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都市とITとが出合うところ 第28回 拡張現実感を用いた緑視率自動測定システム

「都市とITとが出合うところ」第28回。前回より3回に渡って、CAADRIA2016で発表した論文の内容をご紹介中です。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1607machinami_FukudaFinal.pdf

はじめに

オーストラリア・メルボルン大学(The University of Melbourne)で開催されたCAADRIA2016国際会議(The 21th International Conference on Computer Aided Architectural Design Research In Asia)で発表した論文の2報目。

今回は「Automatic Measurement System of Visible Greenery Ratio Using Augmented Reality;拡張現実感を用いた緑視率自動測定システム」について [1]

 

背景と目的

都市ヒートアイランド緩和、都市景観の質向上に向けて緑化が推進されている。緑の定量化は、客観的評価のために重要であり、定量化指標の一つに緑視率がある。

緑視率は、視界の中に占める自然の緑の割合であり、平面的にとらえる「緑被率」に対して、空間的な実感に近い指標として考えられた概念である。近年では、屋上、壁面、駐車場等の新たなみどりの創出、市民が実感できるみどりづくり、市民・企業・NPOと行政との協働によるみどりの行動の推進などの必要性 [2] から、視界の中に占める緑の割合を扱う緑視率は直感的に理解しやすい指標として注目される。

緑視率の一般的な測定方法は、いくつかの視点における測定データで代表させることである。すなわち、代表的な視点で写真撮影した後、画像処理ソフト(例:Adobe Photoshop)を用いてマニュアル操作により測定対象となる自然の緑部分のマスキングを行い、抽出された領域の画素数を全体の画素数で除して、緑視率測定を行う(以下、マニュアル手法とする)。

このマニュアル手法の課題は、マスキング時間を要すること、人により作業内容や作業時間にバラつきが発生することである。また、マニュアル手法は処理に一定の時間を要するため静止視点での測定に限られる。そのため、歩行中の緑視率の変化を測定するといった動視点への展開も困難である。

このような背景から、著者らは画像処理技術を応用した緑視率自動測定システムを開発中である。既に、入力した画像からガウシアンぼかしによる平滑化処理を行ったのち、自然の緑の対象範囲となる、色相値 [40-180] による抽出、そして、彩度値 [0.2-1.0] による抽出により緑成分となる画素を抽出し、抽出された画素数を全体の画素数で除して、緑視率を計算するシステム(以下、既システムとする)を開発した [3]

本研究では、既システムの課題であった、以下の2点の解決を目的とした。

  • ガラス窓に映りこんだ緑など、緑視率計算対象外のオブジェクトが抽出されてしまうため正解率が低いことへの改善を図ること。
  • 現状の緑視率のみ測定可能であるため、将来の緑視率シミュレーションに対応すること。

 

提案手法

本研究で提案する緑視率自動測定システムのフローを図1に示す。

  • 項目1)を実現するため、既システムで開発したガウシアンぼかしによる平滑化処理の後、クラスタリング手法の一つであるMean shift法によるフィルタリング処理を追加した。その後、既システムと同様に、自然の緑の対象範囲となる、色相、そして、彩度の値を抽出した(以下、新システムとする)。
  • 項目2)を実現するため、AR(Augmented Reality; 拡張現実感)機能を緑視率自動測定システムに追加した(以下、緑視率自動測定ARシステムとする)。

システムの実装には、画像処理用にOpenCV(ver.2.3)、AR開発環境はARToolKit(ver.2.72.1)を用いた。

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図1 提案する緑視率自動測定システムの概要

 

検証1:新システムについて

項目1)を検証するため、新・緑視率自動測定システムの性能を評価した。具体的には、建物に映りこんだ緑を含む風景写真を複数用意して、既システムと新システム(以下、これら両者、またはいずれかを指す場合には、自動測定システムという)の両者において、正解率、不正解率の状況を調査した。

正解、不正解の判定は、マニュアル手法で作成した画像を正解画像として、正解画像で抽出された緑成分画素と、自動測定システムで抽出された緑成分とを比較した。正解画素は、マニュアル手法と自動測定システムのいずれも抽出された画素を指す。不正解画素は、未抽出画素と過抽出画素を含む。未抽出画素は、マニュアル手法で抽出された(すなわち、本当は緑成分である)が自動測定システムでは抽出されなかった画素を指す。過抽出画素は、マニュアル手法で抽出されていない(すなわち、本当は緑成分ではない)が自動測定システムでは抽出されてしまった画素を指す(図2)。

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図2 正解画素、不正解画素の定義

実験の結果、2つの視点場において、既システム→新システムの順に、正解率(%)は85.4→93.3 (+7.9)、86.0→85.6% (-0.4)と一定の向上がみられた。また、不正解率(%)は、24.2→11.5 (-12.7)、32.1→21.4 (-10.7)と低下した(図3)。すなわち、Mean shift法によるフィルタリングにより正解率の向上と不正解率の低下を実現することができたといえる。

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図3 正解率・不正解率の新旧システム比較

 

検証2:緑視率自動測定ARシステムについて

項目2)を検証するため、緑視率自動測定ARシステムの性能を評価した。前処理として、新たな景観を形成する樹木の3Dモデルを用意して、ARシステムに登録した。本処理では、大型マーカを、webカメラでキャプチャする実写映像と3Dモデルの位置合わせとなる基準点に設置した [4]。そして、ARシステムを起動させて、樹木の3Dモデルを適切な位置に移動させて配置し、緑視率を測定した(図4)。

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図4 緑視率自動測定ARシステム:実験風景とAR例

結果、2つの視点場において、緑視率は、現状→将来の順に、15.1→25.4% (+10.3)、9.9→35.8 (+25.9)と向上する様子を確認することができた(図5)。

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図5 緑視率の現状・将来比較

 

おわりに

本研究は拡張現実感を用いた緑視率自動測定システムを開発した。成果を以下に示す。

  • ガラス窓に映りこんだ緑など、緑視率計算対象外のオブジェクトが抽出されてしまうことを回避するために、既システムに、Mean shift法によるフィルタリングを挿入するアルゴリズムを開発した。結果、正解率の向上と不正解率の低下を確認することができ、緑視率の精度向上を実現できた。
  • 現状の緑視率の測定だけでなく、将来の緑視率シミュレーションに対応するために、新システムにAR機能を加えた緑視率自動測定ARシステムを開発した。結果、実写映像中に樹木の3Dモデルを新たに加えて、将来の景観と緑視率の変化を確認することができた。

今後は、より多くのケーススタディを経て、正解率のさらなる向上、不正解率のさらなる低下を目指す必要がある。

 

参考文献

[1] DING, Yakui, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi and MOTAMEDI, Ali: AUTOMATIC MEASUREMENT SYSTEM OF VISIBLE GREENERY RATIO USING AUGMENTED REALITY, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), 703-712, 2016.4.

[2] 大阪府: みどりの大阪推進計画(2011.12.12更新), http://www.pref.osaka.lg.jp/midori/midori/keikaku.html (2016.5.13参照)

[3] DING, Yakui, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi: A MEASUREMENT TOOL FOR VISIBLE GREENERY RATIO DERIVED FROM GAUSSIAN BLUR, HUE AND SATURATION FILTERING, Proceedings of the Second International Conference on Civil and Building Engineering Informatics (ICCBEI2015), CD-ROM, 2015.4.

[4] YABUKI, Nobuyoshi, MIYASHITA, Kyoko, FUKUDA, Tomohiro: AN INVISIBLE HEIGHT EVALUATION SYSTEM FOR BUILDING HEIGHT REGULATION TO PRESERVE GOOD LANDSCAPES USING AUGMENTED REALITY, Automation in Construction, 20(3), 228-235, 2011.3.

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年7月号)

 

 

CAADRIA2016@メルボルン大学での発表したビデオをYoutubeにアップしました。

CAADRIA2016@メルボルン大学で、3篇論文発表したビデオをYoutubeにアップしました。ノートPC付属のカメラとマイクで自撮りしました。少しの機器と手間で、より良い品質のビデオ録画をしたいですね・・・

youtu.be

TITLE: Integrating CFD and VR for Indoor Thermal Environment Design Feedback
AUTHORS: Masahiro HOSOKAWA, Tomohiro FUKUDA, Nobuyoshi YABUKI, Takashi MICHIKAWA and Ali MOTAMEDI (Presenter), Osaka University, Suita, Osaka, Japan

youtu.be

TITLE: Automatic Measurement System of Visible Greenery Ratio Using Augmented Reality
AUTHORS: Yakui DING, Tomohiro FUKUDA (Presenter), Nobuyoshi YABUKI, Takashi MICHIKAWA and Ali MOTAMEDI, Osaka University, Suita, Osaka, Japan

youtu.be

TITLE: A Marker-less Augmented Reality System Using Image Processing Techniques
AUTHORS: Yusuke Sato, Tomohiro FUKUDA (Presenter), Nobuyoshi YABUKI, Takashi MICHIKAWA and Ali MOTAMEDI, Osaka University, Suita, Osaka, Japan

都市とITとが出合うところ 第27回 室内温熱環境設計フィードバックのためのCFDとVRの統合

「都市とITとが出合うところ」第27回。今回より3回に渡って、CAADRIA2016で発表した論文の内容をご紹介します。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1606machinami_FukudaFinal.pdf

CAADRIA2016

本年3月末から4月初旬にかけて、CAADRIA2016(The 21th International Conference on Computer Aided Architectural Design Research In Asia)がオーストラリア・メルボルン大学(The University of Melbourne)で開催された。CAADRIAは、デジタル建築・都市設計技術に関する国際学会である(まちなみ2015年11月号)。CAADRIA2016で筆者らのグループは3編の査読付き研究論文を発表した。3回に渡って紹介したい。

今回は「Integrating CFD and VR for Indoor Thermal Environment Design Feedback;室内温熱環境設計フィードバックのためのCFDとVRの統合」について[1]

 

背景と目的

地球温暖化への配慮、省エネルギー性能や生活の質の向上などを背景に、温熱環境の設計は建築物にとってより重要になりつつある。施主が求める意匠設計、ならびに、快適性と省エネルギー性が両立する高性能な建築物が求められている。

設計案の温熱環境を初期段階から詳細に評価することが可能な手法として、CFD(Computational Fluid Dynamics)解析が利用されている。CFD解析を行うことで、設備設計者の経験やメーカのカタログ値に基づいて評価されていた熱環境を、客観的に評価することが可能となる。これにより、ステークホルダーが設計案の性能を共有しながら設計検討を進めることが可能となり、設計性能の向上と施工後の変更の削減が期待される。しかし、現状の設計プロセスでCFD解析を十分に活用するためには、幾つかの課題が残る。

まず、CFD解析設定の複雑さである。CFD解析を行うための条件設定は複雑で、実務設計者の多くはCFD解析を実施する際、専門の担当者やコンサルタントに解析を依頼する。そのため、実務設計者は即座に解析結果を得ることができず、対話的な設計検討が実現できているとはいいがたい。

次に、解析結果の可視化に関する課題である。既存の多くの商用CFD解析ソフトでは、解析対象の建物は概形形状で表示される。そのため、発注者やその他の専門設計者が解析結果を確認する際に、完成後の建物内を具体的に想像しながら解析結果を理解することは難しく、限られた時間の中で十分な検討を行うことは困難である。

そこで本研究は、CFDとVR(Virtual Reality)を統合した温熱環境設計システムを開発し、日常的に温熱環境設計に従事していないユーザでも、解析結果を迅速に把握し、必要に応じて設計案にフィードバックすることができる設計プロセスの実現を目標とした。

 

CFDとVRを統合した温熱環境設計システム

本研究で提案するCFDとVRを統合した温熱環境設計システムは、VR仮想空間内においてCFD解析結果の可視化と新規設計案の解析実行を行う。システムの処理は、1)メッシュ生成と境界条件の定義、2)計算処理、3)可視化処理、4)設計案の比較とフィードバックの4つのプロセスで構成される(図1)。

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図1 CFD とVR を統合した温熱環境設計システム概要

  • メッシュ生成では、3D-CADやBIMソフトで作成した建物モデルを入力データとして、非構造格子のボリュームメッシュを生成する。境界条件はマニュアル操作で定義した。
  • 計算処理では、計算時間の短縮を図るためにGPGPU(General-purpose computing on Graphics Processing Units;GPUによる汎用計算)を利用し、定常状態の熱流体解析を行う。
  • 可視化処理では、フォトリアリスティックに内観表現がなされた建物空間にCFD解析結果の可視化を行う。温度の分布は、カラーマップを持つ平面と空間中の点による3次元表現で、気流性状はベクトルに応じて色と向きの変化する矢印と流線により表現した(図2)。空間の広がりの認識と、3次元表現されたCFD解析結果の理解を容易にするため、HMD(Head Mounted Display;頭部装着ディスプレイ)を用いてVRを表示した。

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図2 CFD 解析結果のVR 表示例

設計の比較とフィードバックでは、構成の異なる複数の設計案を対象としたCFD解析結果を比較し、設計案の検討を行う。事前に解析の行われていなかった構成でも、必要に応じて解析を行うことが可能であり、対話的に設計検討を行うことが可能である。

 

検証実験

本研究で開発した温熱環境設計システムの検証として、既存建物(大阪大学 吹田キャンパス M3棟403号室)を対象としたプロトタイプを作成して、温熱環境の改善検討を実施した。BIMソフトはAutodesk Revit 2015、メッシュ生成ツールはsnappyHexMesh (ver.2.2)、CFDライブラリはOpenFOAM (ver.2.2)、VR開発環境はUnity 3D (ver.5.2)、HMDOculus Rift DK2を用いた。

まず、図面に基づいて作成したBIMモデルからメッシュを生成し、CFD解析を実施した。開発したシステムのCFD解析結果が実在の温熱環境を正しく予測・評価できることを確認するため、温度センサを用いた空気温度の実測値とCFD解析結果を比較し、概ね精確な評価を行うことが可能であると確認した。

次に、改善検討では、VR仮想空間内に可視化されたCFD解析結果を観察分析し、改善を検討した後に新規構成を設定し、再度CFD解析を実施した。新規構成の設定では、窓の種類を「金属サッシ・単盤ガラス」から「樹脂サッシ・複層ガラス」へと変更して部屋の断熱性能を向上させ、変更前と温熱環境を比較した(図3)。f:id:fukuda040416:20160531201929j:plain
図3 窓の種類の違いによる室内温熱環境の比較

結果、窓の種類の変更により、変更前に比べて、室内全体で気温が上昇することが確認された。また、実務設計者へのヒアリングを通してシステムの有用性の評価を行った(図4)。

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図4 
実務設計者による評価

 

結論

本研究は、十分な設計検討に基づく建物性能の向上と確かな合意形成の成立を目指して、ステークホルダー間の対話的な検討を可能とする設計支援システムを開発した。また開発したシステムを用いて改善検討のケースステディを実施した。本研究で得られた結論は以下の通りである。

  • CFDとVRを統合し、CFD解析結果の可視化と一部構成変更によるパラメータスタディをシームレスに実行することを可能とする温熱環境設計システムを開発した。
  • 開発したシステムによる熱環境解析の精度検証を行い、概ね精確な温熱環境評価を行うことが可能であると確認した。
  • 開発したシステムを用いて温熱環境の改善検討を実施することで、設計案の容易な理解と分析に基づいた改善案の迅速な評価を行うことが可能であり、温熱環境の設計検討に有効であることを確認した。
  • 実務設計者へのヒアリング調査を通して提案する設計プロセスの評価を行い、対話性の向上により設計案の理解が深まることで、発注者の設計検討への積極的な参加の誘発や施工後のクレームの削減が期待できるとの評価を得た。

今後の課題は、多様なケースを対象として設計検討を実施して有用性の検証を行うこと、BIMモデルとの連携を強化して検討による変更結果をBIMモデルにフィードバック可能とする必要があることなどが挙げられる。

 

参考文献

[1] HOSOKAWA, Masahiro, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi and MOTAMEDI, Ali: INTEGRATING CFD AND VR FOR INDOOR THERMAL ENVIRONMENT DESIGN FEEDBACK, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), 663-672, 2016.4.

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年6月号)

都市とITとが出合うところ 第26回 ビデオ×コミュニケーションメディア

「都市とITとが出合うところ」第26回。2016年5月号は、近年、コミュニケーション・メディアとして急速に拡がりをみせている、ビデオについて整理してみよう。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1605machinami_FukudaFinal.pdf

ビデオの進化

インターネットの普及により、物理的な空間・時間・コストの制約を乗り越えて、遠隔地に住む人々が居ながらにして学習したり、会話したりできるようになってきた。インターネットで扱えるメディア(媒体)は、テキスト(ニュース、論文など)、画像(写真、グラフ、絵など)、音声(音楽、ネットラジオなど)、動画(映画、インターネットテレビ、ウェブカメラの映像など)、3次元仮想空間(VRなど)と多様であり、それらを組み合わせて使用することが多い。本稿では、ビデオ(動画+音声)を使って遠隔で学習したり、コミュニケーションすることを考えてみたい。

ビデオが身近になったのはここ30年ほどであろうか。筆者の経験を紹介すれば、我が家にビデオカメラ(撮影用)とポータブルVHSデッキ(録画用。ナショナル(現・パナソニック)製 NV-3000)がやってきたのは、1981年だったように思う。当時、まだ民生用カムコーダ(ビデオカメラとビデオデッキが一体化したもの)はなく、VHSデッキをビデオカメラと接続する必要があったが、旅行やスポーツ大会で大活躍した。一方、ビデオカメラ、VHSデッキ、バッテリー(付属バッテリーは寿命が短すぎるため、オートバイのバッテリーを使用した)、ミニTV(液晶ディスプレイはビデオカメラに付属しておらずファインダーを長時間覗くことはできないため)を合わせると重さは10kgを優に超え、これらを携えながら撮影するのは大人でも大変であった。それでも、それまでの8ミリフィルムと比べると画期的であった。何より、限られた専門家のモノだったビデオ機材が家庭に普及し始めたことは、誰もがビデオの撮影者になれ、そして、録画・編集したビデオコンテンツの発信者になれることを窺わせた。

その後、カムコーダは進化していく。記録媒体は、アナログからデジタルへ、すなわち、磁気テープからハードディスクやメモリチップとなり、画質の劣化がなくなった。画面解像度は、NTSC(総画素数640×480=307,200)、フルHD(同1920×1080=2,073,600)、そして、4K(同3840×2160=8,294,400)と、向上した。また、ビデオカメラの小型化・軽量化が進み、手のひらサイズ(重さ約300g)、ウェアラブルカメラ(同約45g)が出回っている。

さらに、パソコンがインターネットに接続されるようになると、Youtubeなどのインターネットの動画共有サイトが始まり、ビデオデータの投稿と共有が始まった。筆者がビデオをYoutubeに初投稿したのは2007年、今から9年前のことである。ただこの頃は、デジカメのビデオ機能やビデオカメラで撮影したビデオデータを、パソコンに一旦コピーしてから、インターネットに投稿する必要があり、今よりも手間がかかっていた。

その後、スマートフォンスマホ)やタブレットが登場した。ビデオカメラが当たり前のように付いており、撮影したビデオは即座にインターネットに投稿・共有できるようになった。尚、ビデオを作成する方法には、ビデオカメラで撮影する以外に、PCやスマホの画面をキャプチャする方法もある。撮影したビデオの編集作業は、主に、PC上で行われてきたが、近年では、MixChannel(ミックスチャンネル)のように、スマホで編集可能なアプリも出現している。スマホの大画面化、通信環境の高速化により、スマホでビデオを利用する状況はますます整えられている。このように、ビデオとインターネットの親和性はぐっと高まっており、誰もがビデオの撮影者、発信者、受信者になれ、ビデオを介した学習やコミュニケーションが可能になってきたといえる。

次節では、インターネットに投稿されたビデオの利用について見てみたい。切り口は、発信者と受信者の関係(片方向か、双方向か)、時間軸(オン・デマンドか、リアルタイムか)の2軸とした。

 

遠隔地でのビデオ利用(片方向)

「片方向」は、テレビのように、発信者と受信者の役割が分かれ、受信者である視聴者は概ねビデオを視聴するだけの使い方である。

「片方向×オン・デマンド」は、Youtubeのように予め投稿されたビデオを視聴者が好きな時間に視聴できる。学習上のメリットでいえば、受講者は、個人の興味や習熟度に応じて学習を進めることができ、内容を聞き逃したとしても巻き戻せるし、聞きたくない箇所は早送りできる。教師は、同じ授業を何度も繰り返す必要がなく、標準化された授業を提供できる。個人的に特に便利になったと感じるのは、ソフトウェアの操作マニュアルがビデオで提供されるようになったこと。以前は、マニュアル本に沿って操作を覚えようとしたが、どこかでつまずくとその先に進めず困った。また、チューターに一通り説明を受けた後に自分で操作しようとしたが忘れてしまったり、メモを見ても思い出せないことがあった。

講演ではTED(Technology Entertainment Design)が有名である。TED Conferenceは、学術・エンターテイメント・デザイン分野などの著名な人物がプレゼンテーションを行うもので、講演会場には大勢の聴衆が詰めかけ、face-to-face(FtoF。対面型)方式で講演会は催される。一方、講演終了後には、インターネット上で動画配信されるため、遠隔地での視聴が可能である。筆者の経験では、「都市の針治療」スペシャル版として、明治学院大学 服部圭郎教授と対談させて頂いた模様がインターネット上に配信されている(図1左)。

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図1 左 片方向の例: 「都市の針治療」スペシャル(http://www.hilife.or.jp/cities/?p=859

「片方向×リアルタイム」は、ニコニコ生放送Ustreamのようにライブストリーミングを指す。例えば、観光地、街なかスポット、コンサート、授業、講演、国会中継天体観測の生放送を遠隔地で視聴する使い方である。

尚、YoutubeやTEDのサイトでは、視聴したビデオに対して掲示板にコメントを投稿できるため「双方向」といえなくもない。しかし、ビデオコンテンツ自体は情報伝達の意味合いが強く、次節で紹介するようなビデオ自体にコメントを書き込む機能とは一線を画すため「片方向」に分類した。

 

遠隔地でのビデオ利用(双方向)

「双方向」とは、テレビ会議や会話のように、発信者と受信者の役割が相互に入れ替わる状況を指す。

「双方向×オン・デマンド」は、投稿されたビデオに視聴者がビデオ上にコメントを直接付けるサービスが該当しよう。このサービスは、ビデオが再生されるタイミングに合わせてコメントを投稿(その後、表示)することができるため、ビデオコンテンツのある部分に対するコミュニケーションが可能だという意味で「双方向」に分類した。学習用ビデオでいえば、教師が発信するビデオに対して、受講生が「ここの説明がわからない」といった質問をビデオ上に付記することで、受講生の不明な点を説明したり、受講生のわからない箇所を教師が把握できるメリットがある。

「双方向×リアルタイム」は、SkypeGoogle ハングアウトのようなビデオ通話サービスを使って会議や会話を行うものである。教育学者である英・ニューカッスル大のスガタ・ミトラ教授(Prof. Sugata Mitra)は、自己学習環境SOLE(Self Organised Learning Education)の構築のため、「クラウド上の学校」という学習実験室をインドに作ろうとしている [1]。これは、子どもたち同士が協力して自由に学習できる環境であり、クラウド上のお婆ちゃん達(教師役)が子供たちを励ます役割を担おうとするものである。筆者の経験では、香港中文大学が開催したワークショップで講演をすることになった時に、移動時間とコストの制約のため、香港の人々に、大阪大学の研究室からSkypeで講演させて頂いた。また、ワークショップ「自主簡易アセスの取組みを広めよう」では、東京と大阪をテレビ会議システムで接続して、情報提供、ディスカッションをさせて頂いた。その場では、2015年2月~4月に本稿で紹介させて頂いた、クラウドVRも使用して、3次元仮想空間を共有しつつ東京と大阪で自主簡易アセスの可能性について議論した(図1右)。

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図1右 双方向の例: 「自主簡易アセスの取組みを広めよう」(http://assessment.forum8.co.jp/assessment/php/home.php

 

おわりに

期待を込めて課題を記しておきたい。ビデオの視聴にはビデオの長さと同じだけの時間が必要となる。1時間のビデオを見るには1時間が必要となる。映画作品ならまだしも、コンテンツによってはできるだけ短時間で概観したい場合や目当ての箇所だけ見たい場合がある。音声を聞きつつ早回しで視聴するならば、ビデオの再生速度を上げたとして2倍速迄が限度であろう。この視聴時間の壁を如何に取り除けるか。例えば、ビデオの映像カットや発話内容を直接検索することができれば、ビデオコンテンツをもっと効率的に利用できるかもしれない。

「双方向×リアルタイム」の場合には、FtoFの会議と比べて、まだ自然体で話すことができないように思える。どうやらテレビ会議システムに気を遣っているようだ。無音状態になるとインターネットが切れたのではないか、ビデオ画面に変化がないとシステムがフリーズしたのでは、と不安になる。ビデオ画面の中にメンバーが納まるよう座席を配置し直したり、スピーカやマイクの音量、照明環境にも配慮が必要である。利用シーンの見極めやユーザが慣れていくべき点を含め、今後の改善に期待したい。

参考文献
[1] School in the Cloud: https://www.theschoolinthecloud.org/ (参照 2016年3月9日)

大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年5月号)

CAADRIA2016 (Computer Aided Architectural Design Research In Asia) @Melboruneに参加してきました。

f:id:fukuda040416:20160330133838j:plain■会場となった、メルボルン大学 の斬新なリノベーション校舎

f:id:fukuda040416:20160330191814j:plain■John Wood教授の基調講演

f:id:fukuda040416:20160401194945j:plain■学会最後の表彰式を見守る研究者・実務家・学生たち。

先週は、CAADRIA2016 (Computer Aided Architectural Design Research In Asia)に参加してきました。CAADRIAは建築・都市設計分野のコンピュータ援用に関する学会です。アジア各国の大学がホストとなり、世界中からの参加者を迎え、毎年カンファレンスとワークショップを開催しています。21回目を迎えた今年は、オーストラリア・メルボルンメルボルン大学で開催されました。21か国から190名の参加がありました。

論文発表は計82編。これにポスター発表25編が加わりました。

  • Abstract Submission(梗概投稿): 256
  • Abstract Acceptance(梗概採用): 195
  • Full paper Submission(フルペーパー論文投稿): 136
  • Full paper Acceptance(フルペーパー論文採用): 93
  • Publication(論文集に掲載): 86

論文のテーマ(Main theme: LIVING SYSTEMS AND MICRO-UTOPIAS: TOWARDS CONTINUOUS DESIGNING. Sub themes are shown below:)

  • Big Data and Precinct/City/Spatial Modelling(ビッグデータと地区・都市・空間モデリング
  • Practice-Based and Collaborative Computational Design and Research(実務ベース、協調的なコンピュータ設計研究)
  • Shape Studies(形状スタディ)
  • Generative, Parametric and Evolutionary Design(生成的、アルゴリズム的、進化的設計)
  • Computational Design Analysis(コンピュータ設計解析)
  • Human-Computer Interaction(人間とコンピュータの対話)
  • Simulation and Visualization(シミュレーションと可視化)
  • New Digital Design Concepts and Strategies(新たなデジタル設計コンセプトと戦略)
  • Building Information Modelling(BIM)
  • 3D Printing and Robotic Assemblies(3Dプリンティングとロボットの組み立て)
  • Theory, Philosophy and Methodology of Computational Design Research(コンピュータ設計研究の理論、哲学、方法論)
  • Virtual / Augmented Reality and Interactive Environments(人工現実感、拡張現実感、相互作用的環境)
  • Digital Fabrication and Construction(デジタル製作と建設)
  • Computational Design Research and Education(コンピュータ設計研究と教育)
  • Design Cognition and Creativity(設計の認識と創造性)

研究室の発表リストは下記です。論文は、CuminCAD論文DBにも既に登録されています。その内、Scopusにも掲載されると思います。
http://papers.cumincad.org/
http://www.scopus.com/

  • HOSOKAWA, Masahiro, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi and MOTAMEDI, Ali: INTEGRATING CFD AND VR FOR INDOOR THERMAL ENVIRONMENT DESIGN FEEDBACK, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), pp.663-672, 2016.4.
  • DING, Yakui, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi and MOTAMEDI, Ali: AUTOMATIC MEASUREMENT SYSTEM OF VISIBLE GREENERY RATIO USING AUGMENTED REALITY, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), pp.703-712, 2016.4.
  • SATO, Yusuke, FUKUDA, Tomohiro, YABUKI, Nobuyoshi, MICHIKAWA, Takashi and MOTAMEDI, Ali: A MARKER-LESS AUGMENTED REALITY SYSTEM USING IMAGE PROCESSING TECHNIQUES FOR ARCHITECTURE AND URBAN ENVIRONMENT, Proceedings of the 21th International Conference on Computer-Aided Architectural Design Research in Asia (CAADRIA 2016), pp.713-722, 2016.4.

今回は、
表彰委員長(Award Committee Chair)、選挙管理委員長(Election Committee Chair)を仰せつかっておりました。後者は、CAADRIA学会の幹事を決める選挙です。任期は2年で、今回の改選により、新たな会長(Hyunsoo LEE, Yonsei University, Korea)、秘書(Ning GU, The University of Newcastle, Australia)、会員担当(Suleiman Alhadidi, The University of New South Wales, Australia)が決まりました。幹事メンバーは下記に示されております。
http://caadria.org/org/officers.html

また、
Sasada Awardには、香港中文大学のJin-Yeu Tsou教授が選ばれました。

来年は、2017年4月5日から8日まで、中国・蘇州での開催となります。

都市と建築のブログ Vol.33: ボストン:歴史と新たな刺激が融合する都市 up!

2009年より連載中の「都市と建築のブログ」。第33回目となる2016年4月号はアメリカ・ボストンをご紹介します。

NAVERまとめにも都市と建築のブログの過去記事をアーカイブしています。

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■都市と建築のブログ バックナンバー

 

都市とITとが出合うところ 第25回 建築・都市×マッチングビジネス

「都市とITとが出合うところ」第25回。今月は、建築・都市に関するマッチングビジネスについてご紹介します。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1604machinami_FukudaFinal.pdf

 

電子商取引(EC)の発展と拡大

商取引はいうまでもなく、モノやサービスの売買行為を指すが、インターネットを中心とするコンピュータネットワークを使った電子商取引(EC)市場が、益々発展・拡大している。平成26年の日本国内のBtoC-EC(企業対消費者間電子商取引)市場規模は12.8兆円(前年比14.6%増)、BtoB-EC(企業間電子商取引)市場規模は280兆円(広義の値。VAN・専用回線、TCP/IP プロトコルを利用していない従来型の電子データ交換が含まれる。前年比4.0%増)に拡大している [1]

ECのメリットは、買い手側から見ると、自宅や就業場所に居ながら、インターネットを利用して、いつでも買い物ができるという手軽さである。物理的に店舗を何軒も歩き回るのではなく、クリックするだけで目当てのモノが見つけやすい。また、同じ商品の価格を複数の店舗で比較したり、国内だけでなく海外から少ない手間で取り寄せたり、過去に購入した経験者の話を聞くこともできる。一方、売り手側から見たメリットとして、伝統的な商取引よりも少ない人件費、運営経費、広告費で賄うことができる。また、データが電子化されるため、経理も省力化できる。さらに、ECという仕組みがあってこそ成立するビジネスも生まれてきた。

さらに、スマートフォンの普及が追い風となり、CtoC-EC(消費者間電子商取引)の拡大が見られる。当初は、ネットオークションが主流であったが、フリーマーケットEC、ハンドメイドEC(手作り・クラフト品の通販)、習い事マッチングサイト(資格、音楽、英会話、スポーツなどのプライベートレッスン)、シェアサービス(人、モノ、スペースなどの貸し借り)など、多様化が進む。一般的なビジネスモデルは、個人間で取引するためのプラットフォームを運営者が用意して、何らかの取引が成立した時に一定の手数料を徴収する仕組みである。利用者はクレジットカードやビットコインで決済する。

CtoCの運営では、売り手側の品質確保や買い手側とのトラブル対応が課題となるが、商取引成立後に売り手・買い手が相互評価をしたり、売り手が研修会・交流会に参加するプラットフォームもある。CtoCから始まったビジネスが、BtoC、BtoB、BtoG(企業対行政間電子商取引)に発展することもある。

本稿では、都市・建築分野に関係する最近のマッチング・ビジネスを紹介したい。

 

建築設計コンペ:アークバザール

アークバザール(Arcbazar)は、建築の市場という意味で、インターネットを通じて、施主が世界中を対象に建築設計コンペを開催できるビジネスサイトである。マサチューセッツ工科大学(MIT)発のベンチャー企業「Arcbazar社」が開発した。本年3月1日、Arcbazar社と業務提携契約を締結した㈱フォーラムエイトにより、日本語サイトが開設された。これにより、言語(英語)の壁を取り払い、住宅の新築やリフォーム、公共施設、インテリア、ランドスケープなどの設計コンペを、世界中の建築設計者を対象に、誰でも開催できるようになった。提案したデザインが入賞した設計者は、報酬額が得られる。既に、世界中で行われてきたArcbazarコンペは5000を数える。

例えば、あなた(施主)が自宅を建てる時に、普通ならば、近くの建築家やハウスメーカー工務店に依頼して作ってもらうわけだが、このArcbazarに依頼すると、世界中から登録されている15,000人以上の建築家・デザイナー相手にコンペを開催して、デザインを募集してくれる。Arcbazarを通じて、施主は新たなデザイン、アイデア、コストダウンを得ることができるかもしれないし、デザイナーは新たな活躍の場を見出すことができるかもしれない。施主がデザインを審査することに自信がなければ友人や専門家を審査員として招くこともできる。すなわち、Arcbazarは施主と設計者とがコンペを通じて出会えるマッチング・サービスであり、閉鎖的で透明性がないと批判されがちな設計コンペの民主化を目指しているといえよう。

日本版Arcbazarはこれまでのデザインコンペ機能に加えて、自主簡易アセスメントなどの新たなメニューを加え、2次元の図面やパースだけでなく3次元のVR(Virtual Reality: 人工現実感)も扱えるように準備中である [2]。早速、いくつかの国内コンペが世界を相手に始められており、世界中のデザイナーが集まっているようだ。

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図1 日本版Arcbazar

 

ライドシェア:ウーバー

ウーバー(Uber)は、インターネットを通じて、一般的なタクシーの配車、そして、一般ドライバーが自分の自家用車を使って他人を運ぶライドシェア(車の相乗り)を提供するビジネスサイトである。Uberのプラットフォームは、米国から始まり、創業わずか5年で世界70か国375都市に広がり、都市交通のあり方を変えようとしている。

ライドシェアサービスは日本では白タク扱いとなり一般的に認められていないものの、2015年10月20日、安倍首相は国家戦略特区諮問会議で「過疎地などで観光客の交通手段として活用を拡大する」との方針を表明した。

この流れを受けて、富山県南砺市は、新たな地域公共交通推進を目的として、本年2月26日、Uber Japan㈱と協定を結んだ [3]南砺市は高齢化や過疎化が進んでおり、市営バスでの対応を試みているものの、公共交通空白地帯の発生や、利便性・採算性の課題を抱えている。その解決に向けて、公共交通機関に限らない住民の移動手段を確保するため、市民ドライバーの自家用車を利用した無償シェアリング交通、Uber Japan社が提供するドライバーと利用者をマッチングするタクシー配車などの実証実験に向けた取り組みを始めるようである。

 

駐車場シェア:オーガニック・パーキング

Uberが車をシェアするサービスである一方で、オーガニック・パーキング(Organic Parking)は、駐車場をシェアするビジネスサービスである [4]

Organic Parkingは、ドライバーが都市の駐車スペースを探す時間を減らすことで、交通混雑や渋滞、そしてドライバー自身のストレスを緩和することを目指して、スマホを用いて個人間で駐車スペースの利用時間取引が可能なサイトである。駐車時間が短縮できれば、エネルギー節約やCO2削減のような環境負荷低減にも貢献できる。

BtoBへの展開として、トラックやバスの輸送最適化を目指して、運行途上の休憩所や大型駐車場に関する情報提供、予約サービスなどへ展開していくそうだ。

 

スペースシェア:エアビアンドビー

エアビアンドビー(Airbnb)は、宿泊施設や自宅の貸し出し(民泊)を行うビジネスサイトである。スペースを借りたいゲストと、借りたい物件を持つホストをつなぐ。

宿泊料を受けて人を宿泊させる営業を行う場合、旅館業法の適用を受ける。この法律で営業可能な種別は、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業、下宿営業であり、営業種別ごとに許可を受けるための要件が課される。一方、民泊の性格、および対象となる個人住宅の広さや間取りは、いずれの営業許可も得られないケースが多い。

近年ではインバウンド需要の増加などで国内の宿泊施設は予約がとりにくい状況である。そこで、東京都大田区では2016年1月末より民泊条例を施行し、国家戦略特区を使った全国初の事業として、部屋の提供を希望する事業者の受付を始めた

大阪府下の市町村でも本年4月より民泊条例の施行が始まる予定である。一定の要件を満たせば、旅館業法の適用は除外される。

実は私自身はAirbnbをまだ使ったことがないのだが、国内外の友人に尋ねてみると、結構、使っているようだ。事実、昨夏にサンパウロを訪問した際、建築家・オスカー・ニーマイヤーが設計したコパンビルの一室がビジネスホテル並みの値段で借りられることを知り、羨ましく思った次第である。

 

おわりに

この手のマッチング・サービスは実際に使ってみないと、どんな仕組みなのか、良さは何なのか、何に気を付けるべきか、中々わからない。少しずつでも試して頂き、体感して頂ければ幸いである。

 

[1] 経済産業省:平成 26 年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)報告書,http://www.meti.go.jp/policy/it_ policy/statistics/outlook/h26report.pdf,2015年5月

[2] Arcbazar: http://jp.arcbazar.com/(参照 2016年3月3日)

[3] 南砺市Uber Japan株式会社と新たな地域公共交通推進を目的に協定を締結,http://www.city.nanto. toyama.jp/cms-ypher/www/info/detail.jsp?id=15824,2016年2月27日

[4] Organic Parking: https://www.organicparking.com/(参照 2016年3月3日)

[5] 大田区: 大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区民泊),http://www.city.ota.tokyo. jp/kuseijoho/kokkasenryakutokku/ota_tokkuminpaku.html,2016年2月26日

 大阪府建築士事務所協会「まちなみ」2016年4月号)

 

都市とITとが出合うところ 第24回 亜洲大学@台中(2)

明日から3月ですね。「都市とITとが出合うところ」第24回。亜洲大学で開催された国際デザインワークショップのため昨年11月に訪問した台湾。台中以南の訪問先をご紹介します。

PDF: http://y-f-lab.jp/fukudablog/files/1603machinami_FukudaFinal.pdf

台南

台南は奈良や京都のような古都と呼ばれる。街なかはレトロとモダンが入り混じっており歩いて楽しい。丁度、プレミア12が台湾各地で開催中であり、街の至る所でテレビが付いており、市民が野球観戦をしていた。台湾チームは、キューバに勝って大いに盛り上がり、翌日はプエルトリコにサヨナラ負けで残念ながら決勝トーナメント進出ならず。

  • 林百貨店:1932年にオープンした百貨店。台湾初の百貨店である菊元百貨店(台北)とほぼ同時期。1988年台南市政府により「市定古跡」に認定され、その後保存修理された。そして、2014年に新しい林百貨店としてリニューアル・オープン(図1)。一般的な商品を扱うのではなく、デザイナーによるお洒落な商品がギャラリー風に販売されていた。上階には第2次世界大戦での米軍による爆撃跡が残る一方で、日本のビルではお馴染みの稲荷神社が祀られていた(図2)。林百貨店の向かいには、1937年に完成した元日本勧業銀行台南支店がどっしりと建つ(現土地銀行台南分行、図3)。

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図1 
林百貨店外観

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図2 屋上の稲荷神社

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図3 元日本勧業銀行台南支店

  • 正興街:古い建物をリノベーションして、雑貨屋、カフェ、屋台などのお店が連なるストリート。例えば、「泰成水果店」は1935年創業の老舗の果物屋さんだが、今、有名なのは、南国の果物をたっぷり使ったデザート。店の前は長蛇の列であった(図4)。

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図4 泰成水果店

  • 赤嵌樓:1653年にオランダ人がこの辺りを統治していた時の砦の跡。1661年に鄭成功がオランダ人を追い払い、承天府という名の行政府をここにおいた。赤嵌樓前のコンビニは景観に配慮した佇まいになっていた(図5)。

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図5 赤嵌樓前のコンビニ

  • 騎楼:台湾の街区には騎楼が設置されており一般の人々が通行できる。騎楼は、建物の2階より上階が車道際まで張り出し、その下の1階部分がセミパブリック空間になっている建築様式のこと。暑い日差しや降雨を遮ってくれる。騎楼を歩いていると、合格者と合格大学の名前がズラリとぶら下げられていた。どうやら、学習塾が入る建物らしい。台湾は日本と同じく受験戦争が盛んなようだ。
  • 黄金海岸台南市街から南西方面。その名の通り、夕日が美しいビーチらしい。夜に行って驚いたが沢山の屋台が出ていた。11月に訪問したのに日中の気温は25~30℃と、日本では夏の終わりの感じで、海風が心地いい。屋台では、好きな食材を選ぶと、その場で調理してくれる(図6)。浜辺には、大きなパラソルがわざと倒されて並んでおり、パラソルの屋根が隣との目隠しになって、セミプライベートな空間が作られていた(図7)。

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図6 黄金海岸の屋台

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図7 黄金海岸

高雄

台南駅から在来線高雄まで約1時間。台南駅は1936年に完成した近代建築であるが今なお現役である(図8)。

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図8 台南駅

  • 美麗島駅:高雄にはMRTが2路線あり、その乗換駅が美麗島駅。地下1階の乗り換えコンコースには、光之穹頂 (The Dome of Light) と呼ばれる、直径30mの巨大なステンドグラスがあり、利用客を楽しませてくれる(図9)。

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図9 美麗島駅のステンドグラス

  • 高雄港駅跡:台湾の北の港町・基隆から南の港町・高雄までを結んだ縦貫線の終点駅跡。1909年から2005年まで使われ、船で港までやってきた貨物はここから列車に積み替えられて各地へ運ばれていった。今は広々とした公園として整備されており廃材を利用したオブジェが点在していた(図10)。隣接地にある倉庫群は、アートフェスの会場になっていた。港町ということで神戸や横浜と雰囲気がやはり似ている。

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図10 高雄港駅跡

  • 西子湾: 高雄の日中は本当に暑かった。なので黄昏時は気持ちがいい。岸壁では地元民が魚釣り。カフェで水分補給しながら海を眺めていると、大物が釣れたようで大勢集まってきた(図11)。海の幸といえば、ワタリガニが美味しい季節でもあった(図12)。

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図11 西子湾

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図12 ワタリガニ

霧峰林家

台湾で著名な一族は5つあり「台湾五大家族」と呼ばれる。その一つ、台中郊外にある霧峰の林家花園へ。上(かみ)林家景薫楼は「台湾議会之父」と称される林献堂の居宅(図13)。文物館では、氏が使用した書物や調度品のみならず、数々の写真、手紙、日記などが丁寧に保管されていた。

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図13 上 林家 景薫楼

池の中にあるステージ「飛觴酔月亭」から迎賓館「五桂楼」を眺める(図14)。以前は橋の延長線上に迎賓館の真ん中の入り口があったが、1999年9月の921大地震で1mほどずれてしまったそうだ。当地は921大地震震源にほど近いため被害が大きかったそうで、迎賓館は壊れてしまい、近年再建されたそうである。

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図14 霧峰林家花園

霧峰林家の近くには、九二一地震教育園区が整備されており、大破した学校建築が壊れた当時のまま、保存されていた。敷地内には亀裂の入った断層があり、淡路島の野島断層記念館を思わせる(図15)。

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図15 九二一地震教育園区

世界で勝負する仕事術。特に、春から社会人になろうとされている皆さんにお勧めしておきます。

図書館で本を借りても返却期限が2週間程度と短くて落ち着かないことが多いのですが、阪大理工学図書館は2学期が終わってから新学期まで約2か月借りることができるので助かります。意外に知られていないのかもしれませんが(笑)

時節柄か、竹内健先生の研究室日記「受験に失敗しても悲観する必要は無い」にネット検索で偶然出会い、先生の著書「世界で勝負する仕事術 最先端ITに挑むエンジニアの激走記」を読んでみました。企業から大学への転職、分野は異なれど変化の激しいITを研究対象とされていること、大学で研究を始めた頃の苦労話、ニッチ分野へのアプローチ、近頃の学生との接し方など、私自身の経験と多くの共通項を感じました。何より、先生のイキイキとした文章に何度も元気をいただきました。

特に、春から社会人になろうとされている皆さんにお勧めしておきます。

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都市とITとが出合うところ 第23回 亜洲大学@台中(1)

早くも2月ですね。「都市とITとが出合うところ」第23回は昨年11月に台湾・亜洲大学を訪問した様子をご紹介します。

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亜洲大学へ
昨年11月、台湾・台中にある亜洲大学を訪問した。台湾初のANDO建築・亜洲現代美術館を擁する大学。今回は、国際デザインワークショップ「The Evolution of Design Thinking」に出席するためである。このワークショップには、デジタルメディア(Digital Media Design)、ビジュアルコミュニケーション(Visual Communication Design)、プロダクト(Creative Product Design)、ファッション(Fashion Design)、インテリア(Interior Design)の各デザイン分野の専門家がイギリス、オーストリア、中国、日本から招かれた(図1)。小生はインテリア部門を担当した。

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図1 国際デザインワークショップ集合写真

本稿では、インテリアデザイン部門の学生たちに講義した、最新のデジタル設計技術の内、「Integrating CFD, VR, AR and BIM for Design Feedback in a Design Process(設計プロセスにおける設計フィードバックのためのCFD・VR・AR・BIMの統合)」をご紹介したい。これは、アトリエ・ドン森啓祐氏(建築設計)、フォーラムエイト今泉潤氏(建築エンジニア)との共同研究であり、アトリエ・ドン茨城県潮来市で進めている戸建住宅の実設計プロセスを支援するために、CFD(Computational Fluid Dynamics)、VR(Virtual Reality)、AR(Augmented Reality)、BIM(Building Information Modeling)を統合的に扱おうと試みたものである。昨年9月にウィーンで開催されたeCAADe2015国際会議で論文発表した [1]

研究の背景と目的
近年、地球環境問題等への関心の高まり、生活水準の向上や高齢化の進行を背景に、住宅分野において室内の温熱環境の向上と省エネルギー化が期待されている。住宅単体のみならず近隣影響に対する配慮も求められる。これらの要求を高水準で満足させるためには、無駄のない設計プロセスの推進が必要であり、設計段階から実験や数値計算による予測と合意形成が不可欠となってきた。

一方、コンピュータソフトウェアとハードウェアの急速な進歩に伴い、設計・開発を取り巻く環境は近年大きく変わりつつある。各種のコンピュータシミュレーションの登場により、設計段階において、物理現象や完成予想図をスタディすることが可能となってきた。これまで、設計者の経験やプロダクトメーカーのカタログスペックに頼らざるを得なかった設計行為であったが、CFD、VR、ARなどにより精度の高い支援が可能になってきた。また、シミュレーションの高速化は、ユーザとコンピュータとの双方向化を加速させてくれる。そのため、設計した結果をシミュレーションで単に確認するだけでなく、何らかの問題が発見された場合には設計案へのフィードバックをも実現可能にする。しかしながら、このようなコンセプトは、十分に検証されていない。

そこで本研究は、BIMを核として、CFD、VR、ARを統合させた設計ツールを構築した(図2)。そして、実証的な研究アプローチとして、実際の住宅設計プロジェクトの課題に対して、構築した設計ツールを適用した。結果、各ツールが実プロジェクトで果たす機能、シミュレーションを通じた設計案へのフィードバックの状況について考察した。

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図2 CFD・VR・AR・BIMの統合モデル

検証対象: 潮来市
検証対象となる計画敷地は、茨城県潮来市の郊外にある。敷地面積が401.73m2、建築面積が104.97m2、総床面積が135.46m2の2階建て住宅である。空間計画は、平面的に3重の入れ子状となっている「回廊のある家」。家族にとって生活の中心であるリビングを家の中心に吹き抜け空間として配置して、その周りに回廊状の廊下を配置して、さらにその外側に各居室や水回り、2階への階段、テラスなどを配置してある(図3)。

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図3 回廊のある家 平面図(設計:アトリエ・ドン

本研究に関する、設計上の主な課題は以下である。

  • リビングの大きな吹き抜け空間は、1階では回廊、ダイニング、キッチン、玄関とつながり、2階では回廊、子供部屋、階段とつながる、一体的な大きな空間である。リビングは、家族の滞在時間が長いため、最適な温熱環境を実現すること。
  • 風呂には、生活者が風呂に入りつつ、外気に触れたり空を眺められるように屋外テラスが設計された。周辺の住宅からこの屋外テラスが見えないこと、すなわち、プライバシーの問題を確実にクリアする必要があること。
  • 計画敷地周辺は古い集落の中にあるため前面道路幅は狭い。そのため、駐車しやすい駐車場の配置について施主の意見も聞きながら検討すること。

紙面の都合上、本稿では、課題1)を中心に取り上げる。

結果: CFDシミュレーションによる設計へのフィードバック
課題1)の解決のため、CFDシミュレーションを実施した。CFDシミュレーションには、DesignBuilder Engineering Pro 4.1を使用した。夏季(8月12日16時、外気温35℃)、冬季(2月13日16時、外気温7℃)それぞれにおいて、壁・窓等の表面温度、エアコンの吹き出し口を設定して、室内の気流及び温度の定常状態の解析を行った。エアコン風量は、強と弱の2種類とした。

可視化された解析結果を眺めると、冬季において、エアコンの暖気が吹き抜け空間で上昇し、その気流が階段を伝って冷たい下降気流となり、リビングに流れ込んでいることが明らかになった。そのため、1階の階段と回廊の間にスライドドアを設けて、再度解析を実施した。その結果、階段の下降気流が抑制され、温熱環境が改善されている様子が確認された(図4)。このスライドドアは、ドアを開放した場合には壁と一体となるよう設計されており、暖房使用時のみ階段室を塞ぐドアとして利用できる。このようにして、CFDシミュレーション結果を基に、設計案へのフィードバックが行われた。

 

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図4 CFD結果:初期案(左)、改善案(右)

結果: CFDとVRの統合
課題2)の解決のため、UC-win/Road ver.10 & VR-Cloud ver.6を使用してVRシミュレーションを実施したが、課題1)に関しても、上に述べたCFDシミュレーションの結果をVR空間上に配置することを試みた。つまり、リアルな住宅3Dモデル上に、吹き抜け空間の温熱環境を風向(矢印)や温度(色情報)を可視化してみた(図5)。この手法は、例えば施主のような建築設計や温熱環境の専門家でない方々にとって、空気の流れをより直感的に把握することが可能になりそうである。

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図5 CFDとVRの統合

一方、今回用いたCFDシミュレーションソフトウェアから、矢印や色情報をベクタ形式として出力することができず、代替手法として、矢印や色情報をラスタ形式として画像出力してVR空間上にテクスチャマッピングにより対応した。この課題を解決するため、現在改良中である。

おわりに
設計検討を終えた住宅は施工を経て、昨年7月に竣工した(図6)。温熱環境は完成後のクレームが多いと聞いたことがある。「不満がないレベルでできあがって当然」「寒けりゃ我慢」などで済ませるのではなく、施主と設計者が設計段階でもっともっとコミュニケーションしていくべきであろう。

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図6 完成した住宅(撮影:アトリエ・ドン

参考文献
[1] Fukuda, Tomohiro; Mori, Keisuke and Imaizumi, Jun: Integration of CFD, VR, AR and BIM for Design Feedback in a Design Process - An Experimental Study, Proceedings of the 33rd eCAADe Conference (1), 665-672, 2015.