実感、相互作用的環境)
  • Digital Fabrication and Construction(デジタル製作と建設)
  • Computational Design Research and Education(コンピュータ設計研究と教育)
  • Design Cognition and Creativity(設計の認識と創造性)

研究室の発表リストは下記です。論文は、CuminCAD論文DBにも既に登録されています。その内、Scopusにも掲載されると思います。
http://papers.cumincad.org/
http://www.scopus.com/

  • HOSOKAWA, Masahiro, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi and MOTAMEDI, Ali: INTEGRATING CFD AND VR FOR INDOOR THERMAL ENVIRONMENT DESIGN FEEDBACK, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), pp.663-672, 2016.4.
  • DING, Yakui, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi and MOTAMEDI, Ali: AUTOMATIC MEASUREMENT SYSTEM OF VISIBLE GREENERY RATIO USING AUGMENTED REALITY, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), pp.703-712, 2016.4.
  • SATO, Yusuke, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi and MOTAMEDI, Ali: A MARKER-LESS AUGMENTED REALITY SYSTEM USING IMAGE PROCESSING TECHNIQUES FOR ARCHITECTURE AND URBAN ENVIRONMENT, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), pp.713-722, 2016.4.

今回は、
表彰委員長(Award Committee Chair)、選挙管理委員長(Election Committee Chair)を仰せつかっておりました。後者は、CAADRIA学会の幹事を決める選挙です。任期は2年で、今回の改選により、新たな会長(Hyunsoo LEE, Yonsei University, Korea)、秘書(Ning GU, The University of Newcastle, Australia)、会員担当(Suleiman Alhadidi, The University of New South Wales, Australia)が決まりました。幹事メンバーは下記に示されております。
http://caadria.org/org/officers.html

また、
Sasada Awardには、香港中文大学のJin-Yeu Tsou教授が選ばれました。

来年は、2017年4月5日から8日まで、中国・蘇州での開催となります。

都市と建築のブログ Vol.33: ボストン:歴史と新たな刺激が融合する都市 up!

2009年より連載中の「都市と建築のブログ」。第33回目となる2016年4月号はアメリカ・ボストンをご紹介します。

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